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第一章

婚約成立。そして、前を向いてパーティーへ

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(ここが大聖堂……壮大だわ)

 エルシアは今、数日前に手直しの終わったヴィテスのドレスを身に着け神壇の前に立っている。

 ここで婚約を結んだ直後、お披露目パーティーでエルシアのことは国内外に紹介されるのだ。


ーー彼女の対面には教皇、隣にはエルシアのドレスと同じ黄色のカフスを付けたクロード。 


 そして、彼らの真上にはステンドグラスで彩られた女神と天使達が描かれていた。

「では、こちらに二人のサインを」

 教皇の言葉を受けて、誓約書にサラサラとペンを動かすクロードの顔に迷いはない。



(女神様、ごめんなさい。これは偽装婚約なんです)


 エルシアも手渡されたペンに力を入れて、ゆっくりと記名する。


(でも、殿下はわたくしにとって大切な人。だからお許し下さい)


「では、誓約書をこちらに。お二人に幸ありますように」

 教皇の祈りに合わせてエルシアも瞳を閉じる。
 こうして無事に婚約は結ばれたのであった。


 ★


「疲れたんじゃないか?」

 腕に添えられたエルシアの手を優しくエスコートしながら会場に向かうクロードは、思わず声をかけた。


 今日のエルシアは煌めく星のように美しい。

 ドレスも服飾品も選び抜かれた一級品だし、彼女の薬指にはクロードが贈った婚約指輪が輝いている。 

 だが、施された化粧の下でエルシアの顔が強張っているのがクロードには分かるのだ。



「……少し、緊張してしまって。大丈夫ですわ」

(パーティーにはきっとカザルス様達もいるのよね。何度も面会を断ったから、やっぱり何か言われるかしら)



 エルシアが去ったため、跡取り息子の地位を追われそなカザルスは執拗なくらいエルシアに会おうとしていた。

 そんな理由は知らずとも、全ての面会を断っていたエルシアとしてはカザルスと顔を合わせるのは億劫である。

 
「エルシア……カザルス達がもし何か言って来たら、すぐに俺を呼ぶように」

 クロードが周りに気付かれないよう、小声で呟く。
 いつの間にか会場の手前の扉まで来ていたことにハッとしたエルシアは、しかし首を横にふった。



「いけませんわ。殿下は挨拶回りがございます。それに仮にもわたくし、殿下の婚約者ですもの」
  

(……しっかりしなきゃ)

ーー例え今だけの仮の婚約者でも。

 殿下の隣に立って恥ずかしくない振る舞いをしなければ。

 真っ直ぐ前だけを見つめて、エルシアはパーティー会場に足を踏み入れたのであった。
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