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君次第
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レインフォレストの一件から1週間が経った。
この1週間リクは眠り続けていた。
夢を見ていた。うなされていた。
その夢はある男の人生。
多くの人にその生を祝福されていた。
幼い頃から剣術を教え込まれ8歳にして師範を圧倒。
10歳。神器解放会得。
解放から3ヶ月。悪魔討伐へ参加。数々の功績を残す。
その中でも16歳。普段は群れることのない上級悪魔5体、5属性の悪魔を同時に1人で斬り伏せた。
18歳。悪魔からの呪いにより父死去。深い悲しみの中、国王へ。国護兵団設立。
20歳。白い頭髪。紫の瞳。太陽のような笑顔が印象的な女性と結婚。
21歳。第一子。息子が生まれる。
その1ヶ月後…
魔王。配下2体を引き連れ真夜中の王都へ奇襲。
対応が間に合わず国民に被害が出る。
国王の指示により国護兵団全員が国民の救助、避難を優先。
国王ただ一人で魔王、2体の悪魔と対敵。
3体の猛攻に苦戦を強いられていたが、2体を討伐。
魔王との死闘。あと一歩のところでまで追い詰め魔王逃走。
僅かな希望を胸に生存者を探す。
傷だらけの赤子を見つけ大粒の涙を流す。
抱き上げ、赤子に何かを言い残し…
目が覚めた。リクも涙を流していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を開くと見たことのある天井。
フカフカのベッド。
王都に戻ってきていた。記憶を辿る。
真っ白な空間で刀を引き抜き爆発的な力を得た。
「神器…解放…」
国王が10歳で会得していた神器解放。
その刀の1本とレインフォレストで解放した刀が酷似していることに気付く。
「でも…なんで…」
考えても理解出来ない。
「おはよ!やっと起きたね!少し心配だったよ!」
死地へ追いやった張本人が美しい笑顔で手を振りながらこちらへ来る。相変わらず美しい。
「よかったね!神器解放出来て!やっぱり私と蒼水が見込んだだけの事はあるわ!誇りなさい!」
何故か迅雷が胸を張る。
「ジンさん…聞きたいことがあります」
確認したいことがあった。
「ジンさんはまだ俺の神器見てないですよね?」
「え?見たよ。凄かったねー!かっこよかったよ!」
俺が死にかけてるのを見ていたという訳か…と思いつつも。
「これ…本当に俺の神器なんですか…?」
俯きながら声を出す。
「と…言うと?」
訝しげな表情で覗き込む。
「夢で…俺と同じ神器を持っている人がいて…」
「ほー」
目を瞑る
「だから…俺のち…」
言葉が遮られる。
「あのさ…形は似てたかも知れないけど夢の中の話しでしょ。その力は間違いなく…君だけの力だよ」
真っ直ぐ見つめてくる。視線を逸らし。
「あと…国王の話し聞かせてもらえませんか…?」
あの夢の人物も確認したい。
「私も聞いた話しだから詳しくはないんだけど…国王の神器は、なんでも5属性を使いこなして、5つの力を束ねて1本の剣にする事によって本来の力になるとか…
あと有名なのは『悪魔の見た悪夢』かな?」
天井を眺め顎に手をやりながら話す。
「悪魔の見た悪夢…?」
鳥肌が立つ。
「そ!当時国護兵団みたいなものが出来たばかりだったから悪魔の階級は上・中・下だけだったみたい。でも国王は現在の七獄にあたる悪魔を1人で!しかも同時に5体も倒したって話し!今いる七心でも七獄1体に勝てるかどうかと言われているのに、凄いよねー!」
目を輝かせながら話している。
「そんなに凄いんですね…」
間違いない。
「後は…人類最後の日…」
声が急に小さくなる。
「国王が亡くなった日ですね…」
「それは知ってるんだ…」
迅雷が続ける。
「私ね。小さい時から王都で暮らしてたんだ。蒼水とは幼馴染なの。
その日私と蒼水は王都でお父さんとお母さんを亡くした。そんな状況なのに、お父さん達は「あなただけでも生きて」ってさ…泣きながら笑ってたんだよ…それから悪魔が許せなくて…国護兵団に入ったんだ…ってこんな話し聞いてないよね!?」
