61 / 81
三章ー鋼鉄の王国ー
61 剥き出しの本能
しおりを挟む
俺たちは頷き合ってから、トオヤに向かって同時に剣を振りかぶる。
「はは。雑兵が何人集まったところで関係ねぇッつの!」
すると、奴は右手をこちらに向け、魔法陣を展開した。
瞬時に技と規模を目測した俺は、それをアイコンタクトでユズリに教える。
「《ライトニング・ボルト》ォ!」
この魔法の使用頻度が高いのは、単に使い勝手が良いからだろう。事実、到達速度は随一でこちらも躱しにくい。
しかし事前に読んでいた俺達は、雷が放たれると共に左側へ一斉に跳んだ。
直後、ユズリのすぐ脇を雷鳴が過ぎ去る。
「ちぃ……!」
恐らくトオヤの狙いは、俺とユズリの衝突。
詳しく整理すると……左側に俺、右側にユズリがいる状態で走っている際、ユズリの右半身に当たるように魔法を放つ。すると、ユズリは反射的に避けやすい左へと避けて、並行する俺と衝突してしまう。
……というのが奴の筋書きだったのだろうが、彼の挙動からそれを察知した俺は、前もってユズリにそれを伝えていた。
これにより同時に跳んだ俺達は、衝突せずに済んだというワケだ。
しかし奴がこれで終わるはずがない。
次の手が来る前に、今度はこちらから仕掛ける。
そう思った時、俺の脳内を見透かすようにユズリがアイコンタクトを送ってきた。
どうやら先に攻撃を仕掛けるから、バックアップを頼みたいらしい。
一瞬迷ったが、一歩引いた視点で見た方が危機を察知しやすいと結論づけ、首肯を向けた。
「せ、ぁあああああっ!」
ユズリは頷き返した後、刹那の間に距離を詰め剣を振るう。
「くっ!」
トオヤはぎこちなくも何とか反応し、大剣で攻撃を受ける。
俺はすかさず背後に周り、黒剣を構えた。
取った! という心の声をかき消すかの如く、奴の呪文により、いつの間にか向けられていた手のひらから強烈な魔法が放たれた。
「《ファイア・ショット》!」
「うぉっ……!」
慌てて真横を切り裂き、そこから生まれた吸収力により炎の軌道を逸らせる。
「せぇええぃッ!」
ユズリの咆哮と共に、向こう側でまたも剣戟音。
だがまたも防がれたらしく、トオヤは余裕そうな表情を崩さない。
なら、これでどうだ。
「だぁああああああアアッ!」
「はぁああああああアアっ!」
俺とユズリの同時斬撃。この近距離では流石に魔法も連発出来ない筈。
どちらかは防げてもどちらかは受ける。そういう算段だったが……。
「なめんな」
突如、奴の持つエクスケインが眩く輝き、正円を描くように高速で一回転した。
俺とユズリは同時に弾かれ、あまりの威力にそのまま地面に転がる。
恐らくこれは《大剣》スキルに類する技だろう。
魔法だけでなく、剣術の心得もあるとは。これはショーゴが戦うのを止めるのも分かる。
だが、このトオヤには勝ちたい。勝たねばならないと本能にも似た何かが心中で叫んでいた。
それは……トオヤが、過去の俺に似ているからかもしれない。
地面に倒れ付しそんな思考を漂わせていると、突如背中に何かが舞い降り、動けないよう確りと押さえ付けられた。
「ぐぶっ……!」
「おーっと。動くな」
恐らくこの言葉は俺にでは無く、ユズリに対して放ったのだろう。
俺の背中に腰を下ろし、剣を地面に突き刺したトオヤは低い声で震えるように笑った。
「くっく……いやぁこういうのって敵がやってきそうな事だけどさ。やっぱやりたくなっちゃうよな。人質とってアレコレやるのって」
こ、こいつ……!
俺を人質に取って、何をするつもりだろう。ある意味子供じみた価値観の彼が、一体何を要求するのか。
いや、ここは何かユズリに言われる前に。
「ユズリ! 俺はいいから逃げて!」
首だけ動かし、何とか彼女に視線を移して叫ぶ。
しかし、ユズリは背を向けようとしない。
「仲間が残ってるのに、置いていけるわけないでしょ!」
半ば予想していた事だが、やはり騎士道精神なのか逃げようとしてくれない。
なんて言えば、離れてくれるのか。
「ねぇ君。タクマが生きるか死ぬか、それは俺の気分にかかってる。この意味が分かる?」
こいつ。絶対碌でもない事を言うつもりだ!
「えぇ。貴方を倒して、タクマを解放する!」
「ははははァア! それは無理だね。俺強すぎるし。それはもう実感してるでしょ」
奴の言葉に、彼女は何も言い返せず歯噛みする。
「でーも。一度だけチャンスをあげまーす」
きっと汚い笑みを浮かべているだろうトオヤは、本当に碌でもない事を言い出した。
「ここで全裸になれ。そして……トオヤ様どうか許して下さい! って言えば、解放してやるよォ! ヒャハハハハハハハァア!」
この……拗らせ童貞野郎がァ!!
