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第1章 お願いだから喧嘩しないで!
第5話 お願いだから、ぐいぐいと迫らないで!
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前回までのあらすじ
撮影が終わってくたびれて家で伸びていたところ、佐那美の悪巧みを察知した美子が僕と眞智子を引き連れ、佐那美宅へ殴り込み。
眞智子と美子が佐那美を問い詰める。
彼女の供述どおり元家のパソコンに記録されていたのは惨殺映像だった。
ゲロまみれになる佐那美の部屋。
激怒の余り、感情が赴くまま元家を粛正する美子。
この惨殺シーンを公開していいかどうか?皆の真意を問うことにした。
……でも、こんなの『催し物』じゃなくて『吐き気を催す物』だよなぁ。
さて、そんな訳で緊急のクラス会でエチケット袋配布後試写会したわけであるが、冒頭のとおり嘔吐者続出、失神者も出た。
もちろん、さっきまで脳みそぶちまけていた人が賛否をとるのだから、彼女の顔を見て『思い出し嘔吐』したものもいた。
眞智子は青筋立てながら採決に臨むわけだが、こんな状況で賛成に回る奇特な人はいないわけで、全会一致でボツとなった。
そして新たなる出し物を早急に企画立案することになった訳である。
それについては明日まで持ち越しとなった。
僕は、自宅に戻ると美子に頭を下げ、映画は中止になった旨告げた。
美子は「ああ、しょうがないよ。あれは私が出るって言ってた奴だから」と、常識的に理解を示したものの――
「しっかし、あれ私殴られ損じゃないの。しかもCGの私は打ち首だし――あとで眞智子と佐那美にはお返ししておかないと……
――とブツブツ言いながら自分の部屋に戻っていった。
……とは言っていたものの、『お兄ちゃんと一緒にやりたい』と頑張ってくれた彼女には大変すまないことになってしまった。
さて、早く催し物決めないと。いいアイデア持っている人いないかなぁ――そう考えながら自分の部屋でスマホを弄っていたら、間違えてバイト仲間の奴に国際電話を掛けてしまった。
「あっ、ヤバ――」
そう思ってすぐ切ろうとすると、ワンコールで『何、レイン! アメリカに帰る気になった?』と速攻で電話が繋がってしまった。
彼女はサンディ=クリストファー、またの名を『クリオ=L=バトラックス』。歴としたアメリカ人女性だ。
しかも国際電話でその現地のアメリカ人に対して日本語で会話しているというのが笑っちゃうところであるが、彼女がどうしても日本語覚えたいと言うので、僕との日常会話は日本語となっている。
その他に彼女が日本語の教材としているのは某声優さんのツンデレアニメである。そればかり見て研究しているものだから、日本語もそれに限りなく近い。
彼女と話をするといつもどこかのキャラクターがつい頭をよぎるんだよな――
「やあ、サンディ。間違えて電話してしまったから電話切るね」
『ちょ、ちょっと待ちなさいよ。真夜中に電話かけてきたんだから、ちょっとぐらいは話しなさいよ』
それは悪い事をした。日本とアメリカのロサンゼルスとの時差は16時間あるというのに、海外に間違え電話すると相手に迷惑かかるな。
日本の今の時間から5時間マイナスにして昼と夜を反転させた時間だとどこかのサイトに書いてあったっけ。
「寝てるところ悪かった。安心して寝てく――」
『いいから……何か話しなさいよ』
サンディはさみしそうに強がる。
彼女は無理して強がるくせに、心許した人にはとっても甘えたがる。
そのくせ人に馴染めず、気持ちが落ち込むととことんまで泣き続ける。
僕は彼女のモチベーション上げるのに非常に苦労させられた。
その結果がツンデレである。
いや、具体的に言うならメンタルツンデレアメリカヤンキー娘である。
――これって、ヤンデレに入るのか?
