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第1章 お願いだから喧嘩しないで!

第6話 お願いだから、演目きめて!

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 前回のあらすじ
 クラスの『催し物』の再選定を問うため、今まで撮影されていた動画を公開した緊急クラス会。皆が目にした物は、完全に『吐き気を催す物』であった。
 脳みそ吹っ飛ばされた眞智子が採決を執るが、さらなる吐き気を催され、案の定おじゃんとなる。
 バイト仲間のメンヘラヤンデレに間違って電話をしてしまい、誤魔化しついでに得た答えが
   『ホノボノとした間抜けな話』
である。
 そのことを美子に話すが、なぜか彼女は性欲に目覚めてしまう。
 どうなる俺の貞操・・・そう心配した時に現れたのは『母トラマン』である。彼女は数秒で美子を成敗すると、この家の彼方に旅立っていった.
 ありがとう『母トラマン』、これからも僕の貞操を守ってくれ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 放課後、僕と眞智子、マサやんだけがクラスに残って作戦会議。

 「確かに、今回はうちらの落ち度だったとしても、それにしてもみんな『お前らに任す。何でも協力するから』って逃げ出すの卑怯じゃない?」

 「何言っているの、『意見出せ』と脳みそぶちまけた小野乃が、凄い形相で睨む付けるからみんな萎縮しているんじゃないのか?」

 確かに眞智子やマサやんの言うとおりである。
 だが、マサやんの突っ込みよりも現実に何をすべきなのか決める方が先決である。もうそんなことに議論している時間はない。
 だったらクラスの連中には『僕らに一任』するように誘導した。

 こういう場合、『何をするのか』に対して『何をコンセプトにするか』で考えた方が早い。眞智子らに対して、 

 (1)当初の案である眞智子希望の演劇にすること。
 (2)高校生らしい演劇にするため、スプラッターにしないこと。
 (3)手っ取り早くシナリオが組めて、みんなが分かりやすい物にすること。

であることをコンセプトとして提示したところそれならいいのがあるわよ」と眞智子がすぐに食らいついてきた。

 「『昔流行したゲーム』を元に演劇アレンジするものでいいんじゃないの。これならみんなに分かり易いし、それのオマージュであれば時間短縮できるわよ」

 そういわれてもなぁ……僕はゲームやった事ないからわかんないんだけど。
 今度はマサやんが――

 「そうだな。ゲームが元ならシナリオはしっかりしているし、健全な物を選べばすぐ演劇用にアレンジできるハズ。それなら大丈夫だわ」

――と眞智子の案に賛同した。 

 「そうだね。その線ですすめて行けば良いと思う。確かにどこぞの血まみれ映画に比べれば雲泥の差だよ」

 「じゃあ、決まりね」

 そういう事でゲームシナリオの演劇で落ち着いたという事で決となった。
 あとは元となるゲームである。
 すると、眞智子が『アース(天空の女神)』を参考にしたらいいのではないかと推薦があった。

 「どんな話?」

 「魔物の巣窟となっている伝説のアースという地に向かった覇者エーデル=エンドルファが、女神達ヒロインの力を借りて宿敵を倒し、アースの平和を取り戻し去って行くという話よ」

 「まあ、よくある話だよな」

 「あのね、よくある話の『これが元祖』なの! その当時のパソコンゲームとしては伝説になっているんだから!」

 眞智子がグイグイ前のめりになって語り出してきた。元々彼女は学園ものを希望していたが、これもやりたかったようである。

 「小野乃の言うとおり、それで良いと思う。それじゃあそれをベースに話を進めるか」

 ――よし、これで骨組みがきまった。

 「あっ、ちなみにヒロイン枠あるから!」

 眞智子がさらに前のめりになって僕の顔に鼻先を近づけた。美子がそれをみたら間違えなく『有罪』確定である。

 「確か3人いたよなぁ」

 「そうなのよ3人いるのよ。ホント、この主役はどこかのヘタレと同じだね」

 眞智子が不快そうに僕の顔をチラ見をする。どうせこちらから「何か言いたげだね」と返そうなら「別に~」とさらに機嫌が悪くなるパターンである。あえて素知らぬ顔でスルーした。

 「神っち大丈夫、どうせ主人公は次なる世界へ旅立っていくんだもの」

 「そうなのよね、そこが切ないパターンよね――なんとかしなくちゃねぇ」

 眞智子は頭を両手で抱えるとなにやらブツブツと考え出した。

 「だから、ヒロイン3枠あるから小野乃や神っちの妹、地端でやってもなんら問題はない」

 おぉ、なんてすばらしい話だろう! こいつらチームヤンデレ(1人目はヤンキーヤンデレ、2人目はブラコンヤンデレ、3人目は頭がヤンデレ)から逃れられる主人公って! そして新たな冒険の旅に出れるとは!

