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水面下の陰謀編
第七十四話 廃鉱調査における疑問
しおりを挟むヨハン達は予定通り二手に分かれて人攫い集団の対応をすることにした。
ヨハン、エレナ、レインは他の廃坑から入り、奥にいる集団の襲撃をする。
モニカ、ニーナは出入り口付近にて待機して逃げようとする者を捕まえるといった算段。
まだ陽も高いが、とりあえずヨハン達は廃坑の中を確認しに入り、モニカとニーナは主要な出入り口が見えるように近くの岩場で身を潜めてその様子を見ている。
そうして廃坑内に入った中、周囲には主だった気配が見られない。
そこでヨハンは疑問を感じた。
「ねぇ、この鉱山って魔物が出るようになったから廃鉱になったんだよね?」
「ええ、そうですわね。それがどうかしましたか?」
「いや、じゃああの人攫いの人達はそんな場所なのにどうしてここを拠点にしたんだろうって思ってさ……」
廃鉱内は魔素の充満により、魔物が発生している。
魔物が度々出現することで廃鉱になった場所をアジトにするのは危険が伴う。そんな場所をアジトにするのには理解できないものがあった。
それほどまでのリスクを背負ってでもこの場所が適当だったのか。
「まぁそりゃ、他の人間が寄り付かないってのはもちろん一つあるだろうな。魔物がいるのに選んだのは……どうだろうな、その場所だけ魔物が出ない良い場所があるのを嗅ぎつけたとか?それとも、出る度に討伐しているのかのどっちかじゃねぇの?」
「でも確かにヨハンさんの言う通りですわね。わざわざそんな場所をアジトにするからには何らかの理由があるのでしょうね。どちらにせよ壊滅させるのですから問題ありませんわ」
「わぁ……エレナさん、なんだか過激ぃー」
炭鉱内を進んでいくと、事前の話の通り、やはり魔物が出現する。
数はそれほど多くはなく、ゴブリンやオークといった下級の魔物に炭鉱独特の鉱物を含んだゴーレムの亜種といった魔物ばかりだった。
ヨハンとレインにエレナもこれの対処に苦労するはずもなく、難なく炭鉱内を進んでいく。
ここまで人間の姿は見当たらない。そうなると事前に予想を立てていた場所、地図の通りだと、あと数百メートルもいけば大広場があり、恐らくそこに人攫い集団がいるであろうと考えていた。
「ではここでしばらく待って、陽が沈み切った頃の宴会が始まったぐらいの時間を見計らって突入しますわよ」
「おう」
「うん。あのさ、でもやっぱり変じゃなかった?」
ヨハンが考え込みながら口にするのをレインとエレナは疑問符を浮かべてヨハンを見る。
「変ってなんだよ?」
「いえ、確かに。考えてみると疑問が残りますわね。魔物のことですわね?」
エレナが察したようにヨハンに問い掛けるとヨハンは小さく頷いた。
「うん。ここに来るまで確かに魔物はいたけど、閉鎖しなければいけない程の魔物は出なかった。それに数も少なかったし…………」
「それはお前らの感覚だから――って言いたいところだけど、それもそうだな。この程度ならある程度の冒険者なり騎士団なりで十分対応できる範疇だとは思う。そこんとこどうなのエレナさん?」
エレナはレインに問い掛けられ、顎に手を当てて少し思い出そうとした後に口を開く。
「わたくしが知り得る限りですが、その利益に釣り合わなかった程の大量の魔物が頻繁に発生するから閉鎖した、とだけ聞いていまわ」
知っているだけの情報は伝えるのだが、ヨハンもレインも首を捻った。
「利益に釣り合わない…………それって採算が取れないとかリスクが高すぎるとかだよね」
「そうですわね」
「これで?」
明らかにそれほどの状況の炭鉱には思えない。
「わかりませんわ。もしかしたら年月の経過と共に魔素が薄くなったのかもしれませんし他に何らかの理由があるのかもしれませんわ。ですが、今は炭鉱の謎よりも人攫い集団の殲滅がわたくしたちの任務ですわ」
色々と考えてみるが、今すぐに答えが出るわけもない。
ひとまず人攫い集団の殲滅に集中することにする。
そうして時間の経過を待つと、しばらくすると小さな声が聞こえ始めた。
まだ距離があるので極々小さな声なのだが、笑い声のようなものが炭鉱内に響き渡る。
人攫い達が宴会を始めだした。
「始まったようだね。じゃあ行こうか!」
即座にヨハン達は炭鉱内を素早く走りだす。
人攫いが構える前に迅速な対応が求められる一挙殲滅任務が始まった。
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