65 / 724
学年末試験編
第六十四話 閑話 スフィンクスの集い
しおりを挟むシグラム王国から遠く離れた辺境の地。
――――時は遡ること数か月前。
「ったく、とんでもねぇな」
ブツブツと独語を言っているアトム。
かつて大陸最強冒険者パーティーと云われたアトムにエリザとガルドフ達スフィンクス。
ここ近年、天候が変わることが多い山があるという噂話を聞き、近隣の村や町の住人が噂しているという山を登っていた。
一同はシルビアというかつての仲間がそこにいるのではないかと推測し、その山を登っている。
岩肌が剥き出しのおよそ人が登頂しえないような標高の高い気高いその山を。
アトムが度々文句を言う中、ガルドフ達は困難を要することもなく登頂する。
そこはいくらかの平地が広がっていて、その山頂の中に小さな小屋を見つけた。
「ふぅ、ようやくだな。もういよいよ確実だ。こんなところに小屋を建てるのは姐さんぐらいだろ」
「そうね、それにしてもこんなところで何をしているのでしょう?」
「あやつのする行いは常人には計り知れんよ」
ゆっくりと歩きだし、小屋に向かおうとすると小屋の扉の方が先に開く。
扉から出てきたのは長い金髪を背に垂らした妖艶な気配を醸し出す背の高い女性だった。
その女性はアトムたちの姿を見るなりその表情を険しくする。
手には装飾を施した杖を持っており、その杖を空に掲げた。
「逃げるぞい、エリザ」
「――えっ!?」
ガルドフは慌ててエリザを脇に抱える。
「おい!ちょ、まっ―――」
女性が杖を掲げてすぐに空に濁った雲が集まっていった。
ゴロゴロと音を立て、途端に鋭い雷鳴が鳴り響く。
突然複数の雷がアトムたちの居た辺り一帯に凄まじい勢いで降り注いだ。
エリザを脇に抱えたガルドフは脇に抱え、その場から一歩で遠くに飛び退き岩の下に入り込む。
「ふぅ、あやつは相変わらずよの」
「あーびっくりしたぁ。ありがとガルドフ」
「――ちょ――このっ!――ぐっ――はっ!――――」
アトムは降り注ぐ雷をギリギリのところで躱し続け、何度も転げながら回避していた。
次第に雷は勢いを弱めて、空を覆っていた曇天も散っていき日差しが差しこむ。
「……はぁ……はぁ……はぁ…………」
「ふむ、なるほど」
息を切らせるアトムの様子をジッと眺める金髪の女性。
「こ、殺す気かぁぁぁーっ!何考えてやがんだ!!」
アトムが大声で女性に怒声を浴びせる。
「何も考えておらんだろう」
「……ですね」
ガルドフとエリザはその女性の行動を当然と受け入れていた。
女性はアトムたちが雷を回避したのを確認してゆっくりと口を開く。
「ふむ、やはりお主たちで間違いはないようじゃな。久しぶりに見た顔ばかりだと思えば一体何をしに来たのじゃ?」
「おい、それが最初に言う言葉かよシルビア姐さん!」
「ああ、あの程度が躱せなくなっているようだったら死んでもらって構わん」
シルビアは堂々と言い放った。
「こ、この変態サディストが――――」
アトムはここに至る道までのことを思い返す。
「(ここに来るまでにガルドフに再度鍛え直してもらってなきゃ何発か喰らっていただろうな)」
それでも数発喰らっただけでは死ぬことはないと判断した。
が、わざわざ喰らいたくもない。
「おや、何か言ったかの?アトムの坊や?」
ツカツカとアトムに近付くシルビア。
「いえ何でもないっす。それより、姐さんちょっと話をいいですか?」
「話とな?」
「どうやら変わっておらぬようだの。お互い健勝でなによりだ」
ガルドフもシルビアとアトムに歩み寄り声を掛けるとシルビアは尚も不思議そうに首を傾げた。
シルビアの様子を見ていたガルドフはシルビアが変わっていないことに安心と心配の二つを同時に抱く。
「どういうことじゃ?」
「まぁとにかく腰を据えて落ち着いて話そうではないか」
「よくわからんが何やら深刻そうじゃの。まぁよい、入れ」
シルビアが家に招き入れ、エリザはそのやりとりを嬉しそうにニコニコと眺めていた。
「久しぶりね、やっぱり良い雰囲気だわ」
そのままアトム達に続いて家の中に入る。
シルビアの家の中に入り、無造作に置かれた机に着く。
小屋の中は殺風景だが、そこかしこに見知らぬ魔道具のような物が置かれており、杖が何本も立て掛けられていた。
「それで、話とは一体何じゃ?これだけ勢揃いしおってからに。わざわざ来たのじゃ、普通の話ではないのは想像が付く」
「その話については儂から話そう。それがじゃな――――」
―――そこでガルドフからシルビアに訪れた理由を話した。
話を聞きながらシルビアは微妙に口角を上げ始める。
「――ふふっ、はーっはっはっは!なるほどなるほど!ローファスのやつめ、中々面白いことになっておるではないか」
「おいおい、姐さん、これが本当なら笑い話じゃないんだって!」
「いやいや、これが笑わずにいられるか。魔王の呪いなどというものが実在していたというのだからの」
「シルビアさんは呪いのことを知っているのですか?」
「……噂程度じゃ。昔に師が言っておった伝説級の話じゃの」
エリザの問いかけにシルビアは師のことを言う時に苦々しい顔を浮かべた。
しかし、すぐに表情を綻ばせる。
「まぁその辺は今はいい。ふふっ、面白い。非常に興味深い」
小さく呟く。
そこで思い出したかのようにアトムとエリザの二人を見る。
「そういえば時にアトムの坊やにエリザよ、主等の子供、なんといったかの?ああ確かヨハンといったか?」
「ええ、ヨハンがどうかしたのですか?」
「そやつは今どうしておる??主等がここにおるということはもう手元を離れたのか?」
「ええ。ヨハンは今シグラム王都の冒険者学校に通わせています。もうすぐ二学年になる時期ですね」
