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帰郷編

第九十九話 暗躍

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「レイン?」
「んあ?」

モニカの実家の客室のベッドで片肘を着いて横になっているレインに話し掛ける。

「レインはどう思う?」
「なにが?」
「えっとね、僕、モニカ本当は見回りに参加したかったと思うんだよね」
「あー、そういうことね」

そこでレインは身体を起こす。

「そりゃあそうだろうな。でも俺達は正式に冒険者として来ているわけじゃない。それに今朝一度やらかしかけたんだ。ほんで予め釘を刺されているのに、これで夜中に出歩いてるのを見つかれば絶対落第点を付けられるぞ?」

「……うん、それはわかってる」

レインの言っていることも尤もなので、どう言葉にすればいいものなのかわからない。

「――けどな」

そこでレインはニヤッと笑った。

「見つからなければいいってことだ」
「えっ!?でも――――」

思わず驚いて言葉を返すのだが途中で詰まってしまう。

確かにその通りだ。見つからなければ問題はない。
だが本当にそれでいいのだろうかと考えるのだが、そこでドアがノックされる。

「はい?」

返事をすると、ドアが少しだけ開いてモニカがそっと覗き込んだ。

「あの、ちょっといいかな?」

「えっ?うん、いいけど?」

モニカが部屋の中に入って来ると、エレナも後ろから付いて来ている。

「どうしたんだ?二人して」
「……ううん、別に。それよりもそっちは何してた?」
「俺達は……なんだ、その……あー、ヨハンが、モニカは本音じゃ見回りに行きたいんじゃないかって言ってるからこっそり行けばバレないだろ的な話をしていたとこだな」

レインの言葉を聞いたモニカとエレナは驚き顔を見合わせると、途端に笑顔になった。

「なら話は早いですわね」
「さっすが!私達も丁度その方向で話がまとまったとこなのよ!」

モニカがグッとヨハンの手を握る。

「へ?」

突然どうしたのかとヨハンとレインの二人もお互いに顔を見合わせて再びモニカを見た。

「……えっと……じゃあ、行く?」
「もっちろん!」

確認するまでもなかったのだが、即答される。

「ですが、その前に確認しておきますわよ?」
「動き方をどうするかだよね?」

ヤンセン達がギルドで話していた限りでは、ヤンセンとマーリン、トマスとヤコブの二手に分かれて見回りをするということを耳にしていた。

「ええ。さすがにわたくし達も単独行動をするわけにはいかないので、二人で行動しましょう。土地勘のあるモニカがヨハンさんと、レインの面倒はわたくしが見ますわ」

「ありがとうエレナ」
「今回だけですわよ?ですが、まぁこれで妥当だとはわたくしも思っていますし」

エレナがチラリとレインを見やる。

「……おい、俺はお荷物かい」

とはいえ、声高に言えるはずもない事実なのはレインも自覚していることなので微妙な気持ちにさせられた。

夜が更けた頃にこっそりと屋敷を抜けて見回りをすることになる。



そうして迎えた夜半時。
こっそりと家を出るのだが、周囲には人の気配は全く見られない。足音一つとっても響きそうな中なので慎重に行動をする。

家の前で二手に分かれた。

「もしヴァンパイアだったら厄介だね」
「ええ。強さはそれほどでもないみたいだけど、ヴァンパイアは人に擬態することができるらしいのよね。 って、そもそもが人型だからそうなんだろうけど」

周囲を観察する様に見やりながらモニカとヴァンパイアの特性について確認し合う。
発見さえ出来れば討伐するのはそれほど難しくはないらしいというのが一般的なヴァンパイアとのこと。

予定通り街の中の見回りをしているのだが、今歩いているところはある程度人通りの多いところ。夜遅くになってもまだいくらか人が往来している上に明かりもそこそこに明るかったのでここには現れないだろうと考えたので薄暗い建物の間にある路地裏に入って行く。

「ヤンセンさん達にも見つからないように気を付けないとね」
「むしろあの人たちがヴァンパイアを見つけるより早くこっちが見つかるかもしれないしね」

モニカの話によると、今歩いている辺りは住んでいる人も少ないので当然人の出入りも少ない。

細心の注意を払って路地裏の中を進んでいった。

「そういえばヘレンさんにはなんて?」
「ううん、なんにも言って来てないわ」
「そっか」

夜間に出歩くのだから何か言付けているのかと考えたのだがそうでもないらしい。

「それにしてもヘレンさん、物凄く強かったね。モニカが強いのも納得したよ」
「でしょ?たぶんあれでもまだ本気だしてないと思うのよね。でも前よりは本気にさせられたと思うわ」

