神守君とゆかいなヤンデレ娘達

田布施月雄

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第2章 クリオの休日

第5話 クリオの不安

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 クリオの歓迎会の次の朝、案の定メールがガンガン送られてきた。
 もちろん、送信者はクリオである。

 内容は『あの馬鹿の佐那美に馬鹿にされたことが悔しい』、『何であんたの年収が私より多いのよ』、といったものから始まるもので、その上で『プロモーション失敗したらどうしよう』というメンタル上相当参っていることを匂わせる内容である。

 初めは真面目に答えていたが、同じような文面が何度も続きだしてきた。
 メンタル的な専門的知識のない僕は、この手のアドバイスがうまく出来ない。

 そこで僕は美子に相談すべく彼女の部屋に赴く。
 とりあえず、ドア越しにノックをして声を掛ける。

 「僕だけど入って良いか?」

 僕が声を掛けると美子はご機嫌な口調で返事が返ってきた。

 「えっ?お兄ちゃん――ちょっと待ってすぐに片付けるから!」

 部屋の中からバタバタと音が聞こえてくる。そんなに散らかっているのかと疑問に思う程忙しく動いているのがわかった。

 「そんなに慌てなくても良いよ」

 「今すぐに終わるからちょっと待っていて」

 美子の機嫌が良い声が聞こえる――だが、女の子の気持ちはちょっとしたことでガラリと変わることがある。今回の切っ掛けはメールの着信音である。

 「――は?」

 先ほどの口調がガラリと変わった。
 バタバタしていた作業もパタリと止む。

 その間もメールの着信音が鳴りまくる。
 基本的に僕に電話を掛けてきたりSNSを送ってくるのは佐那美と眞智子、そしてクリオの女の子3人である。

 つまり、相手は女の子であることがほぼ特定された。

 「――やっぱり今すぐ入ってくれる?」

 美子の機嫌が斜めに、そして口調もキツくなった。

 僕は恐る恐る彼女の部屋に入ると当然美子は不機嫌そうに『さて、これから尋問が始めるよ』と言わんばかりに指をポキポキと鳴らしている。

 こうなることはわかっていた。

 ならば理由を話さず彼女にスマホを差し出す方が無難だ。僕のスマホが彼女の手に渡るが、その間もガンガンメールが送り続けられている。彼女は僕のスマホを怪訝そうに目視する。

 だが頭の良い美子はその状況をすぐに理解した様で、「お兄ちゃんも大変ねぇ。でも私に助けを求めてくれたんだから何とかしてあげるわ」とすぐに機嫌が直った。
 美子はあとは任せてとばかりに僕のスマホをいじり始める。

 ――先ず電話帳とSNSを確認。
 特にやましいこともないので彼女の行為を黙認する。

 「あのクソヤンキー、また電話ガンガン掛けているな…あとでぶっ殺○てやる」

 ――あのぉ、眞智子は関係ありません。

 「佐那美の馬鹿も掛けているなぁ…あとで殴り殺し○やる」

 ――それに佐那美も関係ありません。『ころ○』って言葉は、すでに彼女の口癖になりつつある。

 「私が一番少ないわね。お兄ちゃんどういうことなのか説明してくれる」

 ――あれれ…おかしいなぁ。変なスイッチ入ってしまった?
 でも、これについては簡単に説明できる。

 「…美子さんや、いつも横にいる人にメールする必要ないよね」

 だって、いつも僕の横で監視しているんだもの。説明する必要はない。
 彼女もすぐに理解した様で「あっ、それは確かに。普通にごめん」といって前言を撤回した。
 だが、彼女は僕の用件をそっちのけでここぞとばかりに僕のプライバシーを一生懸命調べ始めている。

 ――特にやましいところはないから、頼むから本件に戻って欲しい。

 「あの――、ぼちぼちクリオの件お願いしたいんだけど…」

 「殺○の?」

 そっちの解決法は望んでいません。

 「違います。いちいち同じメール送らないで欲しいっていうことです」

 僕がそう告げると、美子はフンフンと頷き、「プロモーションはいつ?」と確認し始めた。一見関係ないような質問だが、彼女の中では思い当たる点がありそうだ。

 「明日の夕方だって、東京の銀座でやるみたいだけど――」

 「そう…なら私に任せてくれる」

 「穏便にお願いします」

 すると美子は僕のスマホで電話掛け始めた。
 相手は――

 「あっ、佐那美。私だけど――」

 佐那美であった。
 ちなみに佐那美は僕の同級生であるから、美子からすると1年先輩である。
 美子はまるで自分の友達のようにタメ口で話を進める。
 なお、眞智子に対しても同様である。

