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第三章(過去編)

◆チャプター18

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 同日。
 東欧某所に存在する武装要塞国家アイアンランドでは、同勢力の捕虜となったルーマニア兵やハンガリー兵達が、その国土を覆い隠す巨大コンクリート防壁を完成させるための過酷な重労働を今日も強いられていた。
『規律を守れない者は出て行け』
 この言葉が各所に書かれているアイアンランドはソ連の一大軍閥の根城であり、駐留する部隊も書類上は同軍の所属となってはいたが、実態は軍事的サービスを連合軍クライアントに提供して対価を得る『国境なき軍隊』であった。
 この組織は現在、完全に泥沼化して先が全く見えなくなっている大戦の中で、事実上の第三勢力として極めて独特かつ重要な立ち位置を確立するに至っている。
「楽しそうで結構ね」
 そんな場所を首長として統治するソフィア・マリューコヴァは、自分の王国の中心部――厳重に警備された豪邸内の一室で舌打ちした。
『戦うだけが正義じゃない!』
 改造したソ連軍の将校用制服から浮いた腹筋と肉感的な太腿を露出させている彼女の視線の先では、派手なコスチュームに身を包んだ西側のスペクター達が、ブラウン管の中でチアガールと共に戦時国債の販促放送を行っている。
『貴方達にもできることがある!』
 ファイヤーウーマン。
 アクアガール。
 両名共安物コミック雑誌からそのまま抜け出してきたかのような格好の少女が台本通りの言葉を発する光景は、何百回見てもソフィアにとって只ならぬ感情を湧き上がらせるものだった。
『それらしい言葉は並べ立てていても、戦場には決して現れない者達』
 大戦初期から最前線に投入され、今日に至るまでの戦いで多くの仲間を失った東側スペクターの数少ない生き残りであるソフィアにとって、西側にいる同類は諸々のプロモーションに使われるマスコットでしかない。
「アンタ達がちゃんとやっていれば……!」
 スペクターとしての特殊能力を何一つ持たない一方、他の追従を決して許さぬバイタリティを持つ精神的超人は机上に置かれた写真を見る。
 尽く自分の顔だけが乱暴に削り消された昔の写真。
 共に並んでいるのは、全員がソフィアと親しい間柄に『あった』者達だった。
「アンタ達が、ちゃんとやってさえいれば……ッ!」
 艶やかな黒髪の持ち主は強く噛み締めた口端から赤い雫を漏らす。
 ソフィアは今も決して変わらぬ西側の同類に対する感情だけをガソリンにして今日まで努力を重ね、内外からの妨害全てを叩き潰してきた。
 スペクターによる国家運営。
 独自勢力としての生存圏確立。
 経済基盤の安定化。
 そして、世界中の誰もが不可能だと考えていたこの三点を完成させた。
 これらは全て彼女にとって必要なことだった。
 理由は極めて簡単である。
 やらなければ、正気ではいられなかったからだ。
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