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宝剣
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夢を見ていた。
夢かどうかも定かではない。
真っ白な空間で遠くに見える男と向かいあっていた。
「……」
なにかを言っているようだが聞こえない。
目の前には一本の刀が刺さっている。
更にもう一本、刀の気配を感じる。だがその刀は見えない。
「あなたは誰なんですか?なぜあなたの事をこんなにも…懐かしく感じてしまうんですか?」
「……」
返事は返ってこない。いや、聞こえない…
そこで目が覚める。
------------------ーー
見たことのある天井。フカフカのベッド。王都に戻っていた。
カーテンからは朝日が漏れる。
いつもと同じ状況だが1つだけ大きな違い。
迅雷がベッドの横の椅子に座ってベッドに伏せながら眠っている。
イフリートとの戦いのあとずっと横にいてくれたのだろうか。
身体の状態を確認する為ベッドから立ち上がろうとした時…
「リク君…死なないで…」
眠っているはずの迅雷は涙を流していた。
迅雷に近づき。
「大丈夫。俺は絶対に死にません。なんたって迅雷さんと蒼水さんの弟子なんですから」
そう言い終わると、急に迅雷が顔を上げリクの顎を下から上へと跳ね飛ばす。
「いってて…あれ?リク君おはよ!よく寝れた?」
頭を押さえている。
「いってー…よく寝れましたし、最高の目覚めでした…」
顎が痛む。
「ごめんごめん…私寝ちゃってたんだね?」
照れた表情を見たのは初めてかもしれない。
「ところで…ジンさんはなんでここに?」
一応確認。
「え!?あっ…いや…その…心配だったから!いきなりいなくなったと思ったら七獄倒しに行くなんて無茶苦茶だよ?一言相談してよ!そんなに私のこと信用出来ない?」
表情が焦りから怒りに変わっている。
「信用していたから…ジンさんもカイのことも信用してたから1人で行ったんです。それに…イフリートは…俺とカイで倒したかったから…」
3年前の孤児院での出来事が蘇る。が、以前程息苦しくならなかった。
「そ…まぁ今回は許してあげるけど!次は怒るからね?」
リクの顔を覗き込む。
「約束します。」
迅雷の目を真っ直ぐ見つめ返す。
「君はこのあとどうするの?」
唐突な質問。
「朝ご飯ですよね?お腹は減りました!」
素直に応える。
「違うって!」
笑っている。本当に綺麗な笑顔で笑う。
「イフリートが言わば君の仇だったんでしょ?君自身の目的は達成した。なら…」
言葉を遮る。
「ジンさん。俺は国護兵団の兵士。俺と同じ思いを他の人にさせない為に戦っているんです。大切なものを護る為に、ジンさんの厳しい訓練にも頑張ってきたんです。俺はこのまま戦いますよ」
はっきりとした口調で応える。
「そっか…そうだよね!なら早速君にお願いがあるんだけどいいかな?」
急に口調が明るくなる。
「なんですか?」
「1週間後王都から各村々へ物資の搬出を行うの。その護衛を君にお願い出来るかな?」
「護衛が必要なくらい危険ということですね…」
「あ~…いや!道はあまり危険じゃないんだけど…ほら!七獄倒した君が護衛にいると安心して行けるでしょ?」
「なんか隠してません?まぁわかりました!それまでの1週間はどうすればいいですか?」
「休養!君今の身体の状態わかってる?身体の管理も任務の1つだよ!」
迅雷の言う通りリクの身体はボロボロになっていた。
------------------ーー
ー1週間後ー
「じゃ!リク君よろしく!美味しそうなお土産あったら待ってるから!」
確信した。迅雷の隠し事。
「隠してたのそれですよね?沢山買ってきます!楽しみにしててください!」
迅雷に喜んでもらえるならと納得。
「まぁまぁ!頑張ってね!いってらっしゃい!」
笑顔で手を振っている迅雷に手を振りかえす。
「綺麗な景色が続くからリフレッシュして帰ってきてほしいな!」
心の中で呟く。
------------------ーー
