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三章ー鋼鉄の王国ー
62 謎の男
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「ここで全裸になれ。そして……トオヤ様どうか許して下さい! って言えば、解放してやるよォ! ヒャハハハハハハハァア!」
この……拗らせ童貞野郎がァ!!
ブーメラン全快の思想だが、あまりの怒りにそれすら実感できずに強く拳を握る。
「ユズリ、こいつの言うことを聞く必要は無い! どうせ言う通りにした後お疲れちゃんでした、とか言って皆殺しにする筈だ!」
「おいおい。お前の中の俺はどんだけヒデー奴なんだよ」
苦笑と共に発せられた言葉に、強く思う。
この自らの行動を理解してない所もムカつく! と。
「……くっ……!」
ユズリが口を結びつつ顔を顰めさせる。
おそらく彼女の中で様々な葛藤が渦巻いているのだろう。
だが、そんな必要は全く持って無い。俺なんかに、誰かが犠牲になるほどの価値はゼロに等しい筈だから……。
そんな思いから、とある案を思いつくと共に口に出す。
「ユズリ。聞いてくれ。君が逃げればきっとトオヤはゲートをつかって追うはずだ。その間に俺は逃げれる。だから俺のためにもここから離れてくれ!」
「ほほーん。それはどうかなぁ」
俺とトオヤの反応に、またしても顔を顰める。
そんな彼女に苛立ちを覚えたのか、徐々に青年の足が小刻みに揺らし始めた。
「あー、もう。じれってぇな。戦うか俺の言う事聞くか逃げるか、早く決めてくれよ。じゃないと……コイツ殺すぞ」
奴が言い放った瞬間エクスケインを引き抜き、その切っ先を俺の頬に付けると、彼女は瞬間的に待ったをかける。
「……………………分かったわ」
反射的に突き出した右手をゆっくりと下ろしながら、彼女は苦渋の決断をした。
「ダメだ! いいから逃げふぐっ!」
途中でエクスケインのポメルで口を塞がれた俺は、体を激しく動かし逃れようとしつつ彼女の姿を目で追う。
「じゃ、さっさと頼むぜ」
トオヤの言葉に、睫毛を斜めに伏せながらユズリは自身のローブに手をかけた。
ボタンを外し、緩やかに滑らせつつ綺麗に畳んで足元に置く。
「ふぐっ……ふむーっ!」
完全に顔を地面に伏せられつつ、俺は彼女へ辞めるよう伝えようと暴れ続ける。
しかしその努力虚しく、ユズリは革製の胸当を外し、後は簡素な長袖シャツとズボンを脱いでしまえばその肢体が顕となってしまう。
「ぐぬっ……!」
ここまで来たら最早じたばたしても抜けられないと悟った俺は、一瞬脱力してから一気に跳ねようと画策する。
いざ力を込めようとした時、雰囲気で察したのかトオヤが動いた。
「余計なことすんなよ。《ミニ・ボルト》」
「ふぐぁああああああああッ!」
ライトニング・ボルトほどでは無いが、確かな痛みが全身を駆け抜ける。
「ちょっと! 言う事聞いているんだから彼に危害を加えないで!」
「はっ、俺はお前が言うこと聞けば解放するって言っただけだぜ。だからこれはルール違反じゃありませーん」
身体中の筋肉が痙攣しつつも傾聴し、俺は静かに回復を待った。
「それにしても、たかがミニ・ボルト程度でそのダメージとは。脆いなぁ、タクマ。……あぁ、そっか。おめぇ、レベル“0”だもんなぁ! ステータスもノミレベルって訳だ!」
薄ら笑いを浮かべながらポメルで何度も頭を叩かれると、ユズリは焦りながら着衣に手をかける。
どうやら俺が傷つけば傷つくほど彼女が焦り着脱が早くなるとトオヤは気づいたのだろう。
俺がバカにされる分には構わないが、ユズリの肌がこんな奴に晒されるのは我慢出来ない。
「ぐっ……くそっ……くそぉ……ッ!」
もっと力があれば。
俺一人でも、こんな奴を倒せる程の力があれば。
どうして俺はこんなに弱いのだろう。
俺の読んできた主人公達は、もっともっと強かった。
俺とは、何が違うのだろう。
ステータスか?
それとも……チート能力の差か。
考えても分からない……けど。
今は、ただただ。
…………何者にも、負けない力が“今”欲しい。
ーー力が、欲しいのか?
「……え?」
幻聴に、思わず零れる言葉。
ーーもう一度訊く。今、力が欲しいのか?
今度は、心の内で返す。
……欲しい。今すぐ、あいつをぶちのめせる力が。
ーー無理だ。生物が、一瞬の間に力を増幅させるなど有り得ない。
……じゃあ、なんで聞いてきたんですか。
ーー代われ。もう一度俺が戦ってやる。
「……え?」
またしてもの俺の呟きに、トオヤは舌打ちをする。
「おい、うるせぇぞ。……そうだ。お前が起きてると面倒だし、暫く寝ててくれ。ライトニング……」
奴が呪文を唱える前に、俺の握る黒剣。そこに嵌め込まれている紅い宝珠がかつてないほど閃き出したーー。
この……拗らせ童貞野郎がァ!!
