幸福、配達します。

空々ロク。

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幸福、配達します。

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世の中、色んな職業があるけれど人を幸せにするのがボクの仕事だ。
泣きそうな子供がいたら飴を差し出して、困っている女の子がいたら話を聞いて──そして笑顔になってもらう。
「ふぅん。じゃあキミはどうやって幸せになるの?」
85番目に助けた男の子。
10歳ぐらいに見えるその子はボクを見上げて尋ねた。
「ボクは皆が幸せになってくれたら幸せだから」
なでなでと頭を撫でる。
今のボクは身長180センチ位の優しい顔をした男だ。当たり障りも特徴もない顔だが、柔和な印象を与えているはずだ。
「いい人だね。助けてくれてありがとう」
財布を落とした男の子は出会った時泣きそうな顔をしていたが今はニッコリと笑っている。
たった3分で笑顔にさせることが出来るのだからボクの能力は評価されてもいいと思う。
「いえいえ。もう落とさないようにね」
「また会える?」
その質問には手を振るだけで躱した。

ボクが何かと問われたら「何か」としか返せない。
誰にでもなれるし、誰でもない。
曖昧模糊とした存在は幽霊に近いのかもしれない。
それでも確実に人を幸せにしている。
「お、次はあっちにいる女の子か。んー、じゃあイケメンにでもなっておくかな」
するりと姿を変えて、ふわりと目の前に現れて。
「ね、大丈夫?話聞くけど」
「えっ!?だ、誰?」
一瞬戸惑った女の子にウインクをひとつ。
それだけで疑問は一気になくなる。
何でもないボクは何でも出来てしまうのだ。
「あの……彼氏に振られて悲しくて」
「じゃ、甘いものめいっぱい食べに行こうか!」
笑顔を見せると女の子は泣きながら頷いた。
「私がしたいこと言ってくれてる」
「まぁね。君のことはよく分かってるから」
「不思議。初めて会ったはずなのに初めて会った気がしない」
「本当はずっと一緒にいたのかもね」
差し出した手を握り返した女の子は「あー、そんな感じする」と微笑んだ。
「キミって何なの?」
「ずっと考えてるけど分からないんだよねぇ。でも皆を幸せにする仕事してる」
「じゃあ幸福配達人だ」
「いいね!すごくしっくりきた。これからはそう名乗るよ」
「ふふっ。何か会えて嬉しいな」
大きく笑った女の子を見てボクのココロは満たされていく。

ボクは幸福配達人。
「幸せ」という目に見えないもの、そのもの。
シクシクもイライラもギスギスも──全て溶かしてみせるから。
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