荷車団が出発。護衛任務を開始する。
リクは先頭車に乗っていた。
王都を出るのは久しぶりだ。
天気は快晴。暫く走るとそこには木々の香りや水の音。まさに絶景。とても魔王軍と戦っていると思えない風景。心が洗われる感覚がした。
その時…
「ごぉぉぉぉぉ!」
とてつもない地響き。と共にとてつもない力を感じる。
イフリートとは比べ物にならない。
「止まってください!この先になにかいます。俺が見てくるのでここで待機していてください。」
嫌な予感がした。冷や汗が止まらない。
この力が悪魔のものだとしたら…間違いなく七獄。そしてイフリートより強い。
暫く歩くとどこからともなく声が聞こえる。
「黒髪に黒い瞳…まさか…坊やがイフリートを殺したのぉ?」
女性の声。
咄嗟に
「神器…解放…」
雷刀が右手に姿を現す。
「いきなりそんな怖いもの出さないでよぉ」
語尾を伸ばし覗き込む様に話しかけてくる。
「なにが目的だ」
視線を逸らさない。
「目的…かぁ?坊や私と遊びましょ?」
「遊ぶ?」
意味がわからない。
「そう。後ろにいる荷車の人間が全員死んだら坊やの負けぇ。1人でも生き残ったら坊やの勝ちぃ。坊やが勝ったらご褒美に好きなことさせてあげるぅ…」
甘ったるい話し方。唇に指を持っいく。
「じゃあ…スタート…」
その瞬間。
「速いっ…」
悪魔が超高速で移動。一瞬で後方にいた荷車団に迫る。
「光弾…」
光球が荷車団に向け放たれる。
「させない!」
ギリギリのところで追いつき光球を弾く。
「逃げろ!全力で!まだ王都からそんなに離れてないはず!ここは何とかする!だから!振り返らず全力で逃げろ!」
叫ぶ。
「逃げられると思う?この七獄、獄陽のライトニングからぁ」
やはり七獄。陽ということは…身体強化系か。
「させねぇって言ってんだろ!」
必死に追いつく。
「坊や速いのねぇ?でも…坊やは雷でしょ?私の速さはぁ光よぉ?ついてこれるぅ?」
直後。振り返り。
「閃光…」
消えた。
「ぐはぁ…」
なにが起きたか理解出来なかった。ただわかることは…身体を切り刻まれている。
そのまま地面を転がる。
唇を噛み意識を保つ。
「坊や殺してからぁあいつら殺してもぉ…ルール上問題ないわよねぇ?」
余裕の表情を見せている。
「だから…1人も殺させねぇよ…」
約束したのだ。護る為に戦うと。
「大丈夫よ。坊やを最初に殺すからぁ、坊やの記憶では誰も死んでないわぁ」
意味の分からない理屈。そんなものが通るはずがはい。
そして。
「閃光…」
再度超高速の攻撃。
そこから手も足も出せなかった。
超高速で動くライトニングを視界に捉えることも出来ず、ただ切り刻まれていく。
殺そうと思えば一瞬で殺せるはずなのに、致命傷を与えてこない。
痛みで頭がおかしくなる。いや、痛みすら感じない程すでにおかしくなっていた。
その時…
真っ白な空間に引きずり込まれた。
男がいつもより近くに感じる。そして…
「俺もついている。人類の希望の刃となれ。お前は1人じゃない」
はっきり聞こえる。その声は夢で見た男の声と同じ。
「あなたは…」
「誓え。国を、民を護ると。そして引き抜け。私達の力。宝剣 五心国護誓剣を。今のお前ならできる」
力強く。はっきりと聞こえる。
「宝剣…五心国護誓剣…国のみんなを…護る力を…思いだけでなく…本当の力を…」
目の前の刀から溢れる力に震えが止まらなくなる。
「誓え。国を、民を護ると」
「俺は…1人では出来ないかもしれない…でも…俺はやり遂げます。国をみんなを護ります。仲間と共に…」
震えが止まった。覚悟が出来た。
「引き抜け。宝剣 五心国護誓剣を!」
現実に戻る。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
今まで以上の威光を巻き上げる。
そして。
リクを囲むように赤・青・緑・黄・茶色の刀剣が空中に出現。回りはじめる。
「神器解放…宝剣…五心国護誓剣…」
圧倒的な力を感じる。
「いいわぁ!楽しめそうよぉ!ねぇ!いきますよぉ!」
恍惚の表情。楽しんでいる。人間をいたぶることを。
「閃光…」
視界に捉えることが出来た。だが…速い!
