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第1章 幼少時代

マクシミリアン=ダヴィド=ナ=レオミュール

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 マクシミリアン殿下がいらっしゃると思われる部屋の前には、近衛兵が2人立っていた。
 父と私が扉に近づいて行くと、その2人の兵は持っていた長槍を交差して私達の足を止めるように促した。


「――用向きをお願い致します」
「こちら、ガウェン公爵 ラファエル=クロード=ナ=ラファージュとその息子 カミーユ=ドミニク=ナ=ラファージュ。マクシミリアン殿下に目通り請う為参上した」
「ガウェン卿でございましたか!大変失礼しました!」


 交差を解いて、兵の1人が扉に向かって2回ノックした。


「ガウェン卿と御子息様がご到着になられました!」


 すると、中にいた近衛兵がスッと扉を開き、私達はようやっと入室することが叶ったのだった。





 くして、父と私が通された豪華絢爛な調度品に囲まれた応接間の中央にいたのは、天界に住まわれると思しき天使の如く美しく愛らしい1人の少年だった。


 クッソかわええ!!!これ何ぞ!!?人間か!?!マジで天使なんじゃね?!!お空で遊んでた天使がちょっとドジって地上に落っこちてきちゃったんじゃね!?翼は!?背中の翼はどこに隠したの!?


 脳内大暴走!!!!!である。

 攻略対象 マクシミリアン=ダヴィド=ナ=レオミュールはそれはもう超絶可愛かった。
 ふわっふわでキラキラ光っている――比喩ではない。キラッキラしとる――ブロンドに、私よりも濃い紫の瞳、左右対称なご尊顔は言わずもがな!!!


 ………………天使だ……


 西洋人の顔つきは小さい頃と大人になってからじゃ、びっくりするくらい違ってしまったりすることがあるが、マクシミリアン殿下は無問題モーマンタイだ。何せ攻略対象になるくらいだからね!!このままイケメンに育つことは私が保証する!


「――お誕生日おめでとうございます、マクシミリアン殿下。本日は絶好の日和でございますね」


 部屋に入った瞬間、マクシミリアン殿下の天使っぶりに惚けていた私は、父が殿下に結構フレンドリーに挨拶したのを聞いたところで、ギリギリ正気に戻った。

 危ない。危ない。
 すっかり物見遊山な観光気分になっていたが、ここには遊びに来たわけではないのだ。気を引き締めなくては……っ!!


「ありがとう、ラファエル。しかし、どうかこの場では楽にしてほしい」
「…そうかい?では、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかな」
「ああ、ここにいるのは私と叔父上と、従兄弟殿だけだ」
「ははっ、そうだね。マクシミリアン、この子が前に話していた息子のカミーユだよ。カミーユ、こちら今代の王陛下アルノルフ様が第二子であらせられる、マクシミリアン=ダヴィド=ナ=レオミュール殿下だ」


 マクシミリアン殿下が気を遣って私の話を振ってくれた。
 とても5歳児ができる振る舞いではない。さすが王族。さすが攻略対象といったところか。

 父の後ろにいた私は半歩踏み出して、深々と頭を下げた。


「お誕生日おめでとうございます、マクシミリアン殿下。本日、殿下に御目通り叶ったこと誠に嬉しく存じます。私、ガウェン公爵当主 ラファエル=クロード=ナ=ラファージュが第一子 カミーユ=ドミニク=ナ=ラファージュと申します」


 くわぁぁぁぁあ~!!同い年(?)に自己紹介する緊張感じゃねえ!!内容も言い回しも口に出したと同時に自分が何言ったか忘れた!!声震えないようにするだけで精一杯!!


 首を垂れたままマクシミリアン殿下の返事をジッと待っていると、何故か前方からスルッと布が擦れたような音がして、ついでに誰かが動いた気配がした。
 殿下の返答がないため顔が上げられないが、緊張して体にグッと力が篭った。流石にこんな場所でいきなり斬りつけられたりしないだろうが、目線が不自由なのと首筋を晒しているのは無防備で落ち着かない。

 色んな意味でドキドキしながら様子を伺っていると、私の目線、つまり絨毯の敷いてある床に、二対のピカピカに磨かれた小さい靴が入り込んだ。


「顔を上げてくれ、カミーユ」


 ふぁぁぁあああ↑↑!!マクシミリアン殿下に名前呼ばれちったよ!!はいはい!!上げます!顔上げます!!!


 内心の興奮を全力で抑えながら、恐る恐る顔を上げると、マクシミリアン殿下がニコニコしながらこちらを見ていた。


「――祝いの言葉、ありがとう。…先程、君の父君であるラファエルから紹介にあった通り、今代の王陛下の第二子であり、君の従兄弟でもある、マクシミリアン=ダヴィド=ナ=レオミュールだ。あまり気負わずに仲良くしてくれると嬉しい」


 そう仰って、殿下は私の方に手を差し出された。


 ……え………これは握手を…握手をして下さると……そういう解釈でよろしいのですか、殿下!!?握っちゃいますよ?!!ちっちゃくて桜色をした爪が綺麗に整えられた殿下の御手触っちゃいますよ!!?大丈夫、私!?手ぇ湿ってない!?


 こんな汚れた大人(中身)に笑顔で手を差し出すマクシミリアン殿下の心の清らかさに、私は胸を打たれた。色んな意味で。


「………天使だ…」
「……精霊のような見た目の君が言うのか?」


 殿下は可笑しそうにクスッと笑って、感動に震えていた私の手をギュッと握ってくれた。

 これが、攻略対象の1人 マクシミリアンと私の出会いであった。
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