その彼女の事だから、このまま通話をバッサリと切ったら、延々と折り返し電話を掛け続け、最後には泣かれるんだろうなぁ……
もう少し話しておいた方が穏便に済むだろうし、期待はしていないけど催し物のアドバイスはもらえるかもしれない。
「オッケー、サンディ――」
『サンディじゃない! 本名で言いなさい……全く他人行儀なんだから』
「わかった、わかったクリオ。ところで相変わらず何かしでかして監督に怒られているのか?」
『ちょっとあんた、挨拶がそれってどういうこと?! そんなつまらない事はどうでもいいから、ちょっとはまともに会話しなさいよね!』
ヒステリックっぽい声で反撃する――ということはまた怒られているのか。
『そんで、今日の電話はアタシをからかうだけで終わらないわよね』
「まさか。今、うちの学校の文化祭で困ったことになってさ」
『――たしか文化祭ってカーニバルの事よね……はぁ? あんた、そんなことでアタシに電話してきたわけ。もぉ信じらんない! あんたホントに馬鹿でしょ! アタシはてっきり寄りを戻してまた一緒に映画やりたいっていうと思って期待しちゃったじゃないの!』
ははは……寄りを戻すっていう意味はわからんが、そこまでアニメキャラかぶんなくていいぞ。
「まあまあ、怒るなよ。実は――」
僕はこれまでの経緯を彼女に話した。
彼女は僕の話を一通り聞くと、はぁ……っとあきれた感じのため息をついた。
『あんたねえ――あのビッチに映画企画させるって言うこと自体が間違っているんじゃないのぉ……』
実はサンディ……じゃなかったクリオは佐那美と面識はある。
もちろん、クリオにしてみれば「あんな馬鹿と一緒にしないでくれる?」と嫌悪感まるだしなのだが、それには理由がある。
映画のプロモーションで佐那美と会ったそうだ。
初顔合わせの時に佐那美は『親愛の情を示す言葉』を話そうとしていたようだが、彼女自体英語は壊滅的な状況であり、なんて言葉を掛けていいかわからずに、とりあえず響きがいいという理由だけで――
「ふぁっきゅうー」
と、クリオに挨拶してしまったらしい。
いきなりその言葉はないだろ?
クリオにしてみれば『喧嘩売っているの?』って思うわけで、クリオからその時の話を事ある毎に何度も聞かされた。
それ以来彼女は佐那美を敵視している。
そうとも知らず、佐那美はクリオのことをマブダチと勘違いしている。
もちろん、今でもクリオのことを『ふぁっきゅうー』と呼び続けている。
さすが佐那美である。
『あれはチバタのところのスクリュービッチなんだから、あんたもちょっとは考えて依頼しなさいよね』
「まあ佐那美に頼んだ覚えはないのだが――逆にクリオだったら佐那美よりいいアイデア出してくれるかなって思ってさ」
僕はちょっとばっかり彼女をおだてた。
すると彼女はうれしそうな声を挙げ、『やっぱりアンタはアタシのことわかっているじゃん!』とちょっと褒めただけで過剰に喜んでいる様であった。
良い言い方すれば、彼女は褒めると伸びるタイプである。
ここから彼女のアドバイスに入るわけだが――正直、当たり前で代わり映えしない内容であった。
それでも『あたしが出たい』とか『クラスなんだから学級委員の私達が出るのは当然』、『お兄ちゃんの相手は私に決まりね』など強引な要求は一切はなかったので話が素直に受け入れられた。
「ありがとう、参考になった。君に聞いて良かったよ、クリオ」
とりあえず、久しぶりにクリオと話ができて良かった。
このままいい流れで、電話を切ろうと思う。
『そう良かったわ。それじゃあ、折角だから――私と一緒に映画に……』
――おっと、これは悪い流れになりそうだ。また映画で苦労するのも困るんで、ここは強引に「ありがとう。じゃあまたね……ブツ」と、話途中にお構いなしに電話を切った。
そしてスマホの電源をオフにする。
これで地端の親父さん経由でクリオから小言聞かされるのは確実になった。
「電話終わった? アメリカ版佐那美のアドバイスはどうだった?」