「なら…炎刀…炎帝っっっっ!!!」
炎に包まれた炎刀を握り横に振る。超広範囲を抉り取る。凄まじい熱量。全てを塵に変える。
ライトニングを巻き込む。
しかし
「甘いわぁ。それじゃまだダメぇ」
腕を横に振る。風圧で炎が消し飛ぶ。
「なっ…!?」
消された。今までで1番威力のある攻撃を。
「はぁ…全然ダメぇ…」
ため息。
「使いたくはないけど…やるしかない!」
覚悟を決め。雷刀を握り。
「迅雷っっっっ!!!」
雷鳴が響き落雷がリクを直撃。
雷を纏い輝く。
そして
「飛雷っっっっ!!!」
2つの技を合わせる。今までは出来なかった。これが宝剣の力。
恐ろしいスピードでライトニングに迫る。
が
「空っぽでなにも入ってないわぁ…」
片手で受け止める。
「なん…で…クソがぁ!」
その後も力任せに切り込む。が悉く躱される。
一撃も当たらない。
「なんで…」
理解が出来ない。間違いなく今まで以上の力で戦っている。戦っているのに全く刃が届かない。
「ねぇ?いい事教えてあげるぅ」
近づいてくる。が動けない。圧倒的な力を前に身体が硬直している。
「坊やの攻撃は本当に凄いわぁ。他の七獄なら倒せるかもしれない。でもね。私には届かない。坊やの攻撃は見た目は凄いけど中身が空っぽ。水鉄砲で遊んでるみたい。力の解放が下手っぴ」
憐れむ表情で語りかけてくる。
分かっていた。解放直後の神器を扱えないことなど。ただ力任せに刀を振っているだけ。
これでは勝てない。殺される。
「…」
言い返せない。言葉が出ない。
「だから…もう飽きちゃったぁ。あなたつまらないわぁ」
飽きた?つまらない?なにを言っているのか。
「逃げていいわぁ」
そう言うと振り返り歩きだした。
「おい!待て!」
呼び止める。
「なぁに?まだ聞きたいことあるのぉ?」
こちらを見ようともしない。
「逃げるな。まだこれからだ」
刀を構え直す。
「勘違いしてんじゃない?私が逃げる?」
直後、ライトニングが背後から喉元に爪を立てている。全く反応出来なかった。
そのまま腕を振り抜かれていたら、間違いなく首が飛んでいた。即死していた。
「逃がしてあげるって言ってるの。気が変わらない内に逃げなさい。私の視界に入らないところまで。泣きながら、自分の弱さに絶望しながら、私の強さに震えながら。」
今までの口調と大きく変わりはっきりと。
終わりの時間を迎える。
迅雷の反動。
身体が動かず倒れ込む。
死を覚悟していた。だからこそ。
「なぜ…俺を殺さない?」
疑問。
「さっきから言ってるでしょ?坊やが弱いからぁ」
俺が…弱いから殺さない…屈辱。
「それにぃ…私嫌いなのよぉ。他の悪魔達。だから坊やが強くなって他の悪魔達殺してくれると嬉しいわぁ」
微笑みながら言っているが笑える話しではない。
「殺すって…お前達は仲間じゃないのか!」
口調が激しくなる。
「仲間?冗談言わないでぇ。ただ種族が同じだけ。それ以上でもそれ以下でもないわぁ」
種族が同じだけ…感情を持っていないとでもいうのか。
「そこに隠れてる人間。早く連れて行きなさい」
どういうことだ。
「隠れてる人間だと!?ダメだ。殺される。出てくるな!」
しかしすぐに2人の人間と荷車1台が陰から出てくる。
そして…リクを荷車に乗せ無言で走り出す…
「じゃぁね。弱い坊や。強くなっていつか私を殺しに来なさい。その時まで待っててあげるからぁ」
微笑みながら話しかける
「…」
言葉が出ない。なにも言い返せない。
悪魔に背を向け撤退。敗走。通常であれば死。
屈辱。ただそれだけだった…
------------------ーー
王都に向かう途中。
こちらに向け凄まじい速さで何かが近づいてくる。
この威光の輝き方はきっと…
「リク君!」
やはり迅雷だった。
「迅雷を使ったのね…よく…生きて…」
また泣いている。よく泣く人だ。
「俺は…弱い…何も出来なかった…」
ただ黙ってリクを見つめる。
「3年前と…なにも変わって…いない…」
涙が溢れる。
「…」
迅雷は何も言わない。
「俺は…俺は…悔しい…悔しい悔しい。努力したんだ!死ぬ気でやってきた!なのに…まだ届かない…あの人に…追いつけない…」
「…」
「護ると…国を…みんなを護ると…誓ったのに…何も出来なかった…」
涙が止まらない。
「リク君…」
迅雷がリクを抱き締める。
「今日の君の任務は荷車団の護衛。荷車団の人は全員生きてる。しかも無傷。君も…生きてる…」
目を合わせる。
「全員…生きてる…?」
死んだと思っていた。あの2人はたまたま生き残った2人だと思っていた。
「そう!君が護ったんだよ?七獄から…みんなを…だから…」
声にならない声で続ける。
「護ってくれて…ありがとう…生きていてくれて…ありがとう…」
迅雷も言葉になっていない
「なら…よかった…」
当然リクも。
「うぁぁぁぁぁあ…」
涙が止まらなかった。
ただ抱き締める。抱き締める事しか出来なかった。
暫く経ち涙を拭く。
「ジンさん。新たな神器を解放しました。宝剣 五心国護誓剣。国王の神器です。」
「やっぱり…でもなんで君がそれを?」
違和感はなかった。しかし当然の疑問。
「わかりません。わからないけどやらなきゃいけない事はわかってます」
目を見てはっきりと伝える。
「そっか…なら応援してるから!頑張ってね!」
宝剣 五心国護誓剣。最強の力を手に入れたが扱えなければ意味がない。
ここからリクの孤独な戦いが始まっていく。
宝剣 完
------------------ーー
読んで頂きありがとうございました!
物語はクライマックスへ!
最後まで見てください!
夢かどうかも定かではない。
真っ白な空間で遠くに見える男と向かいあっていた。
「……」
なにかを言っているようだが聞こえない。
目の前には一本の刀が刺さっている。
更にもう一本、刀の気配を感じる。だがその刀は見えない。
「あなたは誰なんですか?なぜあなたの事をこんなにも…懐かしく感じてしまうんですか?」
「……」
返事は返ってこない。いや、聞こえない…
そこで目が覚める。
------------------ーー
見たことのある天井。フカフカのベッド。王都に戻っていた。
カーテンからは朝日が漏れる。
いつもと同じ状況だが1つだけ大きな違い。
迅雷がベッドの横の椅子に座ってベッドに伏せながら眠っている。
イフリートとの戦いのあとずっと横にいてくれたのだろうか。
身体の状態を確認する為ベッドから立ち上がろうとした時…
「リク君…死なないで…」
眠っているはずの迅雷は涙を流していた。
迅雷に近づき。
「大丈夫。俺は絶対に死にません。なんたって迅雷さんと蒼水さんの弟子なんですから」
そう言い終わると、急に迅雷が顔を上げリクの顎を下から上へと跳ね飛ばす。
「いってて…あれ?リク君おはよ!よく寝れた?」
頭を押さえている。
「いってー…よく寝れましたし、最高の目覚めでした…」
顎が痛む。
「ごめんごめん…私寝ちゃってたんだね?」
照れた表情を見たのは初めてかもしれない。
「ところで…ジンさんはなんでここに?」
一応確認。
「え!?あっ…いや…その…心配だったから!いきなりいなくなったと思ったら七獄倒しに行くなんて無茶苦茶だよ?一言相談してよ!そんなに私のこと信用出来ない?」
表情が焦りから怒りに変わっている。
「信用していたから…ジンさんもカイのことも信用してたから1人で行ったんです。それに…イフリートは…俺とカイで倒したかったから…」
3年前の孤児院での出来事が蘇る。が、以前程息苦しくならなかった。
「そ…まぁ今回は許してあげるけど!次は怒るからね?」
リクの顔を覗き込む。
「約束します。」
迅雷の目を真っ直ぐ見つめ返す。
「君はこのあとどうするの?」
