色彩から逃げられない。

空々ロク。

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色彩から逃げられない。

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──深夜0時、自室にて。

思えば自分は昔からひとりぼっちだった。
学校へ行けば友達はいるけれど、グループには属しているけれど、それだけだ。
いつだって誰かの2番、3番で──親友と呼べる人などいなかった。
ただ皆の隣に立っているだけの人間。
皆に合わせて笑顔を作っているだけの人間。
それが自分の立ち位置だったように思う。
けれどそれでも良かった。
集団の中でひとりぼっちに見えなければ、何でも。
それ程までに学校という閉鎖的空間は集団を強いてくるのだ。
俺にはそれが苦痛で仕方なかった。
出来れば放っておいて欲しい、誰にも構われたくない、1人でいたい──そう願っていても駄目なのだ。
集団というものは常に個人を攻撃する。
同調しない者を排除したがる。
だから俺は見せ掛けだけでも集団に属していた。
特定のグループに属しているように見せ掛ける方が1人でいるよりも楽だったからだ。
(それも変な話だけどな)
気を遣って偽の笑顔を作って馬鹿みたいに話を合わせる方が楽だなんて。
学校という檻から出た今ならそれがどれだけ異常なことかよく分かる。
そう、異常なのだ。あの「学校」という場所は。
勉強よりも人間関係を上手く保つ方が余程難しい世界を経て俺はますます歪んだ人間になってしまったように思う。
結局のところ何も学べなかった。
くだらない生き方しか得ることが出来なかったのだから。
自分を隠して殺して偽りの自分を作ったりして。
少しでも輪から外れれば疎外される場所で、何とか輪の中にいられるようにして。
(くだらない)
高校を卒業した時、やっと解放されたと思った。
これからは人の目を気にせず自由に生きられるのだと。
けれど現実は甘くなかった。
社会に出ても同じような物だったからだ。
結局勉強が仕事に変わっただけで他は何も変わらない。
誰もが中心人物に媚へつらって疎外されないように必死だった。
何処へ行っても変わらないのだと知った俺はその途端、色彩を失った。
いや、自ら失ったとも言える。
端的に言えばこの世界への興味を失ったのだ。
本気で馬鹿らしいと思ってから物事に対して無関心、無感情になってしまった。
だから今、俺の視界に映る全ての物はモノクロだ。
部屋に置かれた棚も時計も机も何もかも白と黒にしか見えない。
それだけでなく、気付けば過去の思い出も睡眠時に見る夢も全てモノクロになっていた。
けれどそれでいいと思った。
俺にとってはモノクロ世界の方が楽でいい。
ある意味俺は自分の望んでいた世界を創ることが出来たのだろう。
1人きりでいい、誰にも干渉されたくない、放っておいて欲しい──その思いは叶ったとも言える。

それなのに、何故。

近頃白と黒に見える視界の端が色付くようになってしまった。
望んでモノクロ世界にしたというのに、自ら色彩を失ったというのに、未だに色彩は俺を追い掛けてくるのだ。
逃げても逃げても色彩に追われる。
もう色付いた世界など見たくないのに。
(どうせ期待しても裏切られるだけだ)
そんな俺の思いとは裏腹に世界は色付いていく──毎日、毎分、毎秒。
まるで色彩が俺を導いているように思えた。
こっちだ、と。
まだ間に合う、と。
モノクロ世界にはいてはいけないのだ、きっと。
俺みたいな社会不適合者でも、訳ありの問題児でも、昔から歪んだ考え方をしているような奴でも。
──だから色は俺を救いに来た。
そして俺はそれに気付いてしまった。
モノクロ世界を抜け出して、色付いた世界に戻らなければならないのだと。
(結局どっちが幸せかなんて分かんねぇな)
自室で思考している今だって俺は当然ひとりぼっちだ。
別段寂しいとも思わないし、1人暮らしの自分にとってはこれが日常だ。
けれど昨日までの自分と変わってしまった。
目に映る自分の部屋の景色が色付き始めたからだ。
それは同時に俺がこの世界にもう一度希望を持ったとも言える。
きっかけなどなかったように思う。
(いや、ひとつだけ……)
もう一度この世界に希望を持った理由は──。
(そうだ。空が綺麗だと思ったんだ)
夕方、家に帰ってくる途中雨上がりの空を見上げ、久々に綺麗だと思ったのだ。
白と黒で塗られた空だというのに「綺麗」と感じることが出来たのだ。
たったそれだけで俺はこの世界に希望を持てたのかもしれない。
もう一度青空が見たいと心の奥底で思ったのかもしれない。
(くくっ……まぁ、そんなもんか)
自嘲気味に笑ってからベッドに寝転がり、目を閉じた。
今日見る夢も色付いているだろうか。
明日目を覚ましたら色彩に囲まれるのだろうか。
それが少し──楽しみだった。

(もう少しだけ、頑張れそうだ)

理不尽でくだらないこの世界で生きるには、たったひとつでも「支え」がなければならない。
俺は「空」がある限り、何度でも立ち上がれる気がするから。
──願わくば、君も「支え」に気付くことが出来ますように。
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