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封印されし魔王の鎧編
スローライフはスローじゃないってそれ一番言われてるからな
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ネメアクラウンネオの一員として俺は働き始めた。妖精王様の特訓もあり、以前より安定して魔物を倒せる様になってきた。それもあり、稼ぎも充実。生活には困らなくなってきた。
「よいしょ」
「いつもすまないねぇ」
「いえ、審問官ですので」
回収した呪いの装備の解呪も俺は同時にしていた。聖水に一日浸けて、毎日交換する。俺以外がこれに触ると忽ち呪われるので、こればかりは俺がしないといけない。
「ところで封印の件どうなりました?」
俺はギルドマスターにサナトリ村の封印について尋ねる。上の方に掛け合ってもらい、調査をしている最中なのだが、今はどうなっているのか。サナトリ村が滅ぶこと自体は構わない。だが、ここは近いしもし封印が解けて厄介な魔物がこっち来たら大変だ。
「どうやらお前さんを追い出したギルド、封印なぞないとごねているらしくてな……。後日監査が入る予定となっておる」
「その監査団、俺も付いていけないですか? 封印の位置は覚えてるんで力になれるかも」
地元の協力が得られないのであれば、監査団も手こずるだろう。俺は幸い土地勘があるので、手伝うことくらいできる。
「監査団はここに寄るからのう。その時名乗りを上げるとよい。向こうも、報告者であるお前さんの話を聞きたいだろう」
「そうします」
ここに寄ってくれるのなら話は早い。傷が癒えたのか、フィルセも最近は軽い仕事をする様になってきた。相変わらずツンケンであるが、少し軟化した様に思える。
「お前も行くのか?」
「ああ、そうだが……」
「いや、死ぬなよ」
顔はこちらに向けていないが、心配しているらしい。素直じゃないのか何なのか。
「心配してくれてんのか?」
「……とにかく人手が足りてないんだ。欠員は困るというだけだ」
「分かってるよ。命あっての物種だ」
元々俺は無茶する趣味はないし、封印が危ういとなると少し警戒はする。だからこそ偉いさんが監査に来てるんだし。
@
後日、監査の人々がギルドに来た。立派な仕立ての鎧や衣服の兵士たちだ。この土地を収めている王族の家来なのかな。
「君が報告をしてくれた審問官かね?」
「はい」
その中のリーダー格らしき青年が前に出てくる。サイガと違って、身なりだけでなく纏うオーラも相応で物腰の柔らかい。俺が審問官と分かっていても差別的な態度は見せない。
「詳しい話を聞きたいんだ」
「いいですよ」
俺は封印について詳しい話をした。
「話を聞いたのは村でも変わり者って言われている木こりの爺さんからだ。封印の石に毎日魔力を込めろって。そこにはヤバい魔物が封印されているって話だが……その魔物が何なのかは具体的には聞いてないな。まぁ、封印の魔物なんて内容が分からなくても解き放つものではないってことらしいが……」
「概ねその通りだよ。封印されているということは、それなりの理由があるんだからね」
その木こりの爺さんに薪割りを手伝う様に依頼されて、そこで色々な話を聞いたんだ。斧の扱いもそこで習った。その爺さんが生きてた頃はこの依頼で食うには困らなかったが……亡くなってからはいろいろ厳しいな。
「そういえば君は破門されているね。差しさわりなければ理由を教えてくれないか?」
「ああ、なんか仕事してないって言われてな」
「そんなはずは……見通しの鏡では封印維持の仕事をしていることが明記されているんだが……」
やっぱ村の外ではあの封印維持が重要な仕事らしい。妖精王様もギルドマスターも同じことを言ってたな。
「そうなると封印を解くことに何らかの利権があるのか……?」
「そちらで何か分からないですか? サナトリ村の封印された魔物について」
リーダーはあのジジイが魔物で利益を得ようとしているのではないかと思っているが、俺としてはそこまで考えていないと考えている。だが、一応情報を確認する。
「いや……こういうのは基本口伝でね。その土地の人が知らないと得られる情報がない」
「んー? では例えば封印があるとなんか不利益があるとか?」
この街に来て知ったが、土地の値段というものがあるらしい。暮らし易かったり、作物が作りやすい肥えた土地は高いとか。だからそんな感じで安くなるとか?
「まぁ多少は」
「やっぱその路線かなぁ……」
「実際に行ってみればわかるさ」
いろいろ考えても憶測の域を出ない。行ってみるしかないのか。
「ただいま」
「お、戻ったか」
その時、フィルセが戻ってきた。リーダーは彼女のことを知っているのか、声を掛ける。
「おや、フィルセさんか。オーバーワークは最近控えている様で安心したよ」
「余計なお世話だ」
結構偉い人にもいつものトゲトゲ。これは少し気まずい。
「おいおい……」
「はは、いいさ。少し安心したよ」
リーダーは彼女の過去を知っている様だ。だが、それを迂闊に明かすことなく俺に言った。
「君は重要な告発者だ。しっかり守らせてもらうよ」
「あ、ああ……」
死神、というあだ名といい、何かあるんだろうな。まぁ詮索する必要もないか。
「しかし済まないがすぐには出発できない。隊が長旅で疲弊している中、協力者のいない土地に入るのは危険でね、急ぎだが待たせてすまない。斥候を放って情報収集する必要もある」
「そうなんすか、じゃあこっちも仕事しながら待ってますね」
しかしそんなにすぐ行動へは移せない様だ。俺は軽めの依頼を熟して待つことにした。クエストボードから選んだのは、農村で放置されているゴーレムの駆除。
「ゴーレム? 難易度が高いんじゃないか?」
「いやこれがコツを掴むとな」
フィルセが首を突っ込んでくる。ゴーレム系は身体が硬く筋力も強いため厄介な魔物だ。だが、こいつらの特性を理解すれば俺の金縛りと併用して思ったより楽にクリアできるかもしれないというわけだ。
「……予定変更だ。私も行く」
「え?」
フィルセは何と俺に同行を申し出た。こんな一匹オオカミが珍しいこともあるもんだ。
「別に心配してないけど、コツとやらが気になるだけだ」
「お、おう……」
勢いに負けて応じる形となってしまったが、まぁ元々高い取り分が半分になっても痛くはないし、組んで仕事できるのは効率もいい。
「リュウガくん」
「はい?」
フィルセがギルドを出たのを見計らって、リーダーが声をかけてくる。
「無茶はしないように。特に彼女の前で」
「もちろん。……ん?」
ちょっと引っ掛かることがあったが、俺は当然無理したりはしない。そういう性分ではないからな。
@
俺とフィルセは農村に辿り着く。エンタールの街を出てしばらく歩くと魔物の気配もないのどかな風景が広がっている。見渡す限りの畑、水路、何もないが逆に言えば魔物への備えも必要ないくらい平和な場所なのだと分かる。
「農業か……スローライフもいいかな」
フィルセは畑を見て呟く。しかし俺からすれば狂気の沙汰だ。
「おいおいおいおい、正気か? 日の出と共に起きて一年中畑仕事だぞ?」
「命までは取られないだろう?」
俺はバスターを辞めて農家になろうとしたことがあるから分かる。農家は心が折れる。成立させてる人は尊敬する。サナトリ村ではタダ同然で教育と称して子供から労働力を搾取してるから多少マシに感じるだろうが、ここでは当然そんなことはしていない様だ。子供の姿が見えないのがその証拠。
最近知ったが、エンタールとかの街だと子供は学問を教えてくれる学校というとこに全員が通うそうだ。サナトリ村じゃ学問なんてさせてもらえるのは金持ちのガキか頭いい奴くらいだってこと考えると凄い話だ。もちろん俺はしてない。
「いやそうだけどな……一年の収入が一回の収穫に掛ってんだぞ? つまり一回ぽしゃったら終わりだ」
「マジか……」
それを聞いたフィルセは愕然としていた。そう、これがマジでキツイ。どんなに頑張っても嵐一つで消し飛ぶのだ。
「直に命は取られないが収穫が減るとそれはもう真綿で首を絞められる様に……」
「ひと思いに殺されないのも考え物だな……」
エンタールの街の情報誌では『農業でスローライフ!』などという謳い文句が乗っていたが、冗談ではない。スロー、に削られていくライフだ。
「農家を継ぐ人が減るわけだ……」
「特に苦労を間近で見てればな……」
そんな宣伝も全ては農家が減っているから。サナトリ村じゃ農家の子供は農家、バスターの子供はバスター、と親の仕事を継ぐのが基本だが、そこが自由なのはいいことであると同時に困ったことも引き起こす。まぁ他人の不幸の上に成り立つシステムなどクソ喰らえであるが。
「しかしゴーレムってのはどこにいるんだ?」
「すみませーん」
無駄話はその辺にして、問題のゴーレムがいないことに気づく。俺はその辺の人に聞いてみることにした。こういう時は人に聞くのが一番だ。
「ゴーレム駆除の依頼で来たんですけど」
「ああ、バスターさんか。ゴーレムはほれ、あっちの休耕地じゃけぇ」
農家のおじいさんに聞くと、場所を教えてくれた。だがきゅうこうち、というのはどこなんだ?
「きゅうこうち……ですか?」
「ああ、毎年この畑に植えるわけじゃないんじゃ。栄養使って土地が痩せてしまうからの。順番に土地を使っとるんじゃ。今年休ませとる土地にゴーレムが入り込んでな」
「そういうことですか」
休耕地というのは作物を育てずに栄養を溜めさせている場所の様だ。村じゃそんなことしてなかったな……。
「スローライフか、考えることが多いな……」
フィルセもスローとは名ばかりの高度思考に辟易としていた。農業って頭使うんだよな体力もだけど。
「誰だよ農家のことスローライフとか言い出したの。何と比べてスローなんだよ」
俺は文句を言いながら休耕地をフィルセと共に目指す。この農村では家畜も飼ってるらしく、牧畜もやってる様だ。
「動物! 動物なら可愛いしいいんじゃないか?」
「え? ああ、うん」
何故か急に興奮気味で俺にそんなことをいうフィルセ。しかし小屋に少し近づいたと思ったら彼女の足が止まる。
「な、なんだこの匂いは……」
「ああ、家畜小屋って臭いよな」
田舎者の俺は慣れているが、エンタールみたいな町を拠点にする彼女に糞や動物特有の匂いはきつかった様だ。
「これが毎日か……」
「慣れるぞ?」
がっくりうなだれるフィルセであるが、そんな気にしなくても毎日嗅いでいれば慣れるものだ。
「……」
が、匂いはさておき小屋の近くで自分の身長くらい大きい藁の束を転がしているお婆さんがいた。藁はぎっしり詰まっており、とても重そうだ。お婆さんは軽々転がしているが藁の挙動はズシンと重鈍。あれを運ぶのは加護があっても辛いだろう。
「スローってなんだっけ」
スローライフはそんなのんびりしたものではない様だ。
「ていうかこっちの方が臭いんだがなんかあんじゃねぇの?」
俺はそんなものよりキツイ悪臭を感知し、事件性を見出だしてそちらに向かった。そこには土を入れた木で組んだ箱が置いてあった。
「土? 何埋めてんだ……?」
「匂いからとんでもない邪気を感じるぞ」
見れば見るほど普通の土だ。それがなんでこんな匂いを放っているのやら。
「おや、バスターさんかね?」
俺達が土に困惑していると、バケツを持って農家のおじさんがやってきた。そのバケツには残飯が雑多に入れられており、土からと同じ様な匂いがしていた。
「この不自然な土はなんだ? 場合によっては……」
フィルセが剣の柄に手をかけ、臨戦態勢に入る。十中八九この残飯が入っているんだろうけど、理由が分からないと不気味だな。
「ああ、これかね? ジワームプールだよ」
「ジワーム?」
ジワームというのはピンクっぽい蛇の様な小さな生き物だ。時折山で見るが、これを何してんだ?
