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三章ー鋼鉄の王国ー

56 謎の少年

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「いやぁ暫くぶりだなー。あ、その辺適当に座ってくれよ」

 部屋に招いてくれると、包帯の上にケープだけ羽織ったショーゴはそう促しつつベッドに入った。
 俺達はその横に備えられている木製の丸椅子に座り、どう切り出せばいいか悩みつつも口を開く。

「えっと……災難だったな。変なやつに襲われちゃうなんて」
「ま、ちょっとな。ていうか聞いたぞー。タクマも大変だったんだなー」

 少し驚いたが、どうやら俺が負傷している事は知っていたらしい。

「私達も変な事件に巻き込まれちゃって……。タクマは大体完治したけど、ショーゴはどうなの?」

 ユズリが問うと、彼は朗らかな笑みを浮かべつつ答えた。

「後二、三日で冒険に復帰出来るらしーぜー。腕が鈍るから早く戻りたいとこだけど、無理は良くないからなー」
「あぁ、今はゆっくり休んでくれよ。次会う時も包帯ぐるぐる巻きだったら萎えるし」

 そんな会話をしつつお互い笑いあった所で、俺は核心に迫った。

「……で、誰にやられた?」

 瞬間、場の雰囲気が氷点下まで一気に落ちる。

「……言えない」

 ショーゴは今までに無い雰囲気を醸しつつ言い切った。

「どういう事だよ。思い出したくない程酷い目に合ったって事か?」

 それを聞いた彼は、右手で毛布を確りと握りしめた後に一言だけ呟く。

「そうだ」

 俯くショーゴに対し、こちらももう引いた方が良いとかと思ったその時。

 唐突に、ドアがノックされた。

「どうぞ」

 借主のショーゴが入室を許可すると、直ぐに扉が開けられる。
 現れたのは、黒髪黒目の青年。こちらの世界では珍しい筈だ。顔は少年っぽさを残しつつも大人びており、目はきりっと鋭く鼻はやや低め。口元は何故か微笑みを浮かべている。
 装備はアイボリーのマントをしているためよく見えないが、ショーゴの仲間の一人だろうかと彼に目を向けると。

 目を見開き、全身を震えさせていた。

「タクマ逃げろッ!!」

 震える唇で示唆されるも、俺は困惑していた為動けずにいる。
 何せ、目の前に居るのはただの人間なのだ。
 もちろん俺はここに来る前に人型であるガンゾルドに刃を向けた男だが、それは奴が小さな子供であるフーロちゃんに深い傷を与えたという許されざる罪があったからである。

 仮に目の前の人物が大罪を起こした咎人であるとしても、それならば検問の際引っかかる筈だし、何よりこんな真正面から乗り込んでくる理由も無い。

「何してんだ、早く逃げろ! そこの窓から抜け出せる」
「おいおい、人の顔見るなりそりゃないだろ。まぁしょうがないか。殺されかけた奴が急に目の前に現れちゃ混乱もするよな」

 その言葉に、一瞬呼吸が止まる。
 殺されかけた?
 という事は、ショーゴを襲い瀕死の状態にしたのは、この青年なのか。

「つーか今、タクマって言ったか? もしかして君も勇者? ラッキー。そんじゃ二人まとめて殺せるじゃん」

 殺す。
 そんなワードが出てきたにも関わらず、何故か男は笑みを崩さない。
 こいつ、自分が何言ってるのか本当に分かってるのか?

「んじゃ、ここに居ても色々面倒だし移動すっか。《移扉ゲート》」

 男が右手を前に突き出し唱えると、地面に純白の魔法陣が現れる。
 そして次の瞬間、床が光り輝くと共に浮遊感に包まれた。
 数秒経って身体が浮く感じが収まり、少しずつ目を開けると、そこはもう室内では無かった。

「な……?」

 思わず、そんな言葉が零れてしまう。
 辺りは禿げた土地が広がり、周りは隆起した大地とささやかな草木しか見えない。
 しかしよく見ると、ずっと先の方に鋼鉄国家モルジアらしき城壁が確認出来る。
 一瞬で遠くに飛ばされたが、流石に国境を超えるほどは移動していないらしい。

「こ、これって、転移魔法……?」

 隣で共に飛ばされたユズリが、案の定驚く。

「やっぱり、例の如く貴重な魔法なんだね」

 もはや聞くまでもないので同調だけし、敵を見やる。

「くそ……二人とも、今からでも遅くない、逃げるんだ!」
「いや、お前置いて逃げれるわけないだろ」

 つい口が悪くなってしまうも、やはり数少ない友人である彼を見捨ててまで助かろうとは思えない。

「ユズリ、ショーゴを連れてモルジアに戻るんだ。俺は時間を稼ぐ」
「……分かった。私も直ぐに戻るけど、危なかったらすぐ逃げて」

 手負いのショーゴを逃がすことが先決だと察してくれたのだろう、彼女は文句も言わず連れ出してくれた。

「ひゅー。かっこいいな。何か漫画にありそうな展開じゃん。なんか俺の方が悪役っぽいけど、まぁ一周回ってダークヒーローみたいで良いか」

 この発言で察する。

 こいつ、同郷人だ。

「そんじゃ、早速おっぱじめますか」
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