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帝都訪問編

第百七十九話 生存者

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「ニーナがおかしいと思ったのはどのあたり?」

燃え落ちた建物全体を見渡してみたのだが、ニーナが言うようなおかしな様子は見当たらなかった。

「えっとぉ、そっちの奥の方」

ニーナが指差したのは崩れた家の右下。

「でも、なんだか位置がおかしいんだよね?妙に下の方なんだよねぇ」
「下の方?」

下敷きになっているのだから下なのは当然だろう。
何が不思議なのかわからない。

「とにかく早くしないと。まずはどこから手を付ければいいんだろ」

炭と化したその建物。
手作業でどかす為にはどういう手順で行えばいいのか。

「あっちからどかしますね――」
「ちょっと待て」

どちらにしろ物をどかして捜索しないとと思い一歩前に踏み出したところでラウルに止められる。
どうしたのかとラウルに振り返ると、ラウルは僅かに思案気な表情を見せていた。

「ニーナ」
「なに?」
「その眼は魔力を視通せるのだったな?」
「うん。そうだよ?」

人が持つ魔力の視えるニーナだからこそヨハンは頼んでいた。

「なら角度がちょっと悪いかもな」
「角度?」
「ああ。ちょっと屈んでみてくれ」
「えっ?屈む?」
「ああ」

意味もわからず言われるがまま屈んでみるニーナは不思議そうにそのままラウルを見上げた。

「それで?」

ここからどうすればいいのかと。

「その位置から見て視えるのは地面より上か?それとも下か?」
「え? ええっとぉ……――」

倒壊した建物に顔を向け、ジッと目を凝らす。

「ラウルさん?」
「もしかしたら地下があるのかもしれないと思ってな」
「あっ」

確かにその可能性を考えてなかった。
村で一番大きな建物。地下があっても不思議ではない。

「――……あれ? 地面より、下…………だね、これ」

ラウルの予想通り、ニーナは疑問符を浮かべながらもそれを指し示す。

「そうか。わかった」
「どうしますか?」
「そうだな…………」

仮に生存者がいて、地下にいるのだとしてもどちらにせよ物をどかさなければ救助もままならない状況。

「ラウルさん?」

これをどうするのかとラウルを見ていたのだが、ラウルは観察する様に崩れた家の状態をぐるっと歩いて見て回った。

「よし」

戻って来るなり小さく息を吐いて剣に手を掛ける。

「二人とも離れていろ」

一体何をするつもりなのかわからないのだが、言われるがまま後ろに下がった。
ヨハンとニーナが離れたのを確認すると、ラウルは右足を踏み込み僅かに前傾姿勢になると手に掛けた剣を素早く抜き放つ。

「ハアッ!」

何もないところで横薙ぎに素早く振り払われた剣からは凄まじい風圧が生じた。
その風圧は崩れた家をググッと下から持ち上げると斜め上に舞い上がり、ドシャッと音を立てて吹き飛ばす。

「……すごっ」
「……うん」

見た感じとても魔法には見えない。ラウル自身も魔法を得意としていないと言っていた。

「(もしかして、あれも闘気なのかな?)」

ただの剣技にしては凄まじい。僅かに疑問を抱いたその技。

「(あれ?もしかしてあの時のヘレンさんの拳圧も……――)」

思い出すのはモニカの母、ヘレンがモニカと模擬戦をしていた時のこと。
無手でモニカを吹き飛ばした拳圧とどこか重なる。

「っと、そんなこよりも」

だが今はそれどころではない。吹き飛んだ建物の跡地には小さな取手の付いた鉄製の扉が地面に残っていた。

「やはりな」

ゆっくりと剣を鞘に納めながらラウルが鉄の扉を見る。

「へぇー。こんなのがあるんだぁ」
「あっ!ニーナちょっと待って!」
「えっ?」

扉に駆け寄るニーナが取っ手を掴もうとしていたので慌てて声を掛けて制止した。

「コレ今もの凄く熱くなってるから冷やしてからじゃないと」

扉に手をかざして魔力を練って魔法を放つ。
パキパキと音を立てて扉が凍りついた。
扉はジュッと音を立てるとすぐに小さく湯気が立つ。

「ほらね」
「うわぁ……危うく大火傷するとこだったよ」

苦笑いするニーナ。

「そろそろいいかな?」

少しの時間を空けて取手に手を掛けて開けてグッと力を込めた。
まだ本格的に溶解する前だったのでギギッと音を立てながらもなんとか扉が開く。

開けた扉の中は床下収納だった様子で中はそれほど大きくはなかった。大人が数人も入れはしない程度の大きさ。

「子ども、か」

覗き込んだ先、そこには赤茶色の髪で布製の服に身を包んだ、小さな女の子が横たわっていた。

ラウルが床下に降りて女の子をゆっくりと抱きかかえる。

「かなり衰弱しているが息はあるな」

抱きかかえながら健康状態を確認した。
ラウルの診る限りでは意識を失っているだけで命には別条はないとのこと。



 ◇ ◆ ◇

「あっ。戻ってきた!」

馬車で一人待っていたロブレンの下へヨハン達が姿を見せる。同時にラウルの腕の中に少女がいたことで驚きに目を見開いた。

「生き残りがいたんですかい!?」
「ああ。残念ながらこの子だけだったがな」

少女が生存していたことから希望を見出して念の為に倒壊した他の家屋も再度見て回っている。
しかし、結果的に生き残っていたのはこの少女ただ一人。

「どうしますか?雨が降りますぜ?」

曇り空からはもう既にポツポツと雨が降り始めていた。

「そうだな……あそこに行こうか」

ラウルが顔を向けたのは小さな岩山。そこに行けば本格的に降り出しても雨風は防げるはずと考える。

「りょーかいです」

ロブレンが御者台に飛び乗る中、荷台に少女を乗せる。少女の様子を見るが未だに目を覚ます様子を見せない。
ガタゴトと馬車を走らせ、岩山に着く頃には雨が本降りになっていた。

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