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三章ー鋼鉄の王国ー

57 同じ趣味なら無限に話せる事もある。

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「そんじゃ、早速おっぱじめますか。《鑑定サーチ》」

 青年が色んな作品に出てきそうな呪文を唱えると、奴の目の前……今回は本当に右目のすぐ前に青白い魔法陣が現れた。

「ふむふむ……ん、んん? ……ぷっ、あっははははは! おいおい、お前……レベル“0”じゃねーか!」

 奴の行動に、幾つもの感情が浮かび上がる。
 馬鹿にされた事による憤怒。相手の能力を測るのであろうスキル、サーチを使ったことによる驚愕。そして、結局コイツは何者なのかという疑念。
 この世界に来る前の俺だったら苛立ちに心を支配されていただろうが、幾つもの戦いを乗り越えて育んできた自制心で抑える。
 そして、時間稼ぎと共に奴の情報を得ろうと試みた。

「笑うなよ……つーかそれより、お前こそ何者だよ。勇者じゃないなら、指図め転生者……とかか?」

 サーチだのゲートだの便利スキルてんこ盛り人間と言えば、転移者か転生者だと相場が決まっている。
 転移も転生もある作品は多く読んできたし、この世界もその中のひとつである可能性はある筈だ。
 だが俺と同じく転移者である可能性もすてきれないので、半分当てずっぽうだったが……。

「おぉー。正解ー! お前さては俺と同類だな」

 そう指摘され、残念ながらその通りですと心の中だけで答える。

「転生って事は……神様の手違いで死んでしまったから、代わりに特典もりもりで異世界送りますよパターンか?」

「おお! 敵じゃなければ一日中話し合えそうな位お前とは趣味が合いそうだなぁ。ま、敵だから殺すけどな」

 やはりこいつは同郷かつ同類なのだと再度確認するも、知りたかった転生理由も何故敵対視されているのかも未だ不明だ。

「なぁ、なんで俺達勇者を狙うんだ? 同じ世界出身なんだし、殺し合いみたいなのは避けたいんだけど……」

 男は一瞬考える素振りを見せるも、直ぐに首を左右に振った。

「んー。だめだめ。魔王の奴に頼まれちゃったからさ。それに人類の希望であるお前ら勇者は殺しとかないと、人間滅ぼせないらしいし」

 魔王!?
 と、咄嗟に叫ばなかっただけ、やはり俺の精神は少なからず鍛えられているようだ。
 だが流石に顔には出ていたらしく、俺の表情を見た青年はやべ、と言いながら口を抑える。

「……あの、魔王って……?」
「……もう喋っちゃったから言うけど、実は魔王と組んで人類滅亡させようと思ってんだよね俺」

 バンド組もうとしてる位のテンションでそう言われ、一瞬バグったかのように脳が働かなくなった。
 頭を振って何とか修正し、次の質問を繰り出す。

「人類滅亡とか……なんでそんな物騒な事考えてんだよ」

 あくまで世間話でもするかのようなノリで聞くと、青年は笑みを消して僅かに俯いた。

「……お前も一度は思った事無いか? 人間なんて、皆死ねばいいのにって」
「それは……」

 自身が該当するかどうか、記憶を手繰り寄せて確認する。
 …………ある。
 あれは確か小学生の時、テストであまりに低い点数を取ってしまい担任の先生がブチ切れ、答案用紙を投げられ皆の前で様々な罵詈雑言を浴びせられたことがある。中には人格や親の事まで否定されたほどだ。
 それだけでも子供にとってはかなりのストレスだったが、その後クラス全員に笑われてしまい、孤独感と劣等感でいっぱいになってしまった。
 あの時は逆恨みとは思いつつも、全てを呪い、全員の死を祈ったものだ。
 だがこれは、先生が特別カスだった事と俺とクラスメイトに至ってはまだ子供だった事為、一時的にそんな考えに至っただけだ。

 もちろんあの時は真剣に自他の死を望みはしたが……この世界で数々の人に触れ、俺は思ったのだ。
 勿論この世界にだって嫌な奴は沢山いたけど、嫌な奴は嫌な奴なりに頑張ってたりするし、そして何よりこの世界では色んな人に助けられもした。
 そんな思い出を遡らせていると、いつも同じ笑顔があった気がする。

 ユズリ。
 この世界で誰よりも時間を共有した人。
 あの子の顔を、声を、体温を思い出すだけで、自然と思う。

「……今は思わないよ。皆死ねだなんて」

 本心のままに伝えると、青年の目はよりキツく釣り上がった。

「……そうか。分かった。……お前も結局、そこらと変わんねー奴なんだな……」

 奴はそう言うと、軽く息を吐いた後で右手を前に突き出す。

「話が合えば魔王軍に引き込んだかもしれないけど、お前要らないや。…………死ね。《空間収納ボックス》」

 魔法陣が俺の真上に輝くと同時に、煌びやかな槍が雨の如く降り注いで来た。
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