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三章ー鋼鉄の王国ー

72 合否と決断

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 弟子入りするための、試験的な模擬試合。
 俺とユージンさんの戦いは、佳境に入っていた。
 ディメンテイターの力により相手を擬似的に拘束。その瞬間を狙いスキルを発動するも、何と向こうも反撃を仕掛けてくる。
 煌めく剣と剣が衝突し、この場を白で埋めん程の光が瞬いたのだった。

「のあぁあああーっ!」

 叫びを上げるのは、俺でもユージンさんでもアルティさんでもなく、ショーゴ。
 戦う俺達は声も出せぬまま、互いに吹き飛んだ。

「がっ……!」

 木製の壁に激突し、そのまま床にずり落ちる。
 俺の手に握られた木剣を見てみると、それは既に棒切れへと変貌を遂げていた。
 これでは試合続行は不可能だ。
 つまり、意識がある方の勝利だと推測できるが、反対位置のユージンに目を向けると、やはり彼もダメージを負ったのみだった。

 と、なると。これは立ち上がった者が勝者になる筈。
 俺は最後の踏ん張りだと、全身に力を入れた。

「く、ぉおおぉぉ……っ」

 軋む身体に鞭を打ち、たたらを踏みつつも何とか立ち上がる。
 これで俺の……と思ったところで、ユージンも立ち上がっている事に気づいた。
 なら、せめてあと一発。それさえ喰らわせれば、俺の勝ちだ。
 そう思い一歩踏み出したところで、糸が切れたように倒れる。

「それ迄! 双方同時に倒れた為、勝者無し! 今試合は引き分けとする!」

 どうやら、倒れたのは俺だけでは無かったらしい。
 それだけ確認できたところで、俺の意識は遠のいて行った。







「んぐ……っ」

 身体の痛みにより、俺は目覚めた。
 ゆっくり瞼を上げると、そこは昨日泊まった一室である事に気づく。

「おっ。起きたか」

 この優しさと厳しさを内包したような声は、アルティさんだ。
 部屋を見てみると、どうやら他に人は居ない。

「アルティさん……。あの、試験の方は……」
「おや、目覚めてすぐ聞くとは、君も幾分性急だな」

 性分を指摘され若干気恥しいが、今は結果をいち早く知りたかった。

「そうだな……」

 アルティさんは一言だけ呟き、嘆息を吐く。
 その後に、朗らかとも沈鬱とも言い難い声色で語り始めた。

「ユージンは性格こそ軽い男だが、あの若さで我が騎士団の上位に入るほどの剣士だ。そんな彼と引き分けにまで持ち込んだ君の実力と想いは、大きいと言わざるを得ないだろう」

 現状褒めてくれてはいるが、雲行きが怪しい事は火を見るより明らかだ。
 だが、まだ口出しはせずに傾聴を続ける。

「しかし、スキルの使用を認めたとはいえ、真剣を召喚し使用した事実を許容すべきかは微妙な所だ。それに……君は、剣以外にも学ぶべき事が多いように思える」
「……え、それって……」

 俺は生唾を呑み込み、前へ乗り出す。


「あぁ。君を……弟子にすることは出来ない」


 瞬間、世界がぐらつく様な感覚を得た。

 だめ、なのか。
 あんなに必死に喰らいつき、自身も倒れはしたが倒す所まで持っていったのに……。

「だが」

 絶望の縁から転げ落ちそうになった時、その接続語に顔を上げた。

「タクマ君、君を我が部隊に招きたい。ディッセル騎士団第一遊撃隊に、入らないかい?」

 思わぬ誘いに、思わず息を吸う。

「君が入隊してくれれば、私達も助かる。それに、きっと私個人の弟子になるより、ずっと君の成長に繋がる筈だ」

 一瞬、迷う。
 これは、ただ良いように使われるだけなのでは?
 しかし、実践を積みたいのも確かだ。それに、アルティさんに極力迷惑をかけない形で剣の指導をしてもらえる可能性もある。
 いや、弟子に出来ないと言っていたから、それは無いのか……?
 それでも、他に見習いたい剣士を見つけて教えを乞えば学ばさせて貰えるかもしれない。
 最悪、技術は見て覚えるという手もある。
 ならば、ここは……!

「分かりました。入隊させて下さい!」

 俺は真っ直ぐな目で、アルティさんの瞳を射抜いた。

「あぁ、こちらこそ頼む。それでは、今日中に戻る事になっているからな、共に参ろう……対魔王軍の、最前線の戦地へ」

「……ん? え、ぇえええええ!?」

 なんかとんでもない事に巻き込まれた気がする。
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