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第2章 クリオの休日

第4話 佐那美の無双

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 クリオと地端の親父さんと合流した僕らであるが、とりあえずどこかで歓迎会を催す事になった。

 普通、こういうのは事前に佐那美あたりが企画するべきなのだが、彼女は『うちでオールナイトで馬鹿騒ぎ』をすることで頭がいっぱいになっていたらしく、完全に失念したそうだ。

 人数も少ないので、居酒屋あたりなら対応できそうだが、さすがに高校生である僕らがそこにいるのも抵抗がある。そうなるとファミレスとか個人経営のレストラン、寿司屋、地元の和食レストランあたりで探すしかないだろう。

 地端家のワンボックスカーにて本人を交えてちょっとした作戦会議に入る。
 僕は右隣にいたクリオに尋ねる。

 「クリオは何食べたい?」

 「あんた馬鹿? いい加減に私の考え見抜きなさいよね。この私がここまで来たんだから、何かこの私を喜ばせるものでエスコートしないさいよね」

 彼女は機嫌悪そうに答えた。まあ、歓迎会を失念していたこともあるだろうけど、僕の周りに女の子がいっぱいいることが考えられる。
 こう言う時の彼女は決まって上から目線である。

 彼女とは映画何本か一緒に撮った仲だし…考えが分からんでもない。
 とりあえず、これ以上へそ巻かれても面倒なので真面目に考えてみるか。

 こういう時の彼女は『特に食べたいものは思い浮かばない』ということ。
 つまり、『何か私が好きそうなものでも選んでくれる?』で正解なのだろう。

 彼女が好きなのはイタリアンだから…

 ――そう考えていたときに、僕の後の席にいた眞智子がクリオの態度にカチンときたのか、彼女の嫌がる一言をぶちかましてきた。

 「ピザ…」

 眞智子は暗にピザンティの事を指した。

 このピザンティとは彼女が撮影の合間に、ピザを食べて舌をやけどしてしまい、撮影中ろれつが回らなくなって監督から怒られたことから由来する造語である。

 これは他の人から親しみをもってもらおうと僕が付けてあげたものだ。
 ただ、あまり誇張したせいか、マジでクリオから怒られた。

 その『ビザ』で彼女は顔を真っ赤にして僕の襟首を掴んで上下に揺らした。

 「あんた、また言ったでしょ!」

 「最近は言っていない! 最近は!」

 「あらあら、日本でも有名になっちゃったわね。ピザンティさん」

 眞智子の左隣にいた美子までもがクリオを挑発する。

 「何で初対面のあんたらから挑発されなきゃいけないわけ!」

 「――それはクリオの上から目線が原因だと僕は思うけど」


 「はぁ? あんた何言っているの? あんたの意見なんか求めていない。この私の味方さえしていればいいの」


 ――クリオの悪いクセが始まった。

 僕は『役』でいつも味方をしていたから、あなたはそう勘違いしているのだろうけど――僕は素でこういう言い回しの人は嫌いです。

 これ以上気分が悪くしたくないので「あっ、そう」と話を打ち切る。

 クリオはそんなことをお構いなしで後ろにいた眞智子と美子を睨み付ける様に再度確認する。

 「ところでアンタら誰なの? レイの関係者みたいだけど」

 「そうそう、紹介が遅れたわね。私はあなたの横にいるスーパースターの妹で『頭がおかしい』美子。私の隣にいるヤンキーは『私の友達』の小野乃眞智子。よろしく」

 ――頭がおかしいって何って突っ込みたいところであるが…エロい事に切り替えされそうなので黙っておこう。

 それに眞智子の事は『私の友達』って紹介したけど…まあ、他の意味もあるんだろうけど、それはそれで悪い関係ではないと解釈していいんだよね? 後で『眞智子ぶ○殺す』って言わないでね。

