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封印されし魔王の鎧編
綻ぶ封印とその中身
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俺は毎朝の日課として、改修した呪いの斧を解呪する為、斧を浸していた聖水を取り換えている。監査の人が質のいい聖水を錬成してくれるおかげか、心なしかいつもより解呪が早い様な気がする。
「よし、もうすぐって感じだ」
呪いの度合いは看破スキルである程度分かる。この斧の真の姿を拝める日も近いだろう。
「さて、出発だな」
俺は荷物を纏め、これから監査のチームと共に故郷であるサナトリ村へ向かう。回復薬もたっぷり持って、何があっても大丈夫な様に準備をしておいた。
「行くのか」
「おう」
フィルセは今日クエストに行かないのか、まだギルドに残っていた。なにかそわそわしており、落ち着かない様子だ。
「死ぬなよ」
「あ、ああ……」
「監査隊を見捨てても私は責めない。なんとしても生き残れよ」
「そこまで? まぁ俺が一番弱いから助けたり出来ないだろうけど……」
仲間を捨ててまで、とはずいぶんな話だ。やっぱ昔、仲間とかパーティー関係でなんかあったんだろうな。そこは掘らないでおこう。サイガが何か言ってた様な気がするが、あいつは自分を美化する為に自分の功績を盛るばかりか他人を貶めるのにも勤しむ男だ。あれはなんの手がかりにもならないと思った方がいい。
「よし、では行こう」
「おうっす」
リーダーに呼ばれて俺は監査隊と共に、サナトリ村へと出発する。遠くから来ただけあり、馬に乗っている人もいる。俺は乗り方なんてわからないんで歩きだが。凄い大所帯なので俺がここに来た様な川を下る方法は使えない。何気に初めてだろうか、正規の道を通ってサナトリ村とエンタールを行き来するのは。
「さすがに整備された道だと魔物出ないっすね」
「向こうも見た目強そうな相手が山ほどいれば迂闊に飛び出せないだろうからね」
魔物も知性があり、魔王みたいなのがいたかつてと異なり人間に敵対する宿命を帯びているわけではない。勝てない相手に戦いを挑まない、というのがお互いの利益になると分かっているのだ。
「だんだん上りになるな……」
山奥に向かっているのだから当たり前だが、道は昇り。大通りが終わると分岐があり、ここからがサナトリ村の領域になる。あの村は村といいつつ、いくつかの集落が散らばっている。農家や牧場が点在するのでそうなるのだろうが。この中に封印の石像が点在する。
「ここから隊を打ち合わせ通り分ける。君は私と来てくれ。連絡はこの『やまびこの鏡』を使う」
「手鏡?」
リーダーが分隊にそれぞれ手鏡を配って分裂する。俺達はリーダーと共に、ギルドへと向かう。他の人が封印を調査、補修している間にジジイを問い詰める算段だ。
「斥候の作った地図がある。それを元に進むぞ」
先にここを訪れた斥候は『マッパー』というジョブかそれに準ずるスキルを持っていたのか、村の地図を作っていた。加護があると地図もすぐ書けて複製できるし便利という他ない。魔物蔓延る洞窟だけでなく、住民が非協力的な村でも役に立つ。
「斥候の情報によると封印はかなり綻んでいるらしい。通りかかった時に処置はしておいたが……」
「え? やっぱ俺みたいな魔法が使えない奴一人じゃ維持できないんです?」
リーダーが斥候から聞くに、封印は危険な状態な様だ。妖精王は誰でも維持出来る点でこの封印を芸術と称したが、俺の魔力や封印維持の技術が想定より低い可能性がある。
「うーん……でも君が作業してくれないともっと早く封印が完全に解けてしまっていただろうし、封印というのは封じている存在が表に出てしまっても弱体化する機能は活きるはず」
「へー、封印って解けた時の事も考えてんすね」
封印は解けたらはいお終い、というものではないらしい。破られても仕事をするものなんだとか。
「常に最悪を考えて用意するだろうし、妖精王がお墨付きをした代物ならその効果にも期待したいが……重要なのは封印を守ることだ」
俺達はギルドへ急いだ。あのジジイが何を考えて封印を解こうとしているのか、それとも何も考えていないのか、その真意を探る必要がある。
「帰ってきたぜ……拠点と書いてギールドっ!」
俺が明らかなお偉いさんを引き連れて戻ってきたのでギルドがざわついていた。ジジイは突然の訪問に泡食って出て来た。
「な、何じゃ! なんじゃこれは! あぽいんとめんとを取らんで来るとは、最近の若者はなっとらんな!」
