14 / 42
漂流した教室編
波乱たる夜
しおりを挟む
さすがに若者だからか、この非日常を楽しんでいる様子が彼らには見られた。
「まるでキャンプファイアーだな」
「こういうこと滅多にしないのか?」
サバイバルに詳しい少年、ジュンイチはこの様子を呆れて見ていた。野営自体、バスターでなくとも長距離を移動する場合珍しくない。一方、彼らはそんなことはあまりない様子だ。デンキ、というのが通ってないから使えなかったがあの教室には灯りがある様だ。
「あの電灯、蛍光灯を見たか? あれ使うと真昼の様に明るくなるんだ」
「へぇ、想像も出来ないな」
「こういう感じだな」
ジュンイチがスマホというものを操作すると、まるで探索系の魔法を使ったかの様に光が迸る。
「充電が出来ないから今は滅多に使えないけどね」
「こりゃ便利だ。出まわったら生活が変わるぞ」
こんな明るいものが部屋に点いたら夜中でも本を読むのに不自由しないだろうな。
「ところでなんだ? このいい香りの料理は」
「スパイスの煮込みね。複数の香草で具材を煮込むと日持ちがよくなるんよ」
フィルセが焚火に鍋を掛けて作っていたのは、見たこともない料理。外部と交流があって交易が出来ると自分とこで作れないもの手に入っていいよな。サナトリ村の村民は致命的に選民意識が高く周囲からえんがちょされてたし、バスターがたまに報酬で金銭でなく生活用品貰ってたくらいだ。
「カレー的な?」
「カレー?」
ハルカ達のいた土地にも似た様な料理があるらしい。これはカレーというのか?
「あー、なんかお米食べたくなってきちゃったなー」
「オコメ? 何それ?」
このスパイス煮はパンと食べるらしく、オコメなるものはさしものフィルセも知らなかった。
「穀物の一種で、なんかこう……粒を脱穀、皮剥いて白くなったのを煮込んで食べるものなのよ」
「手間掛かってるな……」
「玄米っていって昔は皮剥かないのが主流だったし、今は機械がやってくれるからね。というかここまで文化が違うのに言葉が通じているのが不思議なくらい」
確かにハルカの言う通りだ。聞きなれない存在や道具がポンポン出てくるのに、何故か言葉は通じる。海を超えると言葉が変わるなんて話は聞いたことがあるが、同じ大陸の住民なのか?
「そうだ、さっきスマホってもの見せてもらった時によく分からない文字が書いてあったけど、文字も違うの?」
フィルセは書き文字の差に注目した。俺は木の枝で自分の名前を書いてみる。ハルカもそれに習い、名前と思しき字を記す。だが、二つの文字は全く違う。
「あれ? リュウガ・アークライドって書いてあるの? なんで読めるの?」
ハルカも文字は知らなかったが、何故か読める様だ。いや、多分名乗ったからだろうけど、一応確認。
「じゃあこれは?」
「魔の王が率いし眷属、討ちし者の名はバスター。神の加護を得た人間……」
うん、バスターに関する神話の冒頭だ。比較的古くて複雑な文章だが、ちゃんと読めてる。
「なんで文字が読めるの? 書こうと思っても書けないのに……」
ハルカは不思議に思いながら、何か文字を書く。それはこの国の文字。『ぴえんを超えてぱおん』? どういう意味だ?
「ぴえんをこえてぱおん?」
「え? 読めた? ていうか書ける?」
何故か彼女達は自分が知らない間にこの国の言語を習得している様だ。バスターの加護の様なものか? 例えば俺の得意な金縛り魔法『ナシバ』と『ゼナシバ』、特定の呪文を詠唱しているとかじゃなくて使いたいって思えば使うことが出来る。これはバスターの加護で特別な訓練を積まなくても発動自体は出来る様になっている。審問官の加護を受けた瞬間からその精度や持続時間はともかく練習せずとも使うだけなら可能だ。それと似た様なことがハルカ達にも?