分かりやすい作り笑顔。
「いや…みんな思いは一緒。何かを託されて生きているんですね…」
「そうだね…だからもっともっと強くならないと!君も!私も…ね!」
そうだ。強くならなければ。何も護れない。
「よーし!神器解放の特訓だー!」
ベットから飛び降りる。
「の前に、身体はもう大丈夫なの?」
リクの身体はまだまだボロボロだ。
「全然大丈夫です!早くやりましょ!」
身体のあちこちを叩いてみせる。
「はいはい!元気いいね!じゃあ中庭に集合ね!」
心配ではあったが勢いに押された。
2人は一度解散し、中庭へ。
「まずは解放だけしてみよ!」
「神器解放ー!あれ?」
出来ない。
「神器解放ー!えっ?」
神器解放が…出来ない。
「君は…やっぱり基礎からだね!きっと神器の力に身体がついてきてないのかも…あと蒼水がカイ君の状況教えてくれるみたいだから君も頑張らないと!」
やはりそうかと言いたげな表情。
「そっか…カイも頑張ってるんだな…負けられねぇ!頑張ります!」
ここから地獄の日々が始まった。
6ヶ月
リク。朝から晩まで筋力トレーニング。基礎体力の向上。
その中で。
「神器解放は…まず目を瞑って集中。自分の中に真っ白な空間をイメージする。すると神器から姿を現してくれるから掴み、叫ぶ。簡単でしょ?」
ざっくりとした説明。そんなので出来るのかと疑問に思いつつ。
「目を瞑って集中…真っ白な空間…レインフォレストで見た空間…神器が姿を現す。ある!掴める!」
「神器…解放!」
黄色の刀が具現化され右手に握られている。
「出来た!出来…た…」
直後その場に倒れ込み意識を失う。
カイ。神器解放を会得。
1年
リク。筋力トレーニング。更に基礎体力の向上。
日に日に解放から意識を失うまでの時間が伸びる。
カイ。神器解放状態を持続可能に。神器を解放させた状態での訓練開始。中級悪魔5体討伐。
1年6ヶ月
リク。筋力トレーニング。更に基礎体力の向上。
この時には解放が問題なく出来るようになっていた。中級悪魔3体討伐。
カイ。上級悪魔6体討伐。
2年
リク。剣術の訓練。驚くほどの成長をみせる。
カイ。七心蒼水の右腕として力を認められる。
更に1年
リク。神器を解放させた状態での訓練開始。この間上級悪魔4体討伐。
カイ。更に上級悪魔10体討伐。次期紺碧七心候補となる。
2人が別れてから3年の月日が過ぎ、15歳になっていた…
背丈も伸び、体格も大きくなっていた。
そんな折。
「リク君…蒼水が…蒼水が…」
訓練の途中、迅雷が歪んだ表情で駆け寄ってくる。
「ジンさん?どうしたんですか?そんに慌てて…」
訝しげな表情で覗き込む。
「蒼水が…蒼水が…」
涙が溢れている。言葉が出てきていない。
「ジンさん…落ち着いてください!」
肩に手をやる。
「蒼…水が…死んじゃった…」
「え…」
言葉の意味を理解出来ない。出来るはずがない。
「いや…そんな…はずは…」
リクの目にも涙が溢れてくる。
「カイ君が…言ってたから…間違いない…」
言葉に詰まる。
「俺、カイのところに行ってきます。カイはどこですか?」
辺りを見渡すがいない。
「城門…に…いるはず…」
迅雷の涙が止まらない。
「わかりました。ジンさんはここにいてください。」
静かな声で迅雷にいい、近くにあった椅子に座らせる。
「カイ…」
城門まで全力で走る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カイの姿が見えた。
座り込んだまま俯いている。
「カイっ!って…お前…なんだよこの傷は!?このままだとお前も死ぬぞ!」
身体の至る所に火傷の跡。深い。裂傷の度合いも深刻。
「カイ様のお知り合いの方ですか?」
看護兵が慌てた様子で話しかけてくる。
「はい。なにがあったんですか?なんで病室に連れて行かないんですか?早く…連れて行けよっ!」
口調が強くなる。
「落ち着いてください」
なだめられるが
「落ち着いていられる訳ねぇだろ!カイ!早く行くぞ!」
カイを抱えようとする。
直後その手を振り払われた。
「リクか…久しぶりだな。もう俺はいい…何も出来ないただの弱者だ。ただ奪われるだけの…」
