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一章ー風の都ー

18 黒鳥の森

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 風の都を取り囲む崖。更にその周りには、幾つもの高木が聳える森に囲まれていた。
 季節は元いた世界基準で考えれば冬に変わりつつある秋くらいなので、時折歯を落としきった樹木も見えるが、基本的には青々とした葉を育てている。

 この地域の人間はマークリッズの森と呼ぶ場所にて、俺達は冒険者ギルドで受けたクエストを完遂すべく探索をしているところだ。

「それにしても、正式にギルドで依頼受けるの、これが初めてだよな」

 辺りに気をつけつつ、程々の声量で話し始める。

「そうね……ハーシンの村じゃ色々合ってギルドに寄れなかったもんね」

 確かに、という返答を声に出さずに呑み込んだ。それはモンスターらしき気配を察知したからだが、ユズリも同様に感じ取ったらしい。

 頷きあった後に二人で背中を合わせるようにし辺りを見回す。
 最低でも六メートルはある樹木が乱立しており、大地に生えている草花は本の僅か。つまり、見通しはかなり良いと言える。
 それでも何も見つからない為振り向くが、彼女も同様だったようで首を左右に振った。

 しかし背中に張り付くような他者のいる感覚が離れない。辺りに何も無いにも関わらず、確実する気配……この時俺は、風の都に到着した時を思い出し叫んだ。

「上だッ!」

 ばっ、と顔を上げると、そこには既に滑空を始めている黒鳥の影を捉える。

 「キョエエエエエエエェーッ!」

 甲高く鳴く怪鳥の名は“カースベルグ”。
 獰猛かつ雑食なこの鳥型モンスターは、近年急激に増殖し、得に空に纏わるモンスターの多いこの地域にかなりの被害を出していた。
 何故俺がこんなにも詳しいのかというと、ギルドで受けた依頼こそこの“カースベルグを十体討伐”というものだったからである。

「キョエィッ!」

 迎え撃つか避けるか迷っていると、カースベルグが急加速し、矢の如く迫って来た。
 この速度の攻撃を避けられる自信はないので、覚悟を決める。

「《剣招来ブレイドコール》ッ!」

 我が唯一の呪文を唱え、掲げていた右手から魔法陣を出現させた。そして、漆黒の剣を引っ張り出しそのまま左下へ空を切り裂く。
 瞬間、剣筋がばっくりと割れ、そこに向かいカースベルグは突進した。

「キョエエエッ!?」

 急ブレーキをかけた怪鳥だったが、次元の狭間きよる吸引力と、そこから放たれる幾つもの触手に絡みつかれ、そのまま次元の彼方へと消え去る。
 カースベルグは、別次元にて魔力が尽きるその時まで幽閉される事だろう。

「……ふぅ」

 額の冷や汗を左腕で拭うと、ふとユズリからの視線を感じ取る。
 俺がどうしたのだろうという表情をすると……。

「……タクマの剣って、反則並よね……」

 そんな今更な事を言われた。

「まぁ、多分だけどレベル0の代わりに特別強いんだろうね」

 右手を持ち上げ黒く幅広な剣を眺めると、突如青白く発光し粒子となって辺りに四散していった。
 戦闘が終わると、いつもこうなる。恐らくは、魔法陣の先……こことも俺の居た世界とも違う次元へ還っていったのだろう。

「でも、貴方といる限りあんまり危機的状況に陥らないっていうのはいい事よね」

 その台詞に対し何と言い返すか迷っていると、ふと鳥の甲高い鳴き声が幾つも聞こえだした。
 怪訝な顔を浮かべつつも、二人で見上げると……。

「キョオオオッ!」
「キョアッ! キョアッ!」
「キョエエエエエエエェェエエイッ!」

 何十体もの黒鳥が、木の頂上付近を飛び回っていた。

「ちょっ……」
「ウソでしょ……?」

 俺、ユズリの順でそう零すと、それがトリガーとなったかの如く数匹のカースベルグが急降下を始まる。

 そして……その内の一体が、俺とユズリの本の僅かな間をくぐり抜け、大樹の幹に深々と突き刺さった。
 二人とも最初は声すら出なかったが……。

「うぁああああああああああっ!?」
「いやぁあああああああああっ!!」

 俺達は空より降りかかる幾つもの黒矢を避けたり切ったりしつつ、命からがら森を脱し街へ戻ったのだった。

 ……俺がいれば危機的状況には陥らないのではなかったのか。
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