「看破しても何もないのか……?」
看破を発動しても不自然な魔王レベル99が目立つ一方で手がかりはない。一体どうなってやがる。
「なぁ、ギルドに行った後は加護を受けさせた方がいいんじゃねぇか? ああいう場所にゃ正規のルートで審問官になったのとか、もっと詳しい人いるだろうし」
俺は今後の話をフィルセとする。加護が受けられる神殿まで行けば、何か手がかりが掴めるかもしれない。
「そうね、どうやって来たのか分からないんじゃ、いつ帰れるか分からない。安全の為にも加護で能力を上げておくと安全でしょう」
フィルセも賛同した。加護を受けるだけで多少は丈夫になる。いくらエンタールに引きこもっていてもいつ魔物が攻めてくるか分からないし、帰る手がかりを探すのに出歩く必要もあるだろう。
「そうだ、このゴミはどうしたらいいかな?」
「ゴミならどっか穴開けて埋めれば……」
ジュンイチにゴミのことを相談されたのだが、どうもそういうわけにはいかなさそうである。
「いや、これとか土に還らないからさ」
「え?」
見たことのない素材で出来た箱に入っていたのは、植物の種とキラキラ光る小さな皿の様なもの。なんだこれは?
「皿捨てるのか?」
「いや、アルミカップは使い捨てだからさ」
「こんな綺麗なもん使い捨てるの?」
衝撃の事実。触った感触はつるつるしていて金属を信じられないくらい薄く伸ばした様な、それをギザギザの皿にした様な奇怪なもの。それを使い捨て?
「教室のゴミ箱に捨てればよくない?」
「弁当のゴミだけど虫とか集らないかなって」
ハルカは適当に解決策を出すが、匂いからして食べ物を入れておいたものなのでジュンイチの言うことも分かる。
「口縛っておけば?」
「そっか。ゴミは増えないだろうしね」
「箱の口を縛る?」
もう話の流れが全く分からない。これが文化の違い……。
「箱の口を縛るって何さ?」
「ほらゴミ袋……」
「袋をゴミ入れに?」
袋ってあの布とか皮で作る、道具とか貨幣入れるあれだよな? ゴミの為にあれを?
「ああ、ビニール袋だからね。最近は減らそうだのと小うるさくはなっているけど」
ジュンイチについていくと、ゴミが入っていた箱と似た様な質感の大きな箱に半透明な袋が入っていた。
「これがびにーる……何をどうしたんだ?」
「材料は石油だね。燃料にならない部分をこうしていろんな道具に転用するんだ」
「セキユ?」
「うーん、平たく言うと骨の汁、みたいなものかな?」
だ、ダメだ……何一つ理解出来ない……。骨の汁がこれになるのか? いやそもそも骨の汁って何よ?
「ほら、動物が死ぬと骨が残るだろ? それが土に埋もれて何十万年とすると石油になるんだ。多分ここも場所が良ければ地中深く掘れば出るんじゃないかな?」
「へぇ……なんかすごいな……」
まるでおとぎ話みてーなこった。骨が汁になってあのペラペラ透明お化けに……。
「で、その種は何の種なんだ?」
「梅干しだね。梅を塩で漬けたものだよ」
唯一分かるのは種だが、ウメとはまた聞き馴染みない植物だ。
「植えたらウメが生えてくるのか。それ貰っていいか?」
「塩漬けにした後だから分からないけど、欲しいなら」
俺はウメの種をジュンイチから受け取る。さて、この土地で育つかな。食い物になるくらいだから旨い実を付けるんだろう。
「ああ、実を付けるまで長いと思うけど、もし出来たら実は生で食べない様に。毒だから」
「毒? んなもん食ってたのか?」
だが俺の期待はあっさり砕かれる。まさかの有毒。いや食ってたよね?
「まぁ塩漬けにしたり酒に付ければいいんだけど……。うちの先祖も毒のある魚とか芋を食べられるようにしていたから気持ちはわかる、うん。芋に至ってはあれだけ手間かけても栄養ないからね……」
なんて恐ろしい土地だ……骨が汁になるし実はめちゃくちゃ過酷なんじゃないか?