 「ねぇ、あんたのところのクリオがメールしつこくてお兄ちゃん困っている。――何そんなこと言われても知らないって? ふーん…そんなこと言うんだ。だったらあんたのところにみんな転送してやろうか? ――何いらない? そうよね。じゃあ何とかしてよ。――無理? あっそう。じゃあお兄ちゃんの電話電源切るから。プロモーションあんたらで頑張ってね…」

 美子は通話を終了させ、僕のスマホの電源を切った。

 「これでよし。佐那美の奴、間違えなくテンパるから」

 美子が鼻で笑う。
 そして仕上げとばかりに今度は眞智子に電話を掛ける。

 「あっ、眞智子。私だけど――」

 元ヤンに対してずいぶんフランクに話をするなぁ………こんな感じで美子の作戦が実行された。


――それから次の朝。


 僕と美子、眞智子で佐那美の家に行くと、玄関から佐那美が飛び出してきた。
 そして僕の顔を見るなり駆け寄り、泣きながら僕の胸を両手でポカポカと叩き始めた。
 その様子を二人が『計画どおり』といわんばかりにキラさん風に北叟笑んでいる。

 「ひどいじゃないのぉ!ヒグゥ…ヒグゥ」

 「な、何が?」

 「『ふぁっきゅうー』何とかしろって言って電話切っちゃうしぃ! あのメンヘラ女に『メールするな』って何とか約束させても、今度は神守君の携帯が全然繋がらなくてぇ…ヒグヒグゥ…」

 そうか。佐那美は彼女なりに努力はしてくれていた様だ。
 でも、美子達にはそんなの関係ない様だ。

 「あっ、ごめーん、電源切っていたの忘れていたぁ。だってぇ~、佐那美がぁ~…ちっっとも迷惑メールを止めてくれないんだものぉ~」

 美子はここぞとばかりに挑発する。

 「あたし、あの子のことそこまで管理していないからぁ!」

 佐那美は癇癪を起こしながら両拳を上下に振り上げて怒る。
 能天気な佐那美をここまで泣かせるとは……さすが美子である。
 彼女の攻撃が終わると今度は眞智子が参戦する。

 「佐那美あんた、クリオのプロモーションするんでしょ? クリオを不安にさせてどうするよ」

 「それは個人の問題でしょ!」

 「だからといって礼君まで調子崩しちゃったから困るでしょ?」

 「そ…そりゃ…そうだけどぉ…」

 「だから美子に電話切られたんだろ。それぐらい察しなさい」

 そこまで言われてしまうと初日にあれだけ偉そうにクリオに言い切った彼女としては反論の余地がない。
 そうなると――

 「…………プロモーションの相談だってしたかったのにぃ」

 佐那美は卑屈な目つきで僕を睨むことしか出来なかった。
 だからといって僕を睨んでも困る。

 ――とりあえず、誤解のないように付け加えよう。

 僕は別に彼女を無視していた訳ではなく、ある意味彼女らの為に動いていたといっても過言ではない。
 それを佐那美に告げる。

 「昨日、美子さんと眞智子さんとで銀座行ってきたんだけど…」

 佐那美が『えっ?!』と信じられない表情で僕らを見る。

 「今日、プロモーションに行く予定の映画館の人と話してきたんだ――」


 実は僕が佐那美と初めて出会った場所がその映画館である。


 その時彼女は、地端プロダクションのプロモーションの為にレインのコスプレをして映画館の前にいたのだ。
 ハリウッドスターだった僕は親の意向で強制帰国させられてしまった訳だが、成田で電車を乗り間違えてしまい東京に着いてしまった。
 僕は美子に迎えに来てもらうためその場所で待ち合わせをしていた。
 佐那美は僕の脇で共演するハズのキャストと待ち合わせしていたのだが、不運にも間違った日付を指示していたため会うことが出来ず、プロモーションが頓挫。
 困り果てて大泣きしていた彼女……そして不運にその脇にいた僕。
 男女間のトラブルと周りから勘違いされ白い目で見られたことで、渋々彼女の手助けをしたのが因縁の始まりである。

 佐那美はそこの映画館は僕との運命的な出会いと信じている様で、それ以降は地端プロダクションの映画試写会をそこで行っている。
 だから僕はそこで顔なじみになった従業員から話を聞いて来たのである。