唐突な質問。
「朝ご飯ですよね?お腹は減りました!」
素直に応える。
「違うって!」
笑っている。本当に綺麗な笑顔で笑う。
「イフリートが言わば君の仇だったんでしょ?君自身の目的は達成した。なら…」
言葉を遮る。
「ジンさん。俺は国護兵団の兵士。俺と同じ思いを他の人にさせない為に戦っているんです。大切なものを護る為に、ジンさんの厳しい訓練にも頑張ってきたんです。俺はこのまま戦いますよ」
はっきりとした口調で応える。
「そっか…そうだよね!なら早速君にお願いがあるんだけどいいかな?」
急に口調が明るくなる。
「なんですか?」
「1週間後王都から各村々へ物資の搬出を行うの。その護衛を君にお願い出来るかな?」
「護衛が必要なくらい危険ということですね…」
「あ~…いや!道はあまり危険じゃないんだけど…ほら!七獄倒した君が護衛にいると安心して行けるでしょ?」
「なんか隠してません?まぁわかりました!それまでの1週間はどうすればいいですか?」
「休養!君今の身体の状態わかってる?身体の管理も任務の1つだよ!」
迅雷の言う通りリクの身体はボロボロになっていた。
------------------ーー
ー1週間後ー
「じゃ!リク君よろしく!美味しそうなお土産あったら待ってるから!」
確信した。迅雷の隠し事。
「隠してたのそれですよね?沢山買ってきます!楽しみにしててください!」
迅雷に喜んでもらえるならと納得。
「まぁまぁ!頑張ってね!いってらっしゃい!」
笑顔で手を振っている迅雷に手を振りかえす。
「綺麗な景色が続くからリフレッシュして帰ってきてほしいな!」
心の中で呟く。
------------------ーー
荷車団が出発。護衛任務を開始する。
リクは先頭車に乗っていた。
王都を出るのは久しぶりだ。
天気は快晴。暫く走るとそこには木々の香りや水の音。まさに絶景。とても魔王軍と戦っていると思えない風景。心が洗われる感覚がした。
その時…
「ごぉぉぉぉぉ!」
とてつもない地響き。と共にとてつもない力を感じる。
イフリートとは比べ物にならない。
「止まってください!この先になにかいます。俺が見てくるのでここで待機していてください。」
嫌な予感がした。冷や汗が止まらない。
この力が悪魔のものだとしたら…間違いなく七獄。そしてイフリートより強い。
暫く歩くとどこからともなく声が聞こえる。
「黒髪に黒い瞳…まさか…坊やがイフリートを殺したのぉ?」
女性の声。
咄嗟に
「神器…解放…」
雷刀が右手に姿を現す。
「いきなりそんな怖いもの出さないでよぉ」
語尾を伸ばし覗き込む様に話しかけてくる。
「なにが目的だ」
視線を逸らさない。
「目的…かぁ?坊や私と遊びましょ?」
「遊ぶ?」
意味がわからない。
「そう。後ろにいる荷車の人間が全員死んだら坊やの負けぇ。1人でも生き残ったら坊やの勝ちぃ。坊やが勝ったらご褒美に好きなことさせてあげるぅ…」
甘ったるい話し方。唇に指を持っいく。
「じゃあ…スタート…」
その瞬間。
「速いっ…」
悪魔が超高速で移動。一瞬で後方にいた荷車団に迫る。
「光弾…」
光球が荷車団に向け放たれる。
「させない!」
ギリギリのところで追いつき光球を弾く。
「逃げろ!全力で!まだ王都からそんなに離れてないはず!ここは何とかする!だから!振り返らず全力で逃げろ!」
叫ぶ。
「逃げられると思う?この七獄、獄陽のライトニングからぁ」
やはり七獄。陽ということは…身体強化系か。
「させねぇって言ってんだろ!」
必死に追いつく。
「坊や速いのねぇ?でも…坊やは雷でしょ?私の速さはぁ光よぉ?ついてこれるぅ?」
直後。振り返り。
「閃光…」
消えた。
「ぐはぁ…」
なにが起きたか理解出来なかった。ただわかることは…身体を切り刻まれている。
そのまま地面を転がる。
唇を噛み意識を保つ。
