異端魔術の禁断教室

勇崎シュー

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「……ひっ」

 俺が同情を込めた目で残された女性冒険者を見ると、息を吸い込むような悲鳴を上げられる。

「うーむ……」

 またしても、考える。
 状況を整理するに、この子は今腰を抜かしてしまい動ける状況に非ず、このまま放って置くのはかなり危険だろう。
 動けるようになるまでこの場で待ってもいいが、またドラゴンやそれと同等するモンスターに襲われても厄介だ。
 少し気は引けるが、街まで送ってあげるとしよう。

「……ちょっとごめんな」

 彼女に近づき、身体を持ち上げ、先ずは腰に携えていたナイフを抜き取る。

「ひ、い、いや……っ」
「いやいや、殺そうとしてる訳じゃないって。ただ……」

 俺は怯えられながらも、ナイフを懐に収めつつ、なんとか女性冒険者をおぶることに成功する。

「よっと。……ただ、前にこうやって送ってた時、冒険者が動けるようになった途端襲いかかってきてさ。俺の能力でも、超至近距離からの不意打ちは流石に防ぎ切れないから……」

 ぼそぼそと言い訳をしながら、街の方へと少しずつ歩みを進めていく。

「あ、あの……」
「ん?」

 予想していなかった会話の切り口に、つい間の抜けた返事をしてしまう。
 俺と会話するものと言えば、発狂するか気絶するか、はたまた普通に話す素振りをしつつ得物を手にかける輩なんてのもいた。
 しかし、ちょっとした緊張感を持ちつつ話しかけてくる彼女のような存在は、かなり久々だ。

「ありがとう、ございます。助けてくれて……」
「……っ」

 めっずらしぃー。と、声に出しそうになるも何とか呑み込む。
 まさかこの呪い子に礼まで言ってくれるとは。そんな人と会うのは実に数年ぶりである。

 けれども、不思議な事にその感謝の言葉は胸中には届かなかった。
 いや、届いてはいる。けど敢えて例えるならば、広大な砂漠に降りた一滴の雫のような……そんなどうしようもない虚しさがそこにあった。

「……感謝する必要なんか無いよ。見捨てたら夢見が悪くなりそーだった。それだけなんだ」

 ぶっきらぼうに嘯きながら、太陽が沈んでいく大地を只管に歩いていく。
 それから大して会話もせずに二時間ほど歩くとーー勿論休息も多少挟んだがーー日が完全に沈み込む直前に街に着くことが出来た。

「着いたぞ。もう歩けるよな?」

 そう聞くと、彼女はこくん、と頷いたので静かに背から降ろす。

「……あの」
「ん?」

 街が見えているのに逃げ出さないとは、いよいよ妙な奴だと思いつつ、彼女の言葉に傾聴する。

「どうして、助けてくれたんですか? 話を聞く限り、他の人も助けてるけど、あまり良い反応はされなかった筈なのに……」
「……あー」

 久々のまともな会話だからは、俺は馬鹿正直に話し始めた。

「……俺は、静かに暮らせる街を探してるんだ。村でもいい。とにかく、俺の悪評が届かない場所まで……」

 そこで一息付いてから、再度開口する。

「その道中で旅人とか冒険者を助けて反応を見れば、どれだけ俺の存在がその地域で認識されてるか分かるだろ? だから、そうやって地道に確かめてるだけなんだよ」

 全てをさらけ出した後、なんだか余計な事ばかり言ったような気がして、歯痒さに頬を掻いた。
 数秒の沈黙の後、少女は右手を胸元に置き、言い放つ。

「それでも……理由があったとしても、助けてくれて、私が生き延びられたのは事実です。改めて、ありがとうございます」

 その言葉を聞いて、俺は久々にーー

 心が潤った気がした。


「あの、良かったら冒険者ギルドまで、一緒に行きませんか?」

 屈託のない微笑みを浮かべながら言ってくれた、彼女の提案に対し。

「それはごめん。ギルドは……とっくの昔に追放されてんだ」

 気まずい夜風が、俺達の頬を撫でた。
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