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三十三話 イオン視点
しおりを挟む王城に入るとすぐにルファルスが走ってきた。
「陛下! ご無事ですか!?」
「なんとかギリギリのところで助かった」
「ご無事でなによりです」
「貴族街のすぐそこまで魔物が侵入してきていたが、いったい何が起きている?」
「たった今報告が入りました。王都の城壁が破壊されたそうです」
そんな、馬鹿な。
十メートル以上ある城壁だぞ。そこらの街よりよっぽど高さも厚さもある壁だ。
そんな易々と破壊されるはずが……
「どれだけ破壊された?」
「今のところ門付近の場所で三箇所破壊されています。どれも大きく損傷しておりすぐに直すのは不可能です」
「破壊された大きさは?」
「正確には分かりませんが、横に八メートル以上とのことです」
「確かにすぐに修復するのは不可能だな……」
「い、イオン、大丈夫なの?」
ミアが心配そうな顔をして言ってくる。
きっと先程のことで不安になっているに違いない。
「大丈夫だ、ミア。
直ぐに冒険者と騎士団を総動員して対応する。直ぐにこんな問題解決できるさ。
それに、ここまで魔物が来ることはないだろうから心配しないでくれ」
「分かったわ、イオン」
「私はルファルスとまだ話があるから、私の部屋で待っていてくれ」
「えぇ」
何度か来たことがあるからメイドに案内される必要はないだろう。
私はミアが見えなくなったことを確認してから話の続きを始めた。
「城壁を破壊した魔物は分かっているのか?」
「恐らくダークリザードの変異種かと」
変異種だと!?
ダークリザードだけでも精鋭が倒れた今では討伐するのが危ういと言うのに、それの変異種だと? いったいなんなんだ……
たったの数週間で変異種が連続して出るなどあり得ない。
しかも今回はダークリザードの変異種? オーガの変異種の方がよっぽどマシだったぞ。ダークリザード自体が強力であるのに、それの変異種など聞いたことがない。
このクラスの変異種など出ても数百年に一回程度だろうが。
「冒険者と騎士団員で討伐できるか?」
「現在の戦力では無理でしょう。ダークリザードは羽はありませんが竜に近い存在です。それの変異種となると竜と同等の存在と見るしかありません。
ダークリザードに破壊された城壁の穴からは常時魔物が侵入しようとしておりほとんどの騎士団員がそこに手を割かれています。騎士団の精鋭を多く失ってしまった状態では厳しいかと。
報告によると、城壁を破壊してからダークリザードは王都付近をゆっくりと移動しているらしく今のところ王都の中に入ってくる動きはありません。
ですが、王都の中に入ろうと思えば簡単に入ることができるでしょうし、入られれば王都は壊滅します。
他の街に援軍を、それでも無理なら帝国に援軍を要請した方が良いかと」
他の街からの援軍で対処できなければ、帝国に援軍を要請するしかないのか……ッ!
国王になって一週間も経たずに救援を求めるなど他国からどう思われるか……
「他の街に援軍を要請しよう。それでどうにかダークリザードを討伐しろ。
例え出来なかったとしても帝国へ救援を求めるのは最終手段だ」
「了解致しました」
他国に助けられることなどあってなるものか。今後の為にも救援要請など出すわけにはいかない。
ダークリザードの変異種さえ倒せば今後もう変異種など出ることはないだろう。
数百年に一度出るか出ないかの化け物だ。これさえ乗り切れば、大丈夫だ……!
ルファルスが指示を出そうと動き出したと同時に王城の扉が開かれる。
扉を開いて直ぐに私がいる事を予想していなかったようで少し慌てながら膝をついた。
「陛下! ラバトルフがワイバーンの変異種により襲撃され大きな被害が出ております。
ラバトルフから至急救援をとのことです!」
馬鹿な……
いったいなんの冗談だ?
王都近くにあるラバトルフにも援軍を頼もうと思っていたのに、援軍を逆に求められるだと……?
「救援など、出来るはずないだろう! 貴様は今の王都の状況を分かっているのか!」
「落ち着いてください、陛下」
……少し、取り乱したな。
ラバトルフには他の街から騎士と冒険者を送ってもらうしかないか。
バンッ!
また先程と同じように王城の扉が開け放たれる。
「陛下! 恐れながら申し上げます! ネケラスに推定二万から三万の魔物の大群が進行中! 防衛線を張っていますが長くは持ちません! 魔物の大群の中にはホワイトウルフと見られる個体も確認されています! 至急救援を頼みたいとのことです!」
「魔物の到着はいつだ!」
「計算によると、あと二時間で到着します!」
倒れそうだった。
私は夢でも見ているのだろうか? あり得ない。
変異種はいないものの、魔物の数が異常だ。ホワイトウルフも高ランクモンスター。
ネケラス程度の戦力では到底、迎え撃つことは不可能。
「陛下、ご決断を」
この状態、どう考えても我が国だけでは対処できない。国にある戦力を隅から隅まで掻き集めても対処できるかどうか分からない。
「……ッ! 帝国に救援要請を出せ」
絶対に出したくない指示を私はルファルスに出した。
国が滅ぶよりは幾分かマシだろう。
「了解致しました、陛下」
ルファルスは直ぐに帝国に救援要請をする準備に取り掛かった。
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