涙も枯れてしまったのだろう。言葉が重い。
「蒼水さんは?生きてるんだよな?」
確認せずにはいられなかった。
「死んだよ…俺に力がないから…蒼水さんは俺を庇って…」
急に口調が激しくなる。
リクに掴みかかり
「俺が弱いから蒼水さんが…死んだんだよ!はっきり言えよ!お前が悪いって!はっきり…言ってくれよ…」
最後、言葉が出ていなかった。
「カイ。お前は生きてる。生きていてくれて…ありがとう」
掴まれた手を握り返す。
「え…」
言葉が出ない。
「蒼水さんがカイを逃してくれたんだろ?恐らく空間転移かなにかの術式で」
カイの目を真っ直ぐ見つめる。
「なんで…それを…」
「カイが蒼水さんを…仲間を置いて逃げる訳ないからな。カイは強いからよ」
穏やかな口調で話しかける。
「うっ…うぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶望。自分の無力への絶望。同時に押し寄せる複数の感情。目から形となり現れる。
「蒼水さんを殺した奴はどこだ?」
カイの目を見つめる
「勝てる訳ない…」
聞き取れない程小さな声で呟く
「今…なんて言った?」
口調が強くなる
「俺には…いや俺達には勝てないって言ったんだよ。行ったら殺される。無駄死にだ…」
絶望している。心の底から絶望している。
「そんなのわからねぇだろ!」
更に口調が激しくなる。
「わかるんだよ。蒼水さんが死んだんだぞ?俺達が勝てる訳ないだろ」
圧倒的な力の前に完全に戦意を喪失している。
「お前って奴は!」
胸ぐらを掴む。
「まぁ落ち着けよ…」
やけに冷静な声。
「相手は獄炎のイフリート。七獄の一人。孤児院のみんなを殺した奴だ」
カイの手が震えている。拳を握る力で血が流れている。
「そうか…なら尚更行かなくちゃな」
真っ直ぐに孤児院のあった方角を見つめる。
「行くなっ!リクまで…失いたく…」
言葉を遮る。
「お前は…蒼水さんに何を教えてもらったんだ!何を託されたんだ!そこで震えてろ。俺は、生きる為に戦う。もうあいつに奪わせない。俺が終わらせる」
口調が激しくなる。しかしその表情は冷静。
「リク…頼む…行かないでくれ…」
涙を流しながら縋るように訴える。
「ただ…1つだけ今、言っときたいことがある。カイ。お前は強い。生きる為に戦え。」
そう言い残し1人歩き出す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暫く時間が経ち。
「カイ君。見て欲しいものがあるの」
迅雷が紙を手渡す。
「手紙…ですか?」
達筆な文字が並ぶ。
「そう。蒼水から君にね。俺に何かあったらカイに渡してくれって預かってたの」
「蒼水さんから…」
読み始める。脳裏に蒼水との厳しくも楽しかった思い出が蘇る。
「ーこの手紙を読んでいるということは、俺はこの世にいないのだろう。
カイと行動を共にすることが多くなり、カイには秘密で、ある術式をかけた。
きっとカイは危機的な状況の時逃げろと命令しても聞かないだろうから。
今、君を人類は失う訳にはいなかい。だから術式をかけた事を許してほしい。
カイは俺の下に来てからというもの、日々の努力を欠かさず、目を見張る速さで成長してきた。その成長を俺は心から嬉しく思っていた。だからこそ…カイ。俺の最後の願いを1つだけ聞いてくれ。
俺亡き後、七心紺碧担当をカイに任せる。
君なら出来る。いや君にしか出来ない。
迅雷を通して他の七心には話しをしてくれるはずだ。
七心としての自覚を持ち。大切なものを護る為、生きる為に、強くなってくれ。 蒼水」
「蒼…水…さん…俺は…」
枯れたはずの涙が止まらない。
「後は君次第だよ。託された思いを…受け継ぐのか…投げ出すのか…」
迅雷が優しく声をかけ真っ直ぐ見つめる。
無言で立ち上がり。
「迅雷さん。ありがとうございました。」
また1人歩き出す。
君次第 完
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読んで頂きありがとうございました!
長くなってしまって七獄名前しか出せませんでした…
次回は出てきます!
