君と番になるその時は

鈴卜優

文字の大きさ
上 下
4 / 28

期待と絶望

しおりを挟む


「シオン様、もうすぐお着きになります。」

(長いようで、あっという間だったな…。)


シオンは窓の外を覗くと、王都はとても賑やかで子供達の笑い声が聞こえてきた。

そうしているうちに王宮が見えてきた。


今日からこの国でこの城で暮らすんだ。


馬車が止まり、扉が開く。

従者の手を借り馬車を降り、周りを見渡すと王宮に勤めているメイドや執事達、護衛騎士などが両脇にならんで笑顔で出迎えてくれる。

その光景にシオンはほっとした。
(よかった。みんな歓迎してくれている。)

「皆様、お出迎えありがとうございます。アッシュベルから参りました。シオン・アッシュベルです。本日から宜しくお願い致します。」

そう言ってシオンは貴族の礼をし、笑顔を返す。


ほぅっと周りから感嘆の声が漏れる。

「まあ、なんと美しい。」「天使のようだ。」
「この方が王妃様になるなんて素敵だわ。」

緊張しているシオンの耳には届かない。


そして前の扉から人が来るのが見えた。

黒と青の礼服を着ている男性がレイフォード殿下だと悟った。

そうわかるくらいにαの絶対的オーラを纏っている。


そうして、シオンの前に止まる。

「ウィンザードへようこそ。レイフォード•ウィンザードだ。さあ、中を案内しよう。」

レイフォードはシオンに向かって手を差し出す。すぐに手を取り前へ進んでいく。


(なんか、性急な方だなぁ。)

王宮の中に入っていき、ある部屋の前で止まる。


「ここは、お前の部屋だ。ここで少し話そう。ライオネル、先に戻ってくれ。」


もう一人の男性が出ていき、二人きりになった。

ソファーに座るように促されレイフォード殿下と向かい合う。

すでにテーブルに飲み物が用意してあった。

「初めまして。シオン・アッシュベルです。レイフォード殿下。」

シオンは目の前のレイフォードをしっかりみた。

短髪の黒髪にキラキラとしたグレーの瞳。まるでダイヤモンドのようだ。
そしてキリッとした顔立ちで全体的に整っている。がっしりとした身体付きはとても男らしくシオンにはないものだ。

(想像していたより、かっこいいな。)


「レイフォードだ。長旅で疲れただろう。明日は婚姻の儀もある。今日はゆっくり休んでくれ。」

「あ、ありがとうございます。」

「それとお前に言う事がある。夫婦の生活が始まる前にな。」

「え?はい。なんでしょう?」

「単刀直入に言う。お前と番になるつもりはない。」


突然の言葉にシオンは戸惑う。


「え?」

「この結婚は政略結婚だ。お互いに利がある。俺はこの結婚で立場を盤石にし、王弟派の貴族達を黙らせる事ができる。」

「で、でも、跡継ぎはどうするのでしょう?」

「俺の親戚筋には優秀な子がいる。いずれ養子をもらう。」

そ、そんな。僕はちゃんと愛し合って夫婦になりたいと思ってるのに。

シオンは突然の事に頭が回らなくなる。

「…僕はちゃんと愛し合って夫婦としてやっていきたいんです。例え番にならなくても…。」

シオンは勇気を振り絞ってレイフォードに伝える。  


「はは、愛か…。俺には必要ない。」

レイフォードの冷たい表情とその言葉にシオンは言葉を発する事ができなくなった。  

「周りの連中には関係が良好である事を示さなくてはならないから、夜は隣の夫婦の寝室で必ず共に眠る。それは決まりだ。」


「っ……。はい。」


「公的の場で王妃としての役割りさえしてくれれば自由にしていい。では、俺は仕事に戻る。専属のメイドや執事などが後で挨拶や説明にくる。それまで休んでいろ。」

シオンはもうレイフォードの顔が見れないでいた。きっと泣いてしまう。


バタンと扉が閉まる音がする。


シオンはソファーに深く腰掛ける。


「…なぁーんだ。」

なんだ。この結婚で期待してた自分が馬鹿みたいだ。


一気に気持ちが沈み、昔の自分に戻ったみたいだ。

何を期待していたのだろう。

(…愛は必要ないか。僕はここでも誰かの一番にはなれないし、愛をもらう事ができないのか。)



シオンの目から涙が溢れる。


どんなに自分が愛しても相手から同じ様に愛が返ってこない事をシオンは知っている。


かつて父からの愛を欲しがっていた自分のようだ。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。 家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

処理中です...