 ――こんな感じでいつも喧嘩ばかりしている彼女らもけして本心から仲が悪いわけではない。

 僕にしても微笑ましい彼女らであるが、新キャラにしてみればどうでもいい存在なのだろう。

 「――なんだ、パンピーか。じゃあ黙っていなさいよね」

 クリオは美子らに対して『一般人は口出しするな』とあしらうと、あしらわれた2人は『なんだテメエ』とばかりに顔を引きつらせる。

 もっともこれくらいであれば、彼女らが手を出すことはしないだろうけど、僕がらみで何かあれば本気でお構いなしで殴るだろうなぁ…たとえ女優の顔面であっても。

 だが、違う子が沸点に達してしまった――僕の左隣にいる佐那美である。


 「ふん! 何がパンピーよ、偉そうに! そもそもあんたの演技はそこにいるパンピー以下ってこと理解しなさいよね」


 佐那美は非常に厳しい一言を彼女にピシャリと告げる。
 彼女は馬鹿だけど、役者の演技を見る目は天才である。

 あまりにもキツイ口調の佐那美に一同黙り込む。

 口が悪いクリオでさえ「え、何なのアンタ…」とそれ以上言い返せない。

 明らかにいつもと違うオーラでさらに辛辣な言葉が続く。

 「プライド高いのは結構なんだけど、その実際の仕事はどうなの? 向こうではカントリーサイドストーリー駄々滑りだったじゃないの。何が原因だったの?」

 「アンタには関係のない!」

 「いや、関係あるからここに来ているんでしょ! 何であんたのことなんかで、あたしがこんなこといわなきゃならないの?」

 「じゃあ黙っていればいいんじゃん!」

 「あんたが下手くそなのに偉そうな態度しなければこんなこと言わないわよ」

 佐那美が言いたいことはわかる。
 クリオは実力が全然ないのに、当たり役を引いた事で自分の存在価値を勘違いしてしまっている。

 ――いや、そうじゃない。それは本人でも分かっているハズだ。

 僕が思うに、『実力がない』から偉そうに振る舞わないと自分を保てないのかもしれない。

 今回の映画にしてもそうだ。

 田舎者の女の子がトラブルばかり起こすお話なのに、そのトラブルメーカー役が緊張してしまい、素で撮影でトラブル起こして全く笑えない映画に仕上がってしまったと地端の親父さんから聞かされた。

 もちろん、それを指揮した監督もいけないが、プロである彼女自身が己に負けてしまい自分の良さを引き出せなかったのが原因だと思う。

 そこを佐那美がエグく突いてきたのだ。

 「――とりあえず仕上がった駄作は駄作のままいくしかないわ。あとはお客が『詐欺だ!』って怒るかもしれないけど、日本でのプロモーションしっかりしなさい。失敗は許されないのよ」

 「駄作って何!」

 クリオが佐那美に噛みつが、佐那美は僕らに見せたことないくらい口悪く罵り返り討ちにする。


 「はぁん、ごめんなさい。駄作じゃなくて素人のお遊戯発表会だったわね…あんなのでお金払わされるお客は大変可哀想ね。でも、うちも慈善事業している訳ではないから、お金もらうけど」


 「…私はそこまでなの?」

 「それ以下! そんなに自信があるならストリッパーでもしたら?そんでも50ドルも払いたくないわね。1ドルくらいなら需要あるかもね」

 「キィイイイイイイ!」

 佐那美は徹底的にクリオの心を打ち砕く。クリオはヒスって悔し涙をポロポロこぼしている。

 ちょっと言い過ぎではないか。

 「佐那美さんちょっと――」

 佐那美は僕の諫めに「はぁ…」とため息をついて

 「――まぁいいわ。その件はこれ位で許してあげる」

とようやく話を本筋にもどした。

 「でもこれだけは言っておくわ…折角レインがピザンティって愛称付けてくれたんだものそれでイジって人気とる位の意気込みがないでどうするの? いつまでもお人形さんでいられるわけいかないんだからね」

