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四十三話
しおりを挟む「では、今後の方針ですが、このまま帝国軍が到着するまで防衛に徹して下さい。見たところ王都にいる戦力では防衛だけで手一杯でしょう」
「ま、待て! 髪飾りの件が嘘だったとして、そこのクソ女はどうやって二年間も結界を維持していたと言うんだ!」
アティスが今後のことを説明すると、黙って聞いていたイオンが怒鳴り出した。
どうにかして私の粗を探したいように見える。
「私は髪飾りが破壊されたのその日に、自力で結界を張り直しただけですよ」
髪飾りは聖女の魔力を何百から何千倍にまで増幅させることができる。そのおかげでなんの負担もなく聖女は国全体に結界を施すことが出来る。
そんな髪飾りが無くなった時は流石に私も絶望感でいっぱいだったけどどうやら問題なかったらしい。
「そんな事ができる人間がいてたまるか! どんな小細工をしたんだ!」
「小細工なんてしていません。純粋に私の力です」
「聖女の魔力を何千倍にも増幅させて結界を張るんだぞ? 髪飾りを使えば生活に支障のないくらいの魔力で済むが髪飾り無しで結界を張ろうとすれば、結界が構築される前に魔力が尽きる。そんな結界を二年間も張り続けられるなどあるはずないだろう! どんな馬鹿げた魔力量でもそんな事不可能だ!」
イオンは言葉に出してみて確信に近いものを得たようだった。
その顔からは焦りはほとんど消えている。
勝ち誇ったようにそう言った。
もし仮にこの話が嘘だったとして、なんだというのだろう?
ミアの嘘が消えるわけでもない、国民に出た被害が消えるわけでもない。
ただその期間結界は維持できていた。それでいいじゃないですか。
「お前は髪飾り以外で魔力を増幅させる方法を見つけ、自分が聖女であり続けるために髪飾りを破壊した、そうだろう? ミアや他の聖女の資格を持ったものに聖女の座を奪われるのが怖かったんだろう?」
「違いますね。まず、大前提として私は聖女という地位に全く魅力を感じていません。
わざわざ自分が聖女であり続けるためにそのような事はしませんし、していません。
私が結界を維持できたのは魔力の回復が速かったからです。それなりに魔力量も多かったですが歴史上から見て異常に多いと言うわけではありません。
魔力の回復スピードが結界の維持で消費される魔力より多かった、それだけです。
そこの執事さんもご存知だと思いますよ」
「そんな馬鹿なことがあるか!」
「いえ、陛下。マリア様の話は事実です。
そのおかげで大きな問題にはなりませんでしたし、それから二年間はなんの支障もありませんでした。髪飾り破壊の件の後はほぼ一日中マリア様に護衛がついていたはずですがイオン様が言うような小細工や何かおかしな事をしていたという情報は入っておりません」
「……ッ!」
どうしても私を悪にしたいみたいですね。
洗いざらい調べられても何も出てこないと思いますけど。
「話を戻しますが、王都にいる兵はこのまま帝国軍が到着するまで防衛に徹する。帝国軍が到着しだい魔物の殲滅を開始。殲滅が終わりしだい、原因の調査という流れでいきましょう。
王国兵には防衛に徹するように指示をお願いできますか? 下手に突撃されて死人が増えても困りますから」
アティスはイオンではなく執事に指示を出した。
イオンに言うよりよっぽどスムーズに動いてくれるでしょうし、執事さんと話をした方がいいかもしれません。
「承知いたしました」
すぐに執事さんは部屋を出て指示を伝えに行った。
「マリア」
「はい、どうかしました。アティスさん?」
少し考えたような素振りを見せた後意を決したように言ってきた。
「マリアに負担がかかる事は重々に承知しています。ですがこの問題が解決するまでの間だけこの国に結界を張ってはもらえませんか?」
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