好きを好きなだけ

鈴卜優

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LOVE 6

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翌日、碧は朝から仕事が手につかないでいた。


「ちょっと、成田くんぼーっとしすぎ。」と日並に言われる。

「あ、すみません。」

はは、と笑われる。
「何があったかわからないけど無駄に色気のあるため息はやめてくれ。女性社員の目がハートになってるぞ。」 

(…色気!?気づかないうちにため息が出てたなんて…)

今日話をしたいって何を話すんだろう。


怖い。


自分はもう好きになってしまったのに、もし遊びだったと言われたりしたらどうしよう。

もしかしてあのモデルの彼と一夜を過ごしたのだろうか。

昨日はちゃんと伝えようと思ったのに拒絶されたらどうしようなんて考える。


自分は本当に臆病な人間だな。


そして仕事が終わり、入り口に向かう。
そこには朝也がもう待っていた。

碧に気づくと「碧くん。」と愛おしそうに微笑んでいる。

少し泣きそうになる。

こんな風に自分をみる朝也が好きだ。
こんな顔を向ける相手は俺だけにしてほしい。

「お疲れ様です。」そう返し、本社から近い広場のベンチに案内される。

オフィス街なので駅に向かうサラリーマンがちらほらいるがここのベンチは静かだった。

2人で横に座り少しの沈黙が流れる。

(ど、どうしよう…。顔見れない。)

「まず、何も言わず俺の話し聞いてくれる?」
そう言われ「はい…。」と返す。

「あのね、俺が碧くんを好きになったのは結構前なんだ…______」


1年半程前、碧が入社して半年がすぎた頃。
朝也は現場での実力が認められメイクアップチームに抜擢されていた。

メイクチームのアーティストとして撮影のメイクを任され、1週間本社でモデルの写真を見ながらどんなメイクにするかを考えていた。


いろんな案を出してシートに書き本社の宣伝スタッフや営業の統括、メイクチームのリーダーに見せるがダメ出しをくらい焦っていた。


気分転換にコーヒーを買いに廊下を出ると話し声が聞こえてきた。

「今度の撮影、新しいメイクチームの子らしいけど全然進まなくて宣伝の奴が嘆いてたよ。」
(あ、俺の事か。)
とっさに隠れて盗み聞きをする。

「あー、影山くんね。あの子現場では使えるけど実力はないんじゃない?」「かっこいいから売上だけとれてただけで腕ないのかもよ。」営業の何人かが休憩室の自販機前で話していた。

散々な言われようだった。
いつもなら気にしないのにその日はダメ出しを食らっていたせいか自信すらもなくなっていてただただ悲しかった。

これ以上聞いていたらだめだ。と思い部屋に戻ろうと足をうしろに向けたところで「そんな事ないですよ。」と優しい音色の声が聞こえた。

「自分も勉強のために彼のタッチアップイベントをみたり本社トレーニングのメイクなどを見ましたがすごかったです。モデルに合わせその人に似合うメイクや細かい技術や配色などもセンスがいいんです!影山さんのメイクは見てる自分も幸せにしてくれます。」

「なんだよー。成田。そんなとこ見てんのかよ。」「まあ確かに影山くんのメイクは惹きつけられるよね。」先程まで嫌な空気だったのに彼の言葉だけで周りが柔らかい雰囲気に変わる。

(成田くんか…。あっ…あぁ綺麗って噂の…。そんな事を思ってくれる人がいるなんて…。)

ドクンドクンと心臓が音を立てる。

自分の努力をちゃんと見てくれている人がいる。
それだけでもっと頑張れると思った。
自分に向けられた言葉じゃなくても嬉しかった。   
先程まで萎んでいた心が潤っていくようだった。

(彼は今どんな顔してるんだろう…。)

こそっと覗いてみるとそこには噂に違わない綺麗な男性がいた。

そして柔らかに微笑んでいる。

一瞬で落ちてしまった。

ああ、彼の瞳に映りたい。彼に笑顔を向けられたい。

そんな気持ちが湧いてくる。
これはきっと一目惚れというやつだ。

容姿だけでなく、彼の純粋な言葉に。
でも彼はノンケだろう。せめて彼が自分の事をそう思ってくれているのならもっともっと頑張ろう。そう思った。

皆からもっと認められる存在になって彼の前に立つんだ。
















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