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三章ー鋼鉄の王国ー
71 男の意地
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「こんなとこで負けれないんだ。俺は強くなって、絶対にユズリを取り返すんだから!」
剣を構え叫ぶ俺に対し、ユージンさんは僅かに俯きつつ歯噛みした。
「今更遅いんスよ……囚われてるユズリちゃんが、今どんな気持ちで居るかっ!」
瞬時に距離を詰められ、流麗な動きで刃が向かってくる。
俺はそれを木剣で何とか受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだ。
「分かってる……だから俺が助けるんだ!」
「遅いって言ってんスよ! もう無事じゃないかもしれないっス!」
ユージンさんは言葉を強めると同時に剣にも重さを足してくる。
彼の言っている事は正論だ。今から助けても遅いかもしれない。
この重みはユージンさんの力だけでなく、言葉の重みでもあると悟った。
それでも、いや、だからこそ。
「負けられないんだぁあああああッ!」
俺は自らの後悔をバネに、木剣を押し返した。
「例え俺が腹を切っても、ユズリを連れて行かせてしまった過去は消えない。だからこそ、俺の全身全霊で取り戻す。取り戻せなきゃ……謝る事も出来ないから」
静かに聞いた後で、彼は眉根を寄せて問う。
「……開き直ってるだけじゃないんスか?」
そう言われ、俺は自嘲の笑みを浮かべた。
「そうかもな……でも、俺のやるべき事は変わらない!」
吐き捨て、駆ける。
身体は感情的になっても、頭はあくまで冷静に。彼の一挙手一投足を見逃さぬように。
俺は剣の切っ先を左に置き、何時でもスキルを発動出来るようにする。
「どんな綺麗事並べても、力が伴わなくちゃ戯れ言っス。……これで終わりにするっスよ」
刹那。俺は悪寒を感じた。
背中に冷えた刃を当てられているような感触。
しかし始めの攻防同様、この時には既に躱すことは不可能な領域に入っていた。
「イィイイあアアアアアァっ!」
彼が一歩飛び出す共に、手元の剣が閃き高速で両肩、両膝を突かれる。
全身が軋むような感覚に襲われた。
「あっ……かっ……!」
数メートル吹き飛ばされ、無造作に転げ落ちる。
立ち上がろうにしても、腕も足も上がらない。どうにか首だけは僅かに動かせるが、焼け石に水なだけだ。
「く、ぅ……っ」
それでも何とか立ち上がろうと、上体を動かし続ける。
ユージンさんを越えなければ、トオヤに勝つことすら出来ない筈だ。
だからまだ、諦め切れない。
「……ふ、ぐっ……!」
少しずつ前進させ、剣に近づく。
「無理に動かない方がいいっスよ」
忠告を受けるが、今は無視する。
「……ちょ、もう勝負は着いてるだろー!? アルティさんだっけ? あんたも辞めさせろよー!」
「無駄だ。男があれだけの意地を張っているんだからな。無論、危険があれば即刻止めるさ」
「そ、そんなー……」
二人の会話も聞き流し、俺は遂に木剣に辿り着いた。
右腕を上手く使って手元に抑え、剣を支えに立ち上がる。
全身震えて立つだけで精一杯だが、眼差しは然と敵に向けたままだ。
「フラフラじゃないっスか。もう諦めて投了してくれっスよ。これ以上痛みつけるのは騎士道に反するっスし」
色々言われているが、反論はせずにひたすら呼吸を整える。
今まで紡いだ言葉が全てなのだ。今口に出すべきは返答ではなく……勝つ為の一手。
「これだけは、使いたく無かったんだけどな……《剣招来》ッ!」
魔法陣に手を突っ込む余裕すら無いので、空中に地面と平行になるように出現させ、そこから勢いよく木製の床に刃を突き立てる。
〈召喚〉スキルは〈片手剣〉スキルと違い、偶然手に入れていたモノ。つまり、自身の努力による結晶とは程遠いスキルだ。
一方相手は努力で培ったスキルしか入手していないはず……そんな考えがどうしても脳を過る。
しかし、今だけはそんな引け目も、この床の弁償代とかも気にしない事にする。
今は勝つ。そして、ユズリを救う可能性を僅かでも上げるのだ。
そんな覚悟と共に、左手で漆黒の剣……ディメンテイターを引き抜いた。
「ぬ、ぉあああああああああっ!」
俺は咆哮により自らを鼓舞し、左腕を意地で動かす。
そして、ユージンさんのさらにその奥を見越して目の前を切り裂いた。
「バカなっ……!? なんで動け……?」
彼が途中で言葉を区切ったのは、俺の意味不明な行動に驚いたのが理由だろう。
だが、もう遅い。
ディメンテイターの斬撃は、目の前を一直線に駆け、相手の股下を潜り……ユージンさんの僅か後方を引き裂いた。
これにより、時空断裂が巻き起こる。
「な、なんだこりゃ!? っス!」
思い出したかのように語尾をつける彼を気にする時間は捨て、右手を下げて木剣を構えた。
特定の構えにより空気中の魔力が呼応し、剣に宿っていく。
木剣が眩く輝いた所で、吸収力により体勢を崩したユージンさんに向かった。
「これで……終わりだァアアアっ! 〈重輪〉ッ!」
俺の使える技で、最も重い攻撃スキル、重輪。
これが決まれば……。
「舐めるなぁあぁィイイイイイッ!」
まさか、撃てるのか? この状況で、スキルを?
