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第一章

朝のご挨拶は緊張しますっ

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 翌日。


 エルシアは、クロードの取り巻き令嬢に見つかって騒動を起こさないよう、早朝に引っ越しを済ませていた。

(な、なんて広いの……)

 客室とは言え、王太子が住まう自室と隣り合う部屋である。

 元々、降嫁した王族や他国の来賓向けに作られていたため、その圧倒的な豪華さにエルシアは目を丸くする。

 おまけにクロードからの心遣いか、クローゼットの中はドレスで一杯だ。
 
(……この部屋に慣れることなんて、出来るかしら)

 そう思いながらも、部屋をクルクル見回していたエルシアは見つけてしまう。

ーー明らかに新しく作られた内ドアを。


(え、これって殿下のお部屋に繋がっているの!?)

 エルシア側から鍵を掛けられるとは言え、こんなものが婚約者の部屋に付いていていいのだろうか。

 考えれば考える程。

 パーティーの夜、馬車での会話が思い出して顔が火照ってしまう。

「いけないわ、エルシア。もうすぐ殿下に朝のご挨拶をしなきゃいけないのよ!」




 そう自分で自分に気合いを入れて、エルシアは一人、鏡の前に立つ。

「おはようございます、殿下」

 ニコーーー。

(ダメだわ、変に緊張して眉間にシワがよってる)

 ぐしぐし

 片手でシワを伸ばすが、上手く笑顔が作れない。

ーーだって、今日から隣の部屋に殿下がいるのよ?

 内ドア付きで。

(……考えちゃダメだってばっ)


「おはようございます」

 ぐにーー。

 今度は頬を伸ばしてみる。

 少しは笑顔に近づいただろうか。


 コンコン

 誰かが部屋の扉を叩く音がする。

「は、いーー」

 振り返ってエルシアはようやく、気が付いた。

「クスッ。おはよう、エルシア」

 朝の挨拶に来たクロードが、エルシアが閉め忘れた扉の隙間から、こちらを見ていた事を。

 かぁぁぁ~~~。

ーー内ドアに気が取られてて、気がつかなかったわ。

 恥ずかしいやらなんやらで、あっという間に体温が急上昇している気がする。

「お、おはようございます、殿下」

「うん、おはよう。朝から可愛いエルシアが見れた」


(い、言わないで欲しい……)




 冷静に見えるクロードであったが、よく見れば彼も片手で口元を隠している。


ーー俺の為に、挨拶の練習をしてくれてたんだよな?


 照れながら動揺しているエルシアを、嬉しさのあまりに抱きしめたくなるが、ぐっと抑えてる。



「エルシア、その内ドアは俺の方からは開けない安心してくれ」


 彼としては、万一の安全のために取り付けたつもりだが、そんなに意識されると自分が気になってしまう。


「は、はい」

 顔を赤らめるクロードに、エルシアはただコクコクと頷くのだった。


 ★



「じゃあ、公務に行ってくる。エルシアも王太子妃教育、頑張って」

 ドキッ

(ーーカッコいい)

 クロードの、はにかむ笑顔が爽やかでエルシアは朝からときめいてしまう。



「いってらっしゃいませ、殿下」

ーー可愛いな、ずっと側にいたい。

 クロードも、エルシアの少し赤らんだ顔を見つめながら、名残惜しそうにその場を去ったのだった。

 カチャン

 エルシアの自室のドアが閉まる。

(わたくし……殿下を見ているだけでフワフワした気持ちになってしまう)

 エルシアは自分の浮ついた気持ちを抑えるように、大きく深呼吸をする。

 ふぅ~。


 一息つくと。


 コンコン

「お邪魔致します」

 見計らっていたかのように、侍女達が現れ朝の準備をしてくれた。

 若草色のドレスを身に纏い、エルシアは初めての王太子妃教育に向かうのだった。
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