 ――これは事実だ。

 僕は情けないことに、彼女に対してそこまでハッキリ言えなかった。
 僕も嫌な思いをしたくないし、何より彼女はメンタルが弱すぎる。

 …ただ彼女の為にハッキリ言ってくれる事はありがたいが、彼女の場合は加減が難しい。一歩間違えれば、子供みたいに大泣きして『帰る』と騒ぎ出すだろう。

 それは非常に困る。

 「うぐぅ…なんで…なんで、アンタみたいな馬鹿に…」

 「あら、お気の毒様。あたしは確かに馬鹿だけど、あんたよりもセンスはあるわよ。嫌だったらアメリカに帰ればいいじゃない」

 再び毒舌になる佐那美。これはちょっと言い過ぎ。

 僕は再び佐那美に手を振って止めに入ろうとするが、今度は彼女は僕の手を握り僕の膝の上に載せた。『黙っていろ』ということだろう。

 「言っておくけど、私を誰だと思っているの? このまま逃げ帰るような使い物ならない女優はいらない、即引退。あんまりなめないでくれる?」

 実は佐那美は地端プロダクションでの『取締役広報人事部長』の肩書きがある。ある意味彼女のプロデュースがあって僕の映画も売れていると言っても過言ではない。
 簡単に言うと僕やクリオのクビを切り落とすだけの権限を有している。その彼女が『いらない』といえば『地端プロダクションでもいらない』のである。

 普段は馬鹿なのに、こういう点ではホント、この子…恐ろしい子である。ハッキリ言って社長よりも怖い。

 美子と眞智子も、いつも戯けている佐那美の違う一面に驚き、様子を窺っている。

  ――そして、その矛先は違うところにも及んだ。

 「パパはずるい! それをあたしに言わせるため彼女を日本に連れて来たのよね。しかも皆まで巻きこんで! パパが社長なんだから自分の口でハッキリ言いってよね」

 「いや…ちょっと言いにくいだろ? 社長の俺がガミガミ言っていたら、役者が萎縮して何も出来なくなるじゃない」

 ――やっぱりそういう魂胆だったのか。

 彼女が言うとおり、僕と同じで親父さんも厳しく指導することが苦手だ。
 クリオの来日の目的は『だだ滑りの映画を日本で少しでも立て直す』というものの他に『考え方を改めさせる』のが含まれていた。

 でも、怒るばかりではメンタルだだ下がりである――

 「ハイ、佐那美部長ありがとうございました。あとの指導は同僚の僕に任せて」

 「えっ…どうするの?」

 言うべき事を言い切った彼女は凄みが消えて穏やかな表情に戻っている。
 僕たちは彼女に嫌な仕事を押して付けてしまった様だ、ありがとう佐那美。
 次はクリオのメンタルを回復させてあげないといけない。

 ここから先は僕の仕事になる。

 「はい、クリオさん。泣くのは終わり。日本のプロモーションは俺もいるし、佐那美さんもいる。後ろにいる彼女らもなんだかんだでいい女の子だから手伝ってくれる…とりあえずサンディ=クリフトファーの看板は下ろして、普通の女の子としてのクリオ=L=バトラックスとして日本での生活を楽しんでくれよ」

 クリオが僕を見て泣くのをやめようと堪えているが、感情を抑えきれずにそれがかえって大粒の涙となり、やがてポロポロと頬を伝ってこぼれ落ちた。
 そして決壊したダムのように一気に感情が爆発する。

 「うわぁん――――レイ!」

 彼女は僕に抱きつき嗚咽をあげた。

 もちろん佐那美に言われて悔しいということもあるだろう。
 でも、本当に悔しかったのは、彼女自身もそう感じていたからである。

 今までは僕がフォローしていたけど、彼女の立ち位置の脇に僕はもういない。
 あとは彼女自身が頑張らなきゃいけない。

 とりあえず、今だけは彼女に寄り添ってあげたいと思った。

 ――が、後ろから視線がやたら痛い。

 「あんまり近づくな…」

 「顔だけは近づかないでよ…」

 ジト目で彼女らはクリオを凝視する。

 まぁ、今回はいつもみたいな『この野郎』という感はない。さすがに遠路遙々訪ねてきたお客さんだし、それにこうなった切っ掛けを作った責任を感じているのだろう。
 とりあえず『恨めしや~』とばかりに唸ることぐらいで堪えている様である。

 ――ただ、もう一人の彼女は違った。


 「…ちょっと待ってよ。それあたしのって言ったよね」


 僕に抱きつき強引に彼女から引き離そうとしている。

 「あの、佐那美さん。せっかく良い流れでまとまろうとしているのだから――ちょっと黙っててくれる?」


 「神守君、何言っているのよ? あんなにベッドで愛し合った中じゃない」


 ――ピキッ!
 一瞬、車内の空気が凍った。

 眞智子と美子は拳をワナワナと震わせている。
 クリオは頭の中をショートさせ、言葉の意味を理解出来ずにフリーズした。
 佐那子さんはクルマを前のクルマに追突しそうになり急ブレーキを掛ける。
 地端の親父さんは…「ヒューッ」と口笛を吹く。 

 ――何でそこでいつもの馬鹿佐那美にもどるのかなぁ、紛らわしくなること言うのかなぁ! 車内がおかしくなっているですけど!