彼は俺の予想を悪い意味で裏切り、身体を捩って剣を構えた。
ここまで来ては引くことも出来ない。ならば、全力で叩くのみだ。
「おぉおおおおあぁアアアアァアッ!」
「ふぎぃいいいィイイイイイィイっ!」
煌めく剣と剣が衝突し、この場を白で埋めんが程の激光が瞬いた。
剣を構え叫ぶ俺に対し、ユージンさんは僅かに俯きつつ歯噛みした。
「今更遅いんスよ……囚われてるユズリちゃんが、今どんな気持ちで居るかっ!」
瞬時に距離を詰められ、流麗な動きで刃が向かってくる。
俺はそれを木剣で何とか受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだ。
「分かってる……だから俺が助けるんだ!」
「遅いって言ってんスよ! もう無事じゃないかもしれないっス!」
ユージンさんは言葉を強めると同時に剣にも重さを足してくる。
彼の言っている事は正論だ。今から助けても遅いかもしれない。
この重みはユージンさんの力だけでなく、言葉の重みでもあると悟った。
それでも、いや、だからこそ。
「負けられないんだぁあああああッ!」
俺は自らの後悔をバネに、木剣を押し返した。
「例え俺が腹を切っても、ユズリを連れて行かせてしまった過去は消えない。だからこそ、俺の全身全霊で取り戻す。取り戻せなきゃ……謝る事も出来ないから」
静かに聞いた後で、彼は眉根を寄せて問う。
「……開き直ってるだけじゃないんスか?」
そう言われ、俺は自嘲の笑みを浮かべた。
「そうかもな……でも、俺のやるべき事は変わらない!」
吐き捨て、駆ける。
身体は感情的になっても、頭はあくまで冷静に。彼の一挙手一投足を見逃さぬように。
俺は剣の切っ先を左に置き、何時でもスキルを発動出来るようにする。
「どんな綺麗事並べても、力が伴わなくちゃ戯れ言っス。……これで終わりにするっスよ」
刹那。俺は悪寒を感じた。
背中に冷えた刃を当てられているような感触。
しかし始めの攻防同様、この時には既に躱すことは不可能な領域に入っていた。
「イィイイあアアアアアァっ!」
彼が一歩飛び出す共に、手元の剣が閃き高速で両肩、両膝を突かれる。
全身が軋むような感覚に襲われた。
「あっ……かっ……!」
数メートル吹き飛ばされ、無造作に転げ落ちる。
立ち上がろうにしても、腕も足も上がらない。どうにか首だけは僅かに動かせるが、焼け石に水なだけだ。
「く、ぅ……っ」
それでも何とか立ち上がろうと、上体を動かし続ける。
ユージンさんを越えなければ、トオヤに勝つことすら出来ない筈だ。
だからまだ、諦め切れない。
「……ふ、ぐっ……!」
少しずつ前進させ、剣に近づく。
「無理に動かない方がいいっスよ」
忠告を受けるが、今は無視する。
「……ちょ、もう勝負は着いてるだろー!? アルティさんだっけ? あんたも辞めさせろよー!」
「無駄だ。男があれだけの意地を張っているんだからな。無論、危険があれば即刻止めるさ」
「そ、そんなー……」
二人の会話も聞き流し、俺は遂に木剣に辿り着いた。
右腕を上手く使って手元に抑え、剣を支えに立ち上がる。
全身震えて立つだけで精一杯だが、眼差しは然と敵に向けたままだ。
「フラフラじゃないっスか。もう諦めて投了してくれっスよ。これ以上痛みつけるのは騎士道に反するっスし」
色々言われているが、反論はせずにひたすら呼吸を整える。
今まで紡いだ言葉が全てなのだ。今口に出すべきは返答ではなく……勝つ為の一手。
「これだけは、使いたく無かったんだけどな……《剣招来》ッ!」
魔法陣に手を突っ込む余裕すら無いので、空中に地面と平行になるように出現させ、そこから勢いよく木製の床に刃を突き立てる。
〈召喚〉スキルは〈片手剣〉スキルと違い、偶然手に入れていたモノ。つまり、自身の努力による結晶とは程遠いスキルだ。
一方相手は努力で培ったスキルしか入手していないはず……そんな考えがどうしても脳を過る。
しかし、今だけはそんな引け目も、この床の弁償代とかも気にしない事にする。
今は勝つ。そして、ユズリを救う可能性を僅かでも上げるのだ。
そんな覚悟と共に、左手で漆黒の剣……ディメンテイターを引き抜いた。
「ぬ、ぉあああああああああっ!」
俺は咆哮により自らを鼓舞し、左腕を意地で動かす。
そして、ユージンさんのさらにその奥を見越して目の前を切り裂いた。
「バカなっ……!? なんで動け……?」
彼が途中で言葉を区切ったのは、俺の意味不明な行動に驚いたのが理由だろう。
だが、もう遅い。
ディメンテイターの斬撃は、目の前を一直線に駆け、相手の股下を潜り……ユージンさんの僅か後方を引き裂いた。
これにより、時空断裂が巻き起こる。
「な、なんだこりゃ!? っス!」
思い出したかのように語尾をつける彼を気にする時間は捨て、右手を下げて木剣を構えた。
特定の構えにより空気中の魔力が呼応し、剣に宿っていく。
木剣が眩く輝いた所で、吸収力により体勢を崩したユージンさんに向かった。
「これで……終わりだァアアアっ! 〈重輪〉ッ!」
俺の使える技で、最も重い攻撃スキル、重輪。
これが決まれば……。
「舐めるなぁあぁィイイイイイッ!」
まさか、撃てるのか? この状況で、スキルを?
彼は俺の予想を悪い意味で裏切り、身体を捩って剣を構えた。
ここまで来ては引くことも出来ない。ならば、全力で叩くのみだ。
「おぉおおおおあぁアアアアァアッ!」
「ふぎぃいいいィイイイイイィイっ!」
煌めく剣と剣が衝突し、この場を白で埋めんが程の激光が瞬いた。
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