「坊や殺してからぁあいつら殺してもぉ…ルール上問題ないわよねぇ?」
余裕の表情を見せている。
「だから…1人も殺させねぇよ…」
約束したのだ。護る為に戦うと。
「大丈夫よ。坊やを最初に殺すからぁ、坊やの記憶では誰も死んでないわぁ」
意味の分からない理屈。そんなものが通るはずがはい。
そして。
「閃光…」
再度超高速の攻撃。
そこから手も足も出せなかった。
超高速で動くライトニングを視界に捉えることも出来ず、ただ切り刻まれていく。
殺そうと思えば一瞬で殺せるはずなのに、致命傷を与えてこない。
痛みで頭がおかしくなる。いや、痛みすら感じない程すでにおかしくなっていた。
その時…
真っ白な空間に引きずり込まれた。
男がいつもより近くに感じる。そして…
「俺もついている。人類の希望の刃となれ。お前は1人じゃない」
はっきり聞こえる。その声は夢で見た男の声と同じ。
「あなたは…」
「誓え。国を、民を護ると。そして引き抜け。私達の力。宝剣 五心国護誓剣を。今のお前ならできる」
力強く。はっきりと聞こえる。
「宝剣…五心国護誓剣…国のみんなを…護る力を…思いだけでなく…本当の力を…」
目の前の刀から溢れる力に震えが止まらなくなる。
「誓え。国を、民を護ると」
「俺は…1人では出来ないかもしれない…でも…俺はやり遂げます。国をみんなを護ります。仲間と共に…」
震えが止まった。覚悟が出来た。
「引き抜け。宝剣 五心国護誓剣を!」
現実に戻る。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
今まで以上の威光を巻き上げる。
そして。
リクを囲むように赤・青・緑・黄・茶色の刀剣が空中に出現。回りはじめる。
「神器解放…宝剣…五心国護誓剣…」
圧倒的な力を感じる。
「いいわぁ!楽しめそうよぉ!ねぇ!いきますよぉ!」
恍惚の表情。楽しんでいる。人間をいたぶることを。
「閃光…」
視界に捉えることが出来た。だが…速い!
「なら…炎刀…炎帝っっっっ!!!」
炎に包まれた炎刀を握り横に振る。超広範囲を抉り取る。凄まじい熱量。全てを塵に変える。
ライトニングを巻き込む。
しかし
「甘いわぁ。それじゃまだダメぇ」
腕を横に振る。風圧で炎が消し飛ぶ。
「なっ…!?」
消された。今までで1番威力のある攻撃を。
「はぁ…全然ダメぇ…」
ため息。
「使いたくはないけど…やるしかない!」
覚悟を決め。雷刀を握り。
「迅雷っっっっ!!!」
雷鳴が響き落雷がリクを直撃。
雷を纏い輝く。
そして
「飛雷っっっっ!!!」
2つの技を合わせる。今までは出来なかった。これが宝剣の力。
恐ろしいスピードでライトニングに迫る。
が
「空っぽでなにも入ってないわぁ…」
片手で受け止める。
「なん…で…クソがぁ!」
その後も力任せに切り込む。が悉く躱される。
一撃も当たらない。
「なんで…」
理解が出来ない。間違いなく今まで以上の力で戦っている。戦っているのに全く刃が届かない。
「ねぇ?いい事教えてあげるぅ」
近づいてくる。が動けない。圧倒的な力を前に身体が硬直している。
「坊やの攻撃は本当に凄いわぁ。他の七獄なら倒せるかもしれない。でもね。私には届かない。坊やの攻撃は見た目は凄いけど中身が空っぽ。水鉄砲で遊んでるみたい。力の解放が下手っぴ」
憐れむ表情で語りかけてくる。
分かっていた。解放直後の神器を扱えないことなど。ただ力任せに刀を振っているだけ。
これでは勝てない。殺される。
「…」
言い返せない。言葉が出ない。
「だから…もう飽きちゃったぁ。あなたつまらないわぁ」
飽きた?つまらない?なにを言っているのか。
「逃げていいわぁ」
そう言うと振り返り歩きだした。
「おい!待て!」
呼び止める。
「なぁに?まだ聞きたいことあるのぉ?」
こちらを見ようともしない。