リクとカイはこの後どこへ向かったのか…
この1週間リクは眠り続けていた。
夢を見ていた。うなされていた。
その夢はある男の人生。
多くの人にその生を祝福されていた。
幼い頃から剣術を教え込まれ8歳にして師範を圧倒。
10歳。神器解放会得。
解放から3ヶ月。悪魔討伐へ参加。数々の功績を残す。
その中でも16歳。普段は群れることのない上級悪魔5体、5属性の悪魔を同時に1人で斬り伏せた。
18歳。悪魔からの呪いにより父死去。深い悲しみの中、国王へ。国護兵団設立。
20歳。白い頭髪。紫の瞳。太陽のような笑顔が印象的な女性と結婚。
21歳。第一子。息子が生まれる。
その1ヶ月後…
魔王。配下2体を引き連れ真夜中の王都へ奇襲。
対応が間に合わず国民に被害が出る。
国王の指示により国護兵団全員が国民の救助、避難を優先。
国王ただ一人で魔王、2体の悪魔と対敵。
3体の猛攻に苦戦を強いられていたが、2体を討伐。
魔王との死闘。あと一歩のところでまで追い詰め魔王逃走。
僅かな希望を胸に生存者を探す。
傷だらけの赤子を見つけ大粒の涙を流す。
抱き上げ、赤子に何かを言い残し…
目が覚めた。リクも涙を流していた。
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目を開くと見たことのある天井。
フカフカのベッド。
王都に戻ってきていた。記憶を辿る。
真っ白な空間で刀を引き抜き爆発的な力を得た。
「神器…解放…」
国王が10歳で会得していた神器解放。
その刀の1本とレインフォレストで解放した刀が酷似していることに気付く。
「でも…なんで…」
考えても理解出来ない。
「おはよ!やっと起きたね!少し心配だったよ!」
死地へ追いやった張本人が美しい笑顔で手を振りながらこちらへ来る。相変わらず美しい。
「よかったね!神器解放出来て!やっぱり私と蒼水が見込んだだけの事はあるわ!誇りなさい!」
何故か迅雷が胸を張る。
「ジンさん…聞きたいことがあります」
確認したいことがあった。
「ジンさんはまだ俺の神器見てないですよね?」
「え?見たよ。凄かったねー!かっこよかったよ!」
俺が死にかけてるのを見ていたという訳か…と思いつつも。
「これ…本当に俺の神器なんですか…?」
俯きながら声を出す。
「と…言うと?」
訝しげな表情で覗き込む。
「夢で…俺と同じ神器を持っている人がいて…」
「ほー」
目を瞑る
「だから…俺のち…」
言葉が遮られる。
「あのさ…形は似てたかも知れないけど夢の中の話しでしょ。その力は間違いなく…君だけの力だよ」
真っ直ぐ見つめてくる。視線を逸らし。
「あと…国王の話し聞かせてもらえませんか…?」
あの夢の人物も確認したい。
「私も聞いた話しだから詳しくはないんだけど…国王の神器は、なんでも5属性を使いこなして、5つの力を束ねて1本の剣にする事によって本来の力になるとか…
あと有名なのは『悪魔の見た悪夢』かな?」
天井を眺め顎に手をやりながら話す。
「悪魔の見た悪夢…?」
鳥肌が立つ。
「そ!当時国護兵団みたいなものが出来たばかりだったから悪魔の階級は上・中・下だけだったみたい。でも国王は現在の七獄にあたる悪魔を1人で!しかも同時に5体も倒したって話し!今いる七心でも七獄1体に勝てるかどうかと言われているのに、凄いよねー!」
目を輝かせながら話している。
「そんなに凄いんですね…」
間違いない。
「後は…人類最後の日…」
声が急に小さくなる。
「国王が亡くなった日ですね…」
「それは知ってるんだ…」
迅雷が続ける。
「私ね。小さい時から王都で暮らしてたんだ。蒼水とは幼馴染なの。
その日私と蒼水は王都でお父さんとお母さんを亡くした。そんな状況なのに、お父さん達は「あなただけでも生きて」ってさ…泣きながら笑ってたんだよ…それから悪魔が許せなくて…国護兵団に入ったんだ…ってこんな話し聞いてないよね!?」
分かりやすい作り笑顔。
「いや…みんな思いは一緒。何かを託されて生きているんですね…」
「そうだね…だからもっともっと強くならないと!君も!私も…ね!」
そうだ。強くならなければ。何も護れない。