「はは。雑兵が何人集まったところで関係ねぇッつの!」
すると、奴は右手をこちらに向け、魔法陣を展開した。
瞬時に技と規模を目測した俺は、それをアイコンタクトでユズリに教える。
「《ライトニング・ボルト》ォ!」
この魔法の使用頻度が高いのは、単に使い勝手が良いからだろう。事実、到達速度は随一でこちらも躱しにくい。
しかし事前に読んでいた俺達は、雷が放たれると共に左側へ一斉に跳んだ。
直後、ユズリのすぐ脇を雷鳴が過ぎ去る。
「ちぃ……!」
恐らくトオヤの狙いは、俺とユズリの衝突。
詳しく整理すると……左側に俺、右側にユズリがいる状態で走っている際、ユズリの右半身に当たるように魔法を放つ。すると、ユズリは反射的に避けやすい左へと避けて、並行する俺と衝突してしまう。
……というのが奴の筋書きだったのだろうが、彼の挙動からそれを察知した俺は、前もってユズリにそれを伝えていた。
これにより同時に跳んだ俺達は、衝突せずに済んだというワケだ。
しかし奴がこれで終わるはずがない。
次の手が来る前に、今度はこちらから仕掛ける。
そう思った時、俺の脳内を見透かすようにユズリがアイコンタクトを送ってきた。
どうやら先に攻撃を仕掛けるから、バックアップを頼みたいらしい。
一瞬迷ったが、一歩引いた視点で見た方が危機を察知しやすいと結論づけ、首肯を向けた。
「せ、ぁあああああっ!」
ユズリは頷き返した後、刹那の間に距離を詰め剣を振るう。
「くっ!」
トオヤはぎこちなくも何とか反応し、大剣で攻撃を受ける。
俺はすかさず背後に周り、黒剣を構えた。
取った! という心の声をかき消すかの如く、奴の呪文により、いつの間にか向けられていた手のひらから強烈な魔法が放たれた。
「《ファイア・ショット》!」
「うぉっ……!」
慌てて真横を切り裂き、そこから生まれた吸収力により炎の軌道を逸らせる。
「せぇええぃッ!」
ユズリの咆哮と共に、向こう側でまたも剣戟音。
だがまたも防がれたらしく、トオヤは余裕そうな表情を崩さない。
なら、これでどうだ。
「だぁああああああアアッ!」
「はぁああああああアアっ!」
俺とユズリの同時斬撃。この近距離では流石に魔法も連発出来ない筈。
どちらかは防げてもどちらかは受ける。そういう算段だったが……。
「なめんな」
突如、奴の持つエクスケインが眩く輝き、正円を描くように高速で一回転した。
俺とユズリは同時に弾かれ、あまりの威力にそのまま地面に転がる。
恐らくこれは《大剣》スキルに類する技だろう。
魔法だけでなく、剣術の心得もあるとは。これはショーゴが戦うのを止めるのも分かる。
だが、このトオヤには勝ちたい。勝たねばならないと本能にも似た何かが心中で叫んでいた。
それは……トオヤが、過去の俺に似ているからかもしれない。
地面に倒れ付しそんな思考を漂わせていると、突如背中に何かが舞い降り、動けないよう確りと押さえ付けられた。
「ぐぶっ……!」
「おーっと。動くな」
恐らくこの言葉は俺にでは無く、ユズリに対して放ったのだろう。
俺の背中に腰を下ろし、剣を地面に突き刺したトオヤは低い声で震えるように笑った。
「くっく……いやぁこういうのって敵がやってきそうな事だけどさ。やっぱやりたくなっちゃうよな。人質とってアレコレやるのって」
こ、こいつ……!
俺を人質に取って、何をするつもりだろう。ある意味子供じみた価値観の彼が、一体何を要求するのか。
いや、ここは何かユズリに言われる前に。
「ユズリ! 俺はいいから逃げて!」
首だけ動かし、何とか彼女に視線を移して叫ぶ。
しかし、ユズリは背を向けようとしない。
「仲間が残ってるのに、置いていけるわけないでしょ!」
半ば予想していた事だが、やはり騎士道精神なのか逃げようとしてくれない。
なんて言えば、離れてくれるのか。
「ねぇ君。タクマが生きるか死ぬか、それは俺の気分にかかってる。この意味が分かる?」
こいつ。絶対碌でもない事を言うつもりだ!
「えぇ。貴方を倒して、タクマを解放する!」
「ははははァア! それは無理だね。俺強すぎるし。それはもう実感してるでしょ」
奴の言葉に、彼女は何も言い返せず歯噛みする。
「でーも。一度だけチャンスをあげまーす」
きっと汚い笑みを浮かべているだろうトオヤは、本当に碌でもない事を言い出した。
「ここで全裸になれ。そして……トオヤ様どうか許して下さい! って言えば、解放してやるよォ! ヒャハハハハハハハァア!」
この……拗らせ童貞野郎がァ!!
1
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです
熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。
そこまではわりと良くある?お話だと思う。
ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。
しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。
ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。
生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。
これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。
比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。
P.S
最近、右半身にリンゴがなるようになりました。
やったね(´・ω・`)
火、木曜と土日更新でいきたいと思います。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
その科学は魔法をも凌駕する。
神部 大
ファンタジー
科学が進みすぎた日本の荒廃。
そんな中最後の希望として作られた時空転移プログラムを用い歴史を変える為に一人敵陣に乗り込んだフォースハッカーの戦闘要員、真。
だが転移した先は過去ではなく、とても地球上とは思えない魔物や魔法が蔓延る世界だった。
返る術もないまま真が選んだ道は、科学の力を持ちながらその世界でただ生き、死ぬ事。
持ちうる全ての超科学技術を駆使してそんな世界で魔法を凌駕しろ。
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる