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三十五話 騎士団員視点
しおりを挟む重苦しい空気が家の中に流れていた。
「大丈夫なの……?」
「大丈夫だ。きっと騎士と冒険者達が何とかしてくれる」
エレナの心配そうな声に対して俺は少しでも明るい声で言うが、エレナの表情は良くならない。
魔物の大群がこの街に迫っていると言う情報が入り、騎士および中ランク以上の冒険者は街の防衛に駆り出された。
騎士を信頼していたエレナだが、道を大急ぎで走る冒険者や真っ青な顔をしている騎士を見てしまってから不安になっているみたいだ。
つい十数分前、エレナを家に残して防衛線のあたりまで様子を見に行ったが尋常ではない慌てようだった。
聞くところによると魔物の数は二万から三万もいるらしい。どう考えてもこの街の戦力だけではどうにもならない。王都に救援を求めて馬を出したそうだから王都からの救援を期待するしかないだろう。
王都からの救援が間に合えばいいが……
「やっぱり、逃げた方がいいんじゃない!」
「エレナ、落ち着け。
たとえ今から逃げたとしても、馬がない俺たちの状態では最寄りの街に着くまで数日かかる。
魔物の大群がこの街だけに集中するとは限らない。防衛線を迂回する魔物も少なからずいると思う。そんなことになれば、歩きの俺たちはすぐに魔物に追いつかれる。下級の魔物なら何とかなるかも知れないが、中級の魔物が二体、三体来ただけでお終いだ」
「じゃあ、街の中にいた方が安全ってこと……?」
「少なくとも無闇に街から出て逃げるよりは安全だと思う。防衛線がどれだけの時間耐えられるか分からないけど、王都からの救援さえ来れば何とかなると思うから」
「わ、分かった……」
どちらも安全とはいえないが、少なくとも無闇に逃げ出すよりはマシだ。流石に俺一人で中級クラスの魔物を対処できるか怪しいしな。
「心配すんなよ。仮に何かあっても俺が守るから」
「それは嬉しいけど、お兄ちゃん言うほど強くないでしょ」
「そこは何も言わずに信頼の眼差しくらい向けてくれよ。お兄ちゃん悲しいです」
エレナから小さな笑みがこぼれる。
少しでも心配が和らいでくれたならいいけど……
「信じてるよ、お兄ちゃん。これでいい?」
「あぁ、ありがとう」
俺が言葉を発してから数秒、外から明らかに騒がしい音が聞こえて来る。
どうやら、魔物の大群が到着したらしい。
大丈夫だ。大丈夫。
絶対に救援が来る。
それまで持ち堪えればいい。
心配ない、きっと大丈夫だ。
俺が不安になるわけにはいかない。
俺はエレナを守らなくてはいけないのだから。
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