「ああ、ジワームは残飯とか食って土耕してくれんだ。フンとかが栄養あっていい土になるから、作物もよく育つんだ」
「へぇ」
ジワームを使って作物を育てるのか。工夫が凄いな。
「とにかく早く休耕地に行くぞ。鼻が曲がりそうだ」
「そ、そうだな……」
フィルセは匂いに耐えかねてこの場を離れる。さて、問題のゴーレムとはどんなものか。
「よいしょ」
「いつもすまないねぇ」
「いえ、審問官ですので」
回収した呪いの装備の解呪も俺は同時にしていた。聖水に一日浸けて、毎日交換する。俺以外がこれに触ると忽ち呪われるので、こればかりは俺がしないといけない。
「ところで封印の件どうなりました?」
俺はギルドマスターにサナトリ村の封印について尋ねる。上の方に掛け合ってもらい、調査をしている最中なのだが、今はどうなっているのか。サナトリ村が滅ぶこと自体は構わない。だが、ここは近いしもし封印が解けて厄介な魔物がこっち来たら大変だ。
「どうやらお前さんを追い出したギルド、封印なぞないとごねているらしくてな……。後日監査が入る予定となっておる」
「その監査団、俺も付いていけないですか? 封印の位置は覚えてるんで力になれるかも」
地元の協力が得られないのであれば、監査団も手こずるだろう。俺は幸い土地勘があるので、手伝うことくらいできる。
「監査団はここに寄るからのう。その時名乗りを上げるとよい。向こうも、報告者であるお前さんの話を聞きたいだろう」
「そうします」
ここに寄ってくれるのなら話は早い。傷が癒えたのか、フィルセも最近は軽い仕事をする様になってきた。相変わらずツンケンであるが、少し軟化した様に思える。
「お前も行くのか?」
「ああ、そうだが……」
「いや、死ぬなよ」
顔はこちらに向けていないが、心配しているらしい。素直じゃないのか何なのか。
「心配してくれてんのか?」
「……とにかく人手が足りてないんだ。欠員は困るというだけだ」
「分かってるよ。命あっての物種だ」
元々俺は無茶する趣味はないし、封印が危ういとなると少し警戒はする。だからこそ偉いさんが監査に来てるんだし。
@
後日、監査の人々がギルドに来た。立派な仕立ての鎧や衣服の兵士たちだ。この土地を収めている王族の家来なのかな。
「君が報告をしてくれた審問官かね?」
「はい」
その中のリーダー格らしき青年が前に出てくる。サイガと違って、身なりだけでなく纏うオーラも相応で物腰の柔らかい。俺が審問官と分かっていても差別的な態度は見せない。
「詳しい話を聞きたいんだ」
「いいですよ」
俺は封印について詳しい話をした。
「話を聞いたのは村でも変わり者って言われている木こりの爺さんからだ。封印の石に毎日魔力を込めろって。そこにはヤバい魔物が封印されているって話だが……その魔物が何なのかは具体的には聞いてないな。まぁ、封印の魔物なんて内容が分からなくても解き放つものではないってことらしいが……」
「概ねその通りだよ。封印されているということは、それなりの理由があるんだからね」
その木こりの爺さんに薪割りを手伝う様に依頼されて、そこで色々な話を聞いたんだ。斧の扱いもそこで習った。その爺さんが生きてた頃はこの依頼で食うには困らなかったが……亡くなってからはいろいろ厳しいな。
「そういえば君は破門されているね。差しさわりなければ理由を教えてくれないか?」
「ああ、なんか仕事してないって言われてな」
「そんなはずは……見通しの鏡では封印維持の仕事をしていることが明記されているんだが……」
やっぱ村の外ではあの封印維持が重要な仕事らしい。妖精王様もギルドマスターも同じことを言ってたな。
「そうなると封印を解くことに何らかの利権があるのか……?」
「そちらで何か分からないですか? サナトリ村の封印された魔物について」
リーダーはあのジジイが魔物で利益を得ようとしているのではないかと思っているが、俺としてはそこまで考えていないと考えている。だが、一応情報を確認する。
「いや……こういうのは基本口伝でね。その土地の人が知らないと得られる情報がない」
「んー? では例えば封印があるとなんか不利益があるとか?」
この街に来て知ったが、土地の値段というものがあるらしい。暮らし易かったり、作物が作りやすい肥えた土地は高いとか。だからそんな感じで安くなるとか?