ゴミを捨てて戻ると、妙に静かだった。さっきまで騒いでいたグループがいない。
「トイレかな?」
「だろうな」
俺達はさほど気にせず火を調整した。料理も終わったので強めて長持ちさせようか。
「た、大変だ!」
その時、噂をすればなんとやら。そのグループが慌ててやってきた。なんと、後ろに人の腰ほどもある大きなリスの魔物、ナッツイーターがいるではないか。
「ナッツイーター! 離れてたはず……」
「なんかデカイリスがいたから、様子を見に行ったら……」
フィルセは距離があるから大丈夫だと思っていたが、どうやら興味本位で突っついてしまったらしい。だが、さすがに火を怖がる魔物なので大勢の人と焚火で後退を始める。倒すまでも無さそうだ。
「この程度ならオラにも……」
「あ、おい武器も持たずに……」
すると例の魔王様、シンジが迂闊にも前へ出る。いや、レベルがあんだけあれば素手で行けるか?
だが、前に立たれたことでナッツイーターが尻尾を立てて鳴き、威嚇する。
「うへああああ!」
情けないことにシンジはそれで腰を抜かしてしまった。お前のレベルは飾りか。なんか魔法とかあんだろ。昔の俺でも何とかするぞこれくらい。
「おら! どっか行け!」
仕方ないので松明を振り回してナッツイーターを追い払う。すぐに逃げてくれたので事なきを得る。いくら大人しい雑魚魔物でも、加護のない人間が襲われれば危険だ。
「全員無事か?」
「あ、ああ……助かった」
とりあえず負傷者も出ずに済んだのはよかったよかった。
「ちょっとー! 何してんの!」
「そうだそうだ!」
「あんな怪物連れ込むなんて!」
「そうだそうだ!」
とはいえ、数人は身の危険を感じたのか件のグループを非難する。落ち着いて対応すればなんてことない魔物だし、人が多くて火のある場所に逃げ込んだ、特にバスターの俺やフィルセがいる場所に来たのは間違いではないと思うけどな。
「まぁまぁ。過ぎたことだ。怪我人がいないことが大事だしな」
「私も迂闊だったわ。文化がここまで違うなら、魔物への対応も常識にはなっていないはずだもの」
フィルセも会話の中で相違点を把握していながら魔物への周知が足りなかったと感じていた。俺達は常識だと思っていても、あちらにとっては非日常なんだ。改めて思い知らされたな。
「そうだな……無事を喜ぶか」
「言い過ぎたよ」
他の連中も分かってくれた様だ。だが、あの腰抜け魔王はそんな和解ムードの中ぎゃいぎゃい言い立てていた。
「なんてことしてくれたんだ! 魔物の群れが来るで!」
「こねーよボケ。だとしてもお前が倒せばいいだろレベル99」
全く野営の準備手伝わないし、こいついるだけで場の空気を悪くするタイプだなさては。
「ねぇ、本当にこいつレベル99の魔王なの? 目ぇ腐ってないあんた?」
「俺もそう思う」
フィルセにそう言われても言い返せない程度には俺も信じがたい。謎の転移に高レベル魔王。これが意味する物を俺達はまだ知らない。
「まるでキャンプファイアーだな」
「こういうこと滅多にしないのか?」
サバイバルに詳しい少年、ジュンイチはこの様子を呆れて見ていた。野営自体、バスターでなくとも長距離を移動する場合珍しくない。一方、彼らはそんなことはあまりない様子だ。デンキ、というのが通ってないから使えなかったがあの教室には灯りがある様だ。
「あの電灯、蛍光灯を見たか? あれ使うと真昼の様に明るくなるんだ」
「へぇ、想像も出来ないな」
「こういう感じだな」
ジュンイチがスマホというものを操作すると、まるで探索系の魔法を使ったかの様に光が迸る。
「充電が出来ないから今は滅多に使えないけどね」
「こりゃ便利だ。出まわったら生活が変わるぞ」
こんな明るいものが部屋に点いたら夜中でも本を読むのに不自由しないだろうな。
「ところでなんだ? このいい香りの料理は」
「スパイスの煮込みね。複数の香草で具材を煮込むと日持ちがよくなるんよ」
フィルセが焚火に鍋を掛けて作っていたのは、見たこともない料理。外部と交流があって交易が出来ると自分とこで作れないもの手に入っていいよな。サナトリ村の村民は致命的に選民意識が高く周囲からえんがちょされてたし、バスターがたまに報酬で金銭でなく生活用品貰ってたくらいだ。
「カレー的な?」
「カレー?」
ハルカ達のいた土地にも似た様な料理があるらしい。これはカレーというのか?
