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三章ー鋼鉄の王国ー
69 頬の痛み
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「なんでユズリちゃんの名が出てくるんスか!!」
俺の元に訪れた二人の騎士。
その内の一人であるユージンさんが、ユズリの名を聞いた途端に声を荒らげた。
「え、ユズリの事、知って……?」
「当たり前っスよ! ユズリちゃんは……ウチの騎士団に入りたての頃から面倒見てたんス!」
俺は驚きのあまり、数秒間空いた口が塞がらなかった。
「ユズリか……なるほど。合点がいった。彼女が勇者のパーティの一員になった事も、君の仲間が連れ去られた事も聞いていたが、まさかここで繋がるとはな」
アルティさんが話す間、ユージンさんは緩やかに近づいてくる。
「連れ去られたのって……ユズリちゃんなんスか? そうなんスね!」
肩を揺らされつつも、俺は苦虫を噛み潰したような顔で顎を引いた。
「なっ……何やってんだよアンタぁッ!!」
瞬間、頬に痛撃。
まさか手を出されるとは思ってなかったが、これも俺が失態したのが原因だ。受け入れよう。
「……すみません」
「すみませんじゃ……っ!」
済まないっスよ! と続けて殴ろうとしたのだろうが、アルティさんに制される。
「止めろユージン! 魔王と単騎で勝てる者などこの場には、いや、人類には一人も居ないだろう。皇帝陛下なら或いは……いや、意味の無い憶測か」
彼は一瞬悲痛な顔を浮かべるも、直ぐに整えてユージンさんに鋭い目線を向けた。
「ともかく、ユズリは自らの意思で彼に同行していたんだ。それにより彼女に災難が振りかかろうと自己責任。つまりこの少年だけを責めて済む話では無いのだ」
「……ッ、でも……」
まだ食いかかろうとするも、アルティさんが表情を僅かに強ばらせただけで中断する。
「……申し訳無い、勇者殿。ユージンを御せなかった私にも責任はある。これは謝罪の気持ちだ。受け取って欲しい」
すると、彼は金貨を数枚取り出し寄越してきた。
金で解決するんかい。と、思わなくも無かったが、口には出さずにとある提案を投げかける。
「いりません。その代わり、俺を弟子にして欲しいんです。隊長って事は、かなり強いんですよね? 俺、ユズリを取り戻す為に強くならなきゃいけないんです。お願いします、戦い方を……強くなる方法を教えてください!」
俺は毛布を退けて、身体を向け直してから頭を下げた。
「……なるほど。君の言い分は理解した」
分かって貰えたことに安堵し、微笑が零れる。
「だが、無理だ」
しかし、この一言によって、身体が沈み込む気分に落とし込まれた。
「明瞭に言わせて貰うが、先ず君を弟子にするメリットが全くもって無い。更に今は戦時中だ。時間を無駄に使う事は避けたい」
何度も撃たれる正論に、俺は顔を顰める。
「……しかし、ユズリの事は私にとっても気がかりだ。君が本当に彼女を救いたいと思うのなら、その手助けをする事は吝かではない」
追い込まれた中での、たった一筋の光。それが今、降りてきた気がした。
「ほ、本気です! 俺は、絶対にユズリを助けたい……!」
藁にもすがる思いで、懇願を強める。
しかし、アルティさんは頷きはしなかった。
「口では何とでも言えてしまうのが人間だ。だが、そうだな……では、その誠意を行動で見せてもらおう」
何を課題とされるか不安と困惑を交えた感情を抱えていると、幸いにも直ぐにその条件は提示してもらえる。
「彼と戦え。我が隊の副隊長……ユージン・モットーと」
アルティさんの発言に、その場に沈黙が走った。
「え、お、オレっスか!?」
「あぁ。頼めるか?」
「は、はい。隊長のご命令とあらば大丈夫っスけど……」
二人が会話している間も、俺は混乱したまま冷や汗をかいていた。
戦う? ユージンさんと?
