君と番になるその時は

鈴卜優

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シオンと父

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レイフォードとシオンはお目当てのお店につき、アフターヌーンティーを注文する。


テラスの席は王都の街が一望でき、風が心地よく吹いている。


「あ、この紅茶とても美味しいですね。」

「そうだな。」

レイフォードが優しい瞳でシオンをみている。


そんな表情をみてシオンはパッと目を逸らし手前にあるスコーンを口に含む。


「無事、披露宴の服決まってよかったな。」

「あ、はい。披露宴が楽しみになりました!でもそういえば、レイフォードのお母様はもちろん参加されますよね?」



嫁いでからもう2ヶ月も経つのにまだ会っていないのだ。

そしてレイフォードの義弟もだ。


「…どうだろうな。手紙は出してある。」

レイフォードの母は王宮の隣の離宮に住んでいる。会えない距離ではないのに。

(2人の間に何かあるのだろうか…)


「…そうですか。挨拶できるのを心待ちにしています。」

「シオン、俺の母と会ってお前に悲しい思いをさせるかもしれない。」

「え?」

「母はΩが嫌いなんだ。だから無理して会う事はしなくてもいいし、披露宴に来なくても気にしないでほしい。」

(…Ω嫌い?夫の母親には気に入られたいと思うけどそれが無理なのはちょっと悲しい…。)


母親と早くに死別したシオンは少し憧れがあった。

けど、レイフォード様は自分が悲しい思いをしないよう気にかけてくれているんだ。


「……わかりました。」


「義弟はそのうち会えるだろ。」

「そうですか。」

レイフォードの義弟は先代の側室から生まれた5歳下の弟で王位継承争いもあったことからあまりいい関係ではないだろう。


先代である父の死、王位継承争い、隣国との戦争、実母との確執。



(レイフォード殿下は自分が思っているより、ずっと大変で孤独だったのかな…。彼の支えになりたい…。)


心からそう思った。

「お前の方からは兄と父上が参加される予定だ。」


「え?お父様が?」

兄が来る事はわかっていたが、お父様もまでなんて有り得ない。

僕に会いたくないはず。

「…?そうだ。」

「僕のお父様は僕に会いたくないはずです。」

「いや、そんな事はないだろ。なぜそう思うのだ。」


「っ…それは_________」

シオンはレイフォードにあの日の事を話していく。


シオンが物心がついてから自分の置かれている環境が普通でない事に気づいた。

いつも自分の周りに居てくれるのは乳母やメイド、執事だけだった。

母はシオンが生まれてすぐ産後の肥立が悪く亡くなってしまったそうなのだ。

自分には年の離れた兄がいるが後継ぎで将来国王なるため勉強や剣術などで忙しい。

そんな兄は時間が空いた時は顔を見せ、遊んでくれた。


「アレン兄様、おとうさまは?いつ会えるの?」

「僕たちのお父様は忙しいんだ。だから兄様と遊ぼう!」


「うん!!」


シオンは父と数えるだけしか会った事はなく、遠い存在だった。


それでもやっぱり自分の父なのだからもっと会いたいし、話したいし、甘えたい。


まだまだ幼いシオンには父という存在は必要だった。


(アレン兄様がお父様は忙しいって言ってた。元気がでるように庭で摘んだお花持って行ってあげよう。)


シオンはそう考えたのであった。
庭師に言い、綺麗な花をもらった。

(お父様、喜んでくれるかな?)

シオンはウキウキとした気持ちで父の執務室へ向かった。


扉の前まで来ると突然、大声が聞こえてきた。


「お父様、いい加減にしてください!シオンはまだ幼く父の愛情を欲しています!」

あ、アレン兄様の声だ。

どうやら自分の事で揉めているようだ。


「わかっている。わかってはいるんだ。それでも…俺はっ……」

苦しそうなお父様の声が聞こえる。

「シオンは……シオンのそばにいる事はできん!あの子は…っ…俺から遠ざけるように。」


その声が聞こえシオンは咄嗟に走り出していた。


なんだ。なんだ。そういう事だったのかと。

お父様は僕が嫌いなんだ。

僕がΩだから?それとも僕のせいでお母様が死んでしまったから?


父と母は王族には珍しい恋愛結婚で身体が元々弱かった母は周りから結婚を反対されていた。

後継ぎは産めないだろうと言われていたのに反対を父が押し切り結婚をした。
母は兄を産み、それでもシオンを頑張って産んだのだ。

それで亡くなってしまった。最愛の妻を亡くし父は塞ぎ込むようになってしまった。そしてすぐに兄に王位を譲ったのだ。


シオンはその言葉を聞いてから全てに納得し、期待するのをやめた。

自分はちょっぴり可哀想なだけで、優しい兄や乳母、友達だっている。

それだけで幸せじゃないか。


そう考えるようにした。


だから大人になったシオンはどこか愛情に飢えている。

「_________だからきっとお父様は僕を嫌ってると思うんです…。」


シオンはあの日の事を話し少し涙目になってしまう。


そんなシオンにレイフォードは気にかけるように頬に手を伸ばす。


「お前の父がなぜそんな事を言ったのかはわからないが、きっとそんははずはない。」

「…?」

「お前の父からよく手紙が来る。その内容はシオンはうまくやれてるのか。とか幸せにしてくれとか。そんな内容ばっかなんだ。だからきっとそんな事はない。」


「っ…本当ですか?」


「ああ。だからそんな悲しい顔はしないでくれ。お前には笑顔が似合う。」


そう言ってするりと頬を撫でられた。


父がレイフォードに手紙を送っていたなんて知らなかった。

戸惑いと嬉しさが込み上げる。


「教えてくれてありがとうございます。少し気持ちが楽になりました。」


「ああ。」


そうして頬を撫でるレイフォードの手に自分の手を重ねシオンは微笑んだ。





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