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第三章(過去編)
◆チャプター21
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それからおよそ三十分後。
「お世話になっております」
豪邸の地下階層にある暗い一室に移動したソフィアは、自分の最大の支援者とスクリーン越しに向き合っていた。
「モンテ・カッシーノでの戦い、お見事でした」
アイアンランドがイタリア戦線の天王山において重要な役割を果たしたことを褒め讃える男の顔は見えない。
ただ、葉を弄る手元だけがスクリーンに映し出されていた。
「ドルヴァルの方も実に素晴らしい」
JD――ジョン・ドゥに因む名前――は続いて、ユーゴスラビア戦線におけるアイアンランドとパルチザンの合同作戦についても高い評価を下す。
「皆さんのご活躍は、自分のことのように嬉しいですよ」
あくまでも穏やかな物腰で話す彼は、パトロンとしてソフィアをサポートするスイスの資産家だった。
「ありがとうございます。支援金の返済についてはスケジュール通りに」
「お気になさらず。最終的に戻ってくるのであれば問題ありません」
ソフィアに対してJDが行っている支援活動は資金提供ではなく、あくまでも将来的には返済が必要な融資である。
しかし、もしも謎多きこの人物がスターリングラード戦で仲間のスペクターを何十人も死なせ、僻地追放という理不尽な形でその責任を取らされたソフィアに手を差し伸べなければ、彼女は今この瞬間に息を吸えてはいなかっただろう。
「貴方は素晴らしいアーティストだ。怒りと絶望を絵の具にして、大戦争という比類なき名画を作り上げる」
この希望なき世界においてJDが『美』を感じる事象は、人間が必死で運命に抗って生きようとする姿だけだった。
だからこそ彼はシベリアの果てで最後まで戦おうとしていたソフィアを救い、ソ連軍に出戻らず、一人絶望して命を絶つ訳でもなく、この東欧某所に前例なき第三勢力を作り上げた後も茨の道を突き進む彼女を強力に支援し続けているのだ。
「お世話になっております」
豪邸の地下階層にある暗い一室に移動したソフィアは、自分の最大の支援者とスクリーン越しに向き合っていた。
「モンテ・カッシーノでの戦い、お見事でした」
アイアンランドがイタリア戦線の天王山において重要な役割を果たしたことを褒め讃える男の顔は見えない。
ただ、葉を弄る手元だけがスクリーンに映し出されていた。
「ドルヴァルの方も実に素晴らしい」
JD――ジョン・ドゥに因む名前――は続いて、ユーゴスラビア戦線におけるアイアンランドとパルチザンの合同作戦についても高い評価を下す。
「皆さんのご活躍は、自分のことのように嬉しいですよ」
あくまでも穏やかな物腰で話す彼は、パトロンとしてソフィアをサポートするスイスの資産家だった。
「ありがとうございます。支援金の返済についてはスケジュール通りに」
「お気になさらず。最終的に戻ってくるのであれば問題ありません」
ソフィアに対してJDが行っている支援活動は資金提供ではなく、あくまでも将来的には返済が必要な融資である。
しかし、もしも謎多きこの人物がスターリングラード戦で仲間のスペクターを何十人も死なせ、僻地追放という理不尽な形でその責任を取らされたソフィアに手を差し伸べなければ、彼女は今この瞬間に息を吸えてはいなかっただろう。
「貴方は素晴らしいアーティストだ。怒りと絶望を絵の具にして、大戦争という比類なき名画を作り上げる」
この希望なき世界においてJDが『美』を感じる事象は、人間が必死で運命に抗って生きようとする姿だけだった。
だからこそ彼はシベリアの果てで最後まで戦おうとしていたソフィアを救い、ソ連軍に出戻らず、一人絶望して命を絶つ訳でもなく、この東欧某所に前例なき第三勢力を作り上げた後も茨の道を突き進む彼女を強力に支援し続けているのだ。
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