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入学編
第十七話 魔法実践
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「さて、魔法に関する基礎知識は大まかにはこれぐらいになる。もうそれぞれある程度は覚えた頃だろう」
とりあえず授業はこれまで通り行われる。
そんな中、大きな講堂で魔法の授業を受けている時、教師は魔法史が記された教科書をパタンと閉じた。
「ここまでの授業でも教えた通り、魔法は持って生まれた才能である程度左右されるのはもう仕方ありません」
それは誰もが理解している。
魔法の才能がある者は入学前からある程度の魔法の使用ができた。それは身近な誰かに習った者や、独学や生来の才能で無意識に扱えるものであったりする。
それでも、冒険者学校では一律して基礎知識を教えられた。
過去の生徒で、入学前まで魔法を使えなかった者でも、入学後に才能を開花させた者もいるといったことから、いつ誰がどこで才能を開花させるかわからないためである。
「苦手なものを覚えなさいとは言いません。ですが、それでも伸ばす方法はいくつかあります」
魔法の教師はそう言うと、手の平を生徒に見えるように伸ばす。
何も乗っていない手の平をどうしたのかとみなが見ていると、手の平に小さな竜巻が生じた。
「見えますか?それぞれ魔法の得意属性がありますよね?私の属性は風になりますのでこうなります。これは、風の魔法を小さく扱うようにコントロールしています。そしてかつそれをその場に留めているのです」
それだけで生徒たちからは感嘆の息が漏れた。
壇上の教師が行っていることがどれだけ凄いことなのか知っているからだ。
「さて、これをあなた達にしなさいとは言いません。ですが、これをしようとすることが魔法の訓練になるのです。では行きますよ」
ぞろぞろと教室を出て、移動したのはグラウンド。
王都の敷地内に設けられているにも関わらず、広大な土地を有している。
そして、それぞれおもむろに手の平を上に向けていた。
「できなくて当然です。これはあくまでも訓練なのです」
堂々と満面の笑みを浮かべる教師は満足そうにしている。
何故なら、学生達はどう見ても苦戦しているのだから。
火の玉を勢いよく飛ばしてしまって者や、水の塊を留めたかと思いきやブクブクしだし大きな破裂音を伴って周囲を水浸しにしている者、風を起こして女子のスカートをまくって男子がおおーっと声を上げて睨まれている者など、上手くできない者ばかりだった。
「みんな苦戦しているみたいだね」
そんな中、ヨハンはどうしようか悩む。
実際、これは入学する前から出来た。しかし、やってみせていいものかどうかわからない。
教師があれだけ笑顔で苦戦している学生達を見ているのだから。
「ったく、性格悪いなあの先生」
「えっ?なんで?」
「だってあんなの入学してまだ一ヵ月そこそこの習いたての俺達がするには難し過ぎるだろ?」
やっぱりそうなんだ。
確かにお母さんも見せた時は驚いていたなぁ。
「あらっ?レインはまだできないのですか?」
「当り前じゃないか。っつか、なんだよ、その口振りだとまるでエレナはできるみたいじゃねぇか」
「できますわよ、ほら、この通り」
エレナは笑みを浮かべながら手の平を上に向けて竜巻を生じさせた。いとも簡単に実践してみせるエレナを見てレインは口をあんぐり開けて目を見開く。
「エレナ、凄いわね!」
「モニカもできませんの?」
「うん、剣なら自信はあるんだけど、魔法は入学するまであんまり練習しなかったからね。時間も足りなかったし」
「ふぅん。ですが、モニカはこの間の件で筋が良いって言われていたではありませんか」
「まぁあの時は無我夢中だったしねぇ」
「つまりもっと訓練すれば魔法も扱えるってことですわ」
「だといいけどね」
エレナのその様子を見て安心した。
なにも自分だけが特別ではなかったのだと。魔法が得意な子ならこれぐらいはできるのだと安堵した。
「おい、なんだよ嬉しそうな顔しやがって。そういうお前はどうなんだよ?」
腰の辺りをコツンと突かれながらレインが見て来る。