恥ずかしさと悔しさを入り混じりながら話すモニカだが表情は笑顔。

「へぇー、あれでそうなんだ。すごいね」

思い出すのはモニカとヘレンの模擬戦。モニカの実力を知っているからこそ、そのモニカを圧倒したヘレンの実力の高さがどれぐらいなのかを物語っているのだが、それでも底が見えない。

「(あれ、もしかしたらヘレンさんって父さんと母さんと同じぐらい強いんじゃないかな?)」

一年間で成長したという自負のあるモニカがここまで認める存在なのだ。ヨハンも強くなったとはいえ、どれくらい父との差を埋められたのか考えるのだが、同時に父とヘレンを比べてみても大きな差はないのではないだろうかとさえ思えた。

「(父さんの本気ってどれぐらい強いんだろう…………)」

そうなると父の強さの底がどれぐらいあるのか気になってくる。

「今度――」
「――――うわあぁぁぁぁぁぁ!」

僕もヘレンさんと模擬戦をしたいと伝えようとしたところで悲鳴が聞こえてきた。

「モニカ!」
「うん!」

声は今歩いている路地裏の奥から。

お互い顔を見合わせると確認するまでもなく一直線に声の下に向かって駆け出すのだが、問題が生じる。

「今の声……」
「……ええ。聞いたことのある声ね」

その悲鳴だけでは確実な断定はできないのだが、声の高さが昼間まで聞いていた声に似てなくともなかった。

念のため、建物の陰に隠れるようにして悲鳴の下を覗き込む。

「トマスさん!」
「それに、あそこ。 倒れているのはヤコブさんね」

眼前、少し距離がある中、地面に血を流して倒れているのは自分達の遠征を指導しているビスケッツのメンバーで恰幅の良い男、ヤコブ。
そして、細身の男、トマスは首を掴まれ苦しそうに足をバタバタとさせているのは、目の前の頭まで被った黒い衣装を着た何者かに片手で首を掴まれて持ち上げられているから。

「ギギギ」
「――ぐぅぅ…………――――」

ガクッと意識を失いトマスの頭がだらりと垂れる。
黒い衣装の何者かはトマスが意識を失うのを確認するとフードを捲り、大きく口を開けた。

フードの中の顔は、赤茶色の長い髪でその顔はどう見ても血色の悪い紫色である。見たところ男のようで、開けた口の中には鋭い牙を見せていた。

「まずいわよあれっ!」
「いくよっ!助けないと!」
「ええ!」

明らかに異常だと判断出来るその様子を見てヨハンとモニカは慌てて駆け出す。

「――!?」

ヨハン達の接近に気付いた男はトマスを地面に放り投げた。トマスは地面に落ちてピクリとも動かない。

「気付かれた!」
「このままいくわ!ヨハンはあの男をお願い!」
「わかった!」

ヨハンが一直線に男に向かって剣を振るうのだが、男はヨハンに気付いて後方に大きく飛び退くと、背後にある地面に置かれていた大きな廃材の上に立った。

「――ギギ……」

男は赤い目を回し、ギロリとヨハンとモニカの様子を見ているので、ヨハンは目を離すことなくモニカに声を掛け――――。

「モニカ!?」
「大丈夫よ!まだ二人とも息はあるわ!」

モニカからトマスとヤコブの状態を聞き、ホッと安堵の息を漏らす。

「良かった」

そのまますぐさまキッと睨みつけるのは目の前の男。

「お前はヴァンパイアか!?」
「――ギギギ?」

ヨハンの問いかけに対して首を傾げて意図なき声を発する。

「えっ? モニカ?確かヴァンパイアって――」
「――うん。人語を話せるはずよ」

だが、目の前のヴァンパイアらしき男はとても人間の言葉、人語を話せるようには見えない。

「……どういうことだ?」

話せないフリをしているだけなのだろうか、それともヴァンパイアとは別の生き物なのだろうか。

考えても答えがでない。

「ギギギギギ――――」

ヴァンパイアらしき男は赤い目でヨハン達をゆっくりと見渡し、直後、グッと前傾姿勢になる。

「逃げるつもりはないみたいだね。その方がこっちも助かるよ」

ヨハンも男が攻勢に出ようとしている気配を察知して、剣を鞘に戻して構えた。

「(狭い場所だと魔法は使いにくいな。このまま終わらせられたらいいけど)」

直後、男は高所からダンッと勢いよく蹴り出し、降りかかるように襲ってくる。

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