「そうかそうか、もうそれほどの年月が過ぎたか…………となると一度は会ってみたいの」
「ええ、自慢の息子なので。是非シグラム王都に来られた際にはご紹介致しますわ」
エリザは満面の笑みをシルビアに向けた。
それからシルビアはエリザからヨハンの幼少期の自慢話をいくらか聞かされる。
シルビアのその目はとても穏やかなもので、エリザのことをまるで我が子を見るような目で見ていた。
「――まぁ、姉さんも『変わっていない』様子で安心しました」
「何じゃアトムの坊や、それはどういうつもりで言っておる?」
「いえ、あれから十数年、変わらず綺麗なままっす、ってことっすね」
「そうか、アトムの坊やよ、お菓子でもお食べ、そこにあるやつを自由に食べて良いぞ。紅茶も淹れてやろう」
シルビアは笑顔で立ち上がり、菓子と紅茶を取りに行く。
「(ほんと何から何まで変わってねぇよ!時の秘術ってすげぇなやっぱ)」
アトムは勧められたお菓子を食べながら心の中で嘆息していた。
シルビアが菓子と茶を入れて持って来たところにガルドフが溜め息を吐きながら口を開く。
「ではシルビアよ、一緒に来てもらえるよの?これからまだ行かなければならんところがあるのでな。あまりのんびりもしておれんのじゃ」
「ああ、もちろんじゃ。すぐに支度をする。ちょっと待っておれ。こんな面白い話を持って来てもらったからには行かぬわけにはいくまい」
「では積もる話も道々話しながら行こうか」
こうしてガルドフ達大陸最強冒険者パーティー、スフィンクスはかつての仲間シルビアと合流を果たしたのであった。
そして次の目的地に向かうためにシルビアの準備が整い次第山を下りる。
シルビアが山を離れた後、この気高い山の頂上付近で度々見られた天候不順は以降パッタリと見られなくなったと付近の町や村で噂されていたのであった。
12
お気に入りに追加
473
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~
アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。
金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。
俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。
そして毎日催促をしに来る取り立て屋。
支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。
そして両親から手紙が来たので内容を確認すると?
「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」
ここまでやるか…あのクソ両親共‼
…という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼
俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。
隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。
なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。
この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼
俺はアパートから逃げ出した!
だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。
捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼
俺は橋の上に来た。
橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした!
両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される!
そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。
ざまぁみやがれ‼
…そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。
そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。
異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。
元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼
俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。
そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。
それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。
このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…?
12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。
皆様、ありがとうございました。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる