君と番になるその時は

鈴卜優

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アッシュベルの宝石

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『アッシュベルの宝石』と彼の亡き母と同じ名前で呼ばれた俺の妻はその名の通りの男だった。

王位継承、隣国との戦争。

あらゆる事が重なり結婚なんて考えもしなかった。

隣国との戦争が終わり、やっと落ち着いた所で側近や議会の連中から結婚や後継ぎの事を言われるようになりうんざりしていた。

そして痺れを切らした者たちが持ってきた縁談がアッシュベル国の王弟シオンとのものだった。


アッシュベルの王弟は隣国のウィンザード皇国でも有名で宝石の如く美しく滅多に社交に顔を出さない麗しの王子だと。

またΩとの事もあり、特別な時にしか顔を出さないまるで幻のような存在とも言われていた。


誇張しているものだと思ってはいたが、実際会ってみた時、美醜に疎い自分でもその名の通りだと思ってしまった。


陶器のように白くほんのり桃色に色づいた頬。
神が丁寧に作ったのではないかと思うほど綺麗な顔。何よりレイフォードが目を惹かれたのは大きな目の中にキラキラと輝くアジメストの瞳だ。

神秘的だった。


つい見惚れそうになるが、自分を律する。


これは政略結婚なんだと。


Ωとは番にならない…。


自分の父や母。父の側室。


全てを思い出し自分を戒めた。


彼の何かに惹き寄せられるものを無視して彼を冷たい言葉で突き放した。


胸がザワザワとイヤな感じがするのを考えないように仕事に打ち込む。

自分は王であり、国をよりよくしなくては。


彼の顔を見るのは寝る時と朝起きた時だけ。
まだ少し幼い彼の寝顔。


シオンが嫁いできて数日経った時から王宮は花の香りに包まれ花が飾られるようになった。


それだけでなく王宮に勤める者たちが心なしか少し明るくなったように感じる。


悪い変化ではない。


「なー、お前奥さんとうまくやってるのか?」


そう言うのは側近であり、幼馴染でもあるライオネルだ。

侯爵家の生まれで彼の母は俺の乳母でもある事から小さい頃から一緒に育った。

2人っきりの時は敬語ではなく昔のように話している。

「普通だ。」

「普通ってなんだよ。ちゃんと大事にするんだぞ。なんてたってアッシュベルの宝石なんだから。あー羨ましい。」


「…仕事しろ。」

「本当つれないな。」


そう言ってライオネルはクッキーを食べながら仕事をし始める。


「おい、なんだそれは。」

特に甘いものが好きでないライオネルがお菓子を食べながら仕事なんて珍しいと思ったからだ。


「あーこれ?お前知らないの?これはレイの奥さんシオン様が作ったクッキーだよ。」


「…は?」

「知らないの~?メイドや護衛から人気なんだよ。争奪戦になるくらい。シオン様が孤児院に行く日に作るやつだよ。俺はこっそりメイドにお願いしといてもらってる。」


孤児院に通っている報告は受けていたが、自分でお菓子を作るなんて。料理長にお願いすれば良いものを。


「すごい美味いだよ、これ。なんだ知らなかったのか。」

「…ああ。」

「自分の奥さんの事だろ。はぁ。」


ライオネルはため息をついて真剣な顔でレイフォードに言う。


「レイ、お前は母であるルーナ様の事を気にしなくていいんだ。ちゃんと幸せになってくれ。」    



それに何も言えず黙る。




いまだに母の言葉やあの姿が忘れられない。


恋や愛などは人をおかしくさせる。


それなら自分にはいらない。



それなのに、どこか胸がザワザワとする。


忘られない。あの泣きそうに揺れるアジメストの瞳。

俺も彼に向き合わないといけないと思っている。少なくともあんな事言わなければよかったと。冷静になって思う。

嫁いできてくれた彼に失礼な事をし、傷つけた。


国のために尽くそうと努力しているのは報告でわかっている。


せめて、良好な関係は築きたいと今は思っている。


口下手な自分は彼に伝えられるだろうか。


そしてその夜いつものように寝室に行くといつもは寝ているシオンが起きていた。


どうやら本を読んでいたようだ。


俺を見るなり固まっている。

(…それもそうか。ちゃんと顔を合わせのは婚姻の儀の時だしな。)


彼の前に座る。


そうすると噂のクッキーがテーブルに置かれているのに気づいた。

思わず凝視してしまう。

それに気づいたのかシオンはクッキーを勧めてくれクッキーを口に運ぶ。


(…確かに。かなり美味いな。)


そうして落ち着いた後、話をする事にした。


シオンは俺の謝罪を受け入れてくれ、そして戸惑いながらも微笑んでくれた。


そのなんとも言えない姿に胸が温かくなるのを感じる。


何ならぎこちない笑顔ではなく心からの笑顔をみてみたい。



シオンはとても優しく穏やかだ。


少しの時間、話しただけでもわかる。



口下手な俺に健気にもいろんな事を話してくれ心地いい時間になっていた。



自分にもこんな穏やかな感情があるのかとレイフォードは思った。
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