 ――そう喜んでいたのだが、よく考えてみると主人公は『僕』なのか?

 「一応聞くが配役は――誰?」

 「この3ヒロイン起用して、お前なしってわけないだろ?3人が暴動起こすぞ。それにクラスの連中らに今から面倒役回したら恨まれるぞ」

 「確かに時間がないからな。とりあえず話を進めよう。マサやん、お前はシナリオと宿敵でいいな。美子さん達は僕が説得する。それと他の連中にも頼むとしよう」

 話はだいぶまとまった。すると、眞智子がそろりと挙手し質問してきた。

 「それで、私は何役をすればいいの?」

 「ああ、小野乃と地端はお嬢様風だから女神役でどうか? 妹が町娘風だから主役をサポートする役。シナリオ概要はゲームかアニメで調べてくれ」

 「んじゃ、私はフィリア役ね!」

 「いいなぁ即決か。僕はストーリー眞智子やマサやんみたいに知らんから、把握するまでちょっと掛かるなぁ――あっそうだ……」

 僕は他の連中が、演じる上でストーリーとキャラの特徴を他の連中にも知らせようと思いスマホを手にしたところ、眞智子は僕の話を遮り「ごめん、みんなに伝えるのはもう少し待って」と渋った。
 渋った理由を――

 「前回は何も決まっていない段階で佐那美に引っかき回されたから、ある程度仕上がるまで待って欲しい。それにあたしは色々と感情を込めたいのよ」

――と付け加えた。

 「俺も調子に乗って地端を仕掛けてしまったからなぁ。今回はうちらで主導権を握っておいた方がいいな」

 マサやんも反省している。
 今回はこちらで主導権を握って振り回されないようにしたいわけか。
 それに眞智子もやりたいヒロインをゲットしたからには、気合い入れたくなるのも当然である。

 「とりあえず、みんなへの連絡は明日まで待ってね。それまでにはスイッチ入る様にするから」

 「わかった。マサやんも明日までになんとか仕上がるか?」

 「急だけど、何とかするよ」

 まず一つの予定これで歯車が動き出した。
 あとは頃合いを見て、美子と佐那美に声を掛けるだけとなった。
 それにしても、なぜ眞智子がプロみたいに感情移入したかったのか?
 それが心に引っかかった。
 

――さて、次の日。


 朝一、マサやんからSNSでシナリオ仕上がった旨の連絡が入った。
 基本的にゲームのストーリーに踏襲しているが、ここは大人の事情で舞台は『アース』から『この世界』と表現を変え、キャラクターは主人公・女神・町娘・宿敵にして名前はあえて使わないことになったらしい。
 主役は世界を旅する勇者、ヒロインは2人の女神、同じく主役をサポートする町娘、世界の宿敵。
 僕も昨日、マサやんからビデオアニメ借りて内容を把握したので、どういうキャラを演じれば良いか何となくわかった。
 朝一番、先にクラスに入っていた眞智子に声を掛ける。
 眞智子は、沈んだ様子で大きくため息をつきながら、僕に顔を向けた。
 いつもならニコニコしている彼女は、目を腫らせ充血している。

 「大丈夫?」

 「あぁ――こりゃ、何度見ても、泣けちゃうわよね」

 前のめりになってグイグイ推し進めてきた眞智子が意外にも泣いている。
 眞智子はすでにゲームをクリアしたことがあり、そのゲームをもう一度リプレイしながら確認していた様だ。

 「シナリオ確認ご苦労様でした」

 「いやぁ。私、諸悪の根源を封印するんだよね、未来永劫――自分ごと。切ないよねぇ……」

 「うん、さすが眞智子さん。感情移入完璧だね!それなら――」

 この後、僕は『それなら、観客をガンガン泣かせてください!』と言おうとしたが、すぐに彼女が話を遮るように――

 「だから、そのあたり何とかするから。それは昨日寝ないで考えたから」

――と言ってVサインを出した。どういう意味だろうか?

