上 下
68 / 724
水面下の陰謀編

第六十七話 一方的な約束

しおりを挟む
「えっと……」

どうしたらいいのか全くわからない。

少女はヨハンが頷くのを確認すると、すぐに抱き付いてきたのだから。

モニカもエレナも怒ることよりも、まず何故その女の子がヨハンに抱き付いているのかを理解できないし、レインのツッコミすらも追い付かない。
当然抱き付かれたヨハン自身も理解できていない。
間違いなくこの女の子とは初対面だった。

全員が呆気に取られる。

少しの静寂が流れたのち、最初に我に返ったのはエレナだった。

「ちょ、ちょっと、あなた!いきなり何していますの!離れなさい!」

エレナの声に反応してモニカもハッとなる。

「そ、そうよ!ほらヨハンも困っているじゃない!」

慌てて離れるように促した。

「(おいおい、こいつのびっくり箱は一体いくつあんだよ)」

そこでレインもなんとか落ち着きを取り戻しつつ、いつも通り心の中で呟く。


「なんですか、あなた達は?関係ないでしょう?」

ピンク髪の女の子はそこでやっとヨハンから隙間程度離れ、ヨハンの肩越しにモニカ達を見た。

「か、関係ならあるわよ!私たちはヨハンとパーティーを組んでいるんだから!」
「それとあたしがヨハンさんから離れることに何の関係があるのか説明して頂けますか?」
「そ、それは…………」

モニカは思わず口籠ってしまう。

「ほら、説明できないじゃないですか」
「説明もなにも、ヨハンさんが困っていますわ。ほら離れて離れて」

エレナがヨハン自身が困っていると言うと、女の子はヨハンの顔を上目づかいで見て、しぶしぶ離れた。

「えっと、ごめん。もしかしてどこかで会ったことあるかな?もし会ったことあるならほんとごめんね、ちょっと覚えてないんだ」
「いえ、初めて会いますよ?」

「「「はぁ!?」」」

ピンクの髪の美少女は小首を傾げながらあっけらかんと会った事はないと返事をする。
意味のわからない返答にモニカ達は驚愕した。


それからは、とりあえず落ち着いて話せるように座って話すのだが、女の子はヨハンの横に座りニコニコとしている。

「それで?君はどうして僕のことを?誰かと間違えているとかはないかな?」
「そんなことないと思うけどなぁ。ヨハンさんはイリナ村のご出身ですよね?」
「そうだけど?」
「だったら間違いない!」

女の子はヨハンの出身地を確認すると、イリナ村だと聞いただけで女の子は確信する表情を浮かべた。

「あたしはニーナといいます。イリナ村からずっと東にあるセラの町からこの王都に来ました。具体的にはセラの町の外れの離れたところなんですが。ヨハンさんが冒険者学校に入学されたと聞いて、あたしも一緒に入学しに来ました」

ニーナは満面の笑みで答える。

「そうなんだ。でもそれがどうして僕のことを?」
「本当に何も聞いてないのですか?」
「だから何を?」
「あたしがヨハンさんの妹になるということを、ですよ?」

「えっ!?」
「「「はぁ!?」」」

ニーナは唐突にヨハンの妹だと言った。
談話室内に声が響く。

「えっと、ごめん。全然わからないんだけど、どういうことかな?」

覚えのないヨハンが慌ててニーナに聞き返した。

「あたしのお父さんとヨハンさんのお父さんが昔約束したのですって。それにしても良かったです、ヨハンさんがかっこよくて、それに強くて」
「ちょっと、待ちなさい!」

ニーナがヨハンにうっとりしている中、エレナが会話に割って入ってくる。

「色々聞きたいことはありますけど、どうしてそれが妹になりますの!?その上、その流れで何故ヨハンさんが強いと断定できますの?」
「えっ?だってそんなこと言われても妹だって言われたし…………お父さん言ってたし…………」

口に指を当て、上を向きながら答えてヨハンを見た。

「それにヨハンさんはどう見ても強いでしょ?魔力を視ればわかるじゃないですか。あ、そういう意味ではそちらの二人も強いですね。まぁあたしよりは弱いでしょうけど」

口角を上げて笑うニーナ。
モニカの眉がピクリと動く。

「それはちょっと聞き捨てならないわね」
「モニカちょっと待って、もう少し話を整理してから」
「?」

ニーナは疑問符を浮かべながら首を傾げた。

「(もう何がなんだか)」

レインは盛大に溜め息を吐く。

「その約束はあなたのお父さんとヨハンさんのお父さんが約束したのですわよね?だとしたらあなたたちは兄妹ではないですわね?」
「そんなことないです!お父さんからそう言われてあたしはここにいるんだから!」
「お父さんは何をしているの?」
「冒険者をしていたって。あっ、っていうか今でも冒険者かもですね。最近会ってないので」

問い掛けられたニーナは迷うことなく答えた。

「へぇ、そうなんだ。最近会ってないって?」

モニカもニーナの問いに対して疑問を抱く。

「生きているかどうか知らないので。それにお父さんパーティーは組んでいないって言っていましたから仮に生きていたとしてもどこにいるのかも…………。ヨハンさんのお父さんとは偶然知り合って意気投合したって言ってました」

ニーナは自身の父とヨハンの父との話を知っている限り話して伝えるのだが、内容は抽象的な内容ばかりで何一つ具体的な話はなかった。
だが、ニーナ自身は詳しい事情は知らなくとも、それは絶対に本当だと断言する。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~

アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。 金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。 俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。 そして毎日催促をしに来る取り立て屋。 支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。 そして両親から手紙が来たので内容を確認すると? 「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」 ここまでやるか…あのクソ両親共‼ …という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼ 俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。 隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。 なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。 この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼ 俺はアパートから逃げ出した!   だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。 捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼ 俺は橋の上に来た。 橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした! 両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される! そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。 ざまぁみやがれ‼ …そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。 そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。 異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。 元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼ 俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。 そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。 それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。 このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…? 12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。 皆様、ありがとうございました。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...