「これ、あなた達は何をおしゃべりしているのですか!あなた達も早く取り掛かりなさい!」
後ろから声が聞こえたので振り返ると魔法科の教師が少しばかり険しい顔をしていた。
「あっ、すいません、すぐにします。――これでいいんですよね?」
慌てて何事もないかのように手の平に小さな火の玉を漂わせた。
「……むぅぅぅぅぅ」
「ダメ、ですか?」
「……い、いえ、問題ありません。あなたとそこのあなたはどうやらかなり筋が良いようですね」
ヨハンだけではなくエレナも見たのは、先程のエレナの竜巻を見ていたのだろう。
「他の子はできないのですね?」
レインとモニカを見るのだが、レインとモニカも小さく頷いたのを確認すると、教師は少しほっとした様子を見せた。
「ならきちんと訓練に取り組むのですよ?それと、あなたとあなたは出来るからといって慢心することなくしっかりと取り組んでいきなさい」
「わかりましたわ」
「はい」
そう言うと教師はスタスタと足早にその場を後にした。
「なによ、ムカつくわね」
「だな」
「どうして?」
レインとモニカがムッとしている。
「だってあの先生、私とレインができないことで自尊心を保ったのよ?」
「そうなの?」
「ああ、くっそ見てろよ」
悔しそうにするレインとモニカを横目にエレナは嬉しそうにしていた。
「それにしても、さすがヨハンさんは凄いですわね」
「えっ?」
突然凄いと言われても、何のことなのかわからない。
「ですから、いきなり平然と何事もないように魔法維持をしたのですわよ?」
「そんなのエレナだってしたじゃないか」
「簡単に言うけどなお前、それがどれだけ難しいかってことだよ」
「そっか、つまりエレナはそれだけ凄いってことなんだね」
「「…………」」
レインとモニカは呆れてものも言えなかった。
「うふふっ」
その場でエレナだけが笑った。
「そうですわね。わたくしは確かに魔法を得意としていますわよ。それに、武術の方もそれなりに得意にしていますので、また今度お相手をお願いしたいですわね」
「うん、僕で良かったらいつでも」
「ってか話はそれぐらいにして、俺にもコツを教えてくれよ」
「あらっ?レインはシェバンニ教頭が直々に教えてくれるではありませんか?あの方以上の魔導士なんてそんなにいませんわよ?」
「まぁ……確かに、な」
王都に住んでいるエレナとレインが言うぐらいシェバンニ教頭は王都では有名なようだ。
それから魔法維持に取り組んでいこうとしたところでエレナにそっと耳打ちされる。
「あのですね、一応お伝えしておきますわね」
僅かに真剣な目をするエレナ。一体なんのことなのか。
「ヨハンさんはあまり目立たないようにしておいた方がよろしいですわよ?ある程度は仕方ないにしても、目立ちすぎることで良くないことを招いたりすることもあります。ですが、それ以上にヨハンさんはご両親のこともありますので念のために当分の間は普通の学生を装って下さいませ」
「どういうこと?」
「いえ、学生の中には貴族の身分を隠している生徒のいますわ。あまり秀でた能力を見せびらかすことで、そういった生徒に目を付けられると学生生活中や卒業後に支障を来たしたりする方もいるとお聞きしましたので」
「ふぅん、わかった気を付けるよ」
貴族の子どもに目を付けられるとどういう事態を招くのかもう一つ理解できないのだが、まだ短い付き合いながらもエレナは信用できる人物だというのは実感していた。
なんとなくそういう風に思うだけなのだが、エレナの顔をじっと眺めていると、エレナは不思議に思い小首を傾げて小さく笑いかける。
「ちょっと、なんであんた達は見つめ合っているのよ!」
そこにモニカが割って入って来た。
「なんでもありませんわ」
「ほんとにぃ?」
「それよりもほらっ、モニカも早く練習しますわよ。わたくしが見てあげますので」
「……なんか言い方が気になるわね。まぁいいわ、お願い」
そうしてエレナとモニカが離れていくとレインが近付いて来る。
「おいおい、なんだよ、エレナと良い雰囲気じゃねぇかよ」
「エレナって良い子だよね」
「おっ?どうしてそう思う?」
「僕のお父さんとお母さんのこともあるから目立たないようにしていた方が良いってさ。なんか目を付けられると後々困るからって」