ブーメラン全快の思想だが、あまりの怒りにそれすら実感できずに強く拳を握る。
「ユズリ、こいつの言うことを聞く必要は無い! どうせ言う通りにした後お疲れちゃんでした、とか言って皆殺しにする筈だ!」
「おいおい。お前の中の俺はどんだけヒデー奴なんだよ」
苦笑と共に発せられた言葉に、強く思う。
この自らの行動を理解してない所もムカつく! と。
「……くっ……!」
ユズリが口を結びつつ顔を顰めさせる。
おそらく彼女の中で様々な葛藤が渦巻いているのだろう。
だが、そんな必要は全く持って無い。俺なんかに、誰かが犠牲になるほどの価値はゼロに等しい筈だから……。
そんな思いから、とある案を思いつくと共に口に出す。
「ユズリ。聞いてくれ。君が逃げればきっとトオヤはゲートをつかって追うはずだ。その間に俺は逃げれる。だから俺のためにもここから離れてくれ!」
「ほほーん。それはどうかなぁ」
俺とトオヤの反応に、またしても顔を顰める。
そんな彼女に苛立ちを覚えたのか、徐々に青年の足が小刻みに揺らし始めた。
「あー、もう。じれってぇな。戦うか俺の言う事聞くか逃げるか、早く決めてくれよ。じゃないと……コイツ殺すぞ」
奴が言い放った瞬間エクスケインを引き抜き、その切っ先を俺の頬に付けると、彼女は瞬間的に待ったをかける。
「……………………分かったわ」
反射的に突き出した右手をゆっくりと下ろしながら、彼女は苦渋の決断をした。
「ダメだ! いいから逃げふぐっ!」
途中でエクスケインのポメルで口を塞がれた俺は、体を激しく動かし逃れようとしつつ彼女の姿を目で追う。
「じゃ、さっさと頼むぜ」
トオヤの言葉に、睫毛を斜めに伏せながらユズリは自身のローブに手をかけた。
ボタンを外し、緩やかに滑らせつつ綺麗に畳んで足元に置く。
「ふぐっ……ふむーっ!」
完全に顔を地面に伏せられつつ、俺は彼女へ辞めるよう伝えようと暴れ続ける。
しかしその努力虚しく、ユズリは革製の胸当を外し、後は簡素な長袖シャツとズボンを脱いでしまえばその肢体が顕となってしまう。
「ぐぬっ……!」
ここまで来たら最早じたばたしても抜けられないと悟った俺は、一瞬脱力してから一気に跳ねようと画策する。
いざ力を込めようとした時、雰囲気で察したのかトオヤが動いた。
「余計なことすんなよ。《ミニ・ボルト》」
「ふぐぁああああああああッ!」
ライトニング・ボルトほどでは無いが、確かな痛みが全身を駆け抜ける。
「ちょっと! 言う事聞いているんだから彼に危害を加えないで!」
「はっ、俺はお前が言うこと聞けば解放するって言っただけだぜ。だからこれはルール違反じゃありませーん」
身体中の筋肉が痙攣しつつも傾聴し、俺は静かに回復を待った。
「それにしても、たかがミニ・ボルト程度でそのダメージとは。脆いなぁ、タクマ。……あぁ、そっか。おめぇ、レベル“0”だもんなぁ! ステータスもノミレベルって訳だ!」
薄ら笑いを浮かべながらポメルで何度も頭を叩かれると、ユズリは焦りながら着衣に手をかける。
どうやら俺が傷つけば傷つくほど彼女が焦り着脱が早くなるとトオヤは気づいたのだろう。
俺がバカにされる分には構わないが、ユズリの肌がこんな奴に晒されるのは我慢出来ない。
「ぐっ……くそっ……くそぉ……ッ!」
もっと力があれば。
俺一人でも、こんな奴を倒せる程の力があれば。
どうして俺はこんなに弱いのだろう。
俺の読んできた主人公達は、もっともっと強かった。
俺とは、何が違うのだろう。
ステータスか?
それとも……チート能力の差か。
考えても分からない……けど。
今は、ただただ。
…………何者にも、負けない力が“今”欲しい。
ーー力が、欲しいのか?
「……え?」
幻聴に、思わず零れる言葉。
ーーもう一度訊く。今、力が欲しいのか?
今度は、心の内で返す。
……欲しい。今すぐ、あいつをぶちのめせる力が。
ーー無理だ。生物が、一瞬の間に力を増幅させるなど有り得ない。
……じゃあ、なんで聞いてきたんですか。
ーー代われ。もう一度俺が戦ってやる。
「……え?」
またしてもの俺の呟きに、トオヤは舌打ちをする。
「おい、うるせぇぞ。……そうだ。お前が起きてると面倒だし、暫く寝ててくれ。ライトニング……」
奴が呪文を唱える前に、俺の握る黒剣。そこに嵌め込まれている紅い宝珠がかつてないほど閃き出したーー。
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