「よーし!神器解放の特訓だー!」
ベットから飛び降りる。
「の前に、身体はもう大丈夫なの?」
リクの身体はまだまだボロボロだ。
「全然大丈夫です!早くやりましょ!」
身体のあちこちを叩いてみせる。
「はいはい!元気いいね!じゃあ中庭に集合ね!」
心配ではあったが勢いに押された。
2人は一度解散し、中庭へ。
「まずは解放だけしてみよ!」
「神器解放ー!あれ?」
出来ない。
「神器解放ー!えっ?」
神器解放が…出来ない。
「君は…やっぱり基礎からだね!きっと神器の力に身体がついてきてないのかも…あと蒼水がカイ君の状況教えてくれるみたいだから君も頑張らないと!」
やはりそうかと言いたげな表情。
「そっか…カイも頑張ってるんだな…負けられねぇ!頑張ります!」
ここから地獄の日々が始まった。
6ヶ月
リク。朝から晩まで筋力トレーニング。基礎体力の向上。
その中で。
「神器解放は…まず目を瞑って集中。自分の中に真っ白な空間をイメージする。すると神器から姿を現してくれるから掴み、叫ぶ。簡単でしょ?」
ざっくりとした説明。そんなので出来るのかと疑問に思いつつ。
「目を瞑って集中…真っ白な空間…レインフォレストで見た空間…神器が姿を現す。ある!掴める!」
「神器…解放!」
黄色の刀が具現化され右手に握られている。
「出来た!出来…た…」
直後その場に倒れ込み意識を失う。
カイ。神器解放を会得。
1年
リク。筋力トレーニング。更に基礎体力の向上。
日に日に解放から意識を失うまでの時間が伸びる。
カイ。神器解放状態を持続可能に。神器を解放させた状態での訓練開始。中級悪魔5体討伐。
1年6ヶ月
リク。筋力トレーニング。更に基礎体力の向上。
この時には解放が問題なく出来るようになっていた。中級悪魔3体討伐。
カイ。上級悪魔6体討伐。
2年
リク。剣術の訓練。驚くほどの成長をみせる。
カイ。七心蒼水の右腕として力を認められる。
更に1年
リク。神器を解放させた状態での訓練開始。この間上級悪魔4体討伐。
カイ。更に上級悪魔10体討伐。次期紺碧七心候補となる。
2人が別れてから3年の月日が過ぎ、15歳になっていた…
背丈も伸び、体格も大きくなっていた。
そんな折。
「リク君…蒼水が…蒼水が…」
訓練の途中、迅雷が歪んだ表情で駆け寄ってくる。
「ジンさん?どうしたんですか?そんに慌てて…」
訝しげな表情で覗き込む。
「蒼水が…蒼水が…」
涙が溢れている。言葉が出てきていない。
「ジンさん…落ち着いてください!」
肩に手をやる。
「蒼…水が…死んじゃった…」
「え…」
言葉の意味を理解出来ない。出来るはずがない。
「いや…そんな…はずは…」
リクの目にも涙が溢れてくる。
「カイ君が…言ってたから…間違いない…」
言葉に詰まる。
「俺、カイのところに行ってきます。カイはどこですか?」
辺りを見渡すがいない。
「城門…に…いるはず…」
迅雷の涙が止まらない。
「わかりました。ジンさんはここにいてください。」
静かな声で迅雷にいい、近くにあった椅子に座らせる。
「カイ…」
城門まで全力で走る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カイの姿が見えた。
座り込んだまま俯いている。
「カイっ!って…お前…なんだよこの傷は!?このままだとお前も死ぬぞ!」
身体の至る所に火傷の跡。深い。裂傷の度合いも深刻。
「カイ様のお知り合いの方ですか?」
看護兵が慌てた様子で話しかけてくる。
「はい。なにがあったんですか?なんで病室に連れて行かないんですか?早く…連れて行けよっ!」
口調が強くなる。
「落ち着いてください」
なだめられるが
「落ち着いていられる訳ねぇだろ!カイ!早く行くぞ!」
カイを抱えようとする。
直後その手を振り払われた。
「リクか…久しぶりだな。もう俺はいい…何も出来ないただの弱者だ。ただ奪われるだけの…」
涙も枯れてしまったのだろう。言葉が重い。
「蒼水さんは?生きてるんだよな?」
確認せずにはいられなかった。
「死んだよ…俺に力がないから…蒼水さんは俺を庇って…」