「あー、なんかお米食べたくなってきちゃったなー」
「オコメ? 何それ?」
このスパイス煮はパンと食べるらしく、オコメなるものはさしものフィルセも知らなかった。
「穀物の一種で、なんかこう……粒を脱穀、皮剥いて白くなったのを煮込んで食べるものなのよ」
「手間掛かってるな……」
「玄米っていって昔は皮剥かないのが主流だったし、今は機械がやってくれるからね。というかここまで文化が違うのに言葉が通じているのが不思議なくらい」
確かにハルカの言う通りだ。聞きなれない存在や道具がポンポン出てくるのに、何故か言葉は通じる。海を超えると言葉が変わるなんて話は聞いたことがあるが、同じ大陸の住民なのか?
「そうだ、さっきスマホってもの見せてもらった時によく分からない文字が書いてあったけど、文字も違うの?」
フィルセは書き文字の差に注目した。俺は木の枝で自分の名前を書いてみる。ハルカもそれに習い、名前と思しき字を記す。だが、二つの文字は全く違う。
「あれ? リュウガ・アークライドって書いてあるの? なんで読めるの?」
ハルカも文字は知らなかったが、何故か読める様だ。いや、多分名乗ったからだろうけど、一応確認。
「じゃあこれは?」
「魔の王が率いし眷属、討ちし者の名はバスター。神の加護を得た人間……」
うん、バスターに関する神話の冒頭だ。比較的古くて複雑な文章だが、ちゃんと読めてる。
「なんで文字が読めるの? 書こうと思っても書けないのに……」
ハルカは不思議に思いながら、何か文字を書く。それはこの国の文字。『ぴえんを超えてぱおん』? どういう意味だ?
「ぴえんをこえてぱおん?」
「え? 読めた? ていうか書ける?」
何故か彼女達は自分が知らない間にこの国の言語を習得している様だ。バスターの加護の様なものか? 例えば俺の得意な金縛り魔法『ナシバ』と『ゼナシバ』、特定の呪文を詠唱しているとかじゃなくて使いたいって思えば使うことが出来る。これはバスターの加護で特別な訓練を積まなくても発動自体は出来る様になっている。審問官の加護を受けた瞬間からその精度や持続時間はともかく練習せずとも使うだけなら可能だ。それと似た様なことがハルカ達にも?
「看破しても何もないのか……?」
看破を発動しても不自然な魔王レベル99が目立つ一方で手がかりはない。一体どうなってやがる。
「なぁ、ギルドに行った後は加護を受けさせた方がいいんじゃねぇか? ああいう場所にゃ正規のルートで審問官になったのとか、もっと詳しい人いるだろうし」
俺は今後の話をフィルセとする。加護が受けられる神殿まで行けば、何か手がかりが掴めるかもしれない。
「そうね、どうやって来たのか分からないんじゃ、いつ帰れるか分からない。安全の為にも加護で能力を上げておくと安全でしょう」
フィルセも賛同した。加護を受けるだけで多少は丈夫になる。いくらエンタールに引きこもっていてもいつ魔物が攻めてくるか分からないし、帰る手がかりを探すのに出歩く必要もあるだろう。
「そうだ、このゴミはどうしたらいいかな?」
「ゴミならどっか穴開けて埋めれば……」
ジュンイチにゴミのことを相談されたのだが、どうもそういうわけにはいかなさそうである。
「いや、これとか土に還らないからさ」
「え?」
見たことのない素材で出来た箱に入っていたのは、植物の種とキラキラ光る小さな皿の様なもの。なんだこれは?