彼は俺を殴る程恨んでいる筈だ。つまり、手を抜く事は無いと言える。
いや、だからこそなのだろう。ここで俺が勝てば、それは温情無しの正真正銘の勝利。即ち誠意が証明出来るのだ。
ならば、俺の回答はひとつ。
「分かりました。やらせてください!」
対し、アルティさんは僅かに頬を上げた。
「では、郊外にて始めよう。だが、これだけは伝えておくぞ」
何だろうと瞬きすると、彼はトーンの下がった声で言い放つ。
「ユージンは、これでも部隊の副隊長の座に着いた男だ。私の見立てではほぼ間違いなく、君の戦ったというトオヤより……数段強いぞ」
俺の元に訪れた二人の騎士。
その内の一人であるユージンさんが、ユズリの名を聞いた途端に声を荒らげた。
「え、ユズリの事、知って……?」
「当たり前っスよ! ユズリちゃんは……ウチの騎士団に入りたての頃から面倒見てたんス!」
俺は驚きのあまり、数秒間空いた口が塞がらなかった。
「ユズリか……なるほど。合点がいった。彼女が勇者のパーティの一員になった事も、君の仲間が連れ去られた事も聞いていたが、まさかここで繋がるとはな」
アルティさんが話す間、ユージンさんは緩やかに近づいてくる。
「連れ去られたのって……ユズリちゃんなんスか? そうなんスね!」
肩を揺らされつつも、俺は苦虫を噛み潰したような顔で顎を引いた。
「なっ……何やってんだよアンタぁッ!!」
瞬間、頬に痛撃。
まさか手を出されるとは思ってなかったが、これも俺が失態したのが原因だ。受け入れよう。
「……すみません」
「すみませんじゃ……っ!」
済まないっスよ! と続けて殴ろうとしたのだろうが、アルティさんに制される。
「止めろユージン! 魔王と単騎で勝てる者などこの場には、いや、人類には一人も居ないだろう。皇帝陛下なら或いは……いや、意味の無い憶測か」
彼は一瞬悲痛な顔を浮かべるも、直ぐに整えてユージンさんに鋭い目線を向けた。
「ともかく、ユズリは自らの意思で彼に同行していたんだ。それにより彼女に災難が振りかかろうと自己責任。つまりこの少年だけを責めて済む話では無いのだ」
「……ッ、でも……」
まだ食いかかろうとするも、アルティさんが表情を僅かに強ばらせただけで中断する。
「……申し訳無い、勇者殿。ユージンを御せなかった私にも責任はある。これは謝罪の気持ちだ。受け取って欲しい」
すると、彼は金貨を数枚取り出し寄越してきた。
金で解決するんかい。と、思わなくも無かったが、口には出さずにとある提案を投げかける。
「いりません。その代わり、俺を弟子にして欲しいんです。隊長って事は、かなり強いんですよね? 俺、ユズリを取り戻す為に強くならなきゃいけないんです。お願いします、戦い方を……強くなる方法を教えてください!」
俺は毛布を退けて、身体を向け直してから頭を下げた。
「……なるほど。君の言い分は理解した」
分かって貰えたことに安堵し、微笑が零れる。
「だが、無理だ」
しかし、この一言によって、身体が沈み込む気分に落とし込まれた。
「明瞭に言わせて貰うが、先ず君を弟子にするメリットが全くもって無い。更に今は戦時中だ。時間を無駄に使う事は避けたい」
何度も撃たれる正論に、俺は顔を顰める。
「……しかし、ユズリの事は私にとっても気がかりだ。君が本当に彼女を救いたいと思うのなら、その手助けをする事は吝かではない」
追い込まれた中での、たった一筋の光。それが今、降りてきた気がした。
「ほ、本気です! 俺は、絶対にユズリを助けたい……!」
藁にもすがる思いで、懇願を強める。
しかし、アルティさんは頷きはしなかった。
「口では何とでも言えてしまうのが人間だ。だが、そうだな……では、その誠意を行動で見せてもらおう」
何を課題とされるか不安と困惑を交えた感情を抱えていると、幸いにも直ぐにその条件は提示してもらえる。
「彼と戦え。我が隊の副隊長……ユージン・モットーと」
アルティさんの発言に、その場に沈黙が走った。
「え、お、オレっスか!?」
「あぁ。頼めるか?」
「は、はい。隊長のご命令とあらば大丈夫っスけど……」
二人が会話している間も、俺は混乱したまま冷や汗をかいていた。
戦う? ユージンさんと?
彼は俺を殴る程恨んでいる筈だ。つまり、手を抜く事は無いと言える。
いや、だからこそなのだろう。ここで俺が勝てば、それは温情無しの正真正銘の勝利。即ち誠意が証明出来るのだ。
ならば、俺の回答はひとつ。
「分かりました。やらせてください!」
対し、アルティさんは僅かに頬を上げた。
「では、郊外にて始めよう。だが、これだけは伝えておくぞ」
何だろうと瞬きすると、彼はトーンの下がった声で言い放つ。
「ユージンは、これでも部隊の副隊長の座に着いた男だ。私の見立てではほぼ間違いなく、君の戦ったというトオヤより……数段強いぞ」
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