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帰郷編

第九十七話 食い違い

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「もう大丈夫?」
「うん、ありがと。でも最後の一撃、あれで倒れてくれないなら実際問題どうしたものかなーって」

立ち上がり苦笑いするモニカ。

「そこなんだよね、僕もわからなかったのは…………。 あの、ヘレンさん?」
「なぁに?」

ヨハンの問いかけにヘレンは疑問符を浮かべて首を傾げる。

「今の、どういうことですか?」

「えっ?今のって?」

「俺にはモニカの攻撃が確かにお母さんに入ったと思いました」
「ですが、倒れたのはモニカの方で、ヘレンさんは無傷といったらいいのでしょうかなんといいましょうか……」

ヨハン達の言葉を受けてヘレンは目を丸くさせたあとに、小さく笑った。

「あー、そういうことね。 意味がわかったわ。 えっとさぁ、きっといないと思うのだけど、今のモニカの剣と私の動き、全部見えていた人? いる?」

ヘレンの問いにお互いが目を見合わせ、手を上げたのは一人、ヨハンだけ。

「うそっ!?ヨハンくん、全部見えてたの!?」
「えっ?えぇ、まぁ、はい」

「……あっ、そう…………」

ヨハンの返事に驚きを持つのだが、そのままエレナとレインを見てホッと息を吐いて小さく頷いた。

「俺は、最後、モニカが倒れた手刀が見えなかっただけっすかね?」
「わたくしも同様ですわ」

「なになにっ!? レインくんとエレナちゃんもそこまで見えてたの!?」

続けて耳に入って来た言葉に再度目を見開くのはその発言が信じられないから。

驚くのも当然である。

ヘレンが知るモニカのその実力は学生のそれではない。一般の冒険者と比較しても実力を大きく上回るということを知っている。

そしてヨハン達はモニカよりも実力が劣るという見解を抱いていた。

ただの一般の学生が、今回二学年の実習でたまたまモニカとパーティーを組むことになってレナトに訪れていたのだと。

「あのねお母さん――」

と、モニカは苦笑いしながら口を開いた。

「信じられないかもしれないけど、このヨハンは私よりも強いわ。それにエレナも私と同じくらい強いし、レインはちょっと前から急激に強くなっていっているの。あんまり言いたくないけど、うかうかしていると私も負けるかもしれないって思ってるの」