「皿捨てるのか?」
「いや、アルミカップは使い捨てだからさ」
「こんな綺麗なもん使い捨てるの?」
衝撃の事実。触った感触はつるつるしていて金属を信じられないくらい薄く伸ばした様な、それをギザギザの皿にした様な奇怪なもの。それを使い捨て?
「教室のゴミ箱に捨てればよくない?」
「弁当のゴミだけど虫とか集らないかなって」
ハルカは適当に解決策を出すが、匂いからして食べ物を入れておいたものなのでジュンイチの言うことも分かる。
「口縛っておけば?」
「そっか。ゴミは増えないだろうしね」
「箱の口を縛る?」
もう話の流れが全く分からない。これが文化の違い……。
「箱の口を縛るって何さ?」
「ほらゴミ袋……」
「袋をゴミ入れに?」
袋ってあの布とか皮で作る、道具とか貨幣入れるあれだよな? ゴミの為にあれを?
「ああ、ビニール袋だからね。最近は減らそうだのと小うるさくはなっているけど」
ジュンイチについていくと、ゴミが入っていた箱と似た様な質感の大きな箱に半透明な袋が入っていた。
「これがびにーる……何をどうしたんだ?」
「材料は石油だね。燃料にならない部分をこうしていろんな道具に転用するんだ」
「セキユ?」
「うーん、平たく言うと骨の汁、みたいなものかな?」
だ、ダメだ……何一つ理解出来ない……。骨の汁がこれになるのか? いやそもそも骨の汁って何よ?
「ほら、動物が死ぬと骨が残るだろ? それが土に埋もれて何十万年とすると石油になるんだ。多分ここも場所が良ければ地中深く掘れば出るんじゃないかな?」
「へぇ……なんかすごいな……」
まるでおとぎ話みてーなこった。骨が汁になってあのペラペラ透明お化けに……。
「で、その種は何の種なんだ?」
「梅干しだね。梅を塩で漬けたものだよ」
唯一分かるのは種だが、ウメとはまた聞き馴染みない植物だ。
「植えたらウメが生えてくるのか。それ貰っていいか?」
「塩漬けにした後だから分からないけど、欲しいなら」
俺はウメの種をジュンイチから受け取る。さて、この土地で育つかな。食い物になるくらいだから旨い実を付けるんだろう。
「ああ、実を付けるまで長いと思うけど、もし出来たら実は生で食べない様に。毒だから」
「毒? んなもん食ってたのか?」
だが俺の期待はあっさり砕かれる。まさかの有毒。いや食ってたよね?
「まぁ塩漬けにしたり酒に付ければいいんだけど……。うちの先祖も毒のある魚とか芋を食べられるようにしていたから気持ちはわかる、うん。芋に至ってはあれだけ手間かけても栄養ないからね……」
なんて恐ろしい土地だ……骨が汁になるし実はめちゃくちゃ過酷なんじゃないか?
ゴミを捨てて戻ると、妙に静かだった。さっきまで騒いでいたグループがいない。
「トイレかな?」
「だろうな」
俺達はさほど気にせず火を調整した。料理も終わったので強めて長持ちさせようか。
「た、大変だ!」
その時、噂をすればなんとやら。そのグループが慌ててやってきた。なんと、後ろに人の腰ほどもある大きなリスの魔物、ナッツイーターがいるではないか。
「ナッツイーター! 離れてたはず……」
「なんかデカイリスがいたから、様子を見に行ったら……」
フィルセは距離があるから大丈夫だと思っていたが、どうやら興味本位で突っついてしまったらしい。だが、さすがに火を怖がる魔物なので大勢の人と焚火で後退を始める。倒すまでも無さそうだ。
「この程度ならオラにも……」
「あ、おい武器も持たずに……」
すると例の魔王様、シンジが迂闊にも前へ出る。いや、レベルがあんだけあれば素手で行けるか?
