25 / 60
二十五話 騎士団員視点
しおりを挟む「そっちは終わったか?」
「あぁ、終わったよ」
赤いオーガまでの道のりは順調に進んでいた。
道中でゴブリンやコボルド、オークと出くわしたりしたがゴブリンやコボルドの数はそう多くなく新米と言えど騎士二人の敵ではなかった。
オークに関しても道中に一匹現れただけだったので、二人でかかればどうということはない。
だが、俺は道中での魔物との戦闘に違和感を覚えていた。
いつもよりも身体が動きにくい。
もしかすると、ここ最近警備ばかりでまともに魔物との戦闘をしていなかったからでは? とも思ったが訓練を怠ったつもりはない。ここまで動きが鈍るわけがない。
騎士といえど人間なので日によって身体の動きがいい日もあれば悪い日もある。それにしてもこれは身体が動かなさすぎではないか。
まさか、緊張しているなんてこともないだろうし。
俺は何故こんなにも違和感があるのか、結局分からずに進むことになった。
それから小一時間ほどで、目的の場所に到着した。
報告ではここから歩いて十数分の位置に赤いオーガが確認されている。
馬車から降りた副団長を先頭にして、その後ろを騎士、魔導師、予備の剣などの荷物を持った俺とルデウスがついていく。
少し歩くと、前を歩いていた魔導師が止まる。
俺たちの位置からでは分からないがおそらく赤いオーガを見つけたんだろう。
固まっていた討伐隊はすぐに散開し、魔導師は自分が短時間で放てる出来る限り強力な魔法を放てるように準備する。
「……はぁ…はぁ…はぁ…」
散開したことで俺たちの位置からでも赤いオーガが見えるようになった。
幸いまだ俺たちのことには気がついていない。
思い出すだけでも怖かった化け物だ。
目と鼻の先にそれがいるとなれば怖くないはずがない。
心臓は今にも破裂しようなほどに鼓動を早くし、それほど疲れているわけでもないのに息が乱れる。
それに加えて頭の中が恐怖一色に染まるような感覚。今にも倒れてしまいそうだ。
「カイル、大丈夫さ。きっと勝てるよ」
ルデウスが俺の心中を察してか小声でそう言ってくる。
そうだよな。この討伐隊は今の王国の戦力で作れる最強の討伐隊のはずだ。
負けるはずがない。
それに、今こんなところで倒れたら俺の目的が果たせなくなる。
絶対にエレナの元に帰るんだ。
俺の今までの決意を心の中で再確認し終えると同時に魔導師団の魔法が放たれる。
赤いオーガの近くで長々と魔法を準備するわけにはいかないから、短時間で放てる魔法にしたとはいえ、ここにいる魔導師なら致命傷を与えることも難しくはない。
それが、副団長の見解だった。
放たれた二十の魔法は一発も外れることなく赤いオーガを捉えた。
赤いオーガがいた場所に大きく煙が立つ。
そして、次の瞬間に出てきた赤いオーガの身体には少々の傷がついている。だが、この程度の傷では致命傷と呼ぶには程遠い。
一つ目の作戦は失敗だ。
しかし、そんな事は予想の範囲内。
前衛の騎士は構えていた剣に力を入れ赤いオーガを迎え撃つ。後衛の魔導師は再び魔法を放てるように魔力を操り、準備を開始する。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」
赤いオーガが一人の騎士に向かっていき、騎士も雄叫びをあげながら迎え撃つ。
だが、騎士の力強い雄叫びはすぐに聞こえなくなった。
赤いオーガが片手に持っていた大剣の横なぎが騎士の身体に直撃したからだ。
避けられないと思い剣でガードはしたものの、身体は横に折れ曲り、明らかに生きている状態ではなくなっていた。
一気に討伐隊に絶望の雰囲気が漂う。
「おい! 何を諦めようとしている!
やれる事はまだまだあるだろ! 私たちが国民の運命を背負っていること、忘れるな!
