上 下
116 / 724
エピソード スフィア・フロイア

第百十五話 閑話 騎士団入団⑥

しおりを挟む

騎士団本部、第一中隊詰所にて。

「さて、彼女らの今後の対応についてだ。本来なら君達の意見を聞いて、どの隊に配属するのかを決めなければいけないのだが、彼女らに限っては私の一存で決めることにする」

慣例にない対応をしようとしているアーサーの独断に誰も意見はしない。

固唾を飲んでアーサーの判断を聞き届けるのは、小隊長たち八人。
その場には他にはスフィアとアスタロッテしかいなかった。

他の一般騎士達は新人騎士達の治療と介抱に動いている。

小隊長たちがチラチラとスフィアとアスタロッテを見て悩みを抱いているのは、一体どの隊に彼女らが配属されるのか気になって仕方がない。

どの小隊長も歓迎するどころか、持て余してしまうと、自分のところには来るなと念じていた。

「(あんな子達、とても面倒みれないぞ)」
「(頼む、俺のところにはくるな!)」

小隊とはいえ、配属早々の新人騎士が隊長である自分達より圧倒的に強いとなればまるで立場がない。
そうなると、アーサーの決断如何ではどうなってしまうのか先が見えない。

「――さて、彼女らの所属する小隊だが、私が直接彼女らの面倒を見よう」

アーサーの決断を聞いた途端、小隊長たちは目を丸くさせる。

「えっ?」
「……隊長自らが?」

思わず疑問の声を発してしまったのだが、アーサーは眉をひそめた。

「どうした?聞こえなかったのか?」
「い、いえ、聞こえましたが、そ、その、彼女らをアーサー隊長自らが面倒を見る、と?」
「だからそう言っただろう?何度も言わせるな」
「す、すいません!」

そこでアーサーは全体を見渡し、異論がない様子を確認して頷く。

「それで、だ。 それに伴って他にも何人か合わせて面倒を見ることにするので、君達の隊の編成も新たに組み直そうと思っている。これに異論がある者はいるか?」

アーサーの問いに小隊長たちはお互いに顔を見合わせ確認するのだが、異論はなくすぐにアーサーを真っ直ぐに見た。

「よし、ではこれより編成会議に移る」

「「「ハッ!」」」

小隊長たちの大きな声が同調する。


「やったねスフィアちゃん!ウチら隊長に直接面倒を見てもらえるんだって!いやぁ、まさかこんなことになるなんてねぇ」

「…………」

嬉しそうにしているアスタロッテに対してスフィアはただただ苦笑いをすることしか出来なかった。

「(えっ?あの人が私の直属の上司になるの?)」

不快感を露わにするのは、つい今しがた目が合ったアーサーにウインクされたから。
まだ小隊長を挟んでの配属ならまだしも、まさかアーサー自身が小隊長も兼任することになるとは思ってもみなかった。

「すまんが聞いての通りこれから会議をするから君達は退室してくれ」

「はーい!」
「……わかりました」

対照的な反応を示す二人。

「あっ、それとだね」

部屋を出ようとしたところで再び声を掛けられるので、まだ何かあるのかと振り返ると笑顔を向けられていた。

「聞いての通り、君達の配属は私になるのは決まっているので、今日のところはこれで帰ってくれて構わないよ」

「やった!」
「わかりました」

「明日、朝九時にここへ再び来てくれたまえ」

「りょーかいでぇす!」
「はい。では失礼します」

スフィアとアスタロッテ、二人でお辞儀して部屋を出て行く。


そうして騎士団の詰所を二人して出るのだが、廊下を歩いていると入団式の前よりも遥かに多くの視線が向けられていた。

「お、おい!あの子達だよ!」
「配属初日に他の新人全員を叩きのめしたってんだろ!?」
「いや、それがどうやら一人でやったらしいんだ……」
「マジでかッ!?どっちだ?」
「あっちの水色の髪の方だとよ」
「なんでも鬼の様な強さで、キリュウ様に匹敵するって噂だぞ!」
「いやいや、いくらなんでもそれはないだろ!?」

スフィアとアスタロッテを見るなり好奇の眼差しを向けられ、陰でひそひそと話をされる。

「いやぁ、スフィアちゃん相変わらず人気者だねぇ」
「どの口が言ってるのよ!どの口が!」
「……この口?」

アスタロッテが唇を指差すと、スフィアはアスタロッテの唇の両端を指で摘まんだ。

「悪いのはこの口ね!このっ!このっ!」
「い、いひゃいよ、す、すふぃはちゃん」

それだけ見ている分には女の子同士が可愛らしく遊んでいるようにしか見えないのだが、周囲で噂している騎士達との温度差があまりにも激しい。

そこにカツカツと足音が聞こえて来たので顔だけ振り向く。

「こんなところで遊ぶな。邪魔だ、どけ」

「えっ?あっ、すいません」

アスタロッテとじゃれていたところで、見下ろされるように立つのは豪華な鎧の男。
慌てて端に寄り、男が通る道を作る。

「フンッ、何が鬼人だ。しょうもないことを吹聴しおってからに。それがよりにもよってあの小僧の隊などと、一体上は何を考えてるんだ」

侮蔑の眼差しをスフィアたちに向けながら男は通り過ぎて行った。

「態度悪いねぇ……って、あれ? 今の人って確か……」
「ええ。第六中隊の中隊長、グズラン・ワーグナーだったかと」
「へぇ、あれが…………」

二人してグズランの後ろ姿を見送るのだが、アスタロッテは舌を出した。

「ちょ、ちょっとアスティ!」

上司に向かっての不敬を行ったので、誰も見ていないかと慌てて周囲を確認する。

「――ほっ、誰も見てなかったようね」

ただでさえ色々と噂される中、これ以上揉め事は起こしたくない。

「でも、ウチらあの人の隊に配属されなくて良かったね。アレ、絶対部下をいびるタイプよ」
「まぁ、それはそうかもしれないけど」

人を視る目に肥えているアスタロッテのグズラン評を否定できない程度に、通り過ぎる時に向けられた侮蔑の眼差しが、気分の悪かった程度に印象的だった。


それから騎士団の詰所を出て、そのまま足を向けたのはアスタロッテの自宅である伯爵邸。
通い慣れた伯爵家へ行き、食事を同席して帰宅することになる。


陽が沈む頃に帰ることになるのだが、アスタロッテと同じ中央区にある家に帰ると、腰に手を当てて怒っていたのは父親であるジャン。

「えっ?お、お父さん?」

どうして怒っているのか、理解出来ない。

「スフィアよ、今日起きた出来事を話してみろ」

それだけ聞いて、すぐに理解出来た。
早速父の耳に入っていたのだと。

「あ……あー、えー、えーっと、流れでつい叩きのめしちゃった、かな?」
「そこまではよくやった!それは褒めている!」

「――えっ!?」

何故か褒められたのに、同時に怒られていることの理解が出来ない。

「だが、そこまでやったのならそれこそ全員を相手にして倒さないと意味がないだろうッ!」
「……えっと、お父さん?」
「なんだ?」
「確認のために聞くけど、全員って、もしかして中隊全員のことを言っているの?」
「おかしなことを聞く娘だな。それ以外に何がある?」

「…………」

怒っている理由が全くの見当違いだったのと同時に、最近まで学校にいたことで忘れていた。

「(…………そういえばこういうお父さんだった)」

一部では戦闘狂と評されている父のことを思い出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。 王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか? 元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。 これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...