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三十七話
しおりを挟む魔法使いのお姉さん……?
私のことでしょうか?
「お知り合いですか?」
「いえ、多分違うと思うんですけど……」
「あの、私、二年前にこの街の近くで魔物に襲われそうになっているところを助けてもらったんですけど……覚えてませんか?」
ホワイトウルフと対峙していた青年の後ろにいた少女が「覚えててくれたら嬉しいな」という表情で言ってくる。
二年前?
「……あ、あぁ! あの時の!」
「覚えててもらえたんですね!」
覚えてたというか、今思い出しました。
そういえば二年前にネケラスの街の近くで小さい女の子を助けた覚えがありますね。
その後の出来事が衝撃的すぎて言われなかったら、ずっと頭の奥底から出てくることのなかったでしょうね、この記憶。
「確か、エレナちゃん……?」
「はい! そうです! 今回もあの時も本当にありがとうございます!」
エレナちゃんが頭を下げてお礼を言ってくる。
「全然気にしないで。それよりも怪我が無さそうでなによりですよ」
「やはりお知り合いだったのですか?」
「はい、そうだったみたいです。私が二年前この街の近くで助けたみたいですね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
確か二年前のあの日は久し振りに故郷に帰ってきた日だった。
私は故郷が心底嫌いだった。その原因は父にある。
私の父はネケラスの領主だ。
王都に住んでいた私はあの日父から呼び出しを受けた。王都からネケラスまではそう距離もないし、数日前に連絡が来ていたので少し予定を調整するだけでネケラスに向かうことができた。
そして、ネケラスに到着し屋敷に入った私を出迎えた父が一番最初に言った言葉は「おかえり」などという家族に言うような言葉ではなかった。
「イオン殿下とは上手くいっているんだろうな?
お前はせっかく聖女として生まれてきたんだ。しっかりと我がニーヴルト家と王家の関係を強くできるようにするんだぞ。分かっているな?」
「私を呼びつけたのは、そんな事を言うためですか?」
「そんな事をとはなんだ。ニーヴルト家が王家と繋がれる千載一遇のチャンスなんだぞ?
お前がしっかりとイオン殿下といい関係を築けているか確認しなければならないから、ここに呼んだのだ」
いい関係を築けているわけがない。
貴方が無理やり婚約させただけで私にもイオンにも恋愛感情なんてないんだから。
今はまだ空いている日に時々出かけたりするが初めに比べれば数は減って来ているし、好きでもない相手と出かけても楽しいわけもなく話が弾んだりすることはほとんどない。
近いうちに出かけることなんて無くなると思う。
「無理やり婚約させられて、恋愛感情のない相手といい関係が築けると思いますか?」
「なんだその態度は?」
父が目を細めて不服そうに言った。
娘である私が少し反抗的な態度をとったことが気に入らないらしい。
「お前の役割はイオン殿下といい関係を築き、我がニーヴルト家に貢献することだ。
聖女として生まれ、使い道があるから多少のことは大目に見てやる。だが、あまり私の気に触るようなら……分かっているな?
お前はただの道具だ。道具としてしっかりと自分のやることをやれ。
……この後、私の部屋に来なさい」
そう言って奥に歩いて消えていく。
はぁ……
やっぱり私は道具としてしか見られていないのか。
私はそんな父に嫌気がさして、屋敷を出て街の外に向かった。
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