194 / 724
帝都訪問編
第百九十三話 閑話 帝位継承者達(後編)
しおりを挟む「これはこれは。兄上ではありませんか。お帰りなさいませ」
金髪の髪の長い男を先頭にした集団は声の届くところで立ち止まり口を開く。
「久しぶりだな。アイゼン」
「ええ。兄上もお元気そうで」
アイゼンが小さく首肯する中、ラウルは笑いかけた。
「それにしても、たまにしかお国に戻られぬのに国の政に口を挟めるのですから、剣聖ともなればご立派ですよね」
「ああ。その分お前たちには苦労をかけていると思う。すまんな」
「そう思うならずっと帝都に居るか、もしくはずっと出ていくかのどちらかにしたらどうですかね?」
カレンにはアイゼンが返す言葉が全て皮肉にしか聞こえない。
グッと手に力が入る。
「(アイゼン兄さん、どうしてそんなこと言うのよ……)」
キッとアイゼンを見て意を決した。
「アイゼン兄様、そこまで言われなくとも―――」
「お前は黙っていなさい!女の癖に口を出すなッ!」
「っ!」
怒声を向けられ思わずカレンは口を噤んでしまう。
「なぁアイゼン。そんなに妹を悪く言うものではないぞ?」
肩を落とすカレンを横目にラウルは苦笑いした。
「はっ、妹ですか? 妹どころかルーシュとこいつは母様の子ではないではありませんか?」
「…………」
カレンはアイゼンの言葉を聞き、グッと奥歯を噛み締める。
「おいアイゼン。それ以上言えばさすがに俺も怒るぞ?」
「だ、大丈夫ですラウル兄様」
平静を装いながらラウルに笑顔を向け、再びアイゼンを見る。
「アイゼン兄様?」
「なんだ?」
「わかっています。わたしは必要以上に口出しはしませんので」
「……そうか。ならいい」
それだけ言うとアイゼンは会議室のドアを開け、部屋の中に入って行った。
「余程余裕がないみたいだな」
「いえ、アイゼン兄様の気持ちもわからないでもないです。お兄様方のお母様である前皇妃様が亡くなられ、その後に私とルーシュの母が後妻として現皇妃になったのですから。その上にルーシュの方が評価されてしまうとなると…………」
チラリとラウルを見上げると目が合うのだが、優しい笑みで微笑まれる。
「兄様?」
兄アイゼンの現状を説明するのに苦心したのだが、笑顔を向けられた理由がわからず疑問符を浮かべた。
そのすぐ後、頭上に軽い重みを感じる。そっとラウルの手が乗せられていた。
「大丈夫。あいつはそんなバカな奴じゃないさ」
そのままアイゼン達に続いて会議室の中に入ろうと歩を進めようとする。
「あれ?ラウル兄様?」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこには二人、カレンよりも背は低いがカレンと同じような綺麗な銀髪の男の子がいた。後ろには黒い髪でふくよかな体型の男。
「やっぱりラウル兄様だっ!おかえりなさいませ!」
銀髪の少年が弾けるような笑顔をラウルに向けると勢いよく抱き着く。
「ただいまルーシュ。元気にしていたか?」
「はい!ラウル兄様に言われた通り、アイゼン兄様を手助けできるように日々政務について勉強しています!」
声を掛けて来たのは帝位継承権第三位であるルーシュ・エルネライだった。
「そうか。ルーシュは偉いな」
「えへへっ」
ラウルに頭を撫でられると、ルーシュは顔を綻ばせる。
「そのまましっかりと兄さんを助けてやるのだぞ」
「はい!もちろんです!」
目に力を宿してはっきりと返事を返した。
しかしすぐさまルーシュはその目に迷いを見せる。
「あの?」
「ん?」
「いえ……ラウル兄様?」
言い淀んでいるルーシュの言葉を待つのだが、妙に恥ずかしそうにしていた。
「どうした?」
「また兄様のお話を聞きたいのよね。ルーシュ」
「う、うん」
ルーシュに代わりカレンが答えると、ルーシュは僅かにカレンに視線を向けたあとラウルに視線を戻して小さく頷く。
「なんだ、そんなことか。落ち着いたらいくらでも話して聞かせるさ」
ラウルが帝都に戻る度に旅先での出来事をルーシュに話して聞かせていた。
ルーシュにとって兄からのその話は御伽噺のような物語。
「ぜったい!ぜったい!約束ですよ兄様!」
「わかってる」
「でもルーシュ?」
カレンが宥める様に言葉を差し込む。
「はい」
「あんまりラウル兄様を困らせたらダメよ?」
「わかっていますよ姉様。姉様程ではないので大丈夫ですよ」
「な、何を言ってるのよあんたは!」
ニカッと笑うルーシュの言葉を受けてカレンは顔を赤くさせてラウルを見た。
「だ、だってほんとのことじゃないですか!」
誤魔化す様にしてルーシュの頬を指先で摘まむ。
「ルーシュ様。お話しも程々にして下さいませ。そろそろお時間です」
ルーシュの後ろに立っていた従者が腕時計を確認しながら声を掛けた。
「ぶぅ。わかったよ」
ルーシュは膨れっ面で不機嫌な様子を見せるのだが、タンっと背筋を伸ばす。
「――……ふぅ」
深く息を吸い込んで表情をグッと引き締めた。
「では兄様、姉様、また後で」
と笑顔で隠れたその表情ではっきりと口に出して会議室の中に入って行く。
「なるほどな。スイッチが入るとあんな感じか」
公私を使い分けるルーシュにラウルは感心した。
「さて、俺達も入るぞ。今日の会議は今後のことを左右する動きを決めるからカレンも遠慮なく発言しても構わないからな」
「はい」
マーガス皇帝が病に臥している今、アイゼンが皇帝代理として先頭に立っていた。
いつもラウルが帝都に変える度に開かれる会議は現状の報告と情報収集程度に限られていたのだが、こうなると話が変わる。
「(とりあえず落ち着かせないといけないか)」
当面の問題は既にいくつか聞き終えていた。
皇帝が病に倒れたこと。それに伴う帝位継承権について。原因不明の帝国内での村の壊滅。北で見られる不穏な動き。他にもこれから会議で得られる情報によっては動き方や手の入れ方が変わる。
加えてヨハンとニーナの件。
「(これは思っていた以上に長居することになりそうだな)」
小さく溜め息を吐きながらラウルとカレンも会議室の中へ足を進めた。
0
お気に入りに追加
473
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~
アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。
金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。
俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。
そして毎日催促をしに来る取り立て屋。
支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。
そして両親から手紙が来たので内容を確認すると?
「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」
ここまでやるか…あのクソ両親共‼
…という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼
俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。
隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。
なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。
この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼
俺はアパートから逃げ出した!
だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。
捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼
俺は橋の上に来た。
橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした!
両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される!
そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。
ざまぁみやがれ‼
…そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。
そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。
異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。
元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼
俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。
そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。
それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。
このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…?
12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。
皆様、ありがとうございました。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる