6 / 77
第7話 縦社会
しおりを挟む俺は気持ちを新たに朽ち木から掘り出した幼虫を食べていると、巣の外から一匹のゴブリンが中に入って来た。
体にはいくつもの傷があり、短命が多いゴブリンの中で長年生きてきたことが分かる体。
このゴブリンは俺も何度も見たことがある――というよりも、俺を生んだゴブリンである。
れっきとした親なんだろうが世話なんて一切してもらった覚えがないし、俺がまだ立ち上がることもできない時期、他のゴブリンに攻撃されているところを冷たい目で傍観していたようなゴブリン。
俺はこのゴブリンを親として思ったことは一度もないし、このゴブリンも俺を子供として見ていない。
血縁関係があるってだけで、驚くほどにドライな関係だ。
そんな母ゴブリンが何をしにきたのかは一切分からないが、俺達に外を出るように命じている。
命令に対して渋っているゴブリンの一匹の耳を掴み、引きちぎる勢いで外へと連れ出そうとしていることから、かなり重要なことがこれから行われるということが分かった。
巣から出た俺達はそのまま母ゴブリンの後を追い、とにかく森の中を歩き続ける。
魔物や獣に襲われてもすぐに逃げられるよう、周囲には十分気をつけながら歩を進めていると、とある開けた場所で足を止めた。
そこには他のところからも集められたであろうゴブリン達がたくさんおり、人間の視点なら地獄絵図のような光景。
俺も含めた集められたゴブリン達を見下ろすように、崖のような場所で立っていたのは赤い体をしたオーガ。
ゴブリンソルジャーの爺さんから聞いていたが、あのオーガがこの一帯のゴブリンを統治しているオーガなのだろう。
オーガはダンジョンの八階層に多く出現しており、俺が人間だった頃ですら大分苦戦を強いられた魔物。
力と耐久力が高く、生半可な攻撃が通らない上に状態異常の耐性もある。
真正面からねじ伏せるというのが正攻法であり、“ルーキー冒険者の壁”と言われていたほど、オーガに殺された冒険者は腐るほどいた。
人間の時ですら身体能力が劣っていたのに、ゴブリン視点だとただの化け物にしか見えない。
俺がゴブリンにしても小さいと言うのもあるが、三倍以上の体格のオーガが更に高い場所から見下ろしているんだから、そう見えてしまうのも仕方がない。
オーガの圧に気圧されていると、上にいるオーガの一匹が一歩前に出て何やら叫び出した。
聞いている限り、話している言語は片言ではあるが人間と同じ言語。
オーガが話すなんて聞いたことがなかったが、ゴブリンソルジャーも話せていた訳だしあり得はするのか。
「これカラ、クミワケをオコなう! ゴブリンドモは、シジにシタガッテうごけ!」
俺は聞き取れているが、俺以外のゴブリンは何も理解できていない様子。
そんなことは関係なしに、下に降りてきたオーガたちによってどんどんと組み分けが行われていった。
オーガも決して知能が高い魔物ではないようで、組み分けはかなり適当。
実力を考えて組むといったことはなく近くにいた同士で組まされたため、結局俺は同じ巣にいた奴らと組まされることになった。
同じ巣にて一番最初に生まれたゴブリン、二番目に生まれたゴブリン、三番目に生まれたゴブリン。
そして俺の後をついてきていたゴブリンと、俺の計五匹が同じ班。
この三匹は徒党のようなもの組んでいたし、体の小さな俺を見下していたことから、明確な対立関係が生まれることが予想できる。
知らないゴブリンなら比較的簡単に手懐けることができると思っていたが、この三匹となると少々時間がかかりそうだ。
不幸中の幸いなのは、俺の後をついてきていたゴブリンも同じ班なこと。
四対一の構図は避けることができ、三対二の構図ならやりようはいくらでもある。
「クミワケはしっかりオコナエタナ! そのクミでのノルマはイッカゲツでヒャクキロのしょくりょう!」
一ヶ月で百キロ分の食料か。
何から何まで食料と認定されるのか分からないが、基本的に何でもいいのであれば比較的楽なノルマ。
イノシシ一頭で平均七十キロぐらいなため、一ヶ月で二頭狩ることができればノルマを達成することができる上に、自分達で食べる量も確保することができる。
……ただ、それは俺が人間だった時の知識が残っているからそう思えるだけで、普通のゴブリンならイノシシ一頭狩るのも難しいと思う。
ゴブリンでも簡単に狩れる小動物では重さの足しにもならないし、危険を避けて植物を集めるとなった場合は毎日死ぬ気で動かないと、百キロ分の食べられる植物なんて集められる訳がない。
そんな無理難題を押し付けられているのにも関わらず、言葉が理解できないためポカーンと口を開けたままオーガの声に頷いているゴブリン達。
「ただし、コドモをイッピキそだてるゴトにノルマを五キロへらしてヤル! ゴブリンどもはすきなホウをえらぶンだな!!」
そう言い残すと、崖の上から見下ろして声を張り上げていたオーガ達はどこかへ消えていった。
ここから徐々にオーガ達の出した難題に気づき始め、自分のノルマを減らすために子供を増やすことに奔走するのだろう。
俺を生んだ親から一切愛というものを感じなかったのはこういうことか。
自分に課せられたノルマを減らすために生んだだけ。
ゴブリンの異常な繁殖力の秘密も分かったし、知らなかっただけで魔物も魔物で人間以上にエゲつないことをやっている。
本当に奴隷のような扱いを受けており、貨幣のシステムもなければ楯突くことすらできないため、一生この奴隷のような生活を抜け出すことができない仕組み。
強いて可能性があるとすれば、ゴブリンソルジャーの老ゴブリンのように死にかけの冒険者を見つけて捕食するくらいだろう。
それでもゴブリンソルジャー程度じゃ、序列的には低いままなんだけどな。
50
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです
一色孝太郎
ファンタジー
前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。
これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。
※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します
※本作品は他サイト様でも同時掲載しております
※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ)
※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました
悪役令嬢は始祖竜の母となる
葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。
しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。
どうせ転生するのであればモブがよかったです。
この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。
精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。
だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・?
あれ?
そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。
邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。
異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~
星天
ファンタジー
幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!
創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。
『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく
はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる