上 下
18 / 724
入学編

第十七話 魔法実践

しおりを挟む
「さて、魔法に関する基礎知識は大まかにはこれぐらいになる。もうそれぞれある程度は覚えた頃だろう」

とりあえず授業はこれまで通り行われる。
そんな中、大きな講堂で魔法の授業を受けている時、教師は魔法史が記された教科書をパタンと閉じた。

「ここまでの授業でも教えた通り、魔法は持って生まれた才能である程度左右されるのはもう仕方ありません」

それは誰もが理解している。
魔法の才能がある者は入学前からある程度の魔法の使用ができた。それは身近な誰かに習った者や、独学や生来の才能で無意識に扱えるものであったりする。

それでも、冒険者学校では一律して基礎知識を教えられた。
過去の生徒で、入学前まで魔法を使えなかった者でも、入学後に才能を開花させた者もいるといったことから、いつ誰がどこで才能を開花させるかわからないためである。

「苦手なものを覚えなさいとは言いません。ですが、それでも伸ばす方法はいくつかあります」

魔法の教師はそう言うと、手の平を生徒に見えるように伸ばす。
何も乗っていない手の平をどうしたのかとみなが見ていると、手の平に小さな竜巻が生じた。

「見えますか?それぞれ魔法の得意属性がありますよね?私の属性は風になりますのでこうなります。これは、風の魔法を小さく扱うようにコントロールしています。そしてかつそれをその場に留めているのです」

それだけで生徒たちからは感嘆の息が漏れた。
壇上の教師が行っていることがどれだけ凄いことなのか知っているからだ。

「さて、これをあなた達にしなさいとは言いません。ですが、これをしようとすることが魔法の訓練になるのです。では行きますよ」


ぞろぞろと教室を出て、移動したのはグラウンド。
王都の敷地内に設けられているにも関わらず、広大な土地を有している。

そして、それぞれおもむろに手の平を上に向けていた。

「できなくて当然です。これはあくまでも訓練なのです」

堂々と満面の笑みを浮かべる教師は満足そうにしている。
何故なら、学生達はどう見ても苦戦しているのだから。

火の玉を勢いよく飛ばしてしまって者や、水の塊を留めたかと思いきやブクブクしだし大きな破裂音を伴って周囲を水浸しにしている者、風を起こして女子のスカートをまくって男子がおおーっと声を上げて睨まれている者など、上手くできない者ばかりだった。

「みんな苦戦しているみたいだね」

そんな中、ヨハンはどうしようか悩む。
実際、これは入学する前から出来た。しかし、やってみせていいものかどうかわからない。
教師があれだけ笑顔で苦戦している学生達を見ているのだから。

「ったく、性格悪いなあの先生」
「えっ?なんで?」
「だってあんなの入学してまだ一ヵ月そこそこの習いたての俺達がするには難し過ぎるだろ?」

やっぱりそうなんだ。
確かにお母さんも見せた時は驚いていたなぁ。

「あらっ?レインはまだできないのですか?」
「当り前じゃないか。っつか、なんだよ、その口振りだとまるでエレナはできるみたいじゃねぇか」
「できますわよ、ほら、この通り」

エレナは笑みを浮かべながら手の平を上に向けて竜巻を生じさせた。いとも簡単に実践してみせるエレナを見てレインは口をあんぐり開けて目を見開く。

「エレナ、凄いわね!」
「モニカもできませんの?」
「うん、剣なら自信はあるんだけど、魔法は入学するまであんまり練習しなかったからね。時間も足りなかったし」
「ふぅん。ですが、モニカはこの間の件で筋が良いって言われていたではありませんか」
「まぁあの時は無我夢中だったしねぇ」
「つまりもっと訓練すれば魔法も扱えるってことですわ」
「だといいけどね」