だが、前に立たれたことでナッツイーターが尻尾を立てて鳴き、威嚇する。
「うへああああ!」
情けないことにシンジはそれで腰を抜かしてしまった。お前のレベルは飾りか。なんか魔法とかあんだろ。昔の俺でも何とかするぞこれくらい。
「おら! どっか行け!」
仕方ないので松明を振り回してナッツイーターを追い払う。すぐに逃げてくれたので事なきを得る。いくら大人しい雑魚魔物でも、加護のない人間が襲われれば危険だ。
「全員無事か?」
「あ、ああ……助かった」
とりあえず負傷者も出ずに済んだのはよかったよかった。
「ちょっとー! 何してんの!」
「そうだそうだ!」
「あんな怪物連れ込むなんて!」
「そうだそうだ!」
とはいえ、数人は身の危険を感じたのか件のグループを非難する。落ち着いて対応すればなんてことない魔物だし、人が多くて火のある場所に逃げ込んだ、特にバスターの俺やフィルセがいる場所に来たのは間違いではないと思うけどな。
「まぁまぁ。過ぎたことだ。怪我人がいないことが大事だしな」
「私も迂闊だったわ。文化がここまで違うなら、魔物への対応も常識にはなっていないはずだもの」
フィルセも会話の中で相違点を把握していながら魔物への周知が足りなかったと感じていた。俺達は常識だと思っていても、あちらにとっては非日常なんだ。改めて思い知らされたな。
「そうだな……無事を喜ぶか」
「言い過ぎたよ」
他の連中も分かってくれた様だ。だが、あの腰抜け魔王はそんな和解ムードの中ぎゃいぎゃい言い立てていた。
「なんてことしてくれたんだ! 魔物の群れが来るで!」
「こねーよボケ。だとしてもお前が倒せばいいだろレベル99」
全く野営の準備手伝わないし、こいついるだけで場の空気を悪くするタイプだなさては。
「ねぇ、本当にこいつレベル99の魔王なの? 目ぇ腐ってないあんた?」
「俺もそう思う」
フィルセにそう言われても言い返せない程度には俺も信じがたい。謎の転移に高レベル魔王。これが意味する物を俺達はまだ知らない。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
禁忌地(アビス)に追放された僕はスキル【ビルダー】を使って荒野から建国するまでの物語。
黒猫
ファンタジー
青年マギルは18才になり、国王の前に立っていた。
「成人の儀」が執り行われようとしていた。
この国の王家に属する者は必ずこの儀式を受けないといけない…
そう……特別なスキルを覚醒させるために祭壇に登るマギルは女神と出会う。
そして、スキル【ビルダー】を女神から授かると膨大な情報を取り込んだことで気絶してしまった。
王はマギルのスキルが使えないと判断し、処分を下す。
気を失っている間に僕は地位も名誉もそして…家族も失っていた。
追放先は魔性が満ちた【禁忌地】だった。
マギルは世界を巻き込んだ大改革をやり遂げて最高の国を建国するまでの物語。

追放された回復術師、実は復元魔法の使い手でした
理科係
ファンタジー
冒険者パーティー【満月の微笑み】で回復術師として従事していたラノイは、その使い勝手の悪さからパーティーを追い出されてしまう。追放されたラノイは旅をする中で、商人であり鑑定魔法を持つチョウカと出会う。事情を話したラノイはチョウカの鑑定魔法を受けることに。
その結果、ラノイは回復術師でなく復元術師であることが判明した。
ラノイのこれからの運命はどうなってしまうのか!?
タイトル変えました。
元タイトル→「幼馴染みがパーティーから追放されたので」
小説家になろうでも載せています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました
ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。
そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった……
失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる