神守君とゆかいなヤンデレ娘達

田布施月雄

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第1章 お願いだから喧嘩しないで!

最終話 お願いだから、僕を56さないで!

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 前回のあらすじ
 良い感じで劇が進んでいく中、その裏ではとんでもない計略が動いていたとは。
 綺麗な形でエンディングを迎える。
 ここで、眞智子は突然暴走。
 寄りにもよって美子と佐那美の前で、台本にも書かれていないキスを僕にした。
 怒り狂う、2人。
 眞智子はマサやんロケットをかますが、当然ボコボコにされるマサやん。
 佐那美を意気消沈させることに成功するが、美子が武器を片手に襲い掛かる。
 そして、眞智子の咄嗟の機転により、美子撃沈。
 この後どうなる?


 ――――悪夢のような文化祭が終了し、帰宅後。


 「――で、なんでアンタがうちにいるのよ」

 美子が白い目で、うちのソファーにふんぞり返る眞智子に文句言う。

 「いいじゃん。だって、今から劇のビデオの鑑賞会やるんだから」

 「……やめて。あれは悪夢以外なんでもないから」

 美子が項垂れ魂が抜けかけている。

 「あの後、大変だったなぁ――」

 眞智子が遠くを見つめて言葉が止まった。


――舞台を2時間ほど前に遡る。


 劇の後、正確には文化祭終了後。
 僕のクラスメート全員、居残りさせられ、文化祭実行委員でもある生徒会長豊田に問い詰められていた。

 「そもそも君たちのクラスは映画じゃなかったのかね」

 生徒会長を目の前にしてクラス委員長の眞智子と副委員長の僕が質問を受ける。

 「映画できているんですが……見ます?」

 「ほぉう――」

 豊田会長は黒縁眼鏡をピクリと動かし、差し出した携帯用DVDプレーヤーに入っている惨劇のビデオを確認した。

 「――フム、これは確かにだせないなぁ。それにしても、君たち脳みそぶちまかれて良く生きているな。さすが小野乃医院だ」

 そんなわけない。これはCGだから。
 眞智子と僕は引きつった笑みを浮かべるしかなかった。

 「……おっと失礼、これは自分なりのジョークだったつもりだが失笑を買ってしまったようだね。それにしてよくこんな惨劇を考えたモノだ」

 「いや、それは――」

 被害者であり加害者である眞智子が言葉を濁す。

 「それで劇になったわけだと。急遽体育館を貸してくれというから変だなとは思っていた。それにしても、あの劇も話が段々変な方向になってきたようだな」

 「あはは――それは色々ありましてね……」

 確かに色々ありましたよね、眞智子さん。
 眞智子は、あはは――と愛想笑いをしてその場を取り繕っている。

 「これらを滅茶苦茶にしたのは誰だ?」

 「はい、隣のクラスの地端さんです」


 あっ、眞智子――佐那美をあっさり売った。元ヤンなのに仲間をあっさり裏切った。


 「地端だと? あの熱血演説した?」

 「私達にもその責はありますが、そもそも彼女がうちのクラスの出し物に、勝手に名乗り出てやりたい放題やりました」

 「あの演劇もそうかね……」

 「ハイ」


 嘘つけい! 眞智子が企画してアドリブ入れたのあなただよね?!


 「そうか。やはり熱血だけ信じていても、その考え方や手配の仕方まで考えないといけないな」

 「はい。反省します。劇については最終的に私がやってしまったことですから」
 
 ――とか言っちゃっているけど、眞智子のことだから反省はしていないだろう。あえて自分にも非がある事を強調してその背後にある佐那美にはもっと非があると仕向けたいのだろう。
 元を正せばそうだ。佐那美が暴走しなければそうならなかった。
 では、僕も眞智子にならってそうするとしよう。

 「そ、それをいうなら止めなかった副委員長である僕にも責任あります」

 クラスの皆がジッと下を向いて黙っていたが、マサやんが「それをいうなら、僕も同罪です。実行委員ですから」と名乗りを上げると、他のクラスの連中も――

 「私達、彼らに丸投げしていた。だから責められるのは私達です」

 「すいません、俺ら正直遊んでいました」

――と一斉に声を挙げ、立ち上がると豊田会長に頭を垂れた。
 会長は「ふむ」と顎を指で撫で何かを考えている。

 「なるほどな。自分はてっきり責任逃れするのかなと思っていたが」

 ――ギクッ
 俺と眞智子はお互い顔を合わせ気まずく会長の話を聞く。

 「まぁ、自分がいいたかったのは。クラスの出し物なのにクラスが一致団結していない事を危惧していたということだ。だが、反省してくれたならそれでいい」

 えっ、あのポンコツなヤンデレ劇場を怒っていたんじゃないの?

 「あの――会長? 劇の事でお咎め……という意味じゃなくて?」

 「いや、それではない。まあ、確かに風紀委員長の日野が激怒していたが、むしろ面白いコントだったと思うぞ」

 「先生方も怒っているのでは?」

 「いや、それが大爆笑だった。さすがに男女のキスはまずいだろうって話もあったが女性同士のキスが加わったことで、あれはそういう劇ということで終わった」

 豊田会長は「わっはっは」と扇子片手で仰ぎながら「君たちは面白い人材だ。これからも、神守をからかってやってくれたまえ」といって壇上から降りていった。
 そして教室のドアに手を掛けると――

 「そうそう、来年からは全クラス参加というのはなくそうと思う。今までどおりだ。地端に演説に踊らされて全員参加にしたのはいいが、クラスの出し物が逆に低下し、酷いところは名前だけで掲げて実際は開店休業だったところもあったしな」

――と扇子をパチンと閉じながら、今回の尋問の理由を述べた。
 さらに不満はそこだけではなかった。

 「特に地端のところ! 何だアレは『地端プロダクションの秘密に迫る』だと? 酷すぎる。すべて手抜きで営利目的ではないか! その上、君たちのところでトラブルを起こしてけしからん! あとであいつにはたっぷり理由書を書いてもらおう」

――とドス黒い何を背中から漂わせ不気味に笑う豊田会長。
 彼はそのまま教室を後にした。


――それから数分後。


 隣のクラスから「え――っ、そんなぁああ。理由書ですか? マジで勘弁してください。私文章書くの苦手なのぉぉ!」と悲鳴に近い嘆願の声が聞こえた。

  
――――再び、2時間後の神守家。


 「ところで、今日その佐那美の奴、うちにいないようだけど」

 「生徒会室で泣きながら理由書、書かされている」

 「あの佐那美が泣いている? にわかに信じられないわね」

 「あれ国語壊滅的だから。何度も書かされて心折れてるんじゃ?」

 散々な言われようである。
 もし佐那美がここにいたら、ここでバトル勃発である。
 さらに佐那美の悪口が続く。

 「それでマサの奴はあの後あんたのおうち(小野乃医院)送りになったんだって? 私のラリアートのせい?」

 美子が煎餅囓りながら、悪びれる事なく眞智子に尋ねる。

 「本当は患者のプライバシーがあるんだけど、別にマサについては恥ずかしい事は何もないから問題ないか――あいつ、『胸が!!』って叫んでいたでしょ」

 「叫んでいた、叫んでいた。あれ、佐那美の胸がペッタンコって意味だよね?」

 「違う、違う。肋骨が痛かったみたいだぞ。湿布あげにうちに連れていったんだけど、うちの親父様が急にレントゲン撮ると言い出して……結局肋骨にヒビが入っていたんだと。しばらく安静だな。それにしても佐那美のあばら骨って『最強』ならぬ『最胸』鉄板胸板だね」

 「うわっ、マサの奴災難ね。それにしてもさすが佐那美ね。あいつの場合、『凶器』じゃなくて『胸器』になるんだ。ツルペタおっぱい恐ろしや」

 「それにしても、佐那美の洗濯板のせいで、うちの医院赤字なんだけど」

 眞智子と美子の会話、なにげに人の身体的特徴を捉えて酷い事を言っている。
 君たちのが普通以上にあるからそう言えるけど、佐那美は標準は下回るけど全くペッタンコっていう訳じゃないと思う。
 

 「いや、そんなにペッタンコではないと思うけど――」


 気がつくと思わず、本音を口にしてしまった。
 ギロっと2人の視線が突き刺さる。


 あ、ヤバ――これ『ミスターモミー』コースだ。

 
 「はぁ……モミーお兄ちゃんは佐那美のおっぱいまで揉んだんだ」

 「私らのだけじゃ揉み足らなくて、ツルペタまで手を出した訳か――」
 
――となるわけで、普段なら2人にネチネチ弄られて終わるお約束事が、今回だけはそうならなかった。


 「「ところで、どっちの胸が触り心地よかったか、感想教えて欲しいんだけど」」


 「えっ……それは――」

 「「どっちもって言うのはなしで」」


 ――あっ、ダメだ。これ詰んだっぽい。


 これって、美子と眞智子がグルになってモミー対策していたのかもしれない。

 「いや、佐那美のは触っていない。マジで!」

 「あっ、そんなことは聞いていないから。私と眞智子、どっちの胸が良かったか聞いているの」

 「そうそう。私らは触られ損だもの。せめて感想ぐらい聞かせて欲しいな」

 そりゃ、どっちもいい感じだよ。
 でも、実際に痴漢行為で揉んだわけはなくてだなぁ
 たまたま手を出したところに胸があった、ただそれだけだよ!
 ――と言ったら、マジでぶち殺されるだろうし。
 ここは素直に土下座するしか他にない。

 「悪意があってやったわけではないけど、ホントにごめんなさい」

 「いや、私ら別に謝ってもらいたい訳じゃないけどさ」

 「素直に感想聞きたくてね」

 2人は表面上穏やかに笑っているが、目だけはそうじゃなかった。
  
 「別に私らは揉まれたって構わないけど――」

 「いずれは誰かを選ぶわけだし、ここでハッキリ決めてもらおうかな」

 そう言うと、美子は部屋の照明を消しカーテンを閉めて暗くして、眞智子がどこから用意したのかバケツを僕の眼前に置いた。
 そして美子がテーブルの上に包丁を意味ありげに置く。