急に口調が激しくなる。
リクに掴みかかり
「俺が弱いから蒼水さんが…死んだんだよ!はっきり言えよ!お前が悪いって!はっきり…言ってくれよ…」
最後、言葉が出ていなかった。
「カイ。お前は生きてる。生きていてくれて…ありがとう」
掴まれた手を握り返す。
「え…」
言葉が出ない。
「蒼水さんがカイを逃してくれたんだろ?恐らく空間転移かなにかの術式で」
カイの目を真っ直ぐ見つめる。
「なんで…それを…」
「カイが蒼水さんを…仲間を置いて逃げる訳ないからな。カイは強いからよ」
穏やかな口調で話しかける。
「うっ…うぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶望。自分の無力への絶望。同時に押し寄せる複数の感情。目から形となり現れる。
「蒼水さんを殺した奴はどこだ?」
カイの目を見つめる
「勝てる訳ない…」
聞き取れない程小さな声で呟く
「今…なんて言った?」
口調が強くなる
「俺には…いや俺達には勝てないって言ったんだよ。行ったら殺される。無駄死にだ…」
絶望している。心の底から絶望している。
「そんなのわからねぇだろ!」
更に口調が激しくなる。
「わかるんだよ。蒼水さんが死んだんだぞ?俺達が勝てる訳ないだろ」
圧倒的な力の前に完全に戦意を喪失している。
「お前って奴は!」
胸ぐらを掴む。
「まぁ落ち着けよ…」
やけに冷静な声。
「相手は獄炎のイフリート。七獄の一人。孤児院のみんなを殺した奴だ」
カイの手が震えている。拳を握る力で血が流れている。
「そうか…なら尚更行かなくちゃな」
真っ直ぐに孤児院のあった方角を見つめる。
「行くなっ!リクまで…失いたく…」
言葉を遮る。
「お前は…蒼水さんに何を教えてもらったんだ!何を託されたんだ!そこで震えてろ。俺は、生きる為に戦う。もうあいつに奪わせない。俺が終わらせる」
口調が激しくなる。しかしその表情は冷静。
「リク…頼む…行かないでくれ…」
涙を流しながら縋るように訴える。
「ただ…1つだけ今、言っときたいことがある。カイ。お前は強い。生きる為に戦え。」
そう言い残し1人歩き出す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暫く時間が経ち。
「カイ君。見て欲しいものがあるの」
迅雷が紙を手渡す。
「手紙…ですか?」
達筆な文字が並ぶ。
「そう。蒼水から君にね。俺に何かあったらカイに渡してくれって預かってたの」
「蒼水さんから…」
読み始める。脳裏に蒼水との厳しくも楽しかった思い出が蘇る。
「ーこの手紙を読んでいるということは、俺はこの世にいないのだろう。
カイと行動を共にすることが多くなり、カイには秘密で、ある術式をかけた。
きっとカイは危機的な状況の時逃げろと命令しても聞かないだろうから。
今、君を人類は失う訳にはいなかい。だから術式をかけた事を許してほしい。
カイは俺の下に来てからというもの、日々の努力を欠かさず、目を見張る速さで成長してきた。その成長を俺は心から嬉しく思っていた。だからこそ…カイ。俺の最後の願いを1つだけ聞いてくれ。
俺亡き後、七心紺碧担当をカイに任せる。
君なら出来る。いや君にしか出来ない。
迅雷を通して他の七心には話しをしてくれるはずだ。
七心としての自覚を持ち。大切なものを護る為、生きる為に、強くなってくれ。 蒼水」
「蒼…水…さん…俺は…」
枯れたはずの涙が止まらない。
「後は君次第だよ。託された思いを…受け継ぐのか…投げ出すのか…」
迅雷が優しく声をかけ真っ直ぐ見つめる。
無言で立ち上がり。
「迅雷さん。ありがとうございました。」
また1人歩き出す。
君次第 完
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読んで頂きありがとうございました!
長くなってしまって七獄名前しか出せませんでした…
次回は出てきます!
リクとカイはこの後どこへ向かったのか…
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