 「――向こうの主任さんは『カントリーサイドストーリー自体然クソ映画だけどクリオ自体は風評ほど悪くはない』って言っていたよ」

 「えっ、聞いてくれたの?」

 「そう。要は脚本が全然ダメ、監督もダメ。役者にしっかり演じるべきイメージを指示しなかったため、役者が何を演じさせたいのかわからない! そうなると経験値が低い彼女はあんな演技をするしかなかった。だから佐那美さんが言うとおりの結果になった」

 「じゃあ、今後彼女にどんなことをさせれば良いと思う?」

 「僕がいなくなったことでクリオの方向性がおかしくなったからね。今までの展開が印象強く、完全に封印できていなかった。簡単に言うと『新しい彼女になれなかった』それが違和感として出ているかも」

 僕がそこまで言うと佐那美は理解した様で「要は素でいたから演じ切れていないのが原因か…」と納得した。

 「とりあえず、僕のリサーチはこんなもんかな」

 「ありがとう――」

 さっきまでベソをかいて佐那美は、ニコニコしながら僕の手をぎゅっと両手で掴み礼を言う。

 「別に大したことはないよ」

 佐那美はニコニコして僕の手を両手で握り締めている。
 よかった。これでクリオの件はなんとかなりそうだ。
 あとは佐那美がうまく指示してくれるだろう。

 これで佐那美も曲げたへそを直してくれるハズだ――そう思っていたが、事態はそんなに簡単にはいかない。
 彼女はまた同じ台詞をいう。

 「――ありがとう」

 彼女はそう言いながらもずっと僕の手を放さない。
 あれ…?何か変だぞ。  

 「ところで、神守君――」

 「は、ハイ?」

 「美子と一緒に東京にいったんだよね?」

 「いえ、眞智子さんもいましたよ」

 佐那美の眉毛がピクリと動く。

 「えっ、このヤンキーも一緒にいたの……何で?」

 佐那美の語気が強くなる。

 「――いやアドバイスもらっていたから」

 「ふーん……で、その後、銀座で何していたのかしら――」

 「…?!」

 佐那美は微笑みながら背後からゴゴゴ…という噴火寸前の地響きみたいな怒りの波動を発している。

 それを見ていた眞智子と美子はニッタリと佐那美を小馬鹿にするような笑みを浮かべて僕の代わりに油に火を注ぐ。

 「あぁ~美味しかったなぁ。化粧品会社のパーラーは」

 「そうそう。デザート超最高!」

 「その後、ブランド品のバック買ってもらったんだよねぇ」

 「お兄ちゃんに感謝しなさいよねぇ。あれ普通に買えば10万越えだからね」

 今まで振り回されて酷い目に遭わされた2人がここぞとばかりにタッグを組み佐那美を畳みかける。次第に佐那美の眉間に皺が寄る。こみかみあたり青筋がうっすら浮かび上がる。


 「――へぇ…あたしにあの馬鹿押しつけてデートですか、美味しいもの食べてお買い物ですか…」


 「……さ、佐那美さん?」

 佐那美の手に力が入り、爪が僕の両手に突き刺さる。
 このままだと佐那美は大泣きするのは目に見えている。

 そうなると彼女も非常に面倒なんだよなぁ――そう思っていた矢先、それよりも心が病んでいるクリオが脳裏に過ぎった。
 佐那美でさえこの状況なのだから、クリオは……大丈夫なのか?
 すっかり忘れていた――もの凄く不安に駆られる。

 「佐那美さん、文句は後で聞く。主役どうした?」

 クリオの奴、早計なことしなければいいのだが……
 だが、僕の心配は今の佐那美には通じなかった。

 「はぁ? あたしよりもクリオってどういうこと」

 佐那美は自分の立場を忘れ絡んでくる。

 「もっとあたしの事を大事にしてよ!」

 佐那美は癇癪を起こし僕の襟首に掴むと前後に揺すり声を荒げた。
 あ…佐那美がぶち切れた。

 「落ち着いて。佐那美さん。今日はクリオのプロモーションの日だよ」

 「そんなのどうでもいい。なんで神守君はいつもあたしを大事にしないの!」
 
 感情的にがなりだした。
 これは、なだめるのに時間が掛かりそう……そう思った時、美子と眞智子が間に入り佐那美を強引に引き離した。

 これは僕が説明するより彼女らにお願いするのがいいのかもしれない。

 「あんたがクリオのプロデュースしっかりやればこんなことにならなかったよね。お兄ちゃんに迷惑掛けさせてそんな態度しないでくれる?」

 「礼君はお前の事は『後で聞く』って言ってたよな? 後ででも聞いてもらえるんだからガタガタ言ってんじゃない」

 「そ、そんなぁ…」

 「うるさい。黙れ」「うるさい。語るな」

 「ひぐぅ…」

 彼女らに厳しく叱責され佐那美はまた涙を溜めながら堪えることとなる。

 本来ならば僕が諭すべき所なのだろうけど、この女性らが絡んでいる事はちょっとした事で関係が瓦解する。一歩間違えれば死人が出る虞があるのだ。
 だからこの場は彼女らがどういう言動をするのか注視してみたいと思う。

 佐那美を引き離した眞智子はさらに人差し指と親指で佐那美の頬を軽く挟みちょっと上に引き上げ尋問を続けた。

 「――で、ピザンティーはどうした?」

 「……ふぁっきゅうーなら、いじけて客間の隅で泣いている」

 ……えっ?それマズくないかい? 今日彼女のプロモーションだよね?
 なんてこったい――僕は頭を抱える。
 眞智子がさらに佐那美に尋ねた。

 「おい、佐那美。案内しろ。この私が直接ピザンティーと話する」

 「眞智子、あんたクリオの馬鹿をぶっ飛ばす気? それだったらお兄ちゃんと話した方が――」

 眞智子は美子の言葉を遮るように話を続ける。

 「泣いている相手にヤキ入れてどうする? 多分、話を誰かに聞いてもらいたいだけだったんじゃないか?」

 おぉ、さすがは眞智子である。うちらの中では一番の人格者である。
 眞智子がそう言うのなら大丈夫だろう。
 そう思っていた矢先――

 「じゃあ、あたしは? 泣いているのにあんたらに脅されたんだけど」

 佐那美が『あたしもそうなのに!』と抗議した。
 ……あっ、確かに
 だが、眞智子は佐那美には容赦なかった。

 「うるせー黙ってろ、このブス。ブチ回すぞ!」

 当校美少女No.1をブス扱いですか――確かに眞智子さんも美少女ですが、あまりにも酷い言い方である。
 佐那美がヒスをあげ、眞智子の両頬を摘まんで横に引っ張った。

 「このクソヤンキー!!」

 「ひゃにひゅるんだぁ、ばふぁおんにゃ(なにするんだ、馬鹿女)!」

 やば…喧嘩が始まったぞ。
 2人が揉め始めると、もう1人の美少女が2人の胸ぐらを締め上げた。

 「いい加減にしてくれない? ……バカとデブヤンキー」

 あっ。今、2人からカチンという音が聞こえた気がした。

 「このキチ○イが!」「この近親○姦!」

 「あ゛ぁん? 何テメエ! ぶっ殺○ろしてやるよ!」

 あぁ~遂に3人で喧嘩が始まった――こりゃ、僕が何とかするよりも放っておく方が早いかもしれない。

 無責任かもしれないけど、彼女らの場合は下手に仲裁すると『誰の味方なんだよ』と余計に火に油を注ぐ結果になってしまうので――あえて放置することにした。
 
 僕はとりあえずクリオがいる地端家の客間に向かった。

 「クリオ、大丈夫か?」

 「………」

 客室は雨戸を閉め切って真っ暗になっており、辛うじてすすり泣く声で彼女がそこにいる事がわかる。
 部屋の電気をつけるとクリオは両膝を抱えていじけていた。
 彼女は僕に気がつくと身体を僕から背ける。

 ――あっちゃぁ~…これは、すねている……

 「ど、どうしたの?」

 「私のメール、無視したくせに……」

 「いやぁ、あれ何度も何度も同じ事書かれても……」

 「あんたは良いよね。どこ行っても…例え異国に行っても人気者だし、誰とでもうまくやっていける。すぐ異性とも仲良くなっちゃう。演技は私よりうまいし、アクションなんかは誰も真似できない。ギャラなんかも桁違いに稼ぐ。でも――」

 彼女はそこで不安をぶちまけると言葉に詰まり嗚咽をあげた。この後の言葉は口に出さなくともすぐに想像ついた。

 ――だが、彼女の悩みは僕が口にしても解決はしないだろう。

 それは結局は自分で何とかしなければならないのだから。
 解決方法がなければすぐ横で僕が『うんうん』と話を聞いてやれば良いのだろうけど、それも何か違う。

 ――さて、なんていって慰めた方がいいか。

 しばらく沈黙する。
 それから1分経った頃にようやく頭の中で話の整理がついた。
 よし、本音を話そう――

 「クリオ、僕はレインみたいなヒーローなんかじゃない。実際の僕は女の子に殺されないかとマジでビビっているヘタレな奴なんだよ。だから皆の顔色伺いながら毎日を過ごしている。本来ならば異国から来た不安だらけの君のために一緒にいなければいけない事も分かっている。でも、僕のふわついた気持ちで君にアドバイスするのはいい加減だと思うし、僕には人を安心にさせるスキルを持ち合わせていない」

 「………」

 「正直僕には――」

  ――君をどう守って良いかわからない。

  ………そう言いかけた時に、「だったら私らとSNSで話し合えばいいじゃん。そうすれば礼君も気が楽でしょ?」と髪の毛がボサボサになり頬を腫らせ唇を切りいくらか血が滴る眞智子がそこにいた。

 僕の「――えっ、大丈夫?」という問いに眞智子はケタケタ笑いながら答えた。

 「大丈夫、それに二人も元気に目をぐるんぐるん回して玄関にいるから」

 「……それって失神しているというのでは?」

 僕と眞智子のやり取りを目の当たりにしてクリオは目をパチクリさせている。
 ――まぁ、普通は仲が良い女の子同士が、いつもちょっとした事ですぐにブチ合いの喧嘩を始める人達っていないよね。

 「――あぁ、レイが言っていた事がなんとなくわかったわ……大変ねあんたも」

 「何言っているの? これからあなたも私達の仲間だよ」

 眞智子が親指を立てて歯をキラリと輝かせている。

 「えっ、ブチ合いする人と仲間って……私、一応女優なんだけど――」

 クリオが己の方を指を差しキョトンとしている。
 だが、さらにそれを再確認する人物らが現れた。

 「ちょっと、眞智子! あたしも女優なんだけど、何で顔面にグウで殴るのかな」

 佐那美である。同じく髪の毛ぐちゃぐちゃで鼻血を流しながら眞智子に噛みついてきた。
 そして――

 「ちょっと! なんで私は延髄蹴りとラリアートであんたらに潰されなきゃならないのよ! 絶対、あのババアから何か教わってるでしょ!」

 同じく髪の毛ぐちゃぐちゃ首を顎を押さえ美子がやってきた。

 「お前、『ほ○ちょう』は危ないからマジでやめろよな」

 「あんた、マジであたしに『○うちょう』で刺そうとしたでしょ!」

 「ちょっと待ってよ。私、今日は得物使ってないでしょ。嘘言わないでくれる」

 ――ちなみに美子は僕がらみじゃないと得物は使いません。
 ただ、それを鵜呑みにする人がいるわけで……

 「ワァオ、ジャパニーズヤンデレ――オマイガー」

 素で英語で呟いている。

 「安心しろピザンティー。私らがついている」

 眞智子はそう言って自分のスマホを取り出す。一方で佐那美はクリオのベッドの上にあったスマホを勝手に取り出し、SNSアプリをインストールし眞智子と自分の連絡先を登録する。

 クリオは「えっ? えぇっ?」勝手に自分のスマホに友達登録され、あ然としている。

 「神守君のスマホも貸して」

 「ほいきた」

 そして佐那美に僕のスマホを渡すとクリオのスマホに友達登録をした。
 ただ、その横で――

 「ねえ…私は? 私ガラケーなんだけど…」

 切なそうに自分の事を指さす美子。
 美子…君のガラケーにはそのアプリははいっていないんだよ。
 これは機械音痴の彼女がガラケーを諦める切っ掛けとなった。

 「よし、これでお前の愚痴を私らも聞けるから、安心してぼやいていいわよ。何でも聞きなさい。だたし礼君との恋バナは喧嘩になるから厳禁でいいわね。お前の不安は礼君だけじゃなくて私らにもしなさい」

 「そうだよ。一人でネチネチ考えないで あたしらにも聞きなさいよ。あたしは馬鹿だからちゃんとした答えは出せないけど、人に愚痴るだけでもスッキリするよ」
 
 そして美子――
 
「まぁ、お兄ちゃんに手を出すようなの許さないけど、折角日本に来たんだから面倒みてあげるわよ――あと私のガラケー、後で機種変するからその時に私も友達になってあげるから」

 彼女らはヤンデレだけど、結構面倒見のいい良い子である。
 僕は彼女らのことが、なんだかんだで大好きである。

 ただ、その事を口にすると『誰が一番好きなの』って言われるのが目に見えているから言わないけど……僕の自慢のヤンデレ娘達である。

 クリオもその彼女らの強引さに最初は戸惑っていたが、今まで抱えていた物が少し荷が下りた感じでいくらか顔色が良くなった。

 そして――

 「クリオ、あとで神守君に私らも何か奢ってもらおうよ。昨日、眞智子と美子を連れてデートしていたみたいだから」

 「what's?」

 ――はい、佐那美のおかげで折角良い雰囲気がぶち壊しになりました。
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