普通に役立たずなので当たり前の様に追放されたんだけど明日からどうしよう

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漂流した教室編

波乱たる夜

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 さすがに若者だからか、この非日常を楽しんでいる様子が彼らには見られた。
「まるでキャンプファイアーだな」
「こういうこと滅多にしないのか?」
 サバイバルに詳しい少年、ジュンイチはこの様子を呆れて見ていた。野営自体、バスターでなくとも長距離を移動する場合珍しくない。一方、彼らはそんなことはあまりない様子だ。デンキ、というのが通ってないから使えなかったがあの教室には灯りがある様だ。
「あの電灯、蛍光灯を見たか? あれ使うと真昼の様に明るくなるんだ」
「へぇ、想像も出来ないな」
「こういう感じだな」
 ジュンイチがスマホというものを操作すると、まるで探索系の魔法を使ったかの様に光が迸る。
「充電が出来ないから今は滅多に使えないけどね」
「こりゃ便利だ。出まわったら生活が変わるぞ」
 こんな明るいものが部屋に点いたら夜中でも本を読むのに不自由しないだろうな。
「ところでなんだ? このいい香りの料理は」
「スパイスの煮込みね。複数の香草で具材を煮込むと日持ちがよくなるんよ」
 フィルセが焚火に鍋を掛けて作っていたのは、見たこともない料理。外部と交流があって交易が出来ると自分とこで作れないもの手に入っていいよな。サナトリ村の村民は致命的に選民意識が高く周囲からえんがちょされてたし、バスターがたまに報酬で金銭でなく生活用品貰ってたくらいだ。
「カレー的な?」
「カレー?」
 ハルカ達のいた土地にも似た様な料理があるらしい。これはカレーというのか?
「あー、なんかお米食べたくなってきちゃったなー」
「オコメ? 何それ?」
 このスパイス煮はパンと食べるらしく、オコメなるものはさしものフィルセも知らなかった。
「穀物の一種で、なんかこう……粒を脱穀、皮剥いて白くなったのを煮込んで食べるものなのよ」
「手間掛かってるな……」
「玄米っていって昔は皮剥かないのが主流だったし、今は機械がやってくれるからね。というかここまで文化が違うのに言葉が通じているのが不思議なくらい」
 確かにハルカの言う通りだ。聞きなれない存在や道具がポンポン出てくるのに、何故か言葉は通じる。海を超えると言葉が変わるなんて話は聞いたことがあるが、同じ大陸の住民なのか?
「そうだ、さっきスマホってもの見せてもらった時によく分からない文字が書いてあったけど、文字も違うの?」
 フィルセは書き文字の差に注目した。俺は木の枝で自分の名前を書いてみる。ハルカもそれに習い、名前と思しき字を記す。だが、二つの文字は全く違う。
「あれ? リュウガ・アークライドって書いてあるの? なんで読めるの?」
 ハルカも文字は知らなかったが、何故か読める様だ。いや、多分名乗ったからだろうけど、一応確認。
「じゃあこれは?」
「魔の王が率いし眷属、討ちし者の名はバスター。神の加護を得た人間……」
 うん、バスターに関する神話の冒頭だ。比較的古くて複雑な文章だが、ちゃんと読めてる。
「なんで文字が読めるの? 書こうと思っても書けないのに……」
 ハルカは不思議に思いながら、何か文字を書く。それはこの国の文字。『ぴえんを超えてぱおん』? どういう意味だ?
「ぴえんをこえてぱおん?」
「え? 読めた? ていうか書ける?」
 何故か彼女達は自分が知らない間にこの国の言語を習得している様だ。バスターの加護の様なものか? 例えば俺の得意な金縛り魔法『ナシバ』と『ゼナシバ』、特定の呪文を詠唱しているとかじゃなくて使いたいって思えば使うことが出来る。これはバスターの加護で特別な訓練を積まなくても発動自体は出来る様になっている。審問官の加護を受けた瞬間からその精度や持続時間はともかく練習せずとも使うだけなら可能だ。それと似た様なことがハルカ達にも?
「看破しても何もないのか……?」
 看破を発動しても不自然な魔王レベル99が目立つ一方で手がかりはない。一体どうなってやがる。
「なぁ、ギルドに行った後は加護を受けさせた方がいいんじゃねぇか? ああいう場所にゃ正規のルートで審問官になったのとか、もっと詳しい人いるだろうし」
 俺は今後の話をフィルセとする。加護が受けられる神殿まで行けば、何か手がかりが掴めるかもしれない。
「そうね、どうやって来たのか分からないんじゃ、いつ帰れるか分からない。安全の為にも加護で能力を上げておくと安全でしょう」
 フィルセも賛同した。加護を受けるだけで多少は丈夫になる。いくらエンタールに引きこもっていてもいつ魔物が攻めてくるか分からないし、帰る手がかりを探すのに出歩く必要もあるだろう。
「そうだ、このゴミはどうしたらいいかな?」
「ゴミならどっか穴開けて埋めれば……」
 ジュンイチにゴミのことを相談されたのだが、どうもそういうわけにはいかなさそうである。
「いや、これとか土に還らないからさ」
「え?」
 見たことのない素材で出来た箱に入っていたのは、植物の種とキラキラ光る小さな皿の様なもの。なんだこれは?
「皿捨てるのか?」
「いや、アルミカップは使い捨てだからさ」
「こんな綺麗なもん使い捨てるの?」
 衝撃の事実。触った感触はつるつるしていて金属を信じられないくらい薄く伸ばした様な、それをギザギザの皿にした様な奇怪なもの。それを使い捨て?
「教室のゴミ箱に捨てればよくない?」
「弁当のゴミだけど虫とか集らないかなって」
 ハルカは適当に解決策を出すが、匂いからして食べ物を入れておいたものなのでジュンイチの言うことも分かる。
「口縛っておけば?」
「そっか。ゴミは増えないだろうしね」
「箱の口を縛る?」
 もう話の流れが全く分からない。これが文化の違い……。
「箱の口を縛るって何さ?」
「ほらゴミ袋……」
「袋をゴミ入れに?」
 袋ってあの布とか皮で作る、道具とか貨幣入れるあれだよな? ゴミの為にあれを?
「ああ、ビニール袋だからね。最近は減らそうだのと小うるさくはなっているけど」
 ジュンイチについていくと、ゴミが入っていた箱と似た様な質感の大きな箱に半透明な袋が入っていた。
「これがびにーる……何をどうしたんだ?」
「材料は石油だね。燃料にならない部分をこうしていろんな道具に転用するんだ」
「セキユ?」
「うーん、平たく言うと骨の汁、みたいなものかな?」
 だ、ダメだ……何一つ理解出来ない……。骨の汁がこれになるのか? いやそもそも骨の汁って何よ?
「ほら、動物が死ぬと骨が残るだろ? それが土に埋もれて何十万年とすると石油になるんだ。多分ここも場所が良ければ地中深く掘れば出るんじゃないかな?」
「へぇ……なんかすごいな……」
 まるでおとぎ話みてーなこった。骨が汁になってあのペラペラ透明お化けに……。
「で、その種は何の種なんだ?」
「梅干しだね。梅を塩で漬けたものだよ」
 唯一分かるのは種だが、ウメとはまた聞き馴染みない植物だ。
「植えたらウメが生えてくるのか。それ貰っていいか?」
「塩漬けにした後だから分からないけど、欲しいなら」
 俺はウメの種をジュンイチから受け取る。さて、この土地で育つかな。食い物になるくらいだから旨い実を付けるんだろう。
「ああ、実を付けるまで長いと思うけど、もし出来たら実は生で食べない様に。毒だから」
「毒? んなもん食ってたのか?」
 だが俺の期待はあっさり砕かれる。まさかの有毒。いや食ってたよね?
「まぁ塩漬けにしたり酒に付ければいいんだけど……。うちの先祖も毒のある魚とか芋を食べられるようにしていたから気持ちはわかる、うん。芋に至ってはあれだけ手間かけても栄養ないからね……」
 なんて恐ろしい土地だ……骨が汁になるし実はめちゃくちゃ過酷なんじゃないか?

 ゴミを捨てて戻ると、妙に静かだった。さっきまで騒いでいたグループがいない。
「トイレかな?」
「だろうな」
 俺達はさほど気にせず火を調整した。料理も終わったので強めて長持ちさせようか。
「た、大変だ!」
 その時、噂をすればなんとやら。そのグループが慌ててやってきた。なんと、後ろに人の腰ほどもある大きなリスの魔物、ナッツイーターがいるではないか。
「ナッツイーター! 離れてたはず……」
「なんかデカイリスがいたから、様子を見に行ったら……」
 フィルセは距離があるから大丈夫だと思っていたが、どうやら興味本位で突っついてしまったらしい。だが、さすがに火を怖がる魔物なので大勢の人と焚火で後退を始める。倒すまでも無さそうだ。
「この程度ならオラにも……」
「あ、おい武器も持たずに……」
 すると例の魔王様、シンジが迂闊にも前へ出る。いや、レベルがあんだけあれば素手で行けるか?
 だが、前に立たれたことでナッツイーターが尻尾を立てて鳴き、威嚇する。
「うへああああ!」
 情けないことにシンジはそれで腰を抜かしてしまった。お前のレベルは飾りか。なんか魔法とかあんだろ。昔の俺でも何とかするぞこれくらい。
「おら! どっか行け!」
 仕方ないので松明を振り回してナッツイーターを追い払う。すぐに逃げてくれたので事なきを得る。いくら大人しい雑魚魔物でも、加護のない人間が襲われれば危険だ。
「全員無事か?」
「あ、ああ……助かった」
 とりあえず負傷者も出ずに済んだのはよかったよかった。
「ちょっとー! 何してんの!」
「そうだそうだ!」
「あんな怪物連れ込むなんて!」
「そうだそうだ!」
 とはいえ、数人は身の危険を感じたのか件のグループを非難する。落ち着いて対応すればなんてことない魔物だし、人が多くて火のある場所に逃げ込んだ、特にバスターの俺やフィルセがいる場所に来たのは間違いではないと思うけどな。
「まぁまぁ。過ぎたことだ。怪我人がいないことが大事だしな」
「私も迂闊だったわ。文化がここまで違うなら、魔物への対応も常識にはなっていないはずだもの」
 フィルセも会話の中で相違点を把握していながら魔物への周知が足りなかったと感じていた。俺達は常識だと思っていても、あちらにとっては非日常なんだ。改めて思い知らされたな。
「そうだな……無事を喜ぶか」
「言い過ぎたよ」
 他の連中も分かってくれた様だ。だが、あの腰抜け魔王はそんな和解ムードの中ぎゃいぎゃい言い立てていた。
「なんてことしてくれたんだ! 魔物の群れが来るで!」
「こねーよボケ。だとしてもお前が倒せばいいだろレベル99」
 全く野営の準備手伝わないし、こいついるだけで場の空気を悪くするタイプだなさては。
「ねぇ、本当にこいつレベル99の魔王なの? 目ぇ腐ってないあんた?」
「俺もそう思う」
 フィルセにそう言われても言い返せない程度には俺も信じがたい。謎の転移に高レベル魔王。これが意味する物を俺達はまだ知らない。
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