「逃げるな。まだこれからだ」
刀を構え直す。
「勘違いしてんじゃない?私が逃げる?」
直後、ライトニングが背後から喉元に爪を立てている。全く反応出来なかった。
そのまま腕を振り抜かれていたら、間違いなく首が飛んでいた。即死していた。
「逃がしてあげるって言ってるの。気が変わらない内に逃げなさい。私の視界に入らないところまで。泣きながら、自分の弱さに絶望しながら、私の強さに震えながら。」
今までの口調と大きく変わりはっきりと。
終わりの時間を迎える。
迅雷の反動。
身体が動かず倒れ込む。
死を覚悟していた。だからこそ。
「なぜ…俺を殺さない?」
疑問。
「さっきから言ってるでしょ?坊やが弱いからぁ」
俺が…弱いから殺さない…屈辱。
「それにぃ…私嫌いなのよぉ。他の悪魔達。だから坊やが強くなって他の悪魔達殺してくれると嬉しいわぁ」
微笑みながら言っているが笑える話しではない。
「殺すって…お前達は仲間じゃないのか!」
口調が激しくなる。
「仲間?冗談言わないでぇ。ただ種族が同じだけ。それ以上でもそれ以下でもないわぁ」
種族が同じだけ…感情を持っていないとでもいうのか。
「そこに隠れてる人間。早く連れて行きなさい」
どういうことだ。
「隠れてる人間だと!?ダメだ。殺される。出てくるな!」
しかしすぐに2人の人間と荷車1台が陰から出てくる。
そして…リクを荷車に乗せ無言で走り出す…
「じゃぁね。弱い坊や。強くなっていつか私を殺しに来なさい。その時まで待っててあげるからぁ」
微笑みながら話しかける
「…」
言葉が出ない。なにも言い返せない。
悪魔に背を向け撤退。敗走。通常であれば死。
屈辱。ただそれだけだった…
------------------ーー
王都に向かう途中。
こちらに向け凄まじい速さで何かが近づいてくる。
この威光の輝き方はきっと…
「リク君!」
やはり迅雷だった。
「迅雷を使ったのね…よく…生きて…」
また泣いている。よく泣く人だ。
「俺は…弱い…何も出来なかった…」
ただ黙ってリクを見つめる。
「3年前と…なにも変わって…いない…」
涙が溢れる。
「…」
迅雷は何も言わない。
「俺は…俺は…悔しい…悔しい悔しい。努力したんだ!死ぬ気でやってきた!なのに…まだ届かない…あの人に…追いつけない…」
「…」
「護ると…国を…みんなを護ると…誓ったのに…何も出来なかった…」
涙が止まらない。
「リク君…」
迅雷がリクを抱き締める。
「今日の君の任務は荷車団の護衛。荷車団の人は全員生きてる。しかも無傷。君も…生きてる…」
目を合わせる。
「全員…生きてる…?」
死んだと思っていた。あの2人はたまたま生き残った2人だと思っていた。
「そう!君が護ったんだよ?七獄から…みんなを…だから…」
声にならない声で続ける。
「護ってくれて…ありがとう…生きていてくれて…ありがとう…」
迅雷も言葉になっていない
「なら…よかった…」
当然リクも。
「うぁぁぁぁぁあ…」
涙が止まらなかった。
ただ抱き締める。抱き締める事しか出来なかった。
暫く経ち涙を拭く。
「ジンさん。新たな神器を解放しました。宝剣 五心国護誓剣。国王の神器です。」
「やっぱり…でもなんで君がそれを?」
違和感はなかった。しかし当然の疑問。
「わかりません。わからないけどやらなきゃいけない事はわかってます」
目を見てはっきりと伝える。
「そっか…なら応援してるから!頑張ってね!」
宝剣 五心国護誓剣。最強の力を手に入れたが扱えなければ意味がない。
ここからリクの孤独な戦いが始まっていく。
宝剣 完
------------------ーー
読んで頂きありがとうございました!
物語はクライマックスへ!
最後まで見てください!
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