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入学編

第二十話 ギルド長からの依頼

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「どんな依頼なんだろうな」
「裏の依頼ですからいいものとはとても思えませんが…………」

その日、ヨハン達が向かっていたのは冒険者ギルド。

以前話があった依頼を頼みたいというのをシェバンニ教頭より聞いて向かっている。あれから一ヵ月程経つのだが、これまで依頼はなかった。ここに来て呼び出されたのがどんな依頼なのかと気にはなるのだが、詳しい話はギルド長から話があるというのでみな一様に不安を抱えている。

冒険者ギルドに入ると、受付の女性がヨハン達に気付いて声を掛けてきた。

「キズナのみなさんですね?ギルド長がお待ちです。お二階へどうぞ」

促されるまま二階に上がった。
そのままギルド長室をノックすると中から「入れ」と返事をされたので中に入る。

「おお、お前達か。よく来たな。まぁ座りなさい」

ギルド長のアルバはヨハン達を認識して机から立ち上がり、前に話したソファーに同じように腰掛けた。

「さて、既に聞いていると思うがお前達に依頼したいことがある」

一体どういう依頼をされるのか、それぞれ表情を硬くさせる。

「なに、初めての依頼だ。そんなに難しいものでもない」

ほっと安堵するのはレインだけではなく、モニカもエレナも同様だった。
だが、最後に「恐らくな」と付け足されることで表情を険しくさせたところでアルバはそれらの反応を見て面白そうに笑う。

「ああ、すまんな。依頼自体は真面目なものだ。それというのも、お前達には王都の中で流行り出しているものの真相を突き止めて欲しいんだ」
「流行り出しているもの?」

それぞれが顔を見合わせるのだが覚えがない。疑問符を浮かべながらアルバを見る。

「どういうことですか?」
「うむ。今王都の民の中にどういうわけか幻覚を見るものが増えているというらしいという話を聞いてな」
「幻覚……ですか?」
「ああ、その原因の解明を依頼したい」

詳しく話を聞くと、少し前、王都の北区にある居住区の住人の中の何人かが幻覚を見たのがことの始まりだという。最初は夢でも見たという程度に思っていたのだという風に周囲も思っていたのだが、最近になって見解が変わって来た。

それは、その幻覚を見た人達が、日にちを追うごとに人が変わったようになっているとのこと。
例えば、それまで穏やかだった人が、家庭内で突如暴力的になったりしているということがあるらしいというのだ。


「――――どこが簡単な依頼なのよ!」

とりあえず話を聞きに行こうかと北区に向かっている中、ブツブツと文句を言っているのはモニカだった。

「まぁまぁ。依頼をこなすのはどれも難しいんだって」
「そんなことないだろ?依頼主の護衛とかだと盗賊とか魔物が出ない限り比較的楽だっていう話だからな」

「ですが、さすがにこの案件はわたくしも少し気になっていましたの」
「そうなの?」

顎に手を当てながらエレナは何か考えている。

「ええ、クラスのミネルバという子をご存知ですか?」
「誰だ?ミネルバって?」
「ああ、あの赤髪のおさげの女の子よね?あの子がどうかしたの?」
「少し前に聞いた話なのですが、ミネルバが荷物を取りに戻った時にお父様に叩かれたという話を聞きましたの――――」

エレナの話はこうだった。
ミネルバは王都の北区に実家があり、休日に家に荷物を取りに戻ったことがあったのだが、その時に父の逆鱗に触れて顔を叩かれたのだという。
ミネルバはショックを受けて友達に慰められていたのは、これまで父に叩かれたことなど一度もないのだと。

それに、叩かれた理由にも納得ができなかった。
冒険者学校に入学したのにすぐに家に帰ったからなのだという。荷物を取りに帰っただけなのに、軟弱物呼ばわりされて叩かれたのだから全く納得が出来なかったらしい。

「そりゃあそうだよなー。そんな理由で叩かれたらたまったもんじゃねぇよな」
「確かにアルバさんの話と合致するね」
「じゃあ最初に聞き込みにいくのはそのミネルバっていう子のところにしようか」
「そうね」


とにかく情報を集めに行くために、一度寮に戻る。


「どうだった?」
「ダメね、ミネルバは一緒に行かないって」
「まぁそりゃそうか。これで戻ったら次は何をされるかわかんねぇもんな」

モニカとエレナがミネルバにそれとなく話を聞きに行ったのだが、ミネルバは実家への同行を拒否した。

「仕方ないね、僕たちで行くしかないみたいだね」

それでも、ミネルバの実家の場所はエレナが上手く聞き出したみたいなのでとにかく話を聞きに行くことにする。


――そうして北区、ミネルバの自宅にて。

「あらあら、わざわざごめんなさいね」
「いえ気にしないでくださいませ」

ミネルバの家に行くと、母に招かれて家の中に入っていた。

「それにしてもあの子にも困ったものね、いくらお父さんに叩かれたからといってお友達に様子を見に来させるなんて」
「お父さんは優しい人だってお聞きしましたが」
「まぁ、そうなのよね。最近ちょっとしたことでイライラするようになったみたいで」

表情を落として悩まし気に答えるミネルバの母なのだが、すぐに笑顔に変える。

「ああ、ごめんなさいね、あの子に言っておいて。別にお父さんもう怒ってなんかいないって」
「わかりました。それで、お父さんは今どこにいるんですか?」
「えっ?ああ、あの人なら日中は仕事に行っているわよ」
「お仕事はなにをされているのですか?」
「あの人はマヌエルの丘で仕事をしているわ。今日も遅いと思うの」
「そうなんですね」

さすがに父の帰りを待たせてもらうような都合の良い理由は見つからないのでどうしようかと頭を悩ませる。
そんな時、モニカはミネルバの母が頬に手の平を当て、考えながら話す様子を見て、母の袖の隙間から見える痣を見つけた。

「それ――」
「えっ!?あっ、これ?ううんなんでもないの。この間ちょっと転んだだけだから気にしないで」

母は隠すように手を下ろして袖を下ろして隠すような仕草を見せる。

「……そうですか」

そこからは学校に関する取り留めもない話に終始して、それ以上の情報は引き出せずに少ししてからミネルバの家を出た。


「どう思う?」
「あの様子なら母親の方も間違いなく暴力を振るわれているな」
「でもなんで言わなかったんだろ?」
「家庭内のいざこざを周囲に言いたくなかったのでしょう。近所付き合いもあるでしょうしね」

あまり深く追求しなかったが、ヨハン達の見解は一致している。

「なら次に行くのはそのマヌエルの丘だよね」

話に聞いたミネルバの父の仕事場、マヌエルの丘に向かうことにした。

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