「…………」
「どうしたの?」
「いや、まぁ、確かにそれはそうだけど、いや俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな――――」
そこまで言ってレインは言葉を続けるのを諦める。
笑顔でモニカとエレナを見つめる姿を見て、きっとこいつは言ったところでどうせ気付かないような気がしたのだから。
「(まぁそのうちその辺にも興味が湧いてくるだろ)さって練習練習」
とりあえず授業はこれまで通り行われる。
そんな中、大きな講堂で魔法の授業を受けている時、教師は魔法史が記された教科書をパタンと閉じた。
「ここまでの授業でも教えた通り、魔法は持って生まれた才能である程度左右されるのはもう仕方ありません」
それは誰もが理解している。
魔法の才能がある者は入学前からある程度の魔法の使用ができた。それは身近な誰かに習った者や、独学や生来の才能で無意識に扱えるものであったりする。
それでも、冒険者学校では一律して基礎知識を教えられた。
過去の生徒で、入学前まで魔法を使えなかった者でも、入学後に才能を開花させた者もいるといったことから、いつ誰がどこで才能を開花させるかわからないためである。
「苦手なものを覚えなさいとは言いません。ですが、それでも伸ばす方法はいくつかあります」
魔法の教師はそう言うと、手の平を生徒に見えるように伸ばす。
何も乗っていない手の平をどうしたのかとみなが見ていると、手の平に小さな竜巻が生じた。
「見えますか?それぞれ魔法の得意属性がありますよね?私の属性は風になりますのでこうなります。これは、風の魔法を小さく扱うようにコントロールしています。そしてかつそれをその場に留めているのです」
それだけで生徒たちからは感嘆の息が漏れた。
壇上の教師が行っていることがどれだけ凄いことなのか知っているからだ。
「さて、これをあなた達にしなさいとは言いません。ですが、これをしようとすることが魔法の訓練になるのです。では行きますよ」
ぞろぞろと教室を出て、移動したのはグラウンド。
王都の敷地内に設けられているにも関わらず、広大な土地を有している。
そして、それぞれおもむろに手の平を上に向けていた。
「できなくて当然です。これはあくまでも訓練なのです」
堂々と満面の笑みを浮かべる教師は満足そうにしている。
何故なら、学生達はどう見ても苦戦しているのだから。
火の玉を勢いよく飛ばしてしまって者や、水の塊を留めたかと思いきやブクブクしだし大きな破裂音を伴って周囲を水浸しにしている者、風を起こして女子のスカートをまくって男子がおおーっと声を上げて睨まれている者など、上手くできない者ばかりだった。
「みんな苦戦しているみたいだね」
そんな中、ヨハンはどうしようか悩む。
実際、これは入学する前から出来た。しかし、やってみせていいものかどうかわからない。
教師があれだけ笑顔で苦戦している学生達を見ているのだから。
「ったく、性格悪いなあの先生」
「えっ?なんで?」
「だってあんなの入学してまだ一ヵ月そこそこの習いたての俺達がするには難し過ぎるだろ?」
やっぱりそうなんだ。
確かにお母さんも見せた時は驚いていたなぁ。
「あらっ?レインはまだできないのですか?」
「当り前じゃないか。っつか、なんだよ、その口振りだとまるでエレナはできるみたいじゃねぇか」
「できますわよ、ほら、この通り」
エレナは笑みを浮かべながら手の平を上に向けて竜巻を生じさせた。いとも簡単に実践してみせるエレナを見てレインは口をあんぐり開けて目を見開く。
「エレナ、凄いわね!」
「モニカもできませんの?」
「うん、剣なら自信はあるんだけど、魔法は入学するまであんまり練習しなかったからね。時間も足りなかったし」
「ふぅん。ですが、モニカはこの間の件で筋が良いって言われていたではありませんか」
「まぁあの時は無我夢中だったしねぇ」
「つまりもっと訓練すれば魔法も扱えるってことですわ」
「だといいけどね」
エレナのその様子を見て安心した。
なにも自分だけが特別ではなかったのだと。魔法が得意な子ならこれぐらいはできるのだと安堵した。