エレナのその様子を見て安心した。
なにも自分だけが特別ではなかったのだと。魔法が得意な子ならこれぐらいはできるのだと安堵した。

「おい、なんだよ嬉しそうな顔しやがって。そういうお前はどうなんだよ?」

腰の辺りをコツンと突かれながらレインが見て来る。

「これ、あなた達は何をおしゃべりしているのですか!あなた達も早く取り掛かりなさい!」

後ろから声が聞こえたので振り返ると魔法科の教師が少しばかり険しい顔をしていた。

「あっ、すいません、すぐにします。――これでいいんですよね?」

慌てて何事もないかのように手の平に小さな火の玉を漂わせた。

「……むぅぅぅぅぅ」
「ダメ、ですか?」
「……い、いえ、問題ありません。あなたとそこのあなたはどうやらかなり筋が良いようですね」

ヨハンだけではなくエレナも見たのは、先程のエレナの竜巻を見ていたのだろう。

「他の子はできないのですね?」

レインとモニカを見るのだが、レインとモニカも小さく頷いたのを確認すると、教師は少しほっとした様子を見せた。

「ならきちんと訓練に取り組むのですよ?それと、あなたとあなたは出来るからといって慢心することなくしっかりと取り組んでいきなさい」

「わかりましたわ」
「はい」

そう言うと教師はスタスタと足早にその場を後にした。

「なによ、ムカつくわね」
「だな」
「どうして?」

レインとモニカがムッとしている。

「だってあの先生、私とレインができないことで自尊心を保ったのよ?」
「そうなの?」
「ああ、くっそ見てろよ」

悔しそうにするレインとモニカを横目にエレナは嬉しそうにしていた。

「それにしても、さすがヨハンさんは凄いですわね」
「えっ?」

突然凄いと言われても、何のことなのかわからない。

「ですから、いきなり平然と何事もないように魔法維持をしたのですわよ?」
「そんなのエレナだってしたじゃないか」
「簡単に言うけどなお前、それがどれだけ難しいかってことだよ」
「そっか、つまりエレナはそれだけ凄いってことなんだね」

「「…………」」

レインとモニカは呆れてものも言えなかった。

「うふふっ」

その場でエレナだけが笑った。

「そうですわね。わたくしは確かに魔法を得意としていますわよ。それに、武術の方もそれなりに得意にしていますので、また今度お相手をお願いしたいですわね」
「うん、僕で良かったらいつでも」

「ってか話はそれぐらいにして、俺にもコツを教えてくれよ」
「あらっ?レインはシェバンニ教頭が直々に教えてくれるではありませんか?あの方以上の魔導士なんてそんなにいませんわよ?」
「まぁ……確かに、な」

王都に住んでいるエレナとレインが言うぐらいシェバンニ教頭は王都では有名なようだ。

それから魔法維持に取り組んでいこうとしたところでエレナにそっと耳打ちされる。

「あのですね、一応お伝えしておきますわね」

僅かに真剣な目をするエレナ。一体なんのことなのか。

「ヨハンさんはあまり目立たないようにしておいた方がよろしいですわよ?ある程度は仕方ないにしても、目立ちすぎることで良くないことを招いたりすることもあります。ですが、それ以上にヨハンさんはご両親のこともありますので念のために当分の間は普通の学生を装って下さいませ」

「どういうこと?」

「いえ、学生の中には貴族の身分を隠している生徒のいますわ。あまり秀でた能力を見せびらかすことで、そういった生徒に目を付けられると学生生活中や卒業後に支障を来たしたりする方もいるとお聞きしましたので」

「ふぅん、わかった気を付けるよ」

貴族の子どもに目を付けられるとどういう事態を招くのかもう一つ理解できないのだが、まだ短い付き合いながらもエレナは信用できる人物だというのは実感していた。

なんとなくそういう風に思うだけなのだが、エレナの顔をじっと眺めていると、エレナは不思議に思い小首を傾げて小さく笑いかける。

「ちょっと、なんであんた達は見つめ合っているのよ!」

そこにモニカが割って入って来た。

「なんでもありませんわ」
「ほんとにぃ?」
「それよりもほらっ、モニカも早く練習しますわよ。わたくしが見てあげますので」
「……なんか言い方が気になるわね。まぁいいわ、お願い」

そうしてエレナとモニカが離れていくとレインが近付いて来る。

「おいおい、なんだよ、エレナと良い雰囲気じゃねぇかよ」
「エレナって良い子だよね」
「おっ?どうしてそう思う?」
「僕のお父さんとお母さんのこともあるから目立たないようにしていた方が良いってさ。なんか目を付けられると後々困るからって」
「…………」
「どうしたの?」
「いや、まぁ、確かにそれはそうだけど、いや俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな――――」

そこまで言ってレインは言葉を続けるのを諦める。
笑顔でモニカとエレナを見つめる姿を見て、きっとこいつは言ったところでどうせ気付かないような気がしたのだから。

「(まぁそのうちその辺にも興味が湧いてくるだろ)さって練習練習」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

TS剣闘士は異世界で何を見るか。

サイリウム
ファンタジー
目が覚めたらTSしていて、しかも奴隷になっていた。剣闘士として戦うことを運命づけられた"ジナ"は、『ビクトリア』という名前で闘技場に立つ。彼女はこの命が軽い異世界で、どう生き、何を見るのか。 現在更新の方を停止しております。先行更新はハーメルンにて行っているのでそちらの方をご覧ください。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~

アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。 金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。 俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。 そして毎日催促をしに来る取り立て屋。 支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。 そして両親から手紙が来たので内容を確認すると? 「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」 ここまでやるか…あのクソ両親共‼ …という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼ 俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。 隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。 なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。 この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼ 俺はアパートから逃げ出した!   だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。 捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼ 俺は橋の上に来た。 橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした! 両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される! そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。 ざまぁみやがれ‼ …そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。 そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。 異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。 元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼ 俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。 そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。 それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。 このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…? 12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。 皆様、ありがとうございました。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...