「監査が予定を教えたら証拠隠滅し放題でしょう。こういうのは抜き打ちが基本ですよ」
リーダーが言うのも尤もだ。相手に用意出来ない状況で調べるからこそ、悪事の証拠を隠させない。
「何を! うちを疑うのか!」
「清廉潔白なら、堂々としていられるものです」
「痛くもない腹を探られるのは不愉快なんじゃあ!」
ジジイはああ言えばこう言う。若くても毅然とした態度を取るリーダーに対し、まさに老醜という言葉が似合う有様だ。
「とにかく、封印の件で立ち入り調査をさせえもらいます。書簡でのやり取りに応じていただければ必要のないことではありますが」
「ワシは礼儀の話をしておるんじゃ!」
ジジイはもう話にならないので監査隊がギルドに押し入り調査する。封印の維持を唯一していた俺を破門までして、封印維持の妨害をしたその理由を探す必要がある。頭の回る魔物に唆されたのか、収賄があるのか、はたまた俺の予想通り何も考えていないのか。
「あ、リーダーさん質問いいですか?」
「何かねリュウガくん」
俺はふと、あることが気になってリーダーに聞いてみた。
「クエストの報酬は依頼者から出るんすよね? じゃあクエストじゃない封印維持の報酬は誰が出してるんですか?」
クエストはゴーレムの時の様に、困っている人が依頼を出してお金も出す。だが依頼者のいない封印維持も妖精王の言う様に仕事に含まれるというのなら、その報酬は誰が出すのだろうか。
「それはね、ギルドのある国に実績を伝えて報酬を貰うのさ。その報酬が支払われるまではギルドが立て替えることになるけど……」
リーダーはしばらく考え、ジジイを睨んだ。俺も多分同じことを考えていると思う。このシステムと俺の扱いを組み合わせれば、ある疑惑が浮かぶ。
「まさか封印維持の報酬ピンハネしてないですよね?」
「ジジイてめぇやっぱそういうことだったか」
そう、俺に報酬を払わない一方で報告はキッチリして報酬を手に入れるという悪事。だがジジイは必死に首を横へ振って否定する。
「しとらんしとらん! 第一そうするならこのガキを破門して追い出したりしたら得が無くなるじゃろ!」
「そうか……」
たしかにそれは一理ある。封印維持で儲けるなら俺を破門する意味もないし、他の奴にも封印維持をさせて報酬はないシステムだよってノリでやった方がいいだろう。現に封印は綻んでいるし。
「そもそもこの土地に封印する様なもんはない! そんなもん迷信じゃ! 今まで何もなくても何ともなかったんじゃから平気じゃろ!」
「一体どこからそんな根拠が……リュウガくんに封印のことを伝えたあの木こりのことを何か知ってるんですか?」
リーダーは別の角度から調べを進める。そういえばあの木こりの爺さん、何者なんだ? 村で有名な偏屈くらいにしか考えてなかったが、村で封印のこと知ってたのは唯一あの人だったぞ?
「あいつは封印がどうとか村人に不安を吹き込むカルト野郎じゃ! ワシが自らそんなものはないと宣言せねばならんくらい村が混乱しかねん有様じゃった!」
「なるほど、封印を口伝する人が減って、信じない人が多数派になってしまったということか」
原因がハッキリした。やっぱこのジジイ何も考えてねぇ! これにはリーダーも頭を抱える。
「大変ですリーダー! 倉庫からこんなものが!」
監査隊の人があるものを抱えて走ってきた。
「すっげぇキモイデザインだな!」
骸骨なのだが、眼孔が四つもあり口も上下で二段に別れている。つまり真ん中に上下の歯が付いた中段の顎があるというなんとも言えない構造。
「それは……あるだけで封印を破壊する『封じ砕きの頭蓋』! 製造も所持も禁じれてる危険な道具じゃないか!」
「はい、強い邪気を感知したので倉庫を探ったのですが……」
リーダーによるとそんなヤバいものだったらしい。多分魔王とかと対立している時に産み出されたなんかなんだろ。
「あ、そうそうあの木こりがいい加減なものを言うんで、じゃあこれ置いておいて何も起きないんなら封印なぞないな、と苦労して取り寄せたんじゃ。すっかり忘れておった」
「ジジイ……」
わざわざ封印を否定する為にとんでもないものを用意してくれやがった。
「今すぐ砕け!」
「はっ!」
リーダーの指示で気持ち悪い頭蓋骨はバラバラになった。俺が看破スキルで見ても、無力化されたことが分かる。
「あー! 何すんじゃ高かったんじゃぞ!」
「どうせ倉庫に眠ってたんだからどうでもいいだろそんなもん。お前老後にゴミ屋敷作るタイプだろ、あ、もう老後か」