「おい、なんだよ嬉しそうな顔しやがって。そういうお前はどうなんだよ?」
腰の辺りをコツンと突かれながらレインが見て来る。
「これ、あなた達は何をおしゃべりしているのですか!あなた達も早く取り掛かりなさい!」
後ろから声が聞こえたので振り返ると魔法科の教師が少しばかり険しい顔をしていた。
「あっ、すいません、すぐにします。――これでいいんですよね?」
慌てて何事もないかのように手の平に小さな火の玉を漂わせた。
「……むぅぅぅぅぅ」
「ダメ、ですか?」
「……い、いえ、問題ありません。あなたとそこのあなたはどうやらかなり筋が良いようですね」
ヨハンだけではなくエレナも見たのは、先程のエレナの竜巻を見ていたのだろう。
「他の子はできないのですね?」
レインとモニカを見るのだが、レインとモニカも小さく頷いたのを確認すると、教師は少しほっとした様子を見せた。
「ならきちんと訓練に取り組むのですよ?それと、あなたとあなたは出来るからといって慢心することなくしっかりと取り組んでいきなさい」
「わかりましたわ」
「はい」
そう言うと教師はスタスタと足早にその場を後にした。
「なによ、ムカつくわね」
「だな」
「どうして?」
レインとモニカがムッとしている。
「だってあの先生、私とレインができないことで自尊心を保ったのよ?」
「そうなの?」
「ああ、くっそ見てろよ」
悔しそうにするレインとモニカを横目にエレナは嬉しそうにしていた。
「それにしても、さすがヨハンさんは凄いですわね」
「えっ?」
突然凄いと言われても、何のことなのかわからない。
「ですから、いきなり平然と何事もないように魔法維持をしたのですわよ?」
「そんなのエレナだってしたじゃないか」
「簡単に言うけどなお前、それがどれだけ難しいかってことだよ」
「そっか、つまりエレナはそれだけ凄いってことなんだね」
「「…………」」
レインとモニカは呆れてものも言えなかった。
「うふふっ」
その場でエレナだけが笑った。
「そうですわね。わたくしは確かに魔法を得意としていますわよ。それに、武術の方もそれなりに得意にしていますので、また今度お相手をお願いしたいですわね」
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「どういうこと?」
「いえ、学生の中には貴族の身分を隠している生徒のいますわ。あまり秀でた能力を見せびらかすことで、そういった生徒に目を付けられると学生生活中や卒業後に支障を来たしたりする方もいるとお聞きしましたので」
「ふぅん、わかった気を付けるよ」
貴族の子どもに目を付けられるとどういう事態を招くのかもう一つ理解できないのだが、まだ短い付き合いながらもエレナは信用できる人物だというのは実感していた。
なんとなくそういう風に思うだけなのだが、エレナの顔をじっと眺めていると、エレナは不思議に思い小首を傾げて小さく笑いかける。
「ちょっと、なんであんた達は見つめ合っているのよ!」
そこにモニカが割って入って来た。
「なんでもありませんわ」
「ほんとにぃ?」
「それよりもほらっ、モニカも早く練習しますわよ。わたくしが見てあげますので」
「……なんか言い方が気になるわね。まぁいいわ、お願い」
そうしてエレナとモニカが離れていくとレインが近付いて来る。
「おいおい、なんだよ、エレナと良い雰囲気じゃねぇかよ」
「エレナって良い子だよね」
「おっ?どうしてそう思う?」
「僕のお父さんとお母さんのこともあるから目立たないようにしていた方が良いってさ。なんか目を付けられると後々困るからって」
「…………」
「どうしたの?」
「いや、まぁ、確かにそれはそうだけど、いや俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな――――」
そこまで言ってレインは言葉を続けるのを諦める。
笑顔でモニカとエレナを見つめる姿を見て、きっとこいつは言ったところでどうせ気付かないような気がしたのだから。
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