15 / 724
入学編
第十四話 パーティー結成
しおりを挟む校長室を出た四人は突然の話をまとめることにする。
とりあえず腰を落ち着かせて話をするために学内の食堂に向かった。
食堂は多くの学生が利用するのだが、今の時間はそれほど人の姿は見られなかった。
「あのさ、そういやヨハンはどうやってを『あれ』を倒したんだ?」
レインは忘れてたとばかりにヨハンに確認する。
ビーストタイガーのことなのはみんなわかっていたのだが、『あれ』と例えたのも、普通は新入生がビーストタイガーを倒したといっても信じられないので念のため。
「あー、あれ?(まぁ別に隠すことでもないかな?) えっとね、あの魔物って身体に魔力の膜があって、普通に攻撃しても突破できなかったんだよね。それで、闘気を纏った攻撃を試してみたら魔力膜を突破できたから、だから…………」
「えっ!?ヨハンってもう闘気を扱えるの??あれ魔力の変換でかなり魔力コントロールが必要になるはずよ!」
思わずモニカが声を上げる。
「うん、お父さんに教えてもらったんだ。でもお父さんほどの練度はないけどね。お父さんのはもっと滑らかだったなぁ」
まだまだ未熟だとばかりに話す。
「(そらお前の父ちゃんスフィンクスだったじゃん!それと比べるなんて何言ってんだ?)」
レインが心の中で叫ぶ。声に出して叫びたい。
「ヨハンさんって……凄いのですわね」
「そう……なのかなぁ?」
「うん、ヨハンってこんなに凄かったのね。闘気を扱えて、それに両親がスフィンクスのメンバーって、そんなことがあるのね…………最初会った時は何言ってるのって思ったけど、納得したわ」
エレナとモニカに感心したように見られる。
「うーん、確かにお父さんとお母さんに色々教えてもらっていたなぁ。でもお父さんもお母さんもそんな伝説になるようなほど凄くはないよ?」
天井を見ながら王都に来るまで過ごしていた実家と共に両親の顔を思い出す。あの少し天然交じりの母と少しドジな父の姿を。
あれのどこに伝説たらしめる要素があるのだろうか。
「自覚がなくてもあのスフィンクスのメンバーの息子なんだぞ!すげぇことだって」
レインはほとんど知られていないスフィンクスの秘密に触れることが出来たことで未だ興奮冷めやらぬ様子を見せる。
「そのことですが、スフィンクスはこれまで素性がほとんど明らかにされていませんでしたわ。あまり公にせずにいましょう」
対して努めて冷静なのはエレナだった。
現在の状況を努めて冷静に分析して他の三人に提案する。
「うーん、まぁそうか。わかったよ!あーぁ、それにしても俺だけ補習かぁ。ったく、なんで俺だけ」
レインだけが補修だということはガルドフの殺気に当てられた反応からなので、それだけでモニカとエレナのある程度の実力の高さは窺えた。
――しかし、それでも。
「何を言っているの?私たちもヨハンに負けないように強くなるんだからね!」
モニカもヨハンの出生に驚きを禁じえなかったが、それとこれとは別とばかりにヨハンに負けないように張り合おうとする。
そこにはただの同級生だけではなく、ライバルとしての感情も生まれ始めていた。
「そうですわ、あなたは更に差が開かないように頑張ってくださいな。(はぁ、それにしてもこれは予想以上の展開だったのは確かですわね)」
「レイン、頑張って!」
「はぁ……呑気だよな、お前は」
ヨハンの無邪気な笑顔に呆れてしまう。
「――――ヨハン?」
突然後ろから声を掛けられる。振り向くとユーリとサナがいた。
「ユーリ!?元気そうだね!」
「あぁおかげさまでな。この間は助かったよ。結局びーす――――おっと、内密だったな。しかし、それにしても悔しいな。俺たちはともかく、ヨハン達の実習評価が低いのには納得がいかないぞ。なぁサナ?」
横のサナにユーリが話し掛けるのだが、サナの方は赤面しながらもじもじしてヨハンを見つめている。
「? サナ??どうしたの?」
まだサナとはそれほど会話をしていない。実習終わりにお礼を言われるのに少し話した程度。
ヨハンはまだ何も話さないサナに対して、どうしたのかとばかりに疑問符を浮かべながら話しかける。
「――――はぅぁ!?」
ビクッとした反応をしてサナがユーリの後ろに隠れた。
「ん?ん??」
サナに怖がられる様な事を何かしたっけと考えるのだが覚えがない。
わけもわからずヨハンが困惑して周囲を見渡すとモニカとエレナがどこか不機嫌そうにしていてレインがにやにやしていた。
「サナぁ、もう一度お礼をちゃんとしようって言い出したのはサナの方じゃないかよ」
ユーリが後ろを覗きながらサナに話し掛ける。
「うぅ………。あ、あの、この間は…………その、ほ、本当にあ、ありがとうございました!」
やっと顔を出したサナが一大決心するかのように大きくお辞儀をして思い切って言い切った。
「いえいえ、そんなこと――――」
気にしないでいいと言おうとしたところで――――。
「こちらも申し訳ありませんでしたわね。ほっぺた引っ叩いちゃって――」
エレナがサナとヨハンの間に割り込んで来たところでサナがハッとなる。
我に返ったサナが周囲に視線を配らせた。
「こ、こちらこそ、あぁでもしてもらわなければ助からなかったと思います」
俯いてあの時の出来事を思い出す。
思い出すだけで震えに襲われる。
「それで?あとの二人は?大丈夫なのよね?」
モニカがユーリに質問した。
「あぁ、アキとケントはおかげさまで無事に助かったよ。ただ、まだ完全ではないのでな。でも近々復帰できると思う。またその時にお礼を言いに来るよ」
「そう、良かったぁ」
モニカが安堵して息を吐くのも彼らの初期治療に大きく関与しているためだった。
「じゃあ用も済んだし、帰るか。ではまた」
「ヨハン君、またね!」
ユーリは感謝の気持ちを込めて、サナはヨハンをジッと見つめて挨拶をする。
手を振りながらその場をあとにした。
「とにかく、みんな無事で良かったね――――ん?」
手を振られたので振り返しただけなのだが、それまで穏やかだった空気が何故だか緊張が走る。