さっきまで忘れていたくせに目の前で壊されると憤慨するジジイ。これは家にあるいらないものを「いつか使うから」と溜め込むタイプですね。
「なんじゃと小僧!」
「事実だろうが!」
ジジイが図星を突かれて俺に掴みかかる。しかし俺はがっしり抵抗した。かなり余裕があるな。
「クソガキが……どこでこんな力を……」
「妖精王の力添えだ」
俺はこれでも抑えているが、ジジイは全力らしい。
「なんですかこの騒ぎは!」
ギルドでの騒動を聞きつけ、村長までやってきた。俺はジジイを放り投げ、村長にぶつけてやる。
「そいやー!」
「ぐえええ!」
よし、スッキリした。破門にされた分を仕返ししてやったぜ。
「こ、腰が……」
「こっちも腰が……」
ジジイと村長が腰を打って動けなくなる。だが、地面が揺れて咆哮の様なものが轟いた。
「なんだ?」
『リーダー、大変です! 封印が!』
手鏡から声が聞こえる。これがやまびこの鏡、声や姿を鏡通しで伝えるのか。
「ていうか、封印解けたの?」
というかサラッと重要な事実。封印が解けてしまった様だ。
「ああ、あの封じ砕きの頭蓋は封印を根本から破壊していく……。どれだけ維持を絶えず続けてもその綻びは蟻の開けた穴が堤を崩すが如く……」
リーダーによると、あの頭蓋骨が悪さをかなりしてくれたらしい。
「そんだけボロボロにされちゃ大規模な補修が必要か」
「そもそもいつからこれがあったのか知らないが、相当長くこれの攻撃に耐えた辺りここの封印は強固極まりないものだ。それほどの手を掛けて封印したもの……とんでもないものが出るぞ」
封印の質はそこに封じたものの危険性を間接的に伝える。解けて欲しくないからそんだけ頑張ってガッチガチに封印するのだ。
「これは?」
ギルドの近くで大きな地鳴りがする。急いで外に出ると、ギルドの前に黒いオーラを纏った鎧が現れた。胸にはゴーレムで見た様な文字が刻まれている。
「看破……ってやべ……」
俺は看破スキルで奴のことを確認する。『魔王の鎧 レベル90』……妖精王ティターニアのそれを上回る。これはとんでもないものが蘇ってしまった……どうすればいいんだ?
「よし、もうすぐって感じだ」
呪いの度合いは看破スキルである程度分かる。この斧の真の姿を拝める日も近いだろう。
「さて、出発だな」
俺は荷物を纏め、これから監査のチームと共に故郷であるサナトリ村へ向かう。回復薬もたっぷり持って、何があっても大丈夫な様に準備をしておいた。
「行くのか」
「おう」
フィルセは今日クエストに行かないのか、まだギルドに残っていた。なにかそわそわしており、落ち着かない様子だ。
「死ぬなよ」
「あ、ああ……」
「監査隊を見捨てても私は責めない。なんとしても生き残れよ」
「そこまで? まぁ俺が一番弱いから助けたり出来ないだろうけど……」
仲間を捨ててまで、とはずいぶんな話だ。やっぱ昔、仲間とかパーティー関係でなんかあったんだろうな。そこは掘らないでおこう。サイガが何か言ってた様な気がするが、あいつは自分を美化する為に自分の功績を盛るばかりか他人を貶めるのにも勤しむ男だ。あれはなんの手がかりにもならないと思った方がいい。
「よし、では行こう」
「おうっす」
リーダーに呼ばれて俺は監査隊と共に、サナトリ村へと出発する。遠くから来ただけあり、馬に乗っている人もいる。俺は乗り方なんてわからないんで歩きだが。凄い大所帯なので俺がここに来た様な川を下る方法は使えない。何気に初めてだろうか、正規の道を通ってサナトリ村とエンタールを行き来するのは。
「さすがに整備された道だと魔物出ないっすね」
「向こうも見た目強そうな相手が山ほどいれば迂闊に飛び出せないだろうからね」
魔物も知性があり、魔王みたいなのがいたかつてと異なり人間に敵対する宿命を帯びているわけではない。勝てない相手に戦いを挑まない、というのがお互いの利益になると分かっているのだ。
「だんだん上りになるな……」
山奥に向かっているのだから当たり前だが、道は昇り。大通りが終わると分岐があり、ここからがサナトリ村の領域になる。あの村は村といいつつ、いくつかの集落が散らばっている。農家や牧場が点在するのでそうなるのだろうが。この中に封印の石像が点在する。
「ここから隊を打ち合わせ通り分ける。君は私と来てくれ。連絡はこの『やまびこの鏡』を使う」
「手鏡?」
リーダーが分隊にそれぞれ手鏡を配って分裂する。俺達はリーダーと共に、ギルドへと向かう。他の人が封印を調査、補修している間にジジイを問い詰める算段だ。
「斥候の作った地図がある。それを元に進むぞ」
先にここを訪れた斥候は『マッパー』というジョブかそれに準ずるスキルを持っていたのか、村の地図を作っていた。加護があると地図もすぐ書けて複製できるし便利という他ない。魔物蔓延る洞窟だけでなく、住民が非協力的な村でも役に立つ。
「斥候の情報によると封印はかなり綻んでいるらしい。通りかかった時に処置はしておいたが……」
「え? やっぱ俺みたいな魔法が使えない奴一人じゃ維持できないんです?」
リーダーが斥候から聞くに、封印は危険な状態な様だ。妖精王は誰でも維持出来る点でこの封印を芸術と称したが、俺の魔力や封印維持の技術が想定より低い可能性がある。
「うーん……でも君が作業してくれないともっと早く封印が完全に解けてしまっていただろうし、封印というのは封じている存在が表に出てしまっても弱体化する機能は活きるはず」
「へー、封印って解けた時の事も考えてんすね」
封印は解けたらはいお終い、というものではないらしい。破られても仕事をするものなんだとか。
「常に最悪を考えて用意するだろうし、妖精王がお墨付きをした代物ならその効果にも期待したいが……重要なのは封印を守ることだ」
俺達はギルドへ急いだ。あのジジイが何を考えて封印を解こうとしているのか、それとも何も考えていないのか、その真意を探る必要がある。
「帰ってきたぜ……拠点と書いてギールドっ!」
俺が明らかなお偉いさんを引き連れて戻ってきたのでギルドがざわついていた。ジジイは突然の訪問に泡食って出て来た。
「な、何じゃ! なんじゃこれは! あぽいんとめんとを取らんで来るとは、最近の若者はなっとらんな!」
「監査が予定を教えたら証拠隠滅し放題でしょう。こういうのは抜き打ちが基本ですよ」
リーダーが言うのも尤もだ。相手に用意出来ない状況で調べるからこそ、悪事の証拠を隠させない。
「何を! うちを疑うのか!」
「清廉潔白なら、堂々としていられるものです」
「痛くもない腹を探られるのは不愉快なんじゃあ!」
ジジイはああ言えばこう言う。若くても毅然とした態度を取るリーダーに対し、まさに老醜という言葉が似合う有様だ。
「とにかく、封印の件で立ち入り調査をさせえもらいます。書簡でのやり取りに応じていただければ必要のないことではありますが」
「ワシは礼儀の話をしておるんじゃ!」
ジジイはもう話にならないので監査隊がギルドに押し入り調査する。封印の維持を唯一していた俺を破門までして、封印維持の妨害をしたその理由を探す必要がある。頭の回る魔物に唆されたのか、収賄があるのか、はたまた俺の予想通り何も考えていないのか。
「あ、リーダーさん質問いいですか?」
「何かねリュウガくん」
俺はふと、あることが気になってリーダーに聞いてみた。
「クエストの報酬は依頼者から出るんすよね? じゃあクエストじゃない封印維持の報酬は誰が出してるんですか?」
クエストはゴーレムの時の様に、困っている人が依頼を出してお金も出す。だが依頼者のいない封印維持も妖精王の言う様に仕事に含まれるというのなら、その報酬は誰が出すのだろうか。
「それはね、ギルドのある国に実績を伝えて報酬を貰うのさ。その報酬が支払われるまではギルドが立て替えることになるけど……」
リーダーはしばらく考え、ジジイを睨んだ。俺も多分同じことを考えていると思う。このシステムと俺の扱いを組み合わせれば、ある疑惑が浮かぶ。
「まさか封印維持の報酬ピンハネしてないですよね?」
「ジジイてめぇやっぱそういうことだったか」
そう、俺に報酬を払わない一方で報告はキッチリして報酬を手に入れるという悪事。だがジジイは必死に首を横へ振って否定する。
「しとらんしとらん! 第一そうするならこのガキを破門して追い出したりしたら得が無くなるじゃろ!」
「そうか……」
たしかにそれは一理ある。封印維持で儲けるなら俺を破門する意味もないし、他の奴にも封印維持をさせて報酬はないシステムだよってノリでやった方がいいだろう。現に封印は綻んでいるし。
「そもそもこの土地に封印する様なもんはない! そんなもん迷信じゃ! 今まで何もなくても何ともなかったんじゃから平気じゃろ!」
「一体どこからそんな根拠が……リュウガくんに封印のことを伝えたあの木こりのことを何か知ってるんですか?」
リーダーは別の角度から調べを進める。そういえばあの木こりの爺さん、何者なんだ? 村で有名な偏屈くらいにしか考えてなかったが、村で封印のこと知ってたのは唯一あの人だったぞ?
「あいつは封印がどうとか村人に不安を吹き込むカルト野郎じゃ! ワシが自らそんなものはないと宣言せねばならんくらい村が混乱しかねん有様じゃった!」
「なるほど、封印を口伝する人が減って、信じない人が多数派になってしまったということか」
原因がハッキリした。やっぱこのジジイ何も考えてねぇ! これにはリーダーも頭を抱える。
「大変ですリーダー! 倉庫からこんなものが!」
監査隊の人があるものを抱えて走ってきた。
「すっげぇキモイデザインだな!」
骸骨なのだが、眼孔が四つもあり口も上下で二段に別れている。つまり真ん中に上下の歯が付いた中段の顎があるというなんとも言えない構造。
「それは……あるだけで封印を破壊する『封じ砕きの頭蓋』! 製造も所持も禁じれてる危険な道具じゃないか!」
「はい、強い邪気を感知したので倉庫を探ったのですが……」
リーダーによるとそんなヤバいものだったらしい。多分魔王とかと対立している時に産み出されたなんかなんだろ。
「あ、そうそうあの木こりがいい加減なものを言うんで、じゃあこれ置いておいて何も起きないんなら封印なぞないな、と苦労して取り寄せたんじゃ。すっかり忘れておった」
「ジジイ……」
わざわざ封印を否定する為にとんでもないものを用意してくれやがった。
「今すぐ砕け!」
「はっ!」
リーダーの指示で気持ち悪い頭蓋骨はバラバラになった。俺が看破スキルで見ても、無力化されたことが分かる。
「あー! 何すんじゃ高かったんじゃぞ!」
「どうせ倉庫に眠ってたんだからどうでもいいだろそんなもん。お前老後にゴミ屋敷作るタイプだろ、あ、もう老後か」
さっきまで忘れていたくせに目の前で壊されると憤慨するジジイ。これは家にあるいらないものを「いつか使うから」と溜め込むタイプですね。
「なんじゃと小僧!」
「事実だろうが!」
ジジイが図星を突かれて俺に掴みかかる。しかし俺はがっしり抵抗した。かなり余裕があるな。
「クソガキが……どこでこんな力を……」
「妖精王の力添えだ」
俺はこれでも抑えているが、ジジイは全力らしい。
「なんですかこの騒ぎは!」
ギルドでの騒動を聞きつけ、村長までやってきた。俺はジジイを放り投げ、村長にぶつけてやる。
「そいやー!」
「ぐえええ!」
よし、スッキリした。破門にされた分を仕返ししてやったぜ。
「こ、腰が……」
「こっちも腰が……」
ジジイと村長が腰を打って動けなくなる。だが、地面が揺れて咆哮の様なものが轟いた。
「なんだ?」
『リーダー、大変です! 封印が!』
手鏡から声が聞こえる。これがやまびこの鏡、声や姿を鏡通しで伝えるのか。
「ていうか、封印解けたの?」
というかサラッと重要な事実。封印が解けてしまった様だ。
「ああ、あの封じ砕きの頭蓋は封印を根本から破壊していく……。どれだけ維持を絶えず続けてもその綻びは蟻の開けた穴が堤を崩すが如く……」
リーダーによると、あの頭蓋骨が悪さをかなりしてくれたらしい。
「そんだけボロボロにされちゃ大規模な補修が必要か」
「そもそもいつからこれがあったのか知らないが、相当長くこれの攻撃に耐えた辺りここの封印は強固極まりないものだ。それほどの手を掛けて封印したもの……とんでもないものが出るぞ」
封印の質はそこに封じたものの危険性を間接的に伝える。解けて欲しくないからそんだけ頑張ってガッチガチに封印するのだ。
「これは?」
ギルドの近くで大きな地鳴りがする。急いで外に出ると、ギルドの前に黒いオーラを纏った鎧が現れた。胸にはゴーレムで見た様な文字が刻まれている。
「看破……ってやべ……」
俺は看破スキルで奴のことを確認する。『魔王の鎧 レベル90』……妖精王ティターニアのそれを上回る。これはとんでもないものが蘇ってしまった……どうすればいいんだ?
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