「まぁ多少は」
「やっぱその路線かなぁ……」
「実際に行ってみればわかるさ」
いろいろ考えても憶測の域を出ない。行ってみるしかないのか。
「ただいま」
「お、戻ったか」
その時、フィルセが戻ってきた。リーダーは彼女のことを知っているのか、声を掛ける。
「おや、フィルセさんか。オーバーワークは最近控えている様で安心したよ」
「余計なお世話だ」
結構偉い人にもいつものトゲトゲ。これは少し気まずい。
「おいおい……」
「はは、いいさ。少し安心したよ」
リーダーは彼女の過去を知っている様だ。だが、それを迂闊に明かすことなく俺に言った。
「君は重要な告発者だ。しっかり守らせてもらうよ」
「あ、ああ……」
死神、というあだ名といい、何かあるんだろうな。まぁ詮索する必要もないか。
「しかし済まないがすぐには出発できない。隊が長旅で疲弊している中、協力者のいない土地に入るのは危険でね、急ぎだが待たせてすまない。斥候を放って情報収集する必要もある」
「そうなんすか、じゃあこっちも仕事しながら待ってますね」
しかしそんなにすぐ行動へは移せない様だ。俺は軽めの依頼を熟して待つことにした。クエストボードから選んだのは、農村で放置されているゴーレムの駆除。
「ゴーレム? 難易度が高いんじゃないか?」
「いやこれがコツを掴むとな」
フィルセが首を突っ込んでくる。ゴーレム系は身体が硬く筋力も強いため厄介な魔物だ。だが、こいつらの特性を理解すれば俺の金縛りと併用して思ったより楽にクリアできるかもしれないというわけだ。
「……予定変更だ。私も行く」
「え?」
フィルセは何と俺に同行を申し出た。こんな一匹オオカミが珍しいこともあるもんだ。
「別に心配してないけど、コツとやらが気になるだけだ」
「お、おう……」
勢いに負けて応じる形となってしまったが、まぁ元々高い取り分が半分になっても痛くはないし、組んで仕事できるのは効率もいい。
「リュウガくん」
「はい?」
フィルセがギルドを出たのを見計らって、リーダーが声をかけてくる。
「無茶はしないように。特に彼女の前で」
「もちろん。……ん?」
ちょっと引っ掛かることがあったが、俺は当然無理したりはしない。そういう性分ではないからな。
@
俺とフィルセは農村に辿り着く。エンタールの街を出てしばらく歩くと魔物の気配もないのどかな風景が広がっている。見渡す限りの畑、水路、何もないが逆に言えば魔物への備えも必要ないくらい平和な場所なのだと分かる。
「農業か……スローライフもいいかな」
フィルセは畑を見て呟く。しかし俺からすれば狂気の沙汰だ。
「おいおいおいおい、正気か? 日の出と共に起きて一年中畑仕事だぞ?」
「命までは取られないだろう?」
俺はバスターを辞めて農家になろうとしたことがあるから分かる。農家は心が折れる。成立させてる人は尊敬する。サナトリ村ではタダ同然で教育と称して子供から労働力を搾取してるから多少マシに感じるだろうが、ここでは当然そんなことはしていない様だ。子供の姿が見えないのがその証拠。
最近知ったが、エンタールとかの街だと子供は学問を教えてくれる学校というとこに全員が通うそうだ。サナトリ村じゃ学問なんてさせてもらえるのは金持ちのガキか頭いい奴くらいだってこと考えると凄い話だ。もちろん俺はしてない。
「いやそうだけどな……一年の収入が一回の収穫に掛ってんだぞ? つまり一回ぽしゃったら終わりだ」
「マジか……」
それを聞いたフィルセは愕然としていた。そう、これがマジでキツイ。どんなに頑張っても嵐一つで消し飛ぶのだ。
「直に命は取られないが収穫が減るとそれはもう真綿で首を絞められる様に……」
「ひと思いに殺されないのも考え物だな……」
エンタールの街の情報誌では『農業でスローライフ!』などという謳い文句が乗っていたが、冗談ではない。スロー、に削られていくライフだ。
「農家を継ぐ人が減るわけだ……」
「特に苦労を間近で見てればな……」
そんな宣伝も全ては農家が減っているから。サナトリ村じゃ農家の子供は農家、バスターの子供はバスター、と親の仕事を継ぐのが基本だが、そこが自由なのはいいことであると同時に困ったことも引き起こす。まぁ他人の不幸の上に成り立つシステムなどクソ喰らえであるが。
「しかしゴーレムってのはどこにいるんだ?」
「すみませーん」
無駄話はその辺にして、問題のゴーレムがいないことに気づく。俺はその辺の人に聞いてみることにした。こういう時は人に聞くのが一番だ。
「ゴーレム駆除の依頼で来たんですけど」
「ああ、バスターさんか。ゴーレムはほれ、あっちの休耕地じゃけぇ」
農家のおじいさんに聞くと、場所を教えてくれた。だがきゅうこうち、というのはどこなんだ?
「きゅうこうち……ですか?」
「ああ、毎年この畑に植えるわけじゃないんじゃ。栄養使って土地が痩せてしまうからの。順番に土地を使っとるんじゃ。今年休ませとる土地にゴーレムが入り込んでな」
「そういうことですか」
休耕地というのは作物を育てずに栄養を溜めさせている場所の様だ。村じゃそんなことしてなかったな……。
「スローライフか、考えることが多いな……」
フィルセもスローとは名ばかりの高度思考に辟易としていた。農業って頭使うんだよな体力もだけど。
「誰だよ農家のことスローライフとか言い出したの。何と比べてスローなんだよ」
俺は文句を言いながら休耕地をフィルセと共に目指す。この農村では家畜も飼ってるらしく、牧畜もやってる様だ。
「動物! 動物なら可愛いしいいんじゃないか?」
「え? ああ、うん」
何故か急に興奮気味で俺にそんなことをいうフィルセ。しかし小屋に少し近づいたと思ったら彼女の足が止まる。
「な、なんだこの匂いは……」
「ああ、家畜小屋って臭いよな」
田舎者の俺は慣れているが、エンタールみたいな町を拠点にする彼女に糞や動物特有の匂いはきつかった様だ。
「これが毎日か……」
「慣れるぞ?」
がっくりうなだれるフィルセであるが、そんな気にしなくても毎日嗅いでいれば慣れるものだ。
「……」
が、匂いはさておき小屋の近くで自分の身長くらい大きい藁の束を転がしているお婆さんがいた。藁はぎっしり詰まっており、とても重そうだ。お婆さんは軽々転がしているが藁の挙動はズシンと重鈍。あれを運ぶのは加護があっても辛いだろう。
「スローってなんだっけ」
スローライフはそんなのんびりしたものではない様だ。
「ていうかこっちの方が臭いんだがなんかあんじゃねぇの?」
俺はそんなものよりキツイ悪臭を感知し、事件性を見出だしてそちらに向かった。そこには土を入れた木で組んだ箱が置いてあった。
「土? 何埋めてんだ……?」
「匂いからとんでもない邪気を感じるぞ」
見れば見るほど普通の土だ。それがなんでこんな匂いを放っているのやら。
「おや、バスターさんかね?」
俺達が土に困惑していると、バケツを持って農家のおじさんがやってきた。そのバケツには残飯が雑多に入れられており、土からと同じ様な匂いがしていた。
「この不自然な土はなんだ? 場合によっては……」
フィルセが剣の柄に手をかけ、臨戦態勢に入る。十中八九この残飯が入っているんだろうけど、理由が分からないと不気味だな。
「ああ、これかね? ジワームプールだよ」
「ジワーム?」
ジワームというのはピンクっぽい蛇の様な小さな生き物だ。時折山で見るが、これを何してんだ?
「ああ、ジワームは残飯とか食って土耕してくれんだ。フンとかが栄養あっていい土になるから、作物もよく育つんだ」
「へぇ」
ジワームを使って作物を育てるのか。工夫が凄いな。
「とにかく早く休耕地に行くぞ。鼻が曲がりそうだ」
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※小説家になろうにも投稿しています。
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