我が家のトラブルメーカーである。彼女は勝手に僕の部屋に入り込み、無断で僕のベッドに横になり、そして断りもなく僕の教科書眺めていた。
一体いつの間に忍び込んだんだろう……
さて、それは置いておいても、美子はクリオのことをよく思っていないどころか大っ嫌いである。
それというのも映画ではレインのセットで出演していることが多い。もちろんこれは地端プロダクションの意向であるが、一種のお約束として『彼女のトラブルに巻きこまれて危機一髪』のシーンがふんだんに盛り込まれている。
その危機一髪とは、彼女のドジのせいで僕が死にそうな思いをするということであり、これはシナリオ上の芝居ではなく彼女の大ポカによる副産物だったりする。
美子としてみれば、クリオが僕に必要以上に一緒にいるのと、天然ボケで危険な目に遭わせてくれるので、大っ嫌いとのころだ。
美子曰くクリオは『アメリカ版佐那美』だそうだ。
まあ僕から見ても佐那美は脳天気お馬鹿であり、クリオはメンタルツンデレくらいの違いだけであって、どちらとも地雷女であることには違いない。
「とりあえず『映画撮影はあきらめろ』ってさ」
「――ふーん、大したご意見ね。あまりにも普通すぎて驚いたわ」
美子がつまらなそうにつぶやいた。
「でも、クリオが言うには、『サスペンスホラーなんかよりもホノボノとした間抜けな話で盛り上がったら?』だってさ」
「それは確かなことね。私だって映画だと言っても礼兄さんをあのバカ共に殺されるのも嫌だし――勘違いメンヘラ女に『間抜け』って言うのはカチンとくるところだけど、ソレで手を打つか」
そう言うと僕の教科書を鞄の中に戻すと、彼女は半身を起こすとそそくさと動き出した。最初は全く気にもしていなかったのだが、彼女がせわしなく体を揺らしていたので、つい視界を彼女に移してしまった。
どうやら彼女は僕のベッドの上で服を脱いでいたようだ――って?!気がつくと彼女はすでに下着姿になっていた。
今度のトラブルはこっちか? 息つく間もない。
「さ、さあ、お兄ちゃん。ちゃちゃっと済まそう!」
美子は目を鼻息荒く血走らせ、手を震わせながらブラに手を掛けた。
美子が超えてはならない一線に立ち向かおうとしていたので、僕は咄嗟に彼女の手を抑えそれ以上の動きを止める。
「話がわからん! ちょっと待て。さっき演劇で手を打つって言ったじゃん」
「そんなこと言っていないもん。私が言ったのは『ホノボノとした間抜けの話』っていうソレであって、だから私はリアルでホノボノと間抜けな話を満足させてもらえばいいから。結論だけ言えば『おにいちゃんと一緒にヤリたい』!」
「いやいやいやいや――確かに間抜けな話だが、そういうのは如何なものかと思うぞ。それに『やりたい』って言うの劇であって性的なものじゃないよね?」
「大丈夫、だーいじょうぶ。みんなに言わなきゃわかんないから。ちょちょっと先っぽ入れてくれるだけでいいんだから。どうせ言わなきゃバレないし――」
とても妹だとは思えないようなお誘いである。
こういうときにほど『なんでこいつ僕の妹でこんなにかわいいのだろう』と恨めしく思うことはない。外見か性格かそれとも両方が不細工な妹だった方が僕としては心穏やかなのだが、ホンに神様は残酷である。
だが、本当の残酷はこれからであった。
ずるりと彼女を抑えていた手が滑り抜けた。そして何かが地面にハラリと落ちた。
僕は慌てて両手で自分の目を隠した。
「ちょっと待って、数秒時間ちょうだい。……3,2,1…………い・い・よ。手を放しても」
彼女の声が妙に大人びて聞こえた。
ど、ど、どうしよう……手を放すべきは放さないべきか。
散々悩んだ挙げ句、情けない一言を発するのが精一杯だった。
「ちょ、ちょっと冷静になろうよ。ねえ」
「大丈夫よ。心配性ねぇ……もうしないだろうから」
「しないだろう――て人ごとみたいでいい加減だなぁ。でもまあ一応信じるぞ。嘘付いたらマジで怒るぞ」
「ハイハイ……どうぞどうぞ」
ずいぶんハッキリと答える。開き直っているのか?
僕はゆっくり覆っている手を外しまぶたを開いた。
すると、見てはいけない光景を僕は見てしまう事になった。
下には美子のブラジャーが落ちており――ゆっくりと見上げると、ぶらん……とぶら下がるではないか。
――美子が。
「はいいぃ?!」
僕は裏返った声をあげ事態を確認すると、美子は僕に背を向け、宙に浮いている状態であり、その作用点を確認するに美子の額を鷲掴みアイアン・クローを決めている母、美和子がそこにいた。
「ねっ、母さん言ったとおり大丈夫でしょ」
えっ?!さっき僕と会話していたのは母さんだったのか。道理で美子にしては大人びた声だった。
それにしても顔で笑いながらも目が笑っていないところがまた恐怖感をそそる。それにアイアン・クローで美子を持ち上げるとは……すごい握力である。
「ぎ、ギブ……ギブ!」
美子が必死で彼女の手をトントンと叩いて許しを請う。
「ほお――おまえ、実の兄に胸をポロリと見せつけてその次は何するつもりだったんだ?」
「ほ……保健体育の勉強」
「うそつけ、この近親相姦妄想女が!」
「ぎゃ……ぎゃあああああ!」
何かミシミシときしむ音が美子の頭から聞こえた。
「母さん、美子死んじゃう。ストップ、ストップ!」
その後、美子は眞智子や佐那美が聞いたら大爆笑するほど気の毒な刑に処せられる事となった。まあ命あっただけでも儲けものだ。
撮影が終わってくたびれて家で伸びていたところ、佐那美の悪巧みを察知した美子が僕と眞智子を引き連れ、佐那美宅へ殴り込み。
眞智子と美子が佐那美を問い詰める。
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ゲロまみれになる佐那美の部屋。
激怒の余り、感情が赴くまま元家を粛正する美子。
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……でも、こんなの『催し物』じゃなくて『吐き気を催す物』だよなぁ。
さて、そんな訳で緊急のクラス会でエチケット袋配布後試写会したわけであるが、冒頭のとおり嘔吐者続出、失神者も出た。
もちろん、さっきまで脳みそぶちまけていた人が賛否をとるのだから、彼女の顔を見て『思い出し嘔吐』したものもいた。
眞智子は青筋立てながら採決に臨むわけだが、こんな状況で賛成に回る奇特な人はいないわけで、全会一致でボツとなった。
そして新たなる出し物を早急に企画立案することになった訳である。
それについては明日まで持ち越しとなった。
僕は、自宅に戻ると美子に頭を下げ、映画は中止になった旨告げた。
美子は「ああ、しょうがないよ。あれは私が出るって言ってた奴だから」と、常識的に理解を示したものの――
「しっかし、あれ私殴られ損じゃないの。しかもCGの私は打ち首だし――あとで眞智子と佐那美にはお返ししておかないと……
――とブツブツ言いながら自分の部屋に戻っていった。
……とは言っていたものの、『お兄ちゃんと一緒にやりたい』と頑張ってくれた彼女には大変すまないことになってしまった。
さて、早く催し物決めないと。いいアイデア持っている人いないかなぁ――そう考えながら自分の部屋でスマホを弄っていたら、間違えてバイト仲間の奴に国際電話を掛けてしまった。
「あっ、ヤバ――」
そう思ってすぐ切ろうとすると、ワンコールで『何、レイン! アメリカに帰る気になった?』と速攻で電話が繋がってしまった。
彼女はサンディ=クリストファー、またの名を『クリオ=L=バトラックス』。歴としたアメリカ人女性だ。
しかも国際電話でその現地のアメリカ人に対して日本語で会話しているというのが笑っちゃうところであるが、彼女がどうしても日本語覚えたいと言うので、僕との日常会話は日本語となっている。
その他に彼女が日本語の教材としているのは某声優さんのツンデレアニメである。そればかり見て研究しているものだから、日本語もそれに限りなく近い。
彼女と話をするといつもどこかのキャラクターがつい頭をよぎるんだよな――
「やあ、サンディ。間違えて電話してしまったから電話切るね」
『ちょ、ちょっと待ちなさいよ。真夜中に電話かけてきたんだから、ちょっとぐらいは話しなさいよ』
それは悪い事をした。日本とアメリカのロサンゼルスとの時差は16時間あるというのに、海外に間違え電話すると相手に迷惑かかるな。
日本の今の時間から5時間マイナスにして昼と夜を反転させた時間だとどこかのサイトに書いてあったっけ。
「寝てるところ悪かった。安心して寝てく――」
『いいから……何か話しなさいよ』
サンディはさみしそうに強がる。
彼女は無理して強がるくせに、心許した人にはとっても甘えたがる。
そのくせ人に馴染めず、気持ちが落ち込むととことんまで泣き続ける。
僕は彼女のモチベーション上げるのに非常に苦労させられた。
その結果がツンデレである。
いや、具体的に言うならメンタルツンデレアメリカヤンキー娘である。
――これって、ヤンデレに入るのか?
その彼女の事だから、このまま通話をバッサリと切ったら、延々と折り返し電話を掛け続け、最後には泣かれるんだろうなぁ……
もう少し話しておいた方が穏便に済むだろうし、期待はしていないけど催し物のアドバイスはもらえるかもしれない。
「オッケー、サンディ――」
『サンディじゃない! 本名で言いなさい……全く他人行儀なんだから』
「わかった、わかったクリオ。ところで相変わらず何かしでかして監督に怒られているのか?」
『ちょっとあんた、挨拶がそれってどういうこと?! そんなつまらない事はどうでもいいから、ちょっとはまともに会話しなさいよね!』
ヒステリックっぽい声で反撃する――ということはまた怒られているのか。
『そんで、今日の電話はアタシをからかうだけで終わらないわよね』
「まさか。今、うちの学校の文化祭で困ったことになってさ」
『――たしか文化祭ってカーニバルの事よね……はぁ? あんた、そんなことでアタシに電話してきたわけ。もぉ信じらんない! あんたホントに馬鹿でしょ! アタシはてっきり寄りを戻してまた一緒に映画やりたいっていうと思って期待しちゃったじゃないの!』
ははは……寄りを戻すっていう意味はわからんが、そこまでアニメキャラかぶんなくていいぞ。
「まあまあ、怒るなよ。実は――」
僕はこれまでの経緯を彼女に話した。
彼女は僕の話を一通り聞くと、はぁ……っとあきれた感じのため息をついた。
『あんたねえ――あのビッチに映画企画させるって言うこと自体が間違っているんじゃないのぉ……』
実はサンディ……じゃなかったクリオは佐那美と面識はある。
もちろん、クリオにしてみれば「あんな馬鹿と一緒にしないでくれる?」と嫌悪感まるだしなのだが、それには理由がある。
映画のプロモーションで佐那美と会ったそうだ。
初顔合わせの時に佐那美は『親愛の情を示す言葉』を話そうとしていたようだが、彼女自体英語は壊滅的な状況であり、なんて言葉を掛けていいかわからずに、とりあえず響きがいいという理由だけで――
「ふぁっきゅうー」
と、クリオに挨拶してしまったらしい。
いきなりその言葉はないだろ?
クリオにしてみれば『喧嘩売っているの?』って思うわけで、クリオからその時の話を事ある毎に何度も聞かされた。
それ以来彼女は佐那美を敵視している。
そうとも知らず、佐那美はクリオのことをマブダチと勘違いしている。
もちろん、今でもクリオのことを『ふぁっきゅうー』と呼び続けている。
さすが佐那美である。
『あれはチバタのところのスクリュービッチなんだから、あんたもちょっとは考えて依頼しなさいよね』
「まあ佐那美に頼んだ覚えはないのだが――逆にクリオだったら佐那美よりいいアイデア出してくれるかなって思ってさ」
僕はちょっとばっかり彼女をおだてた。
すると彼女はうれしそうな声を挙げ、『やっぱりアンタはアタシのことわかっているじゃん!』とちょっと褒めただけで過剰に喜んでいる様であった。
良い言い方すれば、彼女は褒めると伸びるタイプである。
ここから彼女のアドバイスに入るわけだが――正直、当たり前で代わり映えしない内容であった。
それでも『あたしが出たい』とか『クラスなんだから学級委員の私達が出るのは当然』、『お兄ちゃんの相手は私に決まりね』など強引な要求は一切はなかったので話が素直に受け入れられた。
「ありがとう、参考になった。君に聞いて良かったよ、クリオ」
とりあえず、久しぶりにクリオと話ができて良かった。
このままいい流れで、電話を切ろうと思う。
『そう良かったわ。それじゃあ、折角だから――私と一緒に映画に……』
――おっと、これは悪い流れになりそうだ。また映画で苦労するのも困るんで、ここは強引に「ありがとう。じゃあまたね……ブツ」と、話途中にお構いなしに電話を切った。
そしてスマホの電源をオフにする。
これで地端の親父さん経由でクリオから小言聞かされるのは確実になった。
「電話終わった? アメリカ版佐那美のアドバイスはどうだった?」
我が家のトラブルメーカーである。彼女は勝手に僕の部屋に入り込み、無断で僕のベッドに横になり、そして断りもなく僕の教科書眺めていた。
一体いつの間に忍び込んだんだろう……
さて、それは置いておいても、美子はクリオのことをよく思っていないどころか大っ嫌いである。
それというのも映画ではレインのセットで出演していることが多い。もちろんこれは地端プロダクションの意向であるが、一種のお約束として『彼女のトラブルに巻きこまれて危機一髪』のシーンがふんだんに盛り込まれている。
その危機一髪とは、彼女のドジのせいで僕が死にそうな思いをするということであり、これはシナリオ上の芝居ではなく彼女の大ポカによる副産物だったりする。
美子としてみれば、クリオが僕に必要以上に一緒にいるのと、天然ボケで危険な目に遭わせてくれるので、大っ嫌いとのころだ。
美子曰くクリオは『アメリカ版佐那美』だそうだ。
まあ僕から見ても佐那美は脳天気お馬鹿であり、クリオはメンタルツンデレくらいの違いだけであって、どちらとも地雷女であることには違いない。
「とりあえず『映画撮影はあきらめろ』ってさ」
「――ふーん、大したご意見ね。あまりにも普通すぎて驚いたわ」
美子がつまらなそうにつぶやいた。
「でも、クリオが言うには、『サスペンスホラーなんかよりもホノボノとした間抜けな話で盛り上がったら?』だってさ」
「それは確かなことね。私だって映画だと言っても礼兄さんをあのバカ共に殺されるのも嫌だし――勘違いメンヘラ女に『間抜け』って言うのはカチンとくるところだけど、ソレで手を打つか」
そう言うと僕の教科書を鞄の中に戻すと、彼女は半身を起こすとそそくさと動き出した。最初は全く気にもしていなかったのだが、彼女がせわしなく体を揺らしていたので、つい視界を彼女に移してしまった。
どうやら彼女は僕のベッドの上で服を脱いでいたようだ――って?!気がつくと彼女はすでに下着姿になっていた。
今度のトラブルはこっちか? 息つく間もない。
「さ、さあ、お兄ちゃん。ちゃちゃっと済まそう!」
美子は目を鼻息荒く血走らせ、手を震わせながらブラに手を掛けた。
美子が超えてはならない一線に立ち向かおうとしていたので、僕は咄嗟に彼女の手を抑えそれ以上の動きを止める。
「話がわからん! ちょっと待て。さっき演劇で手を打つって言ったじゃん」
「そんなこと言っていないもん。私が言ったのは『ホノボノとした間抜けの話』っていうソレであって、だから私はリアルでホノボノと間抜けな話を満足させてもらえばいいから。結論だけ言えば『おにいちゃんと一緒にヤリたい』!」
「いやいやいやいや――確かに間抜けな話だが、そういうのは如何なものかと思うぞ。それに『やりたい』って言うの劇であって性的なものじゃないよね?」
「大丈夫、だーいじょうぶ。みんなに言わなきゃわかんないから。ちょちょっと先っぽ入れてくれるだけでいいんだから。どうせ言わなきゃバレないし――」
とても妹だとは思えないようなお誘いである。
こういうときにほど『なんでこいつ僕の妹でこんなにかわいいのだろう』と恨めしく思うことはない。外見か性格かそれとも両方が不細工な妹だった方が僕としては心穏やかなのだが、ホンに神様は残酷である。
だが、本当の残酷はこれからであった。
ずるりと彼女を抑えていた手が滑り抜けた。そして何かが地面にハラリと落ちた。
僕は慌てて両手で自分の目を隠した。
「ちょっと待って、数秒時間ちょうだい。……3,2,1…………い・い・よ。手を放しても」
彼女の声が妙に大人びて聞こえた。
ど、ど、どうしよう……手を放すべきは放さないべきか。
散々悩んだ挙げ句、情けない一言を発するのが精一杯だった。
「ちょ、ちょっと冷静になろうよ。ねえ」
「大丈夫よ。心配性ねぇ……もうしないだろうから」
「しないだろう――て人ごとみたいでいい加減だなぁ。でもまあ一応信じるぞ。嘘付いたらマジで怒るぞ」
「ハイハイ……どうぞどうぞ」
ずいぶんハッキリと答える。開き直っているのか?
僕はゆっくり覆っている手を外しまぶたを開いた。
すると、見てはいけない光景を僕は見てしまう事になった。
下には美子のブラジャーが落ちており――ゆっくりと見上げると、ぶらん……とぶら下がるではないか。
――美子が。
「はいいぃ?!」
僕は裏返った声をあげ事態を確認すると、美子は僕に背を向け、宙に浮いている状態であり、その作用点を確認するに美子の額を鷲掴みアイアン・クローを決めている母、美和子がそこにいた。
「ねっ、母さん言ったとおり大丈夫でしょ」
えっ?!さっき僕と会話していたのは母さんだったのか。道理で美子にしては大人びた声だった。
それにしても顔で笑いながらも目が笑っていないところがまた恐怖感をそそる。それにアイアン・クローで美子を持ち上げるとは……すごい握力である。
「ぎ、ギブ……ギブ!」
美子が必死で彼女の手をトントンと叩いて許しを請う。
「ほお――おまえ、実の兄に胸をポロリと見せつけてその次は何するつもりだったんだ?」
「ほ……保健体育の勉強」
「うそつけ、この近親相姦妄想女が!」
「ぎゃ……ぎゃあああああ!」
何かミシミシときしむ音が美子の頭から聞こえた。
「母さん、美子死んじゃう。ストップ、ストップ!」
その後、美子は眞智子や佐那美が聞いたら大爆笑するほど気の毒な刑に処せられる事となった。まあ命あっただけでも儲けものだ。
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天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
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