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二十三話

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 アティスがミノタウロスに向かって走り出そうとした直後、ミノタウロスの影からもう一体ミノタウロスが現れる。

 影を操るとは聞いていましたが、こんな事が出来るなんて初耳ですね。

 現れたもう一体のミノタウロスに驚いていると、辺りの木々の影が動く。

 「まさか!?」

 私がそう声を上げた瞬間、辺りの木々の影は無くなり数十体のミノタウロスが出現する。

 「聞いていた話の何倍も厄介ですね……」

 アティスが本体のミノタウロスに向かって走り出すがそんな事を他のミノタウロスが許すはずはない。
 影で作られた何十体ものミノタウロスが道を阻むようにして立ち塞がる。
 その手には影で作られた大きな斧が握られている。

 影とアティスが正面から対峙し、剣と斧が激突する。

 「アティスさん!」

 影のミノタウロスが振り下ろす斧があまりにも大きく、力強かったから思わず声を上げてしまいました。

 「問題ありません。いくら数を揃えようと、一体一体が弱ければ話になりませんよ」

 斧はアティスが片手で持った剣に受け止められている。
 上から押される力でアティスの足元の地面がひび割れているけど、アティスの剣はびくともしない。それどころか斧を易々と弾き返し、影の身体に斬撃を浴びせる。たった一撃、それでも影には致命傷だったようでアティスの目の前にいたミノタウロスが消える。

 それと同時に森の中の木の一本に影が戻る。

 すぐにもう一度影からミノタウロスが出現しないので、すぐには再発動できないのかもしれません。

 「さっさと、終わらせましょうか」

 そう言うアティスの表情には余裕が見てとれる。

 「そうですね。雷魔法」

 私は雷で刃を作り、影の一体に向かって放つ。
 避ける動作が間に合わずミノタウロスの首が雷の刃で、焼き切れまた一体木の影に戻る。

 この分だと問題なさそうですね。
 私の魔法でも十分通用します。

 自分の魔法が通用して、少し余裕ができた時、奥にいる本体のミノタウロスが

 その笑みに言い知れぬ不安感を覚えた。次の瞬間、叫び声が響き渡る。

 「い、いやぁ……助けて、助けてぇ!」

 本体のミノタウロスが死体の中から赤髪でショートカットの少女を拾い上げる。
 まだ、10歳くらいの少女だ。死体の中に隠れていたんだろう。

 ミノタウロスは口を大きく開け、少女を掴んだ手を口元に動かそうとする。

 「くそッ! 間に合わない!」

 アティスがミノタウロス本体まで走ろうとするが影のミノタウロスが立ちふさがる。弱いと言っても数秒の時間を稼ぐことくらいは出来る。

 「だ、だめ……それだけは……」

 ここは帝国。
 私が結界を張っていた範囲じゃない。だからこのミノタウロスが私のせいで発生した魔物ではない事は分かってる。
 だけど、心の何処かで私の所為ではないかと思ってしまう私がいる。

 だから、ここであの子を助けられなかったら、きっと私は耐えられないと思う。
 
 だから、助けを求めている子供を、目の前にいた子を助けられなかったら私は一生後悔する。

 だから、だめ。
 それだけは

 「絶対に……風魔法」

 私は全力で風を操作する。

 狙うのはあの子を掴んでいる腕。

 他の影は、邪魔だ。

 次の瞬間、私は目の前に立ちはだかる全ての影を切り刻んだ。
 一瞬で発動した風魔法は本体のミノタウロスには瞬きをしている間の出来事だっただろう。

 影が次々と消えていく中、私は風の刃を作りミノタウロスの腕を切り落とす。

 落ちる少女をキャッチする為に風を使って瞬時に移動する。

 「え?」

 私の腕の中に収まった赤髪の少女が何が起こったか分からない様子で目をパチクリさせていた。

 私はそれからすぐに魔法をもう一撃放つ。
 聞こえてくるのは魔物の断末魔。

 こうして、私の初仕事は終了することになった。

 「あなたは一体……」

 
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