 「それは寝ている僕のベッドにあなたが転がり込んだだけでしょ! 人聞きの悪いこと言わないでくれる?」

 「まぁ――そうともいうかな、アハハハハ…だから、ふぁっきゅうーは仕事終わったらとっとと家に帰れ。そしてその前に…神守君が抱き合う相手が違うから今すぐ替れ」

 酷い…そこまでいう?
 さっきの的確の指導の裏には、絶対私怨感情交じっていただろう?

 「いやぁ、レイは私の、アメリカに持って帰るぅ!」

 「だめぇ! あたしは神守君と子供を増やして劇団を作るのぉ!」

 ――あのぉ、何の話をしているのですか? 

 普通の流れなら、クリオを慰めるだけだったのだが、このポンコツ部長の過剰なアピールが後ろの二人にも火を付けたらしく。
 『恨めしや~』から『祟ってやる』に変わってきた。まもなく『この野郎』にかわることだろう…

 ここから先は、ちょっと暴力沙汰になりかねないので、両手を挙げて視線を上にあげよう。


それから1時間後、僕らは馴染みのお寿司屋さんの個室にいた――


 この寿司屋だったらネタもシャリも大きいし、比較的に安価で食べられる。

 クリオは先ほど佐那美に怒られたのにもかかわらず「どうせフードコートみたいなの食べさせるんでしょ」と偉そうに言っていたが、実際に目の前に出されてネタの新鮮さと厚みに圧巻されていた様で、それを口にして目を輝かせながら驚いていた。

 「向こうでもこんなの食べたことないんだけど!」

 「僕も佐那美さんに教えて貰って家族でここに食べに来ている」

 「ここって好きな物をチョイスする事も出来るんでしょ?」

 「そんなことしていたらお金がいくらあっても足らないよ。板さん任せのセットメニューがお得だよ」

 ここのセットメニューは変わっていて、松・竹・梅・白梅となっていて松が一番リーズナブルである。今回は白梅の握りだったが、僕個人的にオススメは竹である。

 「ところで…私達もよかったのかしら」

 「ねぇ…」

 地端プロダクションに関係ない2人――眞智子と美子である。

 「何、今頃遠慮しているのよ、さっさと食べなさい」

 佐那美である。そして次の一言が酷かった…


 「どうせ神守君のおごりなんだもの」


 「ん。そうそう…って――えっ?」

 「だって、うちのプロダクション火の車よ。一番儲けている人が奢ってくれてもバチあたらないし」

 ……あれ?そう言えば。僕のお給料っていくらだったっけ?

 頭の中でピコピコと計算するが、追っつかない。

 「税金差っ引いた一昨年の手取り年収は3000万ドル…って言ってたわね」

 佐那美がボソリと呟く。

 クリオが箸で掴んだ寿司を寿司下駄にポトリと落とす。

 美子の頭ですぐに日本円に計算し直される。

 「さ…33億」

 眞智子が口に入れたお寿司をかまずに飲んだ。

 「言っておくけど、昨年度は4500万ドルだからね」

 クリオがまた掴んだお寿司を今度は醤油皿に落とした。クリオの服に跳ねた醤油が付着する…が、本人は全く気がつかず、茫然と僕を見ている。

 「よ…49億5000万…」

 美子はゴクリと喉を鳴らせ、眞智子は泡を吹いてその場で卒倒した。

 「ちなみに去年のクリオの手取り年収がようやく10万ドルになって、うちの事務所の全収入から神守君とクリオの年収を差し引いた総売上が250万ドルだから、神守君の方が全然稼いでいるのよ」

 「あ…アンタ、わ、私の300から500倍稼いでいるの…」

 「そう――みたいね」

 改めて言われてみると結構稼いだなぁ…でも、このお金日本に持って行けないんだよね。

 そして、佐那美は僕の考えをまるで読んでいるかのように話続ける。

 「でもそれだけの大金を日本に持ってくるのは無理よね。でも、あのカードあるでしょ?」

 「あぁ、あのクレジットカードね。向こうでcmに出たときに発行してもらったカード。そこの社長があまりにも『持った方がいいよ。年齢制限…? そんなの関係しでいい。なんなら年会費永年無料でいい』って言って強引に作らされたんだよなぁ」

 「あっ、そういえば私もそこの社長に同じ事言われて作ったんだっけ」

 僕とクリオはその会社のクレジットカードを出す。
 クリオのカードはカラフルなもの。僕のは落ち着いた色のカードである。

 この色って性格を現しているのかな?

 佐那美がすぐに飛びついた。

 「ちょ…何コレ?」

 「いいでしょ~。18歳未満なのにクレジットカード持ってるのよ。しかも年会費無料なんだけど」

 クリオが佐那美に自慢する。

 「――いや、あんたのはどうでもいい。ところで神守君、これ…本当に年会費無料なの?」

 「そうだよ。何か本当なら年会費1000ドルくらいするって言っていたよ」

 美子の目がぐるんぐるん回り出す。

 クリオは「そんなカードあるわけないでしょ?」と聞き間違えと主張する。

 佐那美は話を続ける。

 「これ、ブラックカードよね…ありえないわ年会費無料のって…」

 「そう言っていたよ。しかもこれで戦車買えるって言っていた。冗談だと思って向こうで試しに戦闘機みたいなジェット機これで差し出したら本当に買えちゃった」

 僕がそういったら今度は美子まで泡を吹いてひっくり返ってしまった。

 そんなこと関係なく佐那美がさらに話を続ける。

 「なんでそんなの買ったの?」

 「映画『ストライクエアーフォース』の練習機に買った。でもさすがに本物の戦闘機には及ばなかったよ」

 「あっ、映画の練習に買ったのか…じゃあ仕方ないわね」

 佐那美はあっさり納得した。だが、クリオは納得しなかった。

 「ジェット機買えたぁ? その地味なカードが? 私のカードも買えるわけ?」

 「買えるわけないでしょ。あなたのは神守君の物と違う。でもそこら辺で物を買うのには丁度良いカードね」

 「ちょ、ちょっと何でcmキャラ同士にそんな差別するわけ?」

 「何言っているのよ。あなたがそんなおっかないカード使ったら一発で破産するわよ。どうせ神守君はケチだから必要なもの以外買わないだろうけど」

 ――ドケチの佐那美、お前が言うな。

 「…まあ、今は学生だから親からもらっているお小遣いで済ませているよ。そもそも日本では18歳じゃないとクレジットカードは持てないから使えません」

 僕はそう言って社長である地端の親父さんに話を振る。

 地端の親父さんは財布から自分のカードを取り出そうとしていたが、硬直したまま動かない。佐那美のママである佐那子さんも目が点になっている。

 佐那美が父親の差し出したカードを横から取りあえげ確認する。

 「あれ、パパも神守君らと同じ会社のクレジットカード持っているのね? でもこれブラックどころかプラチナカード…でもないんだ? 社長なのにぃ――」

 佐那美は嫌らしい顔で僕を見る。

 …いや、カードで人を判断してはいけないよ。うん。
 ここでは一番お偉い方がお金払うものだと僕は思う。

 ――でも佐那美には通じなかった。

 「だから、神守君。今日は奢ってね」

 そう来たか。佐那美は金に関してもがめつい…ならば僕もこう切り返すよ。

 「だからこのカードは日本では使えないって!」

 「大丈夫だよ。知らない振りして使えばいいんだもの。それに似た色の一般カードあるし、なんならそこの女優さんのカードでも良いと思うけど」

 「いや、それやったらカード会社の社長に笑われちゃうでしょ。それに何で歓迎される人がお金出すの? 第一、ぼろくそに言われた君にクリオが奢るわけないじゃん!」

 「確かにそうね…そういうことなら、うちのドル箱スターに『ごちそうさま』って言うのが筋だよね」

 …はい、詰みました。いつも心の中で馬鹿にしていた彼女にしてやられました。

 ――結局、僕の財布からなけなしの現金2万円が飛んでいった。

 いやぁ、数が7人で助かった…ちなみに銀行直結のデビットカードも持っているけど、佐那美にだけは黙っておこう――
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