31 / 60
三十一話
しおりを挟む部屋の扉が開かれてアティスが入ってくる。
今、私たちがいるのはミノタウロスの討伐をした場所から最寄りの街ブロサス。
アティスが言うにはここ数日でこの街から子供が消える事件が発生していたらしい。この街に来てから二日目だけど今のところこの二日間で子供が消えると言う事件は起きていないので恐らくミノタウロスの仕業だったと見て間違いない。
影を操れるから街の子供を連れ去るなんて造作もなかったと思う。
だから私が助けた子もこの街の出身ではないかと思ってこの街の騎士に頼んで調査してもらっていた。
「どうでした、アティスさん?」
「ハズレですね。捜索願の中に彼女と一致しそうな人物のものはありませんでしたし、両親が亡くなっている可能性も考えて聞き込みもしてもらいましたがダメですね」
「そうですか……ごめんね、ユリアちゃん」
助けた子、ユリアちゃんに謝る。
騎士が探してくれていることもあって、絶対に見つかるなんて安易な言葉をかけてしまっていた。
まさか、見つからないなんて……
「謝らないで下さい……私が覚えていないのが悪いんですから」
ユリアちゃんには記憶がない。
ミノタウロスに食べられそうになった恐怖からか、連れ去られる時に頭でもぶつけたのか、それとももっと前からなのか分からないけど。
ユリアと言う名前も、そう呼ばれていたような気がすると言う曖昧なもので本当の名前かどうか定かではない。
正直なところ、この街から多く子供が消えた報告があるのと、ミノタウロスが近くにいたという事でこの街でユリアちゃんの親の捜索をしている。
だけど、本当のところそもそも帝国の人間かすら分からない。助けた直後はボロボロの服以外は何も身につけていなかったので、身元が分かるものがなかったからだ。
「一応、近隣の村、街も調査してみますがあまり期待しない方がいいと思います。
ミノタウロスが移動した痕跡があるのはせいぜいこの街付近の森まで。他の街に行った痕跡は無いですし、何十キロもある他の街まで影を操作出来たとは思えませんからね」
「じゃあ、ユリアちゃんは……」
「残念ながら孤児院に入れるしかありません。
私たちもずっとこの子の親を探しているわけには行きません。そもそも今この世にいるかどうかも分かりませんしね」
確かに、この世界で親がいない子供なんて珍しくない。ユリアちゃんがその類であっても不思議はない。
「そう、ですか……」
「孤児院と言っても、そこまで悪いところではありませんよ。親がいないと言っても、人並みの生活は送れます」
「気にしないでください。私は普通に生活できれば十分ですから」
ユリアちゃんは笑顔でそう言ってくるけど、少し強がっているように見える。
まだ10歳、11歳くらいなのに……
ここ二日間、妹ができたようで楽しかった。
実の妹はこんなに可愛くはなかったのに。
こんなに可愛い妹のような存在を易々と孤児院に入れるしかないのだろうか……?
せめて記憶さえ思い出してくれれば……
私は頭を抱えることしかできなかった。
0
お気に入りに追加
5,848
あなたにおすすめの小説
勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!
朝山みどり
恋愛
大富豪に生まれたマリカは愛情以外すべて持っていた。そして愛していた結婚相手に裏切られ復讐を始めるが、聖女として召喚された。
怯え警戒していた彼女の心を国王が解きほぐす。共に戦場へ向かうが王宮に反乱が起きたと国王は城に戻る。
マリカはこの機会に敵国の王と面会し、相手の負けで戦争を終わらせる確約を得る。
だが、その功績は王と貴族に奪われる。それどころか、マリカは役立たずと言われるようになる。王はマリカを庇うが貴族の力は強い。やがて王の心は別の女性に移る・・・
聖女に王子と幼馴染をとられて婚約破棄「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で価値の高い女性だった。
window
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言したのです。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられるのです。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる
珊瑚
恋愛
王族女性に聖なる力を持って産まれる者がいるイングステン王国。『聖女』と呼ばれるその王族女性は、『神獣』を操る事が出来るという。生まれた時から可愛がられる双子の妹とは違い、忌み嫌われてきた王女・セレナが追放された先は隣国・アバーヴェルド帝国。そこで彼女は才能を開花させ、大切に庇護される。一方、セレナを追放した後のイングステン王国では国土が荒れ始めて……
ゆっくり更新になるかと思います。
ですが、最後までプロットを完成させておりますので意地でも完結させますのでそこについては御安心下さいm(_ _)m
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる