君と番になるその時は

鈴卜優

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期待と絶望

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「シオン様、もうすぐお着きになります。」

(長いようで、あっという間だったな…。)


シオンは窓の外を覗くと、王都はとても賑やかで子供達の笑い声が聞こえてきた。

そうしているうちに王宮が見えてきた。


今日からこの国でこの城で暮らすんだ。


馬車が止まり、扉が開く。

従者の手を借り馬車を降り、周りを見渡すと王宮に勤めているメイドや執事達、護衛騎士などが両脇にならんで笑顔で出迎えてくれる。

その光景にシオンはほっとした。
(よかった。みんな歓迎してくれている。)

「皆様、お出迎えありがとうございます。アッシュベルから参りました。シオン・アッシュベルです。本日から宜しくお願い致します。」

そう言ってシオンは貴族の礼をし、笑顔を返す。


ほぅっと周りから感嘆の声が漏れる。

「まあ、なんと美しい。」「天使のようだ。」
「この方が王妃様になるなんて素敵だわ。」

緊張しているシオンの耳には届かない。


そして前の扉から人が来るのが見えた。

黒と青の礼服を着ている男性がレイフォード殿下だと悟った。

そうわかるくらいにαの絶対的オーラを纏っている。


そうして、シオンの前に止まる。

「ウィンザードへようこそ。レイフォード•ウィンザードだ。さあ、中を案内しよう。」

レイフォードはシオンに向かって手を差し出す。すぐに手を取り前へ進んでいく。


(なんか、性急な方だなぁ。)

王宮の中に入っていき、ある部屋の前で止まる。


「ここは、お前の部屋だ。ここで少し話そう。ライオネル、先に戻ってくれ。」


もう一人の男性が出ていき、二人きりになった。

ソファーに座るように促されレイフォード殿下と向かい合う。

すでにテーブルに飲み物が用意してあった。

「初めまして。シオン・アッシュベルです。レイフォード殿下。」

シオンは目の前のレイフォードをしっかりみた。

短髪の黒髪にキラキラとしたグレーの瞳。まるでダイヤモンドのようだ。
そしてキリッとした顔立ちで全体的に整っている。がっしりとした身体付きはとても男らしくシオンにはないものだ。

(想像していたより、かっこいいな。)


「レイフォードだ。長旅で疲れただろう。明日は婚姻の儀もある。今日はゆっくり休んでくれ。」

「あ、ありがとうございます。」

「それとお前に言う事がある。夫婦の生活が始まる前にな。」

「え?はい。なんでしょう?」

「単刀直入に言う。お前と番になるつもりはない。」


突然の言葉にシオンは戸惑う。


「え?」

「この結婚は政略結婚だ。お互いに利がある。俺はこの結婚で立場を盤石にし、王弟派の貴族達を黙らせる事ができる。」

「で、でも、跡継ぎはどうするのでしょう?」

「俺の親戚筋には優秀な子がいる。いずれ養子をもらう。」

そ、そんな。僕はちゃんと愛し合って夫婦になりたいと思ってるのに。

シオンは突然の事に頭が回らなくなる。

「…僕はちゃんと愛し合って夫婦としてやっていきたいんです。例え番にならなくても…。」

シオンは勇気を振り絞ってレイフォードに伝える。  


「はは、愛か…。俺には必要ない。」

レイフォードの冷たい表情とその言葉にシオンは言葉を発する事ができなくなった。  

「周りの連中には関係が良好である事を示さなくてはならないから、夜は隣の夫婦の寝室で必ず共に眠る。それは決まりだ。」


「っ……。はい。」


「公的の場で王妃としての役割りさえしてくれれば自由にしていい。では、俺は仕事に戻る。専属のメイドや執事などが後で挨拶や説明にくる。それまで休んでいろ。」

シオンはもうレイフォードの顔が見れないでいた。きっと泣いてしまう。


バタンと扉が閉まる音がする。


シオンはソファーに深く腰掛ける。


「…なぁーんだ。」

なんだ。この結婚で期待してた自分が馬鹿みたいだ。


一気に気持ちが沈み、昔の自分に戻ったみたいだ。

何を期待していたのだろう。

(…愛は必要ないか。僕はここでも誰かの一番にはなれないし、愛をもらう事ができないのか。)



シオンの目から涙が溢れる。


どんなに自分が愛しても相手から同じ様に愛が返ってこない事をシオンは知っている。


かつて父からの愛を欲しがっていた自分のようだ。




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