「おっ?んなもん、すぐに追い抜くぜ!」

「調子に乗らないの!」
「いってぇ!」

ガンっと殴られるレイン。

「それに、この間入学して来たニーナちゃんもかなり強いわ。一つ年下なんだけど、魔法ありだともしかしたら私が負けるかもしれないかな?」

「…………へぇー…………そうなんだ……それは凄いわね…………」

モニカの言葉を聞いたヘレンは呆気に取られる。

「(最近の子ってそんなに凄いの?いやまぁ、エレナちゃんはそりゃあ王女なんだし多少はわかるけど……まさか全員がほとんど見えてたなんてね)」

と頬をヒクヒクさせていた。

「いやぁ、てっきり私はモニカちゃんが一番だと思ってたわよ?」

ヘレンは自慢の娘、モニカが冒険者学校で首席なのだと思っていた。それも断トツで。

モニカは小さく左右に首を振り、ヨハンに手を向ける。

「ヨハンが一番強いわ」
「……あっ、そう?それは凄いわね」

ジッとヨハンの顔を見る。

「(この子が一番かぁ。そうは見えないけど、やっぱり上には上がいるもんね)」

小首を傾げるヨハンを見ながら疑問に思うのだが、モニカ達の様子を見る限り嘘はないと判断出来た。

「そっか、お母さんも色々と勘違いしていたみたい」

息を吐いて首を振る。

「(でも、モニカもこの子らに出会ったことで色々と刺激を受けて感じることがあるのかもしれないしね)」

ヘレンは腰に手を当て、ヨハン達を見た。

「ねぇ、まさかとは思うけど、あなた達『闘気』まで使えたりはしないよね?」


「使えます、けど?」
「――えっ!?」

「ごめん、お母さん。私もちょっとは」
「――なっ!?」

「わたくし達も少しばかりですが」
「俺はまだ使い始めたばっかりだけど、なんとか」
「――へっ?」

次々と口にされる言葉が信じられない。
驚き過ぎて口をあんぐりと開けた。

「…………はぁ。色々と規格外みたいねあなた達は」

大きく息を吸い、深呼吸をしてヨハン達を見る。そしてグッと表情を引き締めた。

「いいわ。きちんと説明してあげるわよ」

というのは、先程のモニカとの攻防に関すること。

「あなた達が見えていた通り、確かにモニカの掌底は私の胴を正確に打ち抜いていたわ。でもね、私はそれを、闘気を一瞬だけ発動させてダメージの軽減を図ったの。ほら闘気って肉体を強くするでしょ?」

ヘレンが口にした言葉でヨハン達は理解した。

「なるほど、そういうことだったんですね!そういえば前に戦ったシンさんも同じようなこと言ってたな」
「えっ!?シンって?同じことって?そんなことが出来る人でシンなんて……もしかしてペガサスの?あなた……戦ったって…………」

「――あっ!」

ヘレンの言葉を聞いて慌ててヨハンが口に手を当てる。

「(おい、この野郎その話は昨日してないだろ!?)」
「(口が滑りましたわね)」

以前、学年末試験で戦ったS級冒険者、黒の鎧剣士シンが言っていた言葉を思い出して口にしてしまったのだった。

ヨハンが口を塞いだのは、まだ冒険者学校の学生のヨハン達がS級冒険者と知り合いになることなど普通はない。

「ち、違うのお母さん!授業でそういうことができるって聞いただけなの!」

慌てて誤魔化すモニカ。

「(この子達、一体どういう学生生活を送っているのかしら?)」

慌てふためく娘たちの様子を見て、溜め息しか出てこない。

「――はぁ。どんな理由だろうともういいわよ。 と・に・か・く! 闘気は鍛錬次第で刹那の瞬間に発動が出来、慣れれば自然と行えるようになるわ。 いくら魔力の使用量が少ないからって、常時発動していれば戦場だとすぐに魔力が枯渇するもの。必要に応じて瞬間的に扱えるように訓練もしておきなさい。私からは以上よ」

ヘレンは全員に向かってそう言った。

それを聞いた全員が口には出さなかったが、レインのあの場面、闘気を使えたあの瞬間のことを思い出していた。

更に付け加えられる。

「それと、闘気を使えるようになったからって何でもかんでも楽して闘気に頼らないこと。あれは基本の強さがあってこその力なんだからね。基本を疎かにしていると後で痛い目を見るわよ!?」

それに全員が頷くのを確認するとヘレンも深く頷いた。

「よし、いい子たちね」

と満足そうに笑う。

「――あっ、もうこんな時間!あなたたち早く行かないと遅刻するわよ?遠征実習なのよね?」

「えっ?」

腕時計をヨハン達に見えるようにかざすと、もう八時五十五分だった。
指定されている時間まで間もなくの為、全員が慌て始める。

「ど、どうしよう!」
「早く行かないと!」

「もうっ、私のことはいいから早く行ってらっしゃい」

「ありがとう!じゃあまた後で!」

溜め息を吐きながら笑顔で送り出すと、モニカ達は一目散で門へ駆けて行った。

「ほんと、慌ただしいわね。でも元気そうでなによりだわ」

一年足らずで大きくなったモニカの背中を見てヘレンは笑う。

「それにしても、シンと戦ったことあるのね、あの子達。何がどうなっているのやら……。 あっ、そういえばあの子達私がシンのこと知ってることに何の疑問も持たなかったわね…………」

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