 「さぁ、兄さん選んで」

 「もし選ばなければ、どうなるかわかるよね」

 えぇっ、僕、選ばなければ、ここで刺し殺されるの?
 選んでも、どっちかが僕を刺すよね?
 バケツって僕の血をここに溜めるって事?
 や、ヤバい――これ、僕ここで終わったっぽい。

 「――さあ、礼君座ろうか」

 眞智子が3人掛けのソファー中央に座るよう指さす。
 美子がご丁寧にソファーを座りやすいように後ろに引く。

 「あっ、僕お腹が痛くなったので……」

 「選んでからね」

 眞智子が僕を突き飛ばすようにソファーに座らせる。
 美子が僕の足下にバケツを置く。
 そして、2人が僕の両脇にぴったりと座る。
 えっ――ここの状況で彼女を選ぶのか?
 ここにいない人言ったらどうなるの?
 どうしたら僕、刺されないで済むの?
 いいようにテンパってきた頃、美子がテーブルに手を掛ける。
 僕はこの時、今までの出来事を走馬灯の様に思い出す。あぁ、皆に手を出さずに、無事平穏に過ごしてきたが、結局はバッドエンドかぁ……
 どうせだったら、あのナイスボートみたいに皆に手を出せばよかったかぁ――いや、どうせ俺はヘタレだから取っ替え引っ替えできないでこうなるのが運命っぽいかな。
 僕は静かに目を瞑り、最後の瞬間を待った。
       
 「――て沈黙したまま目を瞑るのやめてくれない?」

 眞智子の少しムスッとした声が左から聞こえる。

 「頼むから、やるなら一思いにやってくれ」

 「あっ、兄さんビビりだからしょうがないよ」

 右から美子の声が聞こえ、なにかシャリシャリと何かを切り裂く音が聞こえる。

 「――そろそろ答えて」

 眞智子は僕の両頬を指で挟み込む。

 「……おい、眞智子。今私包丁持っているんだからな。どさくさに紛れてお兄ちゃんに手を出したら、お前から先に3456すぞ」

 お前から先に刺し56すぞ……て事はやっぱり、本当に僕が先ってこと?!
 もう僕はガクガクブルブルもんである。
 もし、こうなる前にトイレを済ませておかなかったら失禁ものだ。
 シャリシャリシャリ――切り裂く音と僕の心臓音だけが無情に耳に響く。

 「よしできた」

 「んじゃあ、始めるか」

 美子の言葉に応じて眞智子が僕の両耳元に何かを押し当てる。あっ、これヘッドフォンだ。そして目を閉じている瞼の向こうから何か明るさを感じる。



 「ギヤアアアアアアアアアア!」



 けたたましい叫び声で驚き、咄嗟に目を開かしてしまう。

 そこには……

 そこには――
         
         
         
















 美子が絶叫あげて卒倒する……シーンがテレビに映し出されていた。
  


















 「へへーんだ。引っかかってんの!」

 「これ、見境無くモミーしている礼君が悪いんだからね」

 美子と眞智子がイエーイとばかりに両手でハイタッチしている。
 そしてシャリシャリと音を立てていたのは――りんごである。きれいに皮を剥かれ食べやすいようにカットされている。
 今、僕は今日の劇のビデオを見せられていたわけで……
 よかった、ホント56されるのかなって思って――おっと、ここから記憶がボンヤリとしてくる……

 「礼君?……あれどうしたの?」

 「泡吹いている……あっ、どうしよう――病院、病院っ!」

 「またただ働きしなきゃ――今度こそ親父に怒られるなぁ……」

 「うわあああ、やり過ぎたぁ! だからほどほどにって言ったのに!」

 「何言っているんだよ。だから私は――」



 ――――とまあ、こんな感じで文化祭の騒動は終わる。



 今回幸いだったのは僕のお仕置きに佐那美がいなかったことだ。もしいたら、僕は確実にショック死していたかもしれない――あいつ場合は度が過ぎる。
 結局余談だが後日、劇と映画のお披露目会を佐那美の部屋でやることになったのだが、バケツの意味がその時よくわかった。
 あれはエチケット用だ。
 おかげで佐那美の部屋は酸っぱい臭いで充満していた事は言うまでもない。

 僕、神守礼はゆかいなヤンデレ娘達に振り回されながら学園生活を送っている。
 お兄ちゃん大好きでリヤルヤンデレの美子。
 元ヤンで、グイグイと僕に迫る眞智子。
 頭が病んでいるほど滅茶苦茶で、激情的に俺に食らいつく佐那美。


 ――さて、僕は無事に彼女を作る事が出来るだろうか……


 とにかく頼むから、喧嘩しないで! 

第1章 お願いだから喧嘩しないで! (完)
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