どう見てもモニカとエレナが怒っているように見える。
「(……えっと、どうしたんだろ?)」
「くくくっ、これから楽しくなりそうだな、ヨハン?」
レインがヨハンに肩を組みながら嬉しそうにしていた。
「そうだね、明日にはギルドに行くんだもんね。そういえばギルドの依頼ってどんなのがあるんだろう?」
「(……ダメだこいつ、なんも気付いていねぇ)」
ヨハンが見当違いの発言をしているがレインは華麗に聞き流した。
「(このニブちんが!)」
「(これは長期戦ですかね)そうですわね、そういえば今回ギルドに登録するパーティーのことですけれども。登録名何にしますの?」
「うーん、私は特にないかな。そういうの難しそうだし。ヨハンが決めたら?」
「どうして僕が!?」
「だってヨハンが俺達のリーダーだろ?」
「いつからそうなっているの!?」
初耳である。そういった話し合いをした事実も記憶も一切ない。
もちろん他の三人も初耳である。
「わたくしもそれでいいと思いますわよ?ヨハンさんが適任かと」
「私もヨハンがリーダーでいいと思うわ」
女性陣がレインに同調する。
「えー!?僕がリーダー?…………うーん、よくわかんないけど、まぁ、みんながそう言うなら…………けど、僕がリーダーだからって物事を一方的に決めるのとかじゃなく、お互いを尊重し合えて対等な立場で活動できたらいいって思うんだけど?」
「うん、やっぱりヨハンがリーダーで決まりね!」
「はぁ……わかったよ。とりあえずするから。それで、名前なんだけど、みんなが良ければ『キズナ』とかはどうかな?みんなと知り合えた絆を大事にするって意味で」
「なんかこっ恥ずかしいな」
「ならレインが何か考えてよ!」
「やだよ、そういうのを考えるのもリーダーの仕事だっての」
「そんなわけないよ」
こうなると体よく押し付けられた感じもしなくもない。
「……キズナかぁ。私はいいと思うよ?」
「そうですわね。それで問題ありませんわ」
「まぁ別に俺もそれでいいよ。そのうち慣れるだろ。よしっ、キズナでいこう」
こうしてヨハン達は翌日ギルドに冒険者としての登録に向かうことになった。
10
お気に入りに追加
473
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~
アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。
金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。
俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。
そして毎日催促をしに来る取り立て屋。
支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。
そして両親から手紙が来たので内容を確認すると?
「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」
ここまでやるか…あのクソ両親共‼
…という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼
俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。
隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。
なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。
この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼
俺はアパートから逃げ出した!
だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。
捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼
俺は橋の上に来た。
橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした!
両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される!
そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。
ざまぁみやがれ‼
…そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。
そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。
異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。
元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼
俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。
そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。
それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。
このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…?
12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。
皆様、ありがとうございました。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる