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第三章(過去編)

◆チャプター22

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「ソフィア・マリューコヴァは秘密裏にある計画を進めています。それは世界を滅ぼすもの……」
 その他の戦況報告と多少の世間話を経てJDがソフィアとの通信を終えると、スイス某所に建つ屋敷内の一室に小音が鳴り響いた。
「宜しいのですか?」
 秘書が抜群のタイミングで紅茶を差し出したのだ。
「世界が滅ぶだけさ。何の問題もない」
 濃い緋色の液体を一啜りしたJDは執務机にカップを置くなりそう告げる。
 まるで他人事のようだった。
「彼女はそれが許されるだけの対価は支払ったからね。それよりも……」
 続いてJDから別の話題を振られた秘書は、静かに「問題なく」と返してからリモコンを操作した。
 すぐに、つい先程までソフィアの姿があったモニターに牢が映し出される。
「やあ諸君」
 スピーカー越しの言葉を受けて、真っ白な空間に貫頭衣姿で座っていた者達が一斉に監視カメラを見上げた。人と同じ姿をした人ならざる面々の顔や手足には皆一様に繋ぎ合わせたかの如し傷跡が何本も走っている。
 彼らもまた理不尽な形で居場所を奪われ、今はJDの支援を受けて再起の時を待ち侘びている者達だった。
「ソフィアが悪魔を作り出そうとしている」
 JDがアイアンランド王の名を口にした瞬間、牢内にいる全員が憎悪の表情を浮かべ、冷ややかな空気が一瞬にして熱を帯びたものに変わった。
『呼吸すらおこがましい、神が認めた無法者』
 それが彼らにとってのソフィア・マリューコヴァであり、既に目標が失われた生を辛うじて現世に留めている鉤だった。
「彼女を殺したまえ」
 JDはソフィアに対する凄まじい憎しみだけを糧に生きてきた彼らの姿勢にも『美』を感じていた。
 その感情はソフィアに対する好感と、彼の中では全く矛盾していない――。
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