 「まあまあ、礼君は、あたしが感情が高まった時、フォローしてくれればそれでいいから。任せてよ! あとシナリオできたってマサから聞いたからもうみんなにも話していいから!」

 「はあ……」

 一体、どんな演技をするつもりなのか――ちょっと不安になってきた。

 ようやく眞智子のゴーサインが出たところで正式公表である。
 クラスの方はスタンディングオベーションで承認を得た。まあスプラッター映画ではないというのも理由の一つであるが、何よりも『姉御』自ら面倒くさいのやってくれるのは大変ありがたいわけで……要はほっとした訳である。

 さて、美子の方であるが、諸事情を踏まえて話したところ「あぁ、あのゲームか」
とすぐにキャラを理解していたようで――

 「私、町娘役でいいの? お兄ちゃんが主役でしょ? ならいいよ」

――とニコニコしながら即決した。
 やっぱり彼女はそういう面に限っては楽勝である。

 問題は佐那美か? もちろん対策は練ってある。


 「ダメ! 何で神守君が演劇するの? 事務所として許可した覚えはないわ!」

 
 ……案の定反対された。
 おいおい、お前はいつから地端プロダクションの正式な事務員になったんだ?
 ――と小さく突っ込みを入れつつ、こうなることは十分わかっていた。
 前回、佐那美が許可出したのはホンの気まぐれである。
 佐那美は賛成すると怖いほど振り回してくれるが、反対に回ると絶壁のような胸――じゃなかった絶壁のように立ちはだかる障害になる娘である。

 「何言っているの? 誰かの映画のおかげで、うちのクラスの催し物が変更になったわけだし。その保証として地端のおっちゃんにお願いして俳優を何人か無償で出演してもらうんだと眞智子さんが騒いでいるんだけどなぁ」

 もちろん、眞智子はそんなこと一言も言っていない。
 彼女の性格なら佐那美をぶん殴らせれば簡単に許してしまうだろうが、もし眞智子が同席していたら間違えなく僕の案に同調してくれたので粗方嘘ではない。
 それに佐那美の場合、地端のおっさんと比べて金にシビアである。

 「地端プロダクションの俳優を数人無償出演させろって?! そんなことしたらお父さんに怒られちゃうじゃない!」

 「僕は副委員長だから出なきゃまずい。その他にも役者が欲しいんだよね」

 「例えば?」

 僕は佐那美を指さす。

 「えっ、あたし?」

 動揺する佐那美をさらに畳みかける。

 「うちとしてはシャイニー佐那美――とまでもいかないが、地端佐那美に出演してもらえれば、手を打つんだけどなぁ。それで僕から眞智子さんに許しを請うことができるんだけどね。断れれば親父さんに頼めば『うちの娘が迷惑かけた』って言ってクリオあたり出してくれるかもしれないけど……あっ旅費かかっちゃうか。お金かかっちゃうよねぇ――」

 「す、ずるいわよ。わかった、わかったわよ。神守君の演劇を認めるわ。もちろん私も出るわよ!」

 まぁ佐那美程度なら、こんなもんでフィニッシュってところでしょうか。
 問題は短期間にどれだけ稽古できるかである。
 頼むぞ、みんな。


――――それから本番当日。


 僕は佐那美とマサやんから『できるだけ棒読みの素人で』と演技指示を受けた。
 もし文化祭レベルで本気を出されると、僕がレインという事がバレてしまうか、他の事務所からの勧誘(アプローチ)があるかもしれない。
 そうなるとうちの事務所が僕の所属権を明らかにするため大々的にレインをアピールせざる終えないこととなり、僕の高校生活が滅茶苦茶になるとの事であった。

 「要は主人公は素人になりきる――ただそれだけいいんだな」

 「当たり前。あくまでも私らの引き立て役に徹してくれればいいのよ」

 まあ、主役やって目立ちたい訳でもないし、派手な殺陣もしなくていいのだから、ある意味では演劇の練習にもなるだろう。
 ここは地味に演じて見せましょうか。
 
 舞台の幕は開かれる――
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