全力を尽くせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
副団長が赤いオーガに向かっていく様子を見て、他の騎士も続く。
そこから、前衛も後衛も死力を尽くして戦った。
騎士が死のうと、魔導師が死のうと誰一人として諦めることなく立ち向かった。
それでも赤いオーガにつけられる傷は切り傷が精一杯。
この後、本当に勝てるのか。
そう思っている時、ルデウスが俺の名を呼んだ。
「カイル!」
「なんだ?」
俺の方に駆け寄ってきたルデウスに問う。
「今がチャンスだ。お前妹のとこ行くんだろ?」
騎士も魔導師も死力を尽くして戦っている今、隊列も何もないし、常に動いているから誰が死んだか、いなくなったなんて正確に把握できない。
討伐隊の意識は全て赤いオーガに向けられている。確かに今がチャンスだろう。
「お前のことは後で適当に言っといてやるから」
「本当に助かる。最後までありがとな。
また何処かで会おうな。死ぬなよ」
「死なねぇよ。俺だって勝てないって分かったら、頃合いを見計らって逃げるからよ。
さっさと行け」
「また何処かでな」
俺は荷物を捨ててネケラスに向かった。
親友が生きて帰れることを願って。
0
お気に入りに追加
5,848
あなたにおすすめの小説
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。
鈴木べにこ
恋愛
幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。
突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。
ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。
カクヨム、小説家になろうでも連載中。
※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。
初投稿です。
勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و
気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。
【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】
という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。
偽物の女神と陥れられ国を追われることになった聖女が、ざまぁのために虎視眈々と策略を練りながら、辺境の地でゆったり楽しく領地開拓ライフ!!
銀灰
ファンタジー
生まれたときからこの身に宿した聖女の力をもって、私はこの国を守り続けてきた。
人々は、私を女神の代理と呼ぶ。
だが――ふとした拍子に転落する様は、ただの人間と何も変わらないようだ。
ある日、私は悪女ルイーンの陰謀に陥れられ、偽物の女神という烙印を押されて国を追いやられることとなった。
……まあ、いいんだがな。
私が困ることではないのだから。
しかしせっかくだ、辺境の地を切り開いて、のんびりゆったりとするか。
今まで、そういった機会もなかったしな。
……だが、そうだな。
陥れられたこの借りは、返すことにするか。
女神などと呼ばれてはいるが、私も一人の人間だ。
企みの一つも、考えてみたりするさ。
さて、どうなるか――。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
あかり
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
婚約破棄された令嬢は森で静かに暮らしたい
しざくれ
恋愛
ソフィアは家族にも周囲にも疎まれて育った。それは妹が光の聖女に選ばれたから。公爵家に産まれているのになんの才能もないと蔑まれていたのだ。
そして、妹に惚れ込んでいる第二王子であり、ソフィアの婚約者の男から婚約破棄を受けた時、ソフィアは意を決する。
「家を出よう」
そう決めたソフィアの行動は早かった。16を数えたばかりのソフィアは家を出た。そして見つけてしまった。『伝説の魔女』と呼ばれた稀代の英傑を。
それから20歳になる。
師匠と崇めた老婆が死に、ソフィアは育った森で、弱った冒険者を助けたり、時に大疫病に効く薬を作ったりと活躍をする……。
そんなソフィア宛に、かつて婚約破棄をした王子や、その国からの招待状やらが届く。もちろん他の国からも。時には騎士達も来るが……。
ソフィアは静かに森で暮らしてたいだけなのだが、どうも周囲はそうさせてくれないよう。
イケメンに化けるドラゴンさんも、そんなソフィアを脅かす一人なのだ。
子連れの元悪役令嬢ですが、自分を捨てた王太子への復讐のために魔獣討伐師を目指します!
アンジェロ岩井
ファンタジー
魔法学園のパーティーに来賓で訪れた王太子妃にして公爵令嬢のアイリーン・カンタベルトは突然、自身の夫であり国の王太子であるルシア・ソーインツベルに離婚を突き付けられた上に『稀代の悪女』のレッテルを貼られ、処刑されそうになってしまう。
あまりにも理不尽な仕打ちに、彼女は最愛の娘と共に彼らの元を離れ、国の中に巣食う魔物を狩る魔獣討伐師、またの名を魔物狩人として生きながらえる事を決意した。
これは、そんなアイリーンが娘のシャルロッテと共に魔物狩人としての仕事をこなしながら、各地を回り『聖女』の地位と自らの信用を取り返